「人間をお休みしてヤギになってみた結果」を読む

「人間をお休みしてヤギになってみた結果」(著者:トーマス トウェイツ)(Amazonにリンク

若きデザイナー(無職?)の果敢な挑戦

著者のトーマス トウェイツは,「気になっていたこと」でも引用した「ゼロからトースターを作ってみた結果 」(Amazonにリンク)を書いた,目の付け所が極めて優れている,イギリスの若き(あまり忙しそうではない)デザイナーである。

今回は,ヤギの骨格を模した装置を装着して移動し,草を食べてみた「結果」を本にした。最初は心配事や,人間でいることの痛みから解放されることを目指し,象になることを志したが,象は大きすぎて首が短く鼻が長いので,そのような装置を作成しても,人間の力だけでは操作が不可能なこと,常時草を食べていなければならないこと,しかも象は「道徳」を理解するらしく「人間」から離れるという目的にそぐわないこと,等からこれは断念し,哲学的考察,シャーマンの「アドバイス」,ドラッグ経験等を経てヤギになってみることにしたということだそうだ。

ヤギというと,私は牧歌的にメ~となく動物という印象だったが,Wikipediaでは「高くて狭い場所、特に山岳地帯の岩場等を好む種が多く、人間がロッククライミングをしないと登れないような急な崖においても、ヤギは登ることができる。古くから人類に親しまれている家畜ではあるが、人馴れしていない個体は見知らぬ者を見ると攻撃してくることがあり、その際の突進の力は強力なものである」と紹介されている。そういえば横浜のどこかの動物園で,高いところに駆け登るヤギを見かけたことを思い出した。

著者は,ヤギになるからには,ギャロップをし,草を食べ,アルプス越えをしようと計画する。動物になるということでいえば,「「動物になって生きてみた」を読む」を紹介したことがあるが,そちらは本当に動物目線で生きてみようとする訳の分からなさがあって迫力満点だったが,「人間をお休みしてヤギになってみた結果」は,出発点が「心配事や,人間でいることの痛みから解放される」といっても,そういってみているだけで,デザイナーとしてのしゃれた試みに見受けられる。

各章の内容

本書の「第1章 魂」には,ヤギになってみようとするまでの経緯が書いてあって,入り組んでいて読みにくいのだが,ヤギになることを決めた後の「第2章 思考」以下(第3章 体,第4章 内臓,第5章 ヤギの暮らし)は,抱腹絶倒の面白さがある。

例えば,第2章では,ヤギ行動学のエキスパート、アラン・マックエリゴット博士と次のような話をする。

「なぜ君はヤギになりたいんだ?」,「ええと,実はシャーマンに会いに行きまして,彼女が僕にヤギになれと言うんですよ~」, 「へえ,なるほどね」。一瞬の沈黙の後、彼は続けた。「なぜシャーマンに会いに行ったんだ?」,「実は,象になろうと思って行き詰まっちゃいましして」,「そりゃそうだろうね」,「敢えて質問するけれど、なぜ象になりたかったんだ?」 「ああ、象ね……。えっと,人間の存在とその考えの詰まった世界を重く感じちゃったんです。つまり,動物になった方がラクじゃん? って考えたんですよ。動物になれば悩みもなくなるんじゃないかって。いわゆる、人間特有の悩みっていうやつですが。ヤギは悩んだりするのかな?って思って」 「悩むね,実のところ、,自身はそれを〝悩む〟とは言わないけどね。不安になる……つまりストレスを感じるということだろう」。

その他,人間がヤギになる装置をつけてギャロップしようとすると鎖骨が折れる話,どちら(性別)のヤギになりたいのかという話,死んだヤギの解剖を手伝い動物は管とその付属機関であると認識したこと,草を食べて動物の消化器官内の液を自分の大腸に移植し,あるいは外部装置に入れて草を消化して食べようとして止められた話等々(まだまだあるので,気が向いたら追加しよう)。

ギャロップをすること,草を食べてみることも,テクノロジーを研究して乗り越えようとするが,うまくいかず,結局,実行したことは,体力を要する装置を動かし,短い期間ヤギと過ごし(一頭に気に入られた),アルプス越えをするという,体力勝負が前面に出た根性物語に近くなっている。その意味では,ウルトラマラソンやトレラン(「BORN TO RUN 走るために生まれた―ウルトラランナーVS人類最強の走る民族」(著者:クリストファー・マクドゥーガル )(Amazonにリンク),冒険譚(「人間はどこまで耐えられるのか」(著者:フランセス・アッシュクロフト)(Amazonにリンク)を読む面白さがある。

ただこれらの試みは,人間と動物を別物としているわけではない。人間を動物の一亜種としてとらえ,動物になることで動物である人間をよりよくとらえようとしているのである。しかしイギリス人は,面白いことを考え,実行するなあ。これが「文化」だろうね。

 

 

最近の知財法改正を一覧する

最近の知財法改正を一覧する

問題の所在

知財法は,古くからの歴史の風雨にもまれてきたわけではなく,新しい,したがって多くは人為的な法令であるから,政府が理解するその時々の社会・経済状況に応じて,次々と手が加えられやすい。我が国の知財法もその例にもれず,改正を追っかけるのが大変だ。

それでも当該法令が真正面から改正の対象となっているときは,まだ目に入りやすいが,他の法令の改正に伴って改正される場合は,本当にわかりにくい。

そこで,未施行分も含めて,最新の法令を調べるにはどうしたらいいのかを検討し,最近の知財法改正を一覧することにした。

法令検索

それにしても,政府がe-Gov(電子政府の総合窓口)で「法令検索」(外部サイトの記事にリンク)を提供していることは高く評価できる(一方,「行政文書」を隠そうとすることは,時代の流れに逆行し,そのうち破たんするだろう。)。

まず,「法令検索」の「法令名」で当該法令を検索すれば,「施行日」現在の最新の法令と「未施行」部分があることが分かる(「目次」の右隣にある)。

ただし,「データベースに未反映の改正がある場合があります。最終更新日以降の改正有無については、上記「日本法令索引」のリンクから改正履歴をご確認ください」とあるように,「施行日」が過ぎていても,条文に反映されていないことがあるが,せいぜい長くて2か月程度のタイムラグのようだ。その場合は,国立国会図書館が作成している,「日本法令索引」の改正履歴を見れば,どの法律による改正が反映されていないのかある程度の見当は付くが,複数の改正法があったり,法律の成立と施行日がずれていたりすることから,どの法律のどの部分がいつから施行されるのかは,「附則」等を確かめなければわからないので,一目瞭然とはいかないようだ。別の情報を探した方がいいかもしれない。このあたりはもう少し調べてみよう。

それと今気が付いたが,「未施行」欄には,未施行部分が施行されたときの将来の法令が出ている。上記のタイムラグがある場合も,ここに反映されていればいいのだが,どうだろうか。確認出来れば,ここの記述に反映しよう。

概説書を理解するために

ところで最新の法令を知りたいということとは別に,概説書等を読むためには,その概説書が書かれた後の法令改正も頭に入れておく必要がある。特に,頻繁に改正されることが多い知財法分野では,その必要性が大きい。

そこで試みまでに,知財5法プラス不正競争防止法について,平成26年以降の改正,及び未施行部分を網羅してみることにした。

作業は,当該法令の検索,未施行部分のピックアップ,及び当該法令について「日本法令索引」に記載された平成26年以降の部分をピックアップするということである。もっとわかりやすくまとまられている情報もあるだろうが,これも大事な作業である。ただこれに熱中すると,どうしても中味がおろそかになる。役所はどうだろうか。

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知財事始め

はじめに

個人,企業の知的財産権(「知財」と略称することも多い)をめぐる諸問題について,最初に「知財事始め」から始め,「人の表現・商品・サービスの「個性」を守るための法律」,「特許権とその周辺」,「知財をめぐる企業戦略」と展開していきたい。

ところで知財は,各国の法律によって人為的に「創作」された権利であるから,法律の規定を離れて「議論」してもほとんど意味はないが,ネットでの情報流通が大きな役割を果たす時代の中で,権利侵害でないのにそのように臆断されて「炎上」することが多発する一方,実際の権利侵害に対して,国内においても,ましてや他国の法律が関与する場合に,実効性のある権利確保(侵害の排除」をはかるのは,難しい。

知財の分類

知財に属する権利は,特許権,実用新案権,意匠権,商標権,著作権,回線配置利用権,育成者権,その他に分類され,それを産業財産権とそれ以外に大別されることが多いが,私は,言葉はまだ熟していないが,通常の市民が関係を持つことが多い「人の表現・商品・サービスの「個性」についての権利」(著作権,商標権,不正競争防止法による権利,肖像権,パブリシティ権,商品化権等)と,「物品の構成の高度化に関する情報についての権利」(特許権,実用新案権,意匠権,回線配置利用権,育成者権等)に大別するのがイメージしやすい。

 知財の基本的な定義

知財について細かな検討をする前に,それぞれの権利の定義に戻る習慣をつけることが大切だ。定義の表現には,いろいろあるだろうが,ここでは,後記の政府の情報提供に係る定義を基本としよう(なお,各権利のより細かな要件については,「人の表現・商品・サービスの「個性」を守るための法律」,「特許権とその周辺」において検討する。)。

著作権…自らの創作した著作物(思想または感情を創作的に表現した(アイデアは除く。),文芸,学術,美術または音楽の範囲に入るもの)についての権利

商標権…文字,図形,記号もしくは立体的形状,もしくはこれらの結合またはこれらと色彩の結合であって,特定の商品やサービスについて使用されるものを登録することにより独占的に使用することができる権利

特許権…自然法則を利用した技術的思想の創作のうちの高度なものである発明を登録することにより独占的に実施することができる権利

実用新案権…物品の形状,構造または組合せについての考案を登録することにより独占的に実施することができる権利

意匠権…物品の形状,模様,色彩またはこれらの結合であって視覚を通じて美観を起こさせるものである意匠を登録することにより独占的に実施することができる権利

知財の諸相

知財の各権利がどのようなものであるかを具体的にイメージし,理解を地に足の着いたものにするには,多くの実例を挙げて権利の成立の有無を検討している稲穂健市さんの次の2冊の新書がお薦めだ。

また,2冊を読む前に,あるいは並行して,政府が情報提供している「知的財産制度」のWebを見るのがよいだろう(別のWeb上の記事にリンク)。

産業財産権と,著作権について,初心者向けのテキストも公開している。

政府の情報提供

以下,政府が提供する「知的財産制度」のWebのHPを掲載しておく。

知的財産制度とは

我が国の知的財産権の種類と制度

「知的財産」とは、(1)発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物のように人の創造的活動により生み出されるもの、(2)商標のように事業活動において、自己の商品または役務を表示するために用いられるもの、(3)営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報などのことを言います。

これらに関する権利である「知的財産権」とは、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)、著作権、回線配置利用権、育成者権、その他の知的財産に関して法律上保護される利益に係る権利を総称して言うもので、これら知的財産権のあらましは次のとおりです。

産業財産権とは

産業財産権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の総称です。

  • 特許権

    自然法則を利用した技術的思想の創作のうちの高度なものである発明を独占的に実施することができる権利です。なお、特許権の存続期間は出願の日から原則として20年をもって終了します。

  • 実用新案権

    物品の形状、構造または組合せについての考案を独占的に実施することができる権利です。なお、実用新案権の存続期間は出願の日から原則として10年をもって終了します。

  • 意匠権

    物品の形状、模様、色彩またはこれらの結合であって視覚を通じて美観を起こさせるものである意匠を独占的に実施することができる権利です。なお、意匠権の存続期間は登録の日から原則として20年をもって終了します。

  • 商標権

    文字、図形、記号もしくは立体的形状、もしくはこれらの結合またはこれらと色彩の結合であって、特定の商品やサービスについて使用されるものを独占的に使用することができる権利です。なお、商標権の存続期間は登録の日から原則として10年をもって終了します。ただし、商標権の存続期間については、商標権者の更新登録の申請により更新することができます。

著作権とは

著作権とは、著作者が、自らの創作した著作物(思想または感情を創作的に表現した、文芸、学術、美術または音楽の範囲に入るものを言います。)について、無断でコピーされたり、改変されたりしない権利です。

回線配置利用権とは

回線配置利用権とは、半導体の回路配置を、一定の範囲で独占的に利用することができる権利です。

育成者権とは

育成者権とは、植物の新品種を育成した場合に、これを独占的に利用することができる権利です。

不正競争防止法とは

以上の権利に加えて、不正競争防止法が知的財産を保護する働きをしています。不正競争防止法は事業者間の公正な競争を確保するための法律で、知的財産権の利用に関する不正競争を防止する働きも持っています。

 

 

コンピューターにできること,AIにできること

AIにできること

続・ゲームとのコンタクト」で挙げた「ゲーム情報学概論」や「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」をしっかりと読み込んでAIを理解するためには,基礎的な数学とプログラミングの知識が必要なので,「AIにつながる数学とプログラミングの基本の本」を探してピックアップだけでもしておきたいと思っているが,その前に,人の知能とAIを,数学とプログラミングの観点から明解に論じている新井紀子さんの「コンピュータが仕事を奪う」を押えておいた方がいいと思い,触れておくことにする・

ところで,私が賛同する戸田山さんの,人間は「目的手段推論というちょっとした拡張機能つきのオシツオサレツ動物」であるというモデルにおいて,まず①「オシツオサレツ動物」がどのようなメカニズムによってどのように機能しているか自体まだほとんどわからないし,②ましてや「「目的手段推論というちょっとした拡張機能」はもっとわからない,ただ③「推論」(計算)そのものについては,数学・論理学で相当解明できており,数学とプログラミングはまさにその範囲の問題である。

これを極めて単純化して現状を理解すれば,コンピューター,AIによって,Ⅰ.①と②について,因果関係を解明してモデル化して「推論」(計算)するのは,今後できるともできないともわからないが,Ⅱ.今,ハードの性能向上と「推論」(計算)の工夫によって,これに帰納的に接近しつつある。ただ,「推論」(計算)における指数爆発は,いかんともしがたい壁であるが,これも分野によっては工夫できる可能性があるということになろうか。

「ゲーム理論」へ飛び火する

その中で新井さんが指摘する「どんな複雑なゲームにも,ナッシュ均衡点が必ず存在することが数学的に証明されています。そのため,少なからぬ経済理論の文献において,その不動点にプレーヤーが到達する(はず)であることを前提として話が進められています。しかし「情報科学の専門家の多くは,ナッシュ均衡の話を聞けば聞くほど,「それはおかしい」と思います。なぜなら,プレーヤーが均衡点を計算するには時間がかかるからです。それは,計算が速い人も遅い人もいる,という単純な話にとどまりません。仮に,均衡点を計算するのに指数時間かかるとしたら,地球滅亡の日まで計算し続けても,計算が終わらないかもしれないのですから。しかも,ナッシュ均衡の計算アルゴリズムはどれも指数爆発を伴うものばかりだったからです。数学的に「存在する」ということと「計算して,それを手に入れることができる」ということは,まったくの別物です。そして,実際に,ナッシュ均衡の計算困難性に関する情報科学者の直観は正しかったのです。2009年に,クリストス・パパディミトリウらは,ナッシュ均衡の計算は(2人ゲームの場合であっても)NP困難な計算問題だとみなしてよいことを証明しました。悪いことに,その近似を計算することも,同程度の計算困難さを持つため,「ナッシュ均衡に現実的な時間内にたどりつくことは,一般的には不可能」であることが示されたのです。ナッシュ均衡は存在しても、多くの場合たどりつけない」ということは,経済学の根幹を揺るがす大問題であることを考えると,もっと注目されてよい気がします。」とさらりと書いているが,これは本当なのだろうか。

新井さんの本

新井さんは,「目的手段推論というちょっとした拡張機能つきのオシツオサレツ動物」という観点は持ち出さないが,実質的に,これに近い発想をしていると思う。

「コンピュータが仕事を奪う」を読む

ところで私は新井さんの次の4冊を購入している。

  1. 「コンピュータが仕事を奪う」(Amazonにリンク
  2. 「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(Amazonにリンク
  3. 「人口知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」-第三次AIブームの到達点と限界」(Amazonにリンク
  4. 「数学は言葉」(Amazonにリンク

ⅰは,コンピューター,AIに出来る仕事には人はいらなくなるでしょう,ⅱは,人がコンピューターにできない仕事(身体的なものでなければ,意味を理解する仕事をする)といっても,どうも若い人に意味を理解する「学力」が失せつつあるようだ,Ⅲは,限界はあるが,すでにAIの「学力」は,若い人が意味を理解する普通の「学力」を上回っているようだ,さてこれからどうなるんでしょう,というようなところだろうか。ⅳは,文字通り,数学こそ「共通語」であるという観点からの数学のすすめだ。

この記事では,ⅰⅱを紹介しようと思うが,今日の時点(平成31年2月20日)の時点では,両書の詳細目次だけ掲載しておく。

 

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続・ゲームとのコンタクト

さらにゲームを知る

最近,私が関係しているゲーム制作受託会社において,著名なパブリッシャーの営業の先頭に立っていた人から,数回にわたって,ゲームに関わる話を聞く機会があった。せっかくの話を聞きっぱなしではまずいと思い,自分からこの分野の本を読んでみて,少し前に進んだ記事を作成してみようと思った。なお私は一度(2018年8月),「ゲームとのコンタクト」という入門編の記事を作成したことがある。

今回,読んでみたのは3冊の本である。

  • 「ゲームの面白さとは何だろうか」
  • 「ゲーム情報学概論」
  • 「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」

3冊の本の紹介

「ゲームの面白さとは何だろうか」を読む

「ゲームの面白さとは何だろうか」(著者:大森 貴秀,原田 隆史, 坂上 貴之 )(Amazonにリンク

出版社等による紹介 

「面白い! 」を学問してみよう。▼双六,チェス,トランプ,そしてデジタルゲームからオンラインゲームまで。古今東西,人々はゲームに魅了され続けてきた。

時にはやみつきになり,やめたくてもやめられないほどに夢中になる。なぜそんなに「面白い」のか?心理学の手法を駆使して,この難問に挑む。

私のコメントとメモランダム

コメント

第3章までは,ゲームの面白さを実験によって(しかも行動分析学の手法を前面に出して)解明しようとする試みだが,ある程度の成果は出たが,なかなかうまくいかないねというところだろうか?何となく常識で判断していることを,実験で明らかにすることはなかなかむつかしい。

第4章で,ゲームの負の部分としての「ゲーム依存」,面白さを展開する「ゲーミフィケーション」,そして将来の「雑多な展望」を論じる。

私は,「ゲーミフィケーション」(もともとはゲームプレイではない活動がなされている環境にゲーム的な要素を導入することで,あたかもゲームであるかのように人々がその活動に関わるようになるという,環境のデザインを指している用語)ということは知らなかったが,この分野にもは,なかなか面白そうな本があるし,ここで紹介されている「キリギリスの哲学-ゲームプレイと理想の人生」(著者:バーナード・スーツ)(Amazonにリンク)も是非一読してみたい。なお「ゲーミフィケーション」のついての和書は商売ネタにしようとする本が多いようだが,翻訳本は検討に値する。次の3冊を挙げておこう。ところで,引用して気が付いたのだが,ⅡとⅢは,同一著者だ。Ⅱは明るいが,Ⅲは読むのがいささかつらい内容だが。

  1. 「GAMIFY ゲーミファイ-エンゲージメントを高めるゲーミフィケーションの新しい未来」(著者:ブライアン・バーク)(Amazonにリンク
  2. 「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(著者:ジェイン・マクゴニガル)(Amazonにリンク
  3. 「スーパーベターになろう!-ゲームの科学で作る「強く勇敢な自分」 」(著者:ジェイン マクゴニガル)(Amazonにリンク
メモランダム

ゲームの面白さには,システム,プレイ,エピソードの3つのレベルがある。

面白さの変数をどうやって図るのかの測定方法と測度には確立したものはなく,そこから研究を始めた・

ネット上の評価は圧倒的に「つまらない」とする主張が多いが,その原因の具体的指摘にはなっていない。ユーザビリティテストの結果は,ゲームの面白さを実験で測定することのむつかしさを痛感させた。プレイ中の行動観察でも成果は出ない。ゲーム選択実験は,ゲームの違いが明確過ぎても微妙でもうまくいかない。

気先行刺激-行動-後続刺激の三項随伴性の,強化反応休止に注目し,それが面白さの指標となるか実験を重ねた,

スロットゲーム(多段階抽選ゲーム)実機に手を加え,アタリハズレが反応時間に及ぼす影響に関係のない刺激は取り去り実験したが,メダルの払い出しは面白さの上で外せない要素なので惜しいハズレである「ニアミス効果」も含めて実験した。アタリ,ニアミス共に反応時間が遅くなった。

報酬量(払い出し金額)と頻度については,「高価値か珍しいものが魅力的である」という自然な結果が確認できた。

ゲームの面白さは単純なエピソードの面白さの加算ではなく,その対比や相乗効果によって生まれる複雑な心理現象である。

「ゲームの面白さとは何だろうか」の「詳細目次」は後記

 

「ゲーム情報学概論」を読む

「ゲーム情報学概論- ゲームを切り拓く人工知能」(著者:伊藤 毅志, 保木 邦仁 , 三宅 陽一郎 )(Amazonにリンク

出版社等による紹介 

ゲームは,古くから人工知能,認知科学の中心的な研究テーマとして扱われてきた。本書では,まずこの研究分野の基礎的な知識と歴史を押さえ,それを支える重要な理論について述べ,デジタルゲームの応用分野まで概観する。

★松原仁先生(公立はこだて未来大学)の書評★

ゲーム情報学というのはゲームを対象とした(広い意味での)情報処理の研究領域である。「ゲーム情報学」という名称ができたのは1999年に情報処理学会で研究会を立ち上げたときなので,まだ20年程度しか経っていない若い領域である。人工知能のスタートはチェスの研究から始まりチェスを対象として数多くの貴重な成果が得られマッカーシーは「チェスは人工知能のハエ」と言った。ハエを対象とした研究で遺伝学が格段に進歩したように人工知能もチェスを対象とした研究で各段に進歩したということである。しかし日本ではゲームは遊びと見なされてゲームを対象とした研究が疎外される時期が長く続いた。日本は人工知能の研究で世界に出遅れたのだが,その理由の一つにゲーム研究の軽視があったのである。

日本には将棋と囲碁(囲碁は中国発祥のゲームだが今のように発展したのは日本である)という貴重なゲームがあるので,それを対象とした研究をしない手はないということで遅ればせながらゲーム情報学という名称を冠した研究領域を立ち上げた(もっともらしい学問の名前をつけないと認められなかった)。それから20年でようやく体系化にこぎつけることができたのが本書である。伊藤氏が思考ゲームの認知科学的な側面を,保木氏が思考ゲームの情報科学的な側面を,そして三宅氏が最近日本でも盛んになってきたデジタルゲームへの応用を説明している。これまで日本でゲームを研究対象としたくても基本文献が存在しなかったのだが,これからは本書を推薦できる。ゲームの研究を進める上での基礎を本書でぜひ学んでほしい。たとえば意外と敷居が高いゲーム理論(たとえば「ナッシュ均衡」など)の基礎についても学ぶことができる。本書が出版されたことは今後のゲーム情報学の発展のためにとてもうれしいことである。ゲームのプログラムに興味をもったらぜひ最初にこの本を手に取ってほしい。

私のコメントとメモランダム

コメント 

非常にしっかりした構成,内容の本で,ゲームの制作,販売に関係する人,AIの最新動向に興味のある人には,次の「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」と並んで外せない本である。この本は,第1章でゲーム開発のこれまでの経緯,第2章でそのために必要なプログラミング,数学等の基礎知識,第3章で,ゲーム設計やゲームAIについて検討されている。門外漢には,第2章が読みにくいので,理解するための数学やプログラミングの基礎知識について,別途,取り上げることにしよう。

 因みに,「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」は,世界中の名人に勝ったアルファ碁に焦点を当てて解説しており,字面だけならは非常にわかりやすい。

メモランダム

作成中

「ゲーム情報学概論」の「詳細目次」は後記

 

「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」を読む

「最強囲碁AIアルファ碁解体新書(増補改訂版)-アルファ碁ゼロ対応 深層学習,モンテカルロ木探索,強化学習から見たその仕組み」(著者:大槻 知史,監修:三宅 陽一郎 )(Amazonにリンク

出版社等による紹介

【本書の概要】本書は学術論文(NatureやGoogleのサイト)などで提供されている難解なアルファ碁およびアルファ碁ゼロの仕組みについて,著者がとりまとめ,実際の囲碁の画面を見ながら,アルファ碁およびアルファ碁ゼロで利用されている深層学習や強化学習の仕組みについてわかりやすく解説した書籍です。特にデュアルネットワークはまったく新しい深層学習の手法で国内外の技術者の関心を集めています。本書を読むことで,最新AIの深層学習,強化学習の仕組みを知ることができ,

自身の研究開発の参考にできます。また著者の開発したDeltaGoを元に実際に囲碁AIを体験できます。

【増補改訂のポイント】Chapter1から5の部分は,よりわかりやすく内容を加筆修正しています。またChapter6はアルファ碁ゼロに対応しています。改訂にあたり,色数も2Cに変更。よりわかりやすいビジュアルになっています。

私のコメントとメモランダム

コメント

この本は,アルファ碁を支える技術として,ディープラーニング,強化学習,探索を3本の柱として取り上げ,それがどのようなものであり,どういう過程を経て能力を向上させて,世界中の名人に勝てるようになったかを,技術的に丁寧に説明しているようである。今の時点で,あれこれは言えないが,とにかく読みやすい本のつくりになっており,「ゲーム情報学概論」と交互に目を通しながらその内容を理解していくと,今のAIの最前線が理解できるのではという期待を持たせる本である。

メモランダム

作成中 

「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」の「詳細目次」は後記

 

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「情報」の最前線

この記事は,「問題解決と創造に向けて」「環境:自然・人工物・情報の続き」として「情報」全般について論述した固定記事を投稿したものです。固定記事の方は,逐次,内容を更新していますので,最新版は,そちらをご覧ください。

情報とサイバー空間

今世界は

なぜ「情報」が,「環境」の中の「自然」と「人工物」の間に入るのか,不思議な気がするかもしれないが,「自然」と「人工物」に秩序を与える存在が「情報」だと考えれば,おかしな話ではないだろう(後記「情報と秩序」)。

「情報」はこれまで,コミュニケーション論,メディア論,あるいは諜報論として,それなりに社会に大きく位置づけられてきたが,今,世界は,コンピューター技術に支えられたIT,AIによる「情報」流通の劇的増加,高速化によって,まさにハリケーンに急襲された状態だ。今後中長期的に,IT,AIが何をもたらすのか,実は誰にもわかりはしないのだ(「世界の現在と未来を知るために」)。

それはさておき,今「情報」は,私の4要素5領域の分類の中でも,人の仕事の「PC・IT,AI技法」として,企業の「経営」を支える重要なツールとして,政府の「政策」として,そして現在と未来の「世界」の動向を支配するもっとも重要な要素だ。それらを正確に理解するためには,「情報」の基礎(ここでは「情報とサイバー空間」と捉えよう。)を押さえることが不可欠だ。

「情報」の構成

導入

「情報とサイバー空間」は,「情報総論」,「情報法と判例」,「サイバー空間の病理と対応」に分けて論じよう。

全体を通じて参照すべきは,次の本である。

  • 「サイバー空間を支配する者-21世紀の国家・組織・個人の戦略」(著者:持永大, 村野正泰, 土屋大洋)(Amazonにリンク

なお「情報」全体への導入として,次の記事を作成しているので紹介しておく。

情報をめぐって

やり残したことども」の「続情報をめぐって」の部分

情報総論

<検討すべき何冊かの本>

  • 「情報と秩序-原子から経済学までを動かす根本原理を求めて」(著者:セザー ヒダルゴ)(Amazonにリンク
  • 「情報-第2版」(著者:山口 和紀)(Amazonにリンク
  • 「生命と機会をつなぐ知-基礎情報学入門」(著者:西垣通)(Amazonにリンク
  • 「インフォーメーション-情報技術の人類史」(著者:ジェイムズ グリック)(Amazonにリンク
  • 「IT全史-情報技術の250年を読む 」(著者:中野明)(Amazonにリンク

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情報法と判例

<これだけは押さえよう>

どうして複雑な世界の問題解決を試みる「問題解決に向けて」の「情報とサイバー空間」に「情報法と判例」という法律マターが入っているのかという疑問がありうるだろう。それは,「サイバー空間」は,いわばいい意味でも悪い意味でも「無法地帯」なので,これに関わるときに,一体,何がルールとされているのか,そのルールから逸脱するとどうなるかについて,法と実際例(判例)を見極めておくことが,「サイバー空間」で適切に行動するために重要だと考えるからである。そのためにお薦めするのは,次の2冊である。

  • 「情報法入門【第4版】-デジタルネットワークの法律 」(著者:小向 太郎)(Amazonにリンク
  • 「新・判例ハンドブック 情報法」(編者:宍戸 常寿)(Amazonにリンク

これらについては行動規範として,おおまかな目次が頭に入っていた方がいいので,掲記しておこう。

「情報法入門」

1 デジタル情報と法律(デジタル・ネットワークの衝撃/デジタル・ネットワークと法律/情報化関連政策) 2 ネットワーク関連事業者(通信と放送/ネットワーク上の媒介者/プラットフォーム事業者) 3 情報の取扱いと法的責任(取得・保有・提供/サイバー犯罪と青少年保護/知的財産の保護/個人情報保護)

「新・判例ハンドブック 情報法」

第1章 情報流通の自由(知る権利 /意見の表明 /報道取材の自由 /選挙過程)第2章 内容に着目した情報の規律(わいせつ /児童ポルノ /青少年保護 /名誉棄損-社会的評価の低下等 /名誉毀損-公益性・公共性 /名誉毀損-真実性・相当性 /名誉毀損-公正な論評 /名誉毀損-救済 /その他)第3章 プライバシー・個人情報(肖像権 /表現の自由とプライバシー /個人情報の保護 /労働関係 /インターネット)第4章 知的財産法による情報の規律(著作権-著作物・著作者 /著作権-著作者人格権 /著作権-著作権の内容 /著作権-権利制限規定 /著作権-侵害と救済 /著作権-著作権による保護を受けない情報 /著作権の保護対象 /パブリシティ権)第5章 情報流通の担い手(放送 /通信 /プロバイダ /情報流通の場)第6章 情報と経済活動(広告 /独占禁止法 /商標・不正競争 /電子商取引 /情報と金融)第7章 情報と行政過程(行政調査 /行政機関と個人情報 /情報公開 /行政による情報提供)第8章 情報と刑事法(情報(システム)の保護 /捜査と情報)第9章 情報と裁判過程(裁判の公開 /取材源の秘匿 /文書提出命令)

<検討すべき何冊かの本>

  • 「情報法入門【第4版】-デジタルネットワークの法律 」(著者:小向 太郎)(Amazonにリンク
  • 「新・判例ハンドブック 情報法」(編者:宍戸 常寿)(Amazonにリンク
  • 「データ戦略と法律-攻めのビジネスQ&A」(著者:中崎隆)(Amazonにリンク
  • 「インターネット訴訟」(著者:上村哲史 他)(Amazonにリンク

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サイバー空間の病理と対応

「サイバー攻撃」,「サイバー煽動・戦争」,「サイバーセキュリティ―」に分けて考察する。当面,ここが極めて重要な部分である。全体を通じて参考になるのはやはり次の本である。

  • 「サイバー空間を支配する者-21世紀の国家・組織・個人の戦略」(著者:持永大, 村野正泰, 土屋大洋)(Amazonにリンク

<検討すべき何冊かの本>

(サイバー攻撃)

  • 「サイバー攻撃-ネット世界の裏側で起きていること」(著者:中島明日香)(Amazonにリンク
  • 「炎上と口コミの経済学」(著者:山口真一)(Amazonにリンク
  • 「初心者のためのハッキング2019」(著者:Shekhar mishra)(Amazonにリンク
  • 「ハッキング・ラボのつくりかた-仮想環境におけるハッカー体験学習」(Amazonにリンク

(サイバー煽動・戦争)

  • 「フェイクニュース-新しい戦略的戦争兵器」(著者:一田和樹)(Amazonにリンク
  • 「情報戦争を生き抜く―武器としてのメディアリテラシー」(著者: 津田大介) (Amazonにリンク
  • 「情報参謀」(著者:小口 日出彦)(Amazonにリンク
  • 「情報隠蔽国家」(著者:青木理)(Amazonにリンク
  • 「誰もが嘘をついている-ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性」(著者:セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ)(Amazonにリンク

(サイバーセキュリティ)

  • 「サイバーセキュリティ」(著者:谷脇 康彦)(Amazonにリンク
  • 「サイバーセキュリティ読本【完全版】-ネットで破滅しないためのサバイバルガイド」(著者:一田 和樹)(Amazonにリンク
  • 「決定版 サイバーセキュリティー新たな脅威と防衛策」(著者:ブループラネットワークス)(Amazonにリンク

 

ゲームとのコンタクト

私のゲーム体験

ゲームは人を映し出す。小さい子は,自分が後退しなければならないルールが許せない。おとなは,主観的な筋立てや考えるふりをするだけで,強引に手順を進めたり,そもそもゲームの世界に入り込むのを嫌って敬遠したりする。

私は小さい頃は,花札,トランプ,将棋等が好きだったし,碁も少しやったが考えるふりをして強引に進めるだけでうまくならず,いつしかゲームの世界に入り込むのを嫌い敬遠するようになった。

大学生になった頃,インベーダーゲームが流行った記憶だが,あまり好きではなかった。ルービックキューブにも手を出さなかった。その後,私の子供らはそこそこゲーム好きになってファミコン等で遊んでいたが,私はお酒を飲みながら子供らが遊ぶのを見る方が楽しかった。

ということでずいぶんと貧しいゲーム体験だ。

ゲームとのコンタクト

そういう私がなぜ「ゲーム」とコンタクトするのか。対象は,「ゲーム理論」ではなくて,間違いなく「ゲーム」だ。

それは最近,ゲームの制作を受託している会社数社の持株会社の監査役になったことから,これらの会社がどういう業務をしているのか,よく理解する必要がでてきたからだ。まず会社のスタッフから,口頭ベースで簡単な説明を受けた。最近のスマホゲームにも少し触ってみた。それでこれからは,自学自習だ。

「ゲームの今」(Amazon)という本の「はじめに」に,次のような指摘がある。

「こと「ゲームについて語る」となると,明らかにゲームの現状を把握していない発言や,一方的(ないし極めて主観的)な見地からの発言が,急激に増大する傾向がある。興味深いことに,普段は冷静で,畑違いの分野について見解を示すにあたっては下調べを怠らない専門家たちが,ことゲームについて語りだした途端,十年以上前の状況を前提とした分析をしたり,実体がどこにもないブームについてその社会的背景を推測したりと,いわば「勇み足」を連発してしまう…個人的には,これはゲームが持つ,本質的な強さを示しているように思う。ゲームには,識者をして「たかがゲーム」と感じさせる,驚異的な間口の広さがあるのだ。」。

「たかがゲーム」と感じさせることが,「驚異的な間口の広さ」を示しているというこの本の言い方は,すぐには理解できないかなり「ひねくれた」分析だ。

「たかがゲーム」という切り口は,明らかに「ゲーム」を,つまらないものとみている。ひとつはゲームが,単なる「遊び」だということ,もうひとつは,ゲームを構成する要素は大したものではないという「思い込み」からなっているのだろう。

しかし,後者は,全くの誤解である。今のゲームの制作,流通に必要なものをざっと挙げても,企画,シナリオ,ゲームデザイン,プログラミング,ゲームAI,サウンド,グラフィックス,ビジュアルデザイン,ネットワーク,法務・著作権,国際対応,マーケッティング,広告・宣伝,プロジェクトマネージメント等々,膨大な広がりがある。コンテンツ・ビジネスの中でも,最も複雑な仕組みの中で初めて成立する成果だろうが,ゲームを遊ばない世代からは,もっともつまらないものとみられている。前者は,「思想」の問題だ。このような中で「たかがゲーム」と言えることが,ゲームの「驚異的な間口の広さ」,毀誉褒貶なんでも飲み込んでしまうゲームの性格を示していることになる。

現実との架橋

これではすれ違いのまま終わるので,取り急ぎ「ゲーム」と現実を架橋しよう。

1点目は,ゲーム制作の中心に,プログラミング,ゲームAI,ネットワークがあるということだ。ゲームでの試み,習熟が,現実での「軽快な動きを切り開くだろう。

2点目は,ゲームがルールによって成立しており,ルールと世界の関係をシミュレーション出来るということだ。これによってはじめて法が科学的に検証できる土俵に乗るだろう。

3点目は,プロジェクトマネージメントである。ゲーム制作に関与する人員は次第に膨大となり,しかも仕事の集中と弛緩を管理するのは,基本的にはクリエーター自身だから,労働法規の枠組みの中で,プロジェクトマネージメントを実行するのは至難の業である。まさにあらゆる分野のプロジェクトマネージメントの試金石になるだろう。

このように指摘することで,はじめてゲームと関わりを持てなかった世代の人や,敢えて関わらなかった人にも,その意味合いが見えてくるだろう。

そしておそらく実際にゲームにのめり込む体験を経てはじめて,ゲームと現実が深くつながるのだろうが,私にはもう無理かな。

取り急ぎ調べることと今後の課題

まずゲームの歴史と現在の状況を把握する必要がある。「ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード」(著者:徳岡 正肇)(Amazon)には,ゲームの歴史を踏まえた現状の詳細な記述がある。少し古い歴史はその前版である「デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド」( デジタルゲームの教科書制作委員会 )(Amazon)にある。ただゲームの世界は変化が早いから,最新の状況は,丹念に業界情報を追う必要があるだろう。未読だが「All in One ゲーム業界」(廣瀬豪)(Amazon)は,刊行が最近で,新しい情報に基づいているようだ。

ゲーム開発を引っ張ってきた一人の「遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継」(著者:株式会社モバイル&ゲームスタジオ)(Amazon)も少し古いが参考になるだろう。Kindle無料本の「ゲーム開発者の地図: 20年の個人開発から学んだこと」(著者:SmokingWOLF)(Amazon)をダウンロードしてみたが,何が書いてあるのかさっぱりわからないのでやめた。

その他,もう少し理解が進んだら,各論の本も読み進めよう。反対にゲームをコンテンツの一種として検討する「図解入門業界研究 最新コンテンツ業界の動向とカラクリがよくわかる本」(著者:中野明)(Amazon)も参考になるだろう。

上述したプログラミング,ゲームAI,ネットワークについては,「人工知能の作り方 ―「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか」(著者:三宅 陽一郎)(Amazon),「人狼知能で学ぶAIプログラミング 欺瞞・推理・会話で不完全情報ゲームを戦う人工知能の作り方」(著者:狩野 芳伸他)(Amazon),「ゲームを作りながら楽しく学べるPythonプログラミング」(著者:田中 賢一郎)(Amazon),「ゲームを作りながら楽しく学べるHTML5+CSS+JavaScriptプログラミング[改訂版]」(著者:田中 賢一郎)(Amazon)等が参考になる。

ゲームとルールについては,「組み立て×分解!ゲームデザイン―ゲームが変わる「ルール」のパワー」(著者:渡辺訓章)(Amazon)を材料に,ゲーム理論と対比して検討したいと思っている。

ゲームの世界は広大だが,人生は短い。

 

 

石・土・木/山・川・海

自然に近づく…石・土・木

「身近な自然」を求めて箱根に行き,孫娘の勧めに従い,小田原の早川の河原のケーキこと石を持って帰ったが,うちに帰って孫娘は情熱を込めて絵の具でこれに彩色したから,どこから見ても「ケーキ」だ。

私は昔から,道ばたの石を見て蘊蓄を傾けることのできる人間になりたいと思っていたが(雑草,樹木,昆虫,鳥,雲等々も),石の違いといってもなかなか頭に入るものではない。そんなとき,「三つの石で地球がわかる 岩石がひもとくこの星のなりたち」(藤岡換太郎著)を見つけKindle本で一読したが,地球を形作る中で,重要な三つの石(+α)と,それを形成する少数の鉱物を取り上げて,何とか分かってねと情熱をもって語り続ける若い著者の姿勢に頭が下がった(生命の星・地球博物館の館長さんにもこの本の原稿を一読してもらったそうだ。)。

考えてみれば地球を構成する大きな要素である石(マントルも含む。)を理解するためには,原子,分子の構造,化学反応,物理現象万般を理解できなければならない。その意味で,この本は,動かない石の話ではなく,躍動する地球の歴史の話である。機会があれば詳しい紹介をしよう。

さて石の次はなんでしょう。そう土です。土についての本もいろいろあるだろうが(農業,園芸には欠かせない),私のKindle本で出番を待つのは,「大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち」(藤井 一至著)。そうか,土は昔からあるわけではなく,せいぜい,5億年か!

土の次は,木だ。出番を待つKindle本は「木を知る・木に学ぶ 」(石井誠治著)。著者は「樹木医」として知られている。

そこから先は,森,山だろう。

山・川・海

ところで「三つの石で地球がわかる」の著者の,藤岡換太郎さんには,「どうしてできるのか」シリーズの,(ただし海は,「海はどうしてできたのか」である。)がある。私は山だけは持っているが,石・土・木の次は,山・川・海の3冊を通読してみるのがが面白そうだ。

こういう本は,私たちが,ビジネスだ,競争だ(ついでにITだ,AIだ)と,毎日あくせしてと力み,縮こまった視野を大きく広げてくれる。それはそうだ。相手は,数百万年から数億年のレンジだから。そういう中で今の瞬間を見た方が,はるかに生産的だ(と私は思う。)。

土に寝る

ところで,皆さんは(テントを通してでも),土の上で寝たことがあるだろうか。私は数は多くないが,テント山行もしたことがあるので経験がある。テント場があるところは山小屋に毛の生えたような経験だが,一度私は,伊豆で,本当に適当な場所を選んでテント泊をしたことがある。そのときは,(山)犬の遠吠えに震え上がった記憶がある。しかし,そのときの土の感触は忘れられない。野宿がつらいこともよくわかる。

さて,石に彩色した孫娘は,「はじめてのキャンプ」という本がいたくお気に入りで,庭にテントを張ってキャンプをしたいと熱望している。もう待ったなしなので,近いうちに実行したいと思っている。「はじめてのキャンプ」のなほちゃんは,ひとりで(外で)おしっこをすることができたのだが,孫娘はこの対策を熟考し,可愛いザックの中に,「おしめ」を詰めたとさ。

 

「身近な自然の観察図鑑」(盛口満著)を読む

普段は遠い身近な自然

私が育った広島県大竹市は,林立した化学工場による大気汚染・水質汚濁・悪臭等々,ひどい公害の街であったが,工場地区を離れると全くの田舎で,私が子供のころ住んでいた社宅の横の棚田には,夏になると蛍が乱れ飛ぶ幻想的な光景が広がった。裏の畑の先は山であり,自然に満ち溢れていたが,さて私はその自然の何を知っていただろう。いくら自然があっても,見ない限り見えない。この本「身近な自然の観察図鑑」も同じことを繰り返す。

こんなことが書かれている

雑草(には,キク科とイネ科が多い。),ミノムシ(昨日,孫娘と絵本で見た。),イモムシ(毛虫との関係は?),カラスとスズメ,セミ,テントウムシ(食べたら苦い。ナミ(並)テントウは,きわめて攻撃的!),マメ科の草,サクラの葉,ムシクサ,窓辺の虫の死骸,アリ(の入れ替わり),ゴキブリ(屋内は虫にとって特殊環境である),シミ,シバンムシ,カタツムリ(陸上に住むようになった貝。庭でカタツムリの「潮干狩り」),ナメクジ(殻を退化させた貝),ダンゴムシ(ワラジムシ),果物(果実とは?カキ,リンゴ,バナナ,パイナップル(それぞれどこを食べているのか?)),野菜(防御物質…野菜は本来食べられたくないと思っている。キュウリ(ウリ科は苦い),キャベツ(牛には毒。アブラナ科は辛い),ニンジン(ネズミには毒。セリ科は臭い),ネギ科は臭い,辛い,キク科は苦い,ナス科は危ない),それぞれこれらを食べるスペシャリストの虫がいる,キャベツとレタスは全然違う,日本原産の野菜(とても少ない…ミツバ,ワサビ,アシタバ等々。森が発達する自然環境で,1年草が少ないから)),里山,カブトムシ,クワガタ,カイコ(野生に戻れなくなるほど改良された昆虫),繭,ドングリ(コナラ属,マテバシイ属の木の実という定義),リスはタンニンが含まれるのでドングリは嫌い,散布はネズミ類,),ドングリを食べる,野ネズミ,ムササビ,キノコ,冬虫夏草等々。

次のステップ

著者が展開する普段気にも留めない「身近な自然」は面白い。でもこんなの好きではない,山こそ自然だという人には,取り急ぎ,小泉武栄さんの本(例えば「「山の不思議」発見」)をお勧めしよう。森や海もいいだろう。どちらも困るという人は,本とか樹木の図鑑を眺めるのも楽しい。話はそれるが,私は昔,「週刊日本の樹木」というなんともマニアックなシリーズ雑誌を購読していたが,樹木の名前はなかなか覚えられない。でどうしてこんなにたくさん,樹木があるのだろう。といっても,虫から比べれば,全く少ないか。

この本は,孫娘と「自然」を楽しむネタ本にいい。最近彼女は,昔は嫌がったダンゴ虫に興味があり,「じいじ。虫を捕まえよう。」と誘いに来る。蝶と蛾にも興味があるし,「小麦ってなあに。」とも聞いてくる。ウイークエンドは,テントウムシ,はたまた,ナメクジ?

詳細目次

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「動物になって生きてみた」を読む

「動物になって生きてみた」(著者:チャールズ・フォスター)(Amazonにリンク

 

熟読するのは辛いがこの本の世界を這い回るのは楽しい

著者がこの本の中で「生きてみた」動物は,アナグマ,カワウソ,キツネ,アカシカ,アマツバメ!!

著者の文章はペダンチックだがウイットに富んでいて,エッセイとして面白いところも多いが,いかんせん長すぎる。というのは,一体著者が「動物になって生きてみる」ために,具体的に何をしているのかが,この文章,文体では把握しづらく,絶えず長大な哲学的な詩を浴びせかけられている感じだ。

アナグマ,キツネ,アカシカ

著者はアナグマについて,イギリスの荒涼たる原野を,子どもと一緒になって穴を掘り,アナグマ目線で這い回り,食べ物も少しアナグマを真似たようだ。

キツネは,ぼろをまとって透明になり,街中を彷徨する。

アカシカでは,猟犬に追いかけられる体験をしている。

いずれも,殺伐たる生きるための世界だ。ネズミ,モグラが氾濫する世界だ。でも,それ以上に思いが広がらない。

カワウソ,アマツバメ

文句なしに面白いのが,カワウソ。「カワウソの安静時の代謝は、同じくらいの大きさの動物より40パーセント高い。泳いでいるあいだには、なかでも冷たい水で泳げば、それが大幅に上昇する」。その結果,起きている6時間の間に,体重95キロの著者に換算すると,ビッグマック88個分の殺戮をして食物を食べなければならないそうだ。そのため広大な地域を放浪し,侵入者が魚を奪うのを防ぐ。その結果,死んだカワウソを解剖するとほぽ半数以上で直前の争いの跡が見付かる。「傷は非常に不快なものだ。水中で戦うカワウソは相手の下腹部と性器を狙う。腹は裂かれて内臓が飛び出し、睾丸は引きちぎられ、ペニスはへし折られる。それでもまだましなほうで、最悪の傷は私たちの目に入らない」。なんてことだ。

一方,アマツバメは,21歳ぐらいまで生きるが,人間との違いは,「1年に注ぎ込んでいる生きることの量にある。数字にはある種の真実が含まれているから、少し計算をしてみよう。アマツバメは毎年、春と秋に、オックスフォードとコンゴのあいだの約9000キロメートルを移動する。1年あたりでは1万8000キロメートルになる」。これにふだんの暮らしで飛ぶ距離は数えると,1年の合計が,4万8375キロメートル,合計で101万5875キロメートル。これは地球と太陽のあいだの距離のおよそ150分の1、地球と月の間の距離の2.6倍にあたる。」。

日本の自然

この本に描かれているイギリスの自然は,荒涼たるものだ。一方,これに見合う日本の自然に思いいたらない。

服部文祥さんという登山家がいて「サバイバル登山」,「狩猟サバイバル」,「ツンドラ・サバイバル」という一連のサバイバル登山ものの他に,「百年前の山を旅する」という装備を100年前に戻して登山してみるという企ての本もあって,登山好きには憧れのスーパースターである(本を探してみたのだが,事務所移転時に数千冊を寄付した中に入っていたようだ。)。自分でよたよたと登山する人間にとっては,そのすごさがとてもよく分かるのだが,冒険家としてのパフォーマンスが不十分とする「観客」や,その振る舞いが自然を害するいう「文明批評家」もいて,なかなか大変のようだ。

服部さんの営みは,あくまで人間から自然に接近するアプローチだったと思うが,この著者は「動物になって生きてみた」(Being a Beast)というのだから,発想が真逆だ。しかし,率直にいって,服部さんの本の方がはるかに面白い。

なお著者には,Very Short Introductionsシリーズの「Medical Law」という著書もあり,弁護士でもあるようだ。一体どういう人なのだろう。

目次

第1章 野生の生きものになるということ
第2章 土その1―アナグマ
第3章 水―カワウソ
第4章 火―キツネ
第5章 土その2―アカシカ
第6章 風―アマツバメ