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「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」を読む

~人工知能から考える「人と言葉」 著者:川添愛

イタチがAIを作る?

著者は,「こちらの言うことが何でも分かって、何でもできるロボット。そんなものができるかもしれないとか、そうなったら私たち人間の生活はどう変わる?とか,そういう話が今の世の中にはあふれて」いるが,そううまくはいかない,「言葉が分かる」という言葉の意味を考えていくことで、機械のこと,そして人間である私たち自身のことを探っていきたい,そこで中心となるのは,「言葉の意味とは何か」という問題」だとして,イタチと一緒に人工知能搭載ロボットを作る過程に旅立つ?

この本は,9章からなっているが,各章の前半は,イタチ,フクロウ,アリ,魚,タヌキオコジョ等が繰り広げる寓話で,後半は,これについての読みやすい解説でできている。寓話といっても,「詳細目次」にあるように,「言葉が聞き取れること」,「おしゃべりができること」,「質問に正しく答えること」あたりまでは,よくなされるAIといわれるものに,何ができるか,問題はどこかということをめぐってのドタバタ劇だが,「文と文との論理的な関係が分かること(1)(2)」,「単語の意味についての知識を持っていること」,「単語の意味についての知識を持っていること」,「話し手の意図を推測すること」は,自然言語を理解するということはどういうことかについて,言語学を踏まえた議論がなされており,ここがこの本の「目玉」だ。

著者の議論は賛成できる

「著者の議論は賛成できる」と書いたが,「理解できる」くらいが正しいだろうか。今後,「強いAI」がどう展開されるかは誰にもわからない。ただ,機械学習(ディープラーニング)の延長だけで,自然言語を,人間がやっているのと同じように扱えると考えるのはどうだろうか。自然言語処理がむつかしいというのは誰もがいうことだが,著者がいうように「人間ってどうなっているの」ということがおぼろげながらでもわからないと,人間には追いつけないのではないか。

これとは別に,「強いAI」論には,人間には「意識」があって,これはもちろん,物質が生み出しているのだろうけれど,どうしてそうなるんだろうという流れの議論もある。これも追いつけるかなあ,まだまだ先でしょう。

著者の議論のまとめ

著者は,最後あたりで,その議論を要約してくれている。

自然言語を扱うためには,「① 音声や文字の列を単語の列に置き換えられること ② 文の内容の真偽が問えること ③ 言葉と外の世界を結びつけられること ④ 文と文との意味の違いが分かること ⑤ 言葉を使った推論ができること ⑥ 単語の意味についての知識を持っていること ⑦ 相手の意図が推測できること」が必要である。

これを切り開くためには,「A 機械のための「例題」や「知識源」となる、大量の信頼できるデータをどう集めるか? B 機械にとっての「正解」が正しく、かつ網羅的であることをどう保証するのか? C 見える形で表しにくい情報をどうやって機械に与えるか?」という問題がある。なかなか大変そうだ,ということである。

イタチさんについて

私は最初,イタチさん,フクロウさん,アリさんらが,次々に登場しての話の展開(それもかなり趣味的に細かい話の流れを作っている。)には,なかなか頭がついていかず,どうしようかなと思っていたのだが,何回か目を通しているうちに,そんなに違和感がなくなった。AIについて,真正面から議論すると,どうも熱くなるのでこのぐらいがいいのかなとさえ思えてきた。でも,すぐには,この著者のその他の本には手が伸びない。どうも同じようなつくりのようだから。

詳細目次

 

ことの始まり

あとがき 註と参考文献

 

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