政府:力と公共政策

この投稿は,固定ページ「問題解決と創造の頁」「政府:力と公共政策」の記事を投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の記事は,固定ページ「政府:力と公共政策」をご覧ください。法を制定し(立法),適用する(行政,司法)ことも政府の役割ですから,この分野は,弁護士業務と密接な関係があります。

「政治」が注目される理由

私は,現代社会が抱える様々な「問題解決と創造の頁」,これを生活・仕事,政府・企業,環境の5つ要素から考えたいと思っている。

ところで,私たちは,普段,5要素の何が大切だと考えているだろうか。普通に考えれば,生活であり,それを支える仕事,更にはこれらの活動の場となる環境であろう。

しかし,私たちが一番興味を持つのは(あるいは持たされるというべきか),政府の支配者の選定,行動に係わる「政治問題」であろう。そうなるのは,ひとつは,政府を国家と同視することによるのだと思う(国家という用語は多義的であるが,5要素を含む構造である社会に比して,国家は5要素を含む歴史,地理的概念として使用されることがあり,その場合,すべての問題が,政府=国家に含まれることになる。)。

もう一つは,民主制を支える国民として,支配者の選定,行動についての正当な関心に基づくものであるが,支配者側の専門性,秘密性,権威性を盾にした権力の壁は厚く,国民はほとんどすべての面で情報操作されているという方が実態に近いだろう。更に,政府は,国民全体の代表として,外交の延長上に戦争を企て,実行する。戦争は,生活領域に近接ないし生活領域内で行なわれれば,生活,仕事,環境のすべてを破壊しかねない行為である。そんなことは分かっているはずだが,戦争が実行された後に,それに気が付くというのがお決まりの「歴史」である。政府の財政,社会福祉制度が破たんしようと,円が大暴落してハイパーインフレになろうと,立ち直る方法はあるが,戦争は立ち直り至難な問題である。だから私は,戦争だけには入り込まない「政府」を選定するのが,最低限の国民の「良識」だと思う。こんなことを考えなければならないこと自体,「政府」にはいい加減にしてもらいたいと思うが,どこの国の「政府」もレベルはあまり変わらない。

力と公共政策

政府の問題は,力と公共政策が基本的な問題である。これを,国内の支配・公共政策と,国際・戦争問題に分けて考察することができる。

支配の問題は,「行政学講義」(「行政学講義」を読む)を出発点にしたい。公共政策の問題は「入門 公共政策学」(「公共政策」という「窓」を通して社会の構造を理解する)で検討に着手した。

検討すべき本

今後検討すべき本を,紹介しておく。

支配・公共政策

  • 行政学講義
  • 入門 公共政策学
  • 自治体行政学
  • 自治体政策法務講義
  • 啓蒙思想2.0
  • ンプルな政府
  • 哲学と政治講義
  • 公共政策を学ぶための行政法入門

国際・戦争

  • 国際法
  • 国際法(大沼)
  • 国家興亡の方程式
  • 避けられたかもしれない戦争
  • 入門 国境学
  • 「教養」として身につけておきたい戦争と経済の本質
  • 戦略原論 軍事地平和のグランド・ストラテジー

 

 

若者たちの政策提言を聞く

ジュニア・アカデメイアの政策提言発表会

3月19日,「ジュニア・アカデメイア」の学生が研究した内容を政策提言として発表する「第3回 政策提言発表会-私たち学生が実現したい日本の将来ビジョン―」を聞きにいった。「ジュニア・アカデメイア」は「日本アカデメイア」(「日本生産性本部」が設けている公共政策にかかる調査・提言機関)の首都圏の大学生,院生を対象とする教育研究機関という位置づけになるのだろう(「ジュニア・アカデメイア」,「日本アカデメイア」,「日本生産性本部」のそれぞれの紹介のため,HPにリンクします。)。私は,日本生産性本部の記念シンポジウム「2025年を見据えた生産性運動の進路」を聞きに行ったことがある。

政策提言の内容

「政策提言発表会」では,それぞれ10人程度の学生が8グループに分かれ,下記の政策提言及び質疑応答を行った。

➀働き方改革グループ-「これからの働き方改革~真の共働きの実現を目指して~」

②政治グループ-「循環する政治社会~参加・議論・評価の民主主義へ~」

③20万時間グループ-「福縁社会構想~あなたの20万時間が持つ無限の可能性~」

④社会全体で子育てグループ-「子育ての負担と喜びをわかちあえる日本~『おんぶ』から『おみこし』へ~」

⑤イノベーショングループ-「30年後も誇れる国づくり~日本発イノベーション再興戦略~」

⑥教育グループ-「頼れるのは自分“自信”!~不安な世界を生き抜く教育のチカラ~」

⑦社会保障グループ-「『私』が『社会保障』する、される。~安心して、挑戦に踏み出せる社会へ~」

⑧ワクワクグループ-「日本ワクワク化構想~もう一人の自分を見つけよう~」

これらについては,それぞれ当日配布された「サマリー」と「報告書」がここに掲載されているのでそれぞれの内容の説明はしない。当日の発表は10分強であったので,ほんのさわりという感じであったが,「報告書」は詳細であり,「参考・引用文献」やリンクも整っているので,じっくり検討するにはいいだろう。ときおり,「6か月の検討」という言葉が行きかっていたが,頭の柔軟な学生たちが,じっくり取り組んだというだけでも,貴重な「報告書」である。

分析と感想

これらの提言は,「就職」という「選択」を前に苦悩する学生たちが,我が国の抱える課題(問題)を設定し,その現状分析をして解決政策を提言するというもので,提言の内容如何に関わらず,その課題設定そのものが,学生たちの置かれた現状の表現として優に並みのアンケートを超えている。

人間の活動を,ⅰ政府,ⅱ企業,ⅲ地域・家・個人に分けて考えれば,②⑥⑦が政府,➀⑤が企業,③④⑧が地域・家・個人に属する問題と,一応分析することができるだろう。

私は,②の「循環する政治社会~参加・議論・評価の民主主義へ~」が興味深かった。今の代表性民主制と併存させて,【「①議題の設定:自分たちで話し合いたい議題を設定するために「輿論ボックス」の設置,②無作為抽出による「市民会議」への参加者の選出,③ネットを利用した議論の実施と政策決定:「市民議会」と国会/地方議会議員との協働 →「市民議会提出法案」の作成と、合議による報告書の作成,④政策の実行,⑤市民が評価を行い、より良い政策へ⇒再び①へ】というシステムを作ろうというのである。選挙は,公共政策を立案・実行する政府主導部の選出過程であるが,それだけではなかなか政府の活動がうまく行かない。人選より政策内容に,市民の目が届く方法を何とか作りたいというのは,私も共通の思いだ(パブリックコメントでOKというわけにはいかない。)。ただ公的なものを考えていてもどうにもならないので,まず私的なシステムを作り,その成果が否応なしに立法に取り込まれるという方向を考えるのがよさそうである。

⑥(教育,医療等は政府に属する問題と考えていいだろう。)と⑦は,問題に真正面から取り組むというより,少しずれたスタンスからの提言だ。⑥は教育内容に「演劇」を取り込もう,⑦は,困窮者を救済するアプリの[システムを作ろうというものだ。

これらから政府の抱える問題が如何に扱いにくいかということがよく分かる。

企業についての⑤は,まさに私がこれから考えようとする「本丸」だが,イノベーションを支える要素が,トップダウンであるという発想はいただけないと思った。ただこれは感想に止めよう。ところで「日本生産性本部」は,「生産性向上」や「イノベーション」を主眼として活動してきた団体だが,一時期はなんて古いのという感じだったが,今また最先頭に躍り出た感じだ。その「調査研究の頁」を見ると,(サービス産業の)生産性,ITと生産性,余暇などの研究が並んでいて,私が考えるようなことは,誰でも考えるのねという感じだ。最新の「質を調整した日米サービス産業の労働生産」という論文は特に興味深いから紹介しておこう。)。

地域・家・個人を何とかしたいという③④⑧の提言は,都会における孤独な「学生」という立場にあるだけに,深刻な思いがあるのだろう。ただこの問題は,個と共同性の加減がむつかしい。地域の再生は多くの人が望むところだが,その手掛かりはどこなのだろうか。③④⑧を聞いただけでは,答えが出なかった。

あと学生たちが発表の後の質疑応答で,主催者(学者,実務家等。2世代くらい上かな?)の突っ込み,評価に,堂々と反論,ないし「言い逃れ」をしているのは,とても頼もしかった。実際,これだけのやり取りでも,発表内容をずっと立体的にとらえることができた。

この「政策提言発表会」は,私にとって間違いなく新鮮でとても興味深かった。ただ学生たちが,なにかにつけて「国の資格」を持ち出すのはいかがなものかと思った(ただ,発表の枠組みが「公共政策」であるのであればやむを得ないか。)。

いま私たちが抱えている問題解決の鍵は,イノベーション,及び社会全体の情報流通にあるのだと,改めて思った次第である。

このサイトの構成を少し見直します

なぜWebの構成を変更するのか-技術的な理由

最近,ほぼコンスタントにこのWebの記事を作成することができるようになり,記事数も増えてきた。そこで,まず最低限の変更として,私も閲覧してくれる人も,混乱せず,かつ目的とする記事に到達しやすいように,構成を簡素化し,かつ,工夫してみることにした。本当はテーマも古くなったので変えたほうがいいのかもしれないが,私が撮影したクリックする度に変わる10枚ぐらいの山の写真は手放しがたい。

このWebは,Wordpress.comで作成しているが,記事は固定ページと投稿に分けて作成する仕組みだ。固定ページは,内容で項目分けされた上部メニューに配置し固定するために作成する記事群,投稿は,作成した時間順に表示される硬軟様々のブログ記事だ。両者の内容は交錯するが,投稿をうまく前者に入れ込むことが重要だ。今まではここが混乱していた。それとメニューの項目をあまり深くせず,文中からリンクさせる方がよさそうだ。

なぜWebの構成を変更するのか-実質的な理由

以上は技術的な理由だが,構成を変更しようとするより実質的な理由は,私が今,最もやりたい「法を問題解決と創造に活かす」弁護士としての活動について,このWebを情報発信の」主要なツールにしたいからである。今までの構成はいささか雑然とし過ぎていた。

そのために,今回,主要メニューを,「法と弁護士業務の頁」,「問題解決と創造の頁」,「ブログ山ある日々」に整理した。「ブログ山ある日々」は投稿(ブログ)であり,固定ページのメニューを,「法と弁護士業務の頁」と,それ以外の「問題解決と創造の頁」に分けたものである。

「法と弁護士業務の頁」の中心は「法を問題解決と創造に活かす」であり,「問題解決と創造の頁」は,そのための,事実と論理(学問)を踏まえた科学的な準備足らんことを志している。このWebも,やっとそういう情報発信ができるような準備が整いつつある気がする。ただITやAI,科学についてその新しい知見・動向を知るには,英語文献の読解が必須なので,その意味での準備に今しばらく時間がかかりそうだ。

現在,立法とその運用・適用を担当している中央政府(行政・司法)の人々は,法をトップダウン,かつ権威主義・事大主義に寄りかかり非科学的な運用をする姿勢が顕著だが,それではこれからの世界の変動に適応できない(でもこれは当事者だけの非ではなく,その状況にいたら多くの人はそういう対応をするのではないかということだろう。)。

だからこそ公共政策をめぐる事実と論理(学問)を把握し,これを踏まえた科学的な対応をすべく,立法も,その運用・適用も,ボトムアップかつ柔軟なものに変え,これからの世界に適応してみんなの問題を解決していきましょうというのが,私の今後のこのWebでのささやかな提案である。

これからのWebの構成

「法と弁護士業務の頁」は,今後,「法を問題解決と創造に活かす」を中心に記事を作成するが,「分野別法律問題の手引」も充実させたい。その他は,若干の手直しをする。

難しいのは,「問題解決と創造の頁」のメニューの項目と「ブログ山ある日々」の「投稿」との関係である。暫定的に次のようにしてみることにした。追ってこれに沿って各記事の配置を改めていくことにする。しばらくは,投稿のカテゴリー等は,無茶苦茶であろうが,ご容赦いただきたい。

問題解決と創造の頁

社会と経済の基礎

政府と公共政策

アイデアをカタチに

食動考休-健康になる

ITとAI

方法論の基礎

ブログ山ある日々

ブログ山ある日々総覧

法・社会・ビジネスの諸相

(法を問題解決と創造に活かす)

(社会と経済の基礎)

(政府と公共政策)

(アイデアをカタチに)

人間の思考と文化

(ITとAI)

(方法論の基礎)

山ある日々と自然

(食動考休-健康になる)

(孫娘の今日のひとこと)

本の森

イノベーションを志す人が社会を理解するための基本書8選-試論

※2018年3月14日に表題を変え,内容を一部修正した。

私たちがいる,今,ここにある世界を理解したい

私は昔から抽象的な思考が好きだったのか,面倒くさがりだったのか,一冊の本で,今,ここにある世界全体を理解したいという強い嗜好を持っていた。「これですべてがわかる」という売り込みに弱かったのだ。ただ読んだ直後は「この一冊」と思っても話はそこで止まってしまい,「この一冊」を活用して生きていくことにはなかなか結び付かなかった。というより,思い返してみて,本当にそんな一冊があったろうか?

今,社会は,複雑怪奇な問題に満ちあふれている。価値創造を目指してイノベーションを志す人が,足元が定まらないまま,つまらないことで足元をすくわれ,転倒してしまうことは日常茶飯事だ。私は若い頃から様々な「この一冊」に飛びつき,乗り換え,やがてそのような作業から離れ,また最近戻ってきたという,歴戦の失敗の雄だ。そのような観点から,最近,新たな「この一冊」を探してきた。

今までは,文科系オタクであった私の「この一冊」は,物語,宗教,思想,哲学等のジャンルの本にならざるを得なかったが,これからは,社会科学,自然科学の本になるだろう。「宇宙の究極理論」であれば誰でも知りたいだろう(ローレンス・クラウスの令名高い「偉大なる宇宙の物語―なぜ私たちはここにいるのか」及び「宇宙が始まる前には何があったのか?」は,その助走ともいえるだろ。)。ただ,私たちがいる,今,ここにある世界は,当然,自然(宇宙)の一部であるが,私たちがすぐにでも立ち向かわなければならないのは,人の集団から構成される社会だ。本当は自然あっての社会だろうが,私たちには,社会あっての自然と,倒錯して見えてしまう。だから「この一冊」の当面のターゲットは,社会科学であるが,社会は極めて複雑で,これを科学的に把握し,論理的に記述することは,自然に比して格段にむつかしい(上記の「宇宙の究極理論」は,自然とはいえ,さらにむつかしい。)。社会科学は最近やっと自然科学の足元ぐらいには追いついたといえるだろう。だからイノベーションを志す人が社会を理解するためには「この一冊」では済まないだろう。

私は,ここ半年ぐらい社会を理解したいなあという思いを中心に本を集め,そのような目的で年末年始までに目を通した本を「社会を理解する方法・ツールを探す-年末・年始の頭の旅-」にまとめたが,まだまだ道半ばだといわざるを得なかった。特に出発点の定め方がむつかしい。

しかし今回,試論(暫定版)ではあるがイノベーションを志す人が社会を理解するための基本書8選」を作成し,紹介してみることにした。

8冊は,経済を中心とした歴史や制度・ツールを理解するための「経済史」,経済を分析するツールである「マクロ経済学」と「ミクロ経済学」,これらに対する「複雑系ネットワーク」という観点からの捉え直し,経済を創造する人の活動を理解する「経営」と経済活動のフレームを作る「政治・行政」,人の経済活動を支える物質的な環境を形作る「自然科学」,最後に「人間の科学 社会の科学」という流れだ。それぞれについて「この一冊」のさわりだけ紹介することとし,詳細な紹介は後日を期すことにする,「今のところ,<No.1 経済史>と<No.8 決断科学のすすめ>には,Kindle本はない。

<No.1 経済史> 評価:◎

暫定的ではあれ,8冊にまとめてみようと思ったのは,「経済史」(著者:小野塚 知二)の存在を知ったからである。発売は18/2/1とあり,私は2/28に入手している。

この本は,農耕が開始されて以降の人間の経済活動を,そのような活動を支えた政治・社会や人のあり方,思想との関連で追っていく「経済史」であると共に,至る所で人と経済,社会,自然の全体的な関係をどう整理すればいいのかを執拗に問いかけ,回答,記述していこうとしており,読者の頭の中はどんどん整理されていく(はずだ)。ただそのような記述が,各所に散在しているので,その限りでは「わかりにくい」ところもあるが,あまり気にならない。

たとえば,財・サービスを生産する4つの関係として,投入された労働力が商品か,非商品か,産出された財・サービスが商品か,非商品かをあげ,商品―商品以外の領域(象限)については,市場で調整されていない,その規模は小さくないという指摘は,なるほどと思える(172~174頁,ただし元となるの整理は大沢真理とある。)。

あるいは,人の経済活動の外に,人間=社会の活動として,思想・宗教,知恵,技芸,力の4領域があるが,「むろん、複数の領域にまたがる活動はあります。たとえば、力の行使(戦や乱闘)にも思想や知恵や技の作用は不可欠ですし、また統治者の政策、経営者の戦略、市民運動や労働運動の活動方針など(いずれも現実に何らかの働きかけをして、課題を解き、よりよい状態をもたらそうとする行為の束)は、思想・宗教によって与えられる価値判断で方向性が定まり、知恵で過去と現状を正確に理解し、またありうべき将来を予測し、技芸を用いて現実の人間=社会や自然に働きかけ、そして力で人びとの振る舞いや立場を律することによってなされる総合的な行為群です。何らかの価値判断(何かを選び取り、何かを捨てること)を含まない「自然体の」政治や経営などありません…つまり、科学だけでは政策は立案できません。政策の方向性を決定するのは思想・宗教であり、実際に政策を実施するには技芸と力が必要です。また、技だけがあっでも、それを用いる向きが定まらなければ無意味ですし、現実を相手に技を行う力がなければ無効でしょう。むろん、思想にも科学にも技芸にも基礎付けられない力は、文字通り剥き出しの暴力であって、何ら望ましい結果をもたらさないことは明らかです。思想・宗教、知恵、技芸、力という行為の四領域を知っておくと、誰かが何か言い、また行うことが、どの領域に属しているのか、どの領域に基礎付けられているのかがわかるようになります。」(93,94頁)という記述も役に立つ。

そのほかにも目白押しだが,私はまだ十分に咀嚼して紹介できるほどには本書を読み込んでいないので,下手に紹介すると読者の意欲をそぐ可能性もあるのでやめておく(なお発売直後にも関わらずAmazonで高評価されている。今後,チャチャが入るだろうが。)。

たぶん今後一番議論を呼ぶのは,著者が「経済はなぜ成長するのかという問いに対して,本書は,まず,人とは際限のない欲望を備えた動物であるから,その欲望を充足し続ける-この欲望に際限はないので,充足してもまた新たな欲望が湧き起こり,それを充足する-ことが,経済成長の原動力だったのだという仮説を提示しました。そのうえで,前近代,近世,近代,現代の各時代について,際限のない欲望がどのようにして成長の原動力たりえたのかを考察しました」(512頁)と「際限のない欲望」という表現を出発点にしたことだろう。著者が,バナナの例を挙げているから困るのだが,著者自身は,「さまざまに際限のない欲望」と表現し,多様な対象,形態,程度での「際限のない欲望」を意識しているのに(29,30頁。ただしこの箇所は珍しく整理が不十分だ。),おそらく,「際限のない欲望」批判が横行するのではないかと思う。

いずれにせよ,この本は,経済論,社会論,政治・行政論,思想論,人間論全体の中で道を見失わないためのよくできたコメント付き「地図」として利用できる。この本を,十分に活用したい。ただし,パソコン,インターネット,AIで劇的に変わりつつある<いま>の経済の見立ては全く不十分であるし,例えば交換,分業による人の進化を追う「繁栄」(著者:マット・リドレー)と読み比べれば,人の経済史が,もっとメリハリをつけて理解できよう。

<No.2 中高の教科書でわかる経済学 マクロ編> 評価:〇

「経済史」で使用される様々な概念のうち,GDP,生産性,貿易,日本の経済成長,財政,経済・金融政策等々を理解するために「中高の教科書でわかる経済学 マクロ編」(著者:菅原晃)を紹介する。マクロ経済学の本は,ともすれば現在の世の中で横行している「謬見」を相手にせず,さらには現実とも遊離した「数学遊戯」になっている感があるが,この本はかなり戦闘的に「謬見」と戦おうとし,その根拠を「数学」ではなく,きちんとした学者の「監修」を経ているであろう中高の教科書(資料集)の記述を引用することで,説得材料にしているので,わかりやすい。内容に多少の疑問はあるが,8割ぐらいの記述はあっているのではないか。これで足りなければ,これをもとにさらにきちんとしたマクロ経済学の本に進めばいいだろう。この本は,日本の現実を意識しているが,足りない部分は「日本経済入門」というたぐいの本で補えばいいであろう。

<No.3 ミクロ経済学の力> 評価:◎

消費者行動,企業行動,市場均衡等の市場メカニズム,及びゲーム理論,情報経済学については,「ミクロ経済学の力」(著者:神取道宏)を紹介したい。

この本は,ミクロ経済学の中級テキストということだが,数学は分かり安い範囲に抑えられており,内容を一度で理解するのはつらいが,何度も反芻すれば理解し,応用できそうだ。

この本が素晴らしいのは,著者が問題を自分の頭で整理して考え,説明しようという誠実さに満ちていることだ。世評も高いし,私も高く評価する。早く何回も読んで,飲み込みたい。

<No.4   経済は「予想外のつながり」で動く>  評価:〇

No.2やNo.3の「経済学」については,その前提や,方法論に強い批判がある。ここでは「経済は「予想外のつながり」で動く」(著者:ポール・オームロッド)を挙げておく。この本の基本は,経済現象は複雑系であり,ネットワーク,特に急速に広がったインターネットを通じた中での「私たちの行動モデルは人びとに次のようなやり方で意思決定をさせる。人は他人の選択を見て,それを真似する。いろいろな選択肢がどんな割合で選ばれるかは、それぞれの相対的な人気の高さで決まる。これが基本原理だ。それに加えて、小さな確率で,人はランダムに選択を行うことがある。具体的には、人はそれまで誰も選ばなかったまったく新しい選択を行うことがある。」ということから,これまでの経済学では処理できないということが基本だろうか。

更にこのような視点から,No.5の経営戦略や,No.6の公共政策が多くの場合失敗することを分析しており,十分な有用性がある。ただし,繰り返しが多く,「複雑系ネットワーク」として基本的に押さえておくべきことの記述を端折っているので(英米の「教養書」らしいが),評価は一段落下げた。

複雑系の科学は,ネットワーク理論を含めて,まだ十分に理解されていないし,No.1~No.3とNo.4以下の経済学,経営学等々と十分に融合しているとは,いえない状況であろうが,マンデブロを紹介したナシーム・ニコラス・タブレの「ブラック・スワン」や「反脆弱性」,マーク・ブキャナンの一連の著作,ダンカン・ワッツの「偶然の科学」等が参考になるだろう。IT,AIを使いこなすためにも,必須の観点である。

<No.5 パーソナル MBA> 評価◎

「経済史」の現実を,マクロ経済学,ミクロ経済学によって,より科学的,論理的に理解すれば,次は,企業はどうやって儲けるんだろう,そもそも価値をどうやって創造すればいいんだろうという「ビジネス・経営」領域の問題になる。「ビジネス・経営書」はそれこそ世の中に満ち満ちているが,「この一冊」として,「Personal MBA」(著者:ジョシュカウフマン)を紹介したい。

著者は,みずから「勉強フリーク」と称するように,勉強する方法に極めて意識的であり(「たいていのことは20時間で習得できる」という著書もある。),アメリカで「Personal MBA」というサイトを開設し,99冊のビズネス書を公開して人気を博している。この本は,価値創造,マーケッティング,ファイナンス,販売,価値提供に分けて,ビジネス手法を要約,紹介すると共に,人間の心,システム思考に各3章を割り当てて詳細に検討している。学者の本ではないが,極めて水準の高い本であり,特に,「価値創造」は参考になる。

この本がいささか抽象的だと感じれば,わが国で現実に生きていく方法について論じた「幸福の「資本」論― あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」」(著者:橘玲)を紹介しておく。クセはあるが,実践的だと思う。

<No.6 行政学講義> 評価:△

「行政学講義~日本官僚制を解剖する」(著者:金井利之)については,すでに紹介した。私としては,政府の活動や制度(立法,行政行為)を,主として人の経済活動との関係で分かりやすく網羅的に検討した本を紹介したいのだが(基本的な検討は「経済史」でなされている。),現時点では,非常に癖はあるが,行政の諸相を網羅的に検討しようとしているこの本を紹介しておく。

<No.7 この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた> 評価:◎

「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」(著者:著者ルイス・ダートネル)(原書は,「The Knowledge: How to Rebuild our World from Scratch」)は,何らかの原因で「文明」が崩壊したとき,人はどう方法で生きていくことができるのかを,「思考実験」した本である。

内容は,崩壊時に残された材料を利用する猶予期間,この時期を経て,農業/食糧と衣服/物質/材料/医薬品/人びとに動力を──パワー・トゥ・ザ・ピープル /輸送機関/コミュニケーション/応用化学/時間と場所をどうやって活用できるのかという自然科学的実践論である。

農業といったって,種,土壌,道具等々,あなたは何も知らないのではないの?とまさにそのとおりである。動力,工業,通信等々,私にはすべて「ブラックボックス」である。そういう人は当然生き残れない。

この本は,自然科学実践論といってもいいかもしてない。ちゃんと私たちが向き合っている現実の自然環境,物質を知るためにも,必読書である。

<No.8 決断科学のすすめ> 評価:◎

「決断科学のすすめ」(著者:矢原哲一)」については,一度「私たちの不安」で簡単に紹介したことがある。この本は「持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか?」という問題意識にたち,そのためのリーダーを養成しようというプロジェクトのためにまとめられたお薦めできる優れた内容の本である」が,「個人が持続的に生活していくためにはどういう活動を営めばいいかという「身過ぎ世過ぎ」の観点が抜け落ちている」と指摘した。これについては,上記で紹介したNo.1~No.7の本によって,欠落部分はなくなる。

そうすると,この本で指摘され,論じられていることが,きわめて現実的,実践的になる。内容も多岐にわたり,非常に面白い。十分に活用できるだろう。

 

「行政学講義」を読む

~日本官僚制を解剖する 著者:金井利之

まず悪口をいいたい

この本は,本屋で手に取ってみて,内容が整理され,しかも情報量が豊富に見えたので,その場で買ったものだが,読もうとすると,極めて分厚くかつ字も小さかったので,リアル本を読むのは辛かった。調べるとKindle本があったので,早速買った(2冊買ったということだ。)。

しかしKindle本でもとても読みにくい。著者の文体には癖があり,省略,飛躍があって,表現がねじれているところが多い。また一般的でない概念も多用され,概念相互の関係もはっきりせず,一読しただけでは真意を汲み取り難い。図も多く掲げられているが,そこは要するに読んでもわからないところだ。

一番の問題は,最初の数十頁の「導入部」である序章に書かれている全体の構成の説明(見取図)が理解できないことだ。行政を内外と過程に,行政内外を,外側,内側に,行政過程を主体,作用に分け(詳細目次参照),これを組み合わせて,支配,外界,身内,権力という4つの「切り口」から分析するというのだが,その「切り口」の意味合いとその関係が,何度読んでもわからない。しかも,それぞれの「切り口」を更に4つの項目に分け,4×4に分けているが,その分ける基準が何なのか?ヘーゲルなら3つだよなと悪態をつきたくなる。

序章が全体の見取り図だということは,全体を読めばその意味が分かるだろうと気を取り直し,「第1章 支配と行政」「1 政治と行政」に進むことにするが,??の連発だ。

「支配」について,「「統治者と被治者の同一性」を民主体制とすれば,公選職の統治者(政治家)とその公選職の指揮監督を受けて統治の業務をこなす行政職員が必要となる。戦前体制は非民主体制であるから,統治者と被治者が分離し,統治者である天皇あるいは藩閥関係者があり,統治者の中での「下働き」が行政職員である」ということを基本モデルとして(多分),戦前体制-戦後という歴史的事実の中で,様々なことを論じている(ように思える。)が,あちこちに弾けるポップコーンのようで,論旨を追うのがつらい。大体このあたりでギブアップする読者が多いかもしれない。ただここのポップコーンは,珍しくておいしいものが多い。

本書を読み進める方法

この本を読み進めようと思ったら,「序章」の著者の言葉遣いを理解しようとせずに読み流し,「第1章 支配と行政」の支配の意味合いと書かれていることとの関係もなかなか飲みこめないので,目を通すだけにし,一挙に「第4章 権力と行政」に飛び,読んでみるのがよい。ここには行政がその目的達成のために用いる「実力」,「法」,「財政」,「情報」の方法について書かれており,ここは書かれていることは理解できるので,ここから読み進めるのがいいだろうか(でも「法力」「知力」といわれると引いてしまうが。)。

次いで前に戻り「第3章 身内と行政」は,要するに行政の組織について書かれているので,内容にあまり抵抗はない。貴重な情報が得られよう。更に前に戻り,「第2章 外界と行政」「1 環境と行政」には,地理,歴史,気象,自然環境,人口等,行政を取り巻く総論が書かれ,引き続き2で経済,3で外国との関係が書かれている。4にはアメリカとの関係が書かれている。2など,かなり特殊な観点から書かれた議論という気もするが,まあよしとしよう。ただ,4項目について同じレベルのことが書かれているわけではない。

最後に「第1章 支配と行政」も,「4 自由と行政」,「3 民衆と行政」,「2 自治と行政」と後ろから読み,最後に「1 政治と行政」を読むと,何となく,全体が読めたなあという感じだ。著者によれば,自由,民衆,自治,政治の中に価値があるそうだから,読み方もそれでいいのだろう。

これから

本書が豊富な材料を蔵していることは間違いないが,現実の分析より「ことば」での分析が目立つように感じること,経済論は買えないこと(私は,今[経済史]と「ミクロ経済学の力」のファンだ。),やはり叙述のつながりと関係が分かりにくいことから,本書が,行政を入口にして,政治,法,制度へ架橋できるツール足りうるか,もう少し検討したい。ただ偏屈おじさんの小言が好きな人にはたまらないだろう。

詳細目次

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ツールとしての統計学

ピーチ(P値)

大分前のことになると思うが,「nature ダイジェスト」に,P値(ピーチ)の使用に気を付けようという趣旨の記事がでていて,「P値」に気を付けるといっても「ピーチ ツリー フィズ」を飲みすぎるなということではないよ,というギャグを書こうと思って,そのままになってしまった。

今確認すると,「nature ダイジェスト」の2016年6月号である(「nature p値」と検索すると,トップに出てくる。)。その記事は,「米国統計学会(American Statistical Association;ASA)は,科学者の間でP値の誤用が蔓延していることが,多くの研究成果を再現できないものにする一因になっていると警告した。ASAは,科学的証拠の強さを判断するために広く用いられているP値について,P値では,仮説が真であるか否か,あるいは,結果が重要であるか否かの判断はできない」というものである。このころ私は,統計学に眼を向けていて,ピンと来たらしいが,今はさて?簡単にいえば,5%以下なら正しいと即断するのは,間違いだということだろうか。

統計学を理解する

経済指標に親しみ,理解することにした私としては,その作成ツールである統計学にも目を配る必要があるが,統計学の用途はこれだけではない。今では統計学は,社会や経済を分析,理解するための基本的なツールといわれている。私が学生だった頃は,あまり統計学云々とはいわれなかった(ような気がする。)。

これから漫然と統計学に取り組むのでは,頭には入らないだろう。①社会や経済(自然科学でもいいが)の分析,理解のための具体的な使われ方を把握した後で,②統計学そのものに進むのがよいだろう。①と②の関係について見通しを与えてくれる本αがあればもっと良い。

実はαについては,最近よく売れた有名な本がある。「統計学が最強の学問である」(著者:西内啓)で,実は4冊もある(正編・実践編・ビジネス編・数学編)。これらに書いてある,統計学は「今,ITという強力なパートナーを手に入れ,すべての学問分野を横断し,世界のいたるところで,そして人生のいたる瞬間で,知りたいと望む問いに対して最善の答えを与えるようになった」や,「現状把握,将来予測,洞察(因果関係)」の3機能があり,重要なのは,洞察(因果関係)であるという指摘は重要であるし,紹介されている下の「一般化線形モデルをまとめた1枚の表」は,今後,統計学に取り組むうえで,役に立ちそうな気がする。

 

 

 

 

分析軸(説明変数)
2グループ間の比較 多グループ間の比較 連続値の多寡で比較 複数の要因で同時に比較

連続値

 

平均値の違いをt検定 平均値の違いを分散分析 回帰分析

 

重回帰分析

 

あり/なしなどの二値 集計表の記述とカイ二乗検定 ロジスティック回帰

その他「統計学が最強の学問である」には,統計学の数学的な説明にあまり入り込まずにあれこれ書かれているのだが,それだけにどうも「専門的」なことまではわかった気がしないというのは事実である。でもαとしては優れていると思う。

統計学の使われ方

さて統計学の手法が何に使われるかについて,「統計学が最強の学問である」は,次の6つをあげる。

①実態把握を行なう社会調査法

②原因究明のための疫学・生物統計学

③抽象的なものを測定する心理統計学

④機械的分類のためのデータマイニング

⑤自然言語処理のためのテキストマイニング

⑥演繹に関心をよせる計量経済学

私としては,④⑤⑥あたりが興味の対象だ。ただ最初は⑥を入口にすべきだろう。これについては,「原因と結果の経済学」(著者:中室牧子他),この本の末尾に「因果推論を勉強したい人に第一におすすめしたい本」として挙げられている「計量経済学の第一歩―実証分析のススメ」(著者:田中隆一)を読むのがよいだろう。統計学を含む広い観点から,因果関係を検討する「原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ」(著者:久米郁男)も,お薦めだと思う。買っただけで目を通していないが「データ分析の力 因果関係に迫る思考法 」(著者:伊藤公一朗)もよさそうだ。

これらのうちの1,2冊で計量経済学の概要にあたりをつけて,「統計学は最強の学問である」を参照しつつ,統計学を勉強する運びとなる。

統計学については適当な教科書を選べばいいのだろうが,勉強しているのがどのあたりの議論かといういことを把握するため,「統計学図鑑」(著者:」栗原真一他)を参照するのがよさそうだ。なおこのあたりの本の紹介は,現在進行形,未来進行形だ?

統計学と数学

統計学は,数学的な処理を前提とするので,数学的な素養も必要だ。

そこで私は,今後,まず,「計量経済学の第一歩―実証分析のススメ」(著者:田中隆一)を頭に入れて,「改訂版 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める」(著者:尾山大輔他),「経済学で出る数学 ワークブックでじっくり攻める」(著者:白石俊輔 )を勉強しようと思っている。それに加えて「大学初年級でマスターしたい物理と工学のベーシック数学」(著者:河辺 哲次)がほぼ理解できれば,私が通常読む本の数学的な処理については,問題がなくなるだろう。急がばまわえれだ。

法律学と統計学

ところで,法律学や律実務についても,少なくてもアメリカでは統計学的な手法が取り入れられている。翻訳されている「法統計学入門―法律家のための確率統計の初歩 」(著者:マイクル O.フィンケルスタイン)という本があるが,同じ著者のより詳細な「Statistics for Lawyers」があるが,未購入である。「数理法務nのすすめ」(著者:草野耕一)でも,確率,統計に多くの頁が割かれている。

なお「「法統計学入門」は,木鐸社の「法と経済学叢書」(11冊が刊行されている。)の一冊である。「法と経済学」において,経済学的分析や統計学に基づいた分析が行われるのは当然であるが,さて,それがどれほど立法や法解釈に生かされているかが問題である。

統計学の付録-統計局の学習頁

総務省統計局(「日本の統計の中核機関」と紹介されている。)のホームページに/,イラストがきれいな「統計学習サイト」があり,「なるほど統計学園」,「なるほど統計学園高等部」に分かれている。また「統計力向上サイト データサイエンス」もあるし,「データサイエンス・オンライン講座 社会人のためのデータサイエンス演習」も提供されている(gaccoでの受講)。統計ダッシュボード,You-Tubeの統計局動画,facebook,日本統計年鑑にもリンクしており,実にサービス満点だ。

だが,ほとんど利用されていないだろうな。例えば,多くの労力と費用をかけて作成されたであろう「動画」の視聴回数が,数百から数千だ。ネット上で需要拡大をするにはどうしたらいいか,本当に難しい。統計局は,人工知能の松尾豊さんや,上記の「統計学が最強の学問である」の西内啓さんを動員したが,だめなようだ。

でも私はこういう孤独の影がただようホームページは好きだな。これらの企画がなくならないうちに,せいぜいアクセスしよう。

社会を理解する方法・ツールを探す-年末・年始の頭の旅-

遅ればせながら社会と向き合う

私はある時期から政治や社会の問題に積極的には関わることをやめ,弁護士として,法によって縛られるのはもっぱら国家(立法,行政,司法)だという限りで,政治や社会の問題と関わればよいと考えてきた。政治や社会の方向付けについては,自信満々の多くの政治家,官僚,企業家,実務家,学者等々が,世界中にいたから。

そのときからずいぶん時間がたったが,どうも社会主義国の崩壊,生産性の向上,科学技術の進歩等々に関わらず,世界中の政治,経済,社会は,至る所でアップアップしており,暴力的衝突は絶えないし,貧富の格差も解消されない。これについて,誰かをつかまえて,「お前のせいだ」だけでは済まないようだ。

そういう中で私も「法とAI」の世界からもう一歩外に出て,遅ればせながら社会に向き合い,その問題解決と価値創造の一端を担いたいと思うようになった。そこでさびついた私の政治・経済・社会観を更新すべく,社会に向き合う最新の方法・ツールを探すことにした。

年末,年始に集めた本,読んだ本

このように考えて,年末,年始に,社会に向き合う方法・ツール足り得ると思われる本を集め,読み始めてみた。Kindle本を中心に,集めやすい本を集めただけで,網羅的ではない。過去集めた本について本棚をひっくり返すことはしなかったが,Kindle本で重要だとして触れられているような本は,引っ張り出した(事務所移転時に何千冊も処分(寄付)したので,見当たらないものも多い。読み始めたと言っても,あっちにフラフラ,こっちにフラフラの,ランダムウオークでの一瞥という方が正しい。

私の目的は,自分の何らかの動きにより社会がより良い方向に動くことは可能なのか,可能とすればその方法・ツールは何かを探すことだ。

社会を理解する方法・ツールのポイント

まず,人間や社会を考える上で,生命の誕生と進化,進化の結果として人間が進化論的には合理的なシステム1(ファスト思考)と,論理的・合理的なシステム2(スロー思考)せ獲得,使用していること,かかる人間が相互に複雑なネットワークを形成しその総体として社会を形成していること,が基本である。

そしてその社会において世界には数多くの統治組織が分立し,権力を背景にルールと貨幣を用いて,生産される価値を交換,分配,消費するというメカニズムが行なわれているが,可能であればそのシステムと複雑系ネットワークの関係を理解したい。

進化論,複雑系科学が出発点となること,人間相互の関係は,行動ゲーム理論で解明できそうなこと,人間相互の関係は自己組織化される複雑系ネットワークであることまではいいとして,そこから,後段のシステムの理解につながるだろうか。アベノミクスやヘリコプターマネーというマクロの経済政策が導き出せるだろうか。たぶんできないだろう。

ではどう考えたらいいのか。

ダンカン・ワッツの「偶然の科学」における指摘

スモールワールド理論の端緒を開いたダンカン・ワッツは,人間のありようがスモールワールドの複雑系ネットワークであることに関して「偶然の科学」で次のように指摘している。

「思慮深い人物なら、われわれがみな家族や友人の意見から影響を受けていることや、状況が重要であることや、万事が関係していることは内省するだけで理解できる。そういう人物なら、社会科学の助けを借りずとも、認識が重要であることや、人々が金ばかりを気にかけるのではないことも知っている。同じように、少し内省すれば、成功が少なくとも部分的には運の産物であることや、予言が自己成就予言になりがちなことや、よく練られた計画も意図せざる成り行きという法則に苦しめられやすいことも見当がつく。思慮深い人物なら、未来が予測不能で、過去の実績は未来の利益を保証しないことももちろん知っている。人開か偏見を持っていてときには理性を失うことや、政治システムが非効率や矛盾に満ちていることや、情報操作がときとして実態を葬ることや、単純な物語が複雑な真実を覆い隠しがちであることも知っている。すべての人開かほかの人間とわずか「六次の隔たり」でつながっていることも知っているかもしれない。少なくとも何度も聞いているうちにそう信じているかもしれない。つまり、こと人間の行動に関するかぎり、思慮深い人間にとっては自明に思えるもの以外で、社会科学煮が発見できそうなものというのは、たとえそれが見つけがたいものであっても、現実には想像しにくい。しかしながら、自明でないのは、こうした「自明の」事柄がどう組み合わさっているかである。」

私は,できるだけ「思慮深い人物」として,ここに掲げられていることが自明に思える地点に立ちたい。そして,それらがどう組み合わさって社会のメカニズムにつながっているかは,結局,わからないというのが正しく,そういう場面(要するにマクロの政治,経済政策だ。)に口角泡を飛ばす暇があれば,少しでも現場で「組み合わせ」の実践を重ね,中距離での,問題解決や,価値創造につなげたい(ワッツが同書で力説しているのも「多分」そういうことだろう。)。そういう場面では,ゲーム理論,ミクロ経済学,行動経済学,行動ゲーム理論がとても役に立つだろう。そしてそれを支えるのは,コンピューターサイエンス,AI,データ処理(因果推論)であろう。大分頭がすっきりした。

ところで,私はある日Kindleで,「現実に役立つかどうかは、経済学を評価する重要な基準ではない。超一流のゲーム理論が教える、ほんものの洞察力。優れたモデルは、感性を豊かにする。社会を見る眼を深く鍛える本。著者の人生にひきつけながら、ゲーム理論、交渉、合理性、ナッシュ均衡、解概念、経済実験、学際研究、経済政策、富、協調の原理などの基礎概念が語られる」という触れ込みの,「ルービンシュタイン ゲーム理論の力」を,うっかりクリクしてしまった。内容が触れ込みにふさわしいかどうかはわからないが,今思えば,大事な観点のような気がする。

私が年末,年始に集めた本をまとめておこう。このぐらいあると,本当に読みでがあるし,使いでがある,というより,一巡するだけで大変だ。

社会を理解する方法・ツールとなると思う本

進化・遺伝

ゲノムが語る人類全史 アダム・ラザフォード

進化は万能である マッド・リドレー

ファスト&スロー ダニエル・カーネマン

複雑系科学総論

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学  マーク・ブキャナン

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動 マーク・ブキャナン

市場は物理法則で動く―経済学は物理学によってどう生まれ変わるのか? マーク・ブキャナン

偶然の科学 ダンカン・ワッツ

COMPLEXITY: A Guided Tour  Melanie Mitchell

スモールワールド・ネットワーク

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 マーク・ブキャナン

スモールワールド・ネットワーク ダンカン・ワッツ

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力 ニコラス・A・クリスタキス

経済は「予想外のつながり」で動く ポール・オームロッド

マンガでわかる複雑ネットワーク 今野紀雄

ゲームの理論

ゲーム理論の思考法 川西 諭

戦略的思考とは何か  エール大学式「ゲーム理論」の発想法 アビナッシュ・ディキシット

戦略的思考をどう実践するか エール大学式「ゲーム理論」の活用法 アビナッシュ・ディキシット

はじめてのゲーム理論 川越 敏司

行動ゲーム理論入門 川越 敏司

ゲーム理論による社会科学の統合 ハーバート・ギンタス

ミクロ経済学

ミクロ経済学入門の入門 坂井 豊貴

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志

ミクロ経済学の力 神取 道宏

実験ミクロ経済学 川越 敏司

マクロ経済学

マクロ経済学の核心 飯田 泰之

ヘリコプターマネー 井上智洋

MONEY チャールズ・ウィーラン

ゼロから学ぶ経済政策 日本を幸福にする経済政策のつくり方 飯田 泰之

実験マクロ経済学 川越 敏司

行動経済学

実践 行動経済学 リチャード・セイラー

愛と怒りの行動経済学 エヤル・ヴィンター

ずる 嘘とごまかしの行動経済学 ダン・アエリー

社会・政治・法

モラルの起源―実験社会科学からの問い 亀田 達也

大人のための社会科–未来を語るために 井手 英策

21世紀の貨幣論 フェリックス・マーティン

経済史から考える 発展と停滞の論理 岡崎 哲二

負債論 デヴィッド・グレーバー

ソーシャル物理学 アレックス・ペントランド

スティグリッツのラーニング・ソサイエティ スティグリッツ

政治学の第一歩 砂原庸介

シンプルな政府:“規制”をいかにデザインするか キャス・サンスティーン

避けられたかもしれない戦争―21世紀の紛争と平和 ジャン=マリー・ゲーノ

ビジネスパーソンのための法律を変える教科書 別所直哉

法と経済学 スティーブン・シャベル

方法論

創造の方法学 高根 正昭

「原因と結果」の経済学―データから真実を見抜く思考法 中室 牧子

原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ 久米郁男

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 伊藤 公一朗

計量経済学の第一歩 実証分析のススメ 田中隆一

法と社会科学をつなぐ 飯田 高

社会科学の考え方―認識論、リサーチ・デザイン、手法―野村康

 

「政府の政策」を読み,活用する

 アイデアをカタチにする

「政府の政策」を読み,活用するという「アイデアをカタチに」しようと思っています。これは今後,固定ページで展開していきますが,その最初の投稿です。最新の内容は,固定ページで確認してください。

「政府の政策」を読み,活用する

政府は,必要と判断する多くの「政策」を実行するために,国民・企業から資金(税金)を吸い上げ,罰則を伴う「ルール」を設定して,モノ,カネ,ヒトを投入する行政活動を行っている。国民・企業は,生活・存続のための財の取得活動にその労力の大半を費やすが,政府は国民・企業の資金で政策実行のために自由な活動を行い,国民・企業への規制,影響はますます強まっているから,立法府,裁判所はその活動を合理的なものに事前・事後に規制し,国民・企業はその活動を把握,監視してこれをコントロールすると共に,自分たちのための政策だからこれを有効に活用すべきだろう。

ところで現在の政府の政策・活動は,社会の多様化,グローバル化,科学技術の進展,コンピュータやインターネットの常態化等によってきわめて複雑化・多様化しているが,政府はその政策・活動の多くをインターネットで公開するという方針が推進されているし,その内容も,各省庁ともWebサイトの作成に多くのカネ,ヒトを投入し,競って網羅化,精緻化し,かつ各省庁で横断化されている(これらによってますます細かい政策が生み出される)ように見受けられ,一昔前のお粗末なWebサイトとは全く異なっている。ただ国民・企業は,まだその利用に十分習熟しておらず,ウオッチし続ける活動にも慣れていない。特に通常,インターネットでの情報収集は,検索して必要な情報を得て終わりということが大部分だから,膨大な政府の政策情報の全体像を把握し,これを整理し,必要な情報を抜き出して自分に役立つように有効活用することは,直ちにできるわけではないだろう。特に政府の政策は「ルール」(法律,規則等の法令)に基づいて実施されているから,その解読も必要だ。

そこで「法令」を扱うことを業としIT・AIが大好きな弁護士である私として,「政府の政策を読み,活用する」という「アイデアをカタチにする」ために何ができるか,少し考えてみたい。まず,政府のWebサイトの全体像を把握してみよう。

そのうえで,今後,これから必要な情報を整理して抜き出し,国民・企業が有効活用できる方法を模索してみよう。

以後は,固定ページに。

「法律問題」の掲載が増えました

分野別法律問題の手引

「弁護士業務案内」の中に,皆さん,そして私自身のために,「分野別法律問題の手引」という項目を設けている。名前はいろいろと変えているのだが,なかなかぴったりしたものがない。

内容は単純で,その分野で参考になると思う,実務書,体系書を何点か選んで,その詳細目次を掲載したものである。その分野に関して解決したい法律問題がある場合に,これを見るなり,このサイトで検索するなりして,問題の所在を把握し,それから調査の範囲を拡大して法律問題解決への「手引」になればと思い,とりあえず作成したものである。全体を整理し,一覧して眺めるということは,それだけで意味があることだ。

一応掲載できた分野は,「IT・AI法務」,「企業法務」,「中小企業法務」,「会社法務・金融法務」,「医療機関の法務」,「行政法務」,「租税法務」,「著作権法務」,「航空法務」,「立法と法解釈を考える」,「法律判例の調査」(ただしこれは一部未修正)で,作成中は,「労働法務」,「国際法務」,「知財法務」である。

活用法をみつけたい

ただこれだけでは,あまりにも漠然として活用がむつかしいと思うので,今後,その分野のポイントとなるようなTipsを補っていきたいと思っている。それだけではいまいちだが,何かに取り組むと,いろいろなアイデアが浮かんでくるのは,間違いない。ITを活かす方法はないかなあ。

「シンポジウム 人工知能が法務を変える?」を聞く

人工知能が法務を変える?

2017年11月29日(水),日弁連法務研究財団と,第一東京弁護士会総合法律研究所IT法研究部会共催の,標記のシンポジウムを聞いた。

登壇して話をしたのは,マイクロソフトのエンジニア,日本カタリスト及びレクシスネクシス・ジャパンのそれぞれ外国人弁護士,日本人弁護士2名の,計5名である。

「AIと法」に関わる新しい話が聞けてそれなりに面白かったが,登壇者の誰も「人工知能が法務を変える?」ということをまともに考えている訳ではなく,ふらふらと「題名」につられて顔を出した人には拍子抜けだったかもしれない。ざっと内容を概観する。なお当日用いられた資料が法務研究財団のWebにアップされている。

マイクロソフトのエンジニアの人

現時点でのAiとは何かということを,地に足のついた議論として紹介してくれた。現にAIビジネスを魚化している人の話は,信頼できる。

ビジネス分野でAIが理解できている人は10人に1人だ。

画像や音声の分野はどんどん進むが,自然言語の意味の処理はむつかしい。ただし検索ということでいえば,先日公開されたアメリカのJFKの資料をデジタル化し,あっという間に処理,分析した。「犯人」とFBIのある人物との「関係」が浮かびあがった。人が見ていくと何年かかっても処理できない膨大な量だ。

AIというより機械学習という捉え方の方がわかりやすい。

日本カタリストの人

AIを利用したドキュメントレビューの紹介である。

アメリカの電子情報開示制度の下で,開示の対象となる電子情報(メール,チャット,LINE,FACEBOOK,電子ファイル,会計データ,Web等々)についてのドキュメントレビュー(関連あり・なし,秘匿特権あり・なし)が,AIシステムを利用して行われている。これによって大幅な弁護士費用の削減が可能だ。

まず,関連性あり・なしのレビューをする。AIシステムが,文書全体を関連する文書にグループ化し,そのサンプルを取り出し,レビューワーが,レビューすることで,グループ文書の関連性あり・なしのランク付けができる。

また関連性がある文書について,秘匿特権のレビューをし,提出する,しないを決定する。

これはアメリカでは現に利用されており,法廷におけるTAR(technology assisted review)の利用として連邦民事規則にも取り入れられている(のだと思う)。

日本の法廷でこういう形の立証が取り入れられるかどうかは疑問だが,例えば,今,証拠にするため電子メールを検討すると,返信が様々な送信メールになされているので送受信の全体の流れを把握するのがとても大変だ。それだけでも,工夫が欲しいところだ。でもそれはAIか?

レクシスネクシス・ジャパンの人

レクシスネクシス・ジャパンのトルコ人弁護士は,リーガルテックという観点から弁護士業について検討したる。その内容は,以下のとおりだが,きわめて刺激敵だ。

AI/Legal Techの現在の環境

リーガルリサーチ&情報収集

法改正及びインパクトへ対応

コンプライアンスリスク監視

 e Discovery

顧客ニーズ分析を含む業務支援

自動紛争解決(ODR)

資料/契約文書のレビュー

3分間でドラフティング

リーガルテックの成長

2012年リーガルテックに関する特許出題数:2012年99件から2016年579件に大幅増加 38% アメリカ 34% 中国 15% 韓国

法律家への影響

顧客開拓

ニッチ・専門分野へのニーズに対応

Data driven lawyerになり,best lawyerとなる

ネイティブ弁護士と競争

ビジョンを持つ信頼できるアドバイザーになる

真の付加価値を提供する

値段競争に陥らないサービス差別化

ワークライフバランス

レクシスネクシスの取り組み

検索,分析,可視化

その後,レクシスネクシスの「判例検索に加え、法令や立法、行政情報といった、リーガル情報を一元的に収録」したデータベース「Lexis Advance」のデモがあった。アメリカは,州ごとに法が違うこと,陪審があること等から,リーガルリサーチ&情報収集は徹底する必要があるから,これは有益だろう。日本ではまず情報がでてこないし,そもそもこのようなシステムを構築・提供するような市場もないというのが現実だろう。

我々は,当面。各種の判例検索,その他のデータベースを有効活用するしかない。

日本の弁護士ふたり

日本の弁護士ふたりは,これから「AIと法」に取り組みたいというところだろうか。

高橋弁護士は,「チャットボット」を作ってみたことの紹介である。すぐに「ボットの理解を超える」,人間は5回の入力で飽きることの報告は貴重だ。オタクレベルだが,AIを切り開くのはオタクである。

齋藤弁護士は,まだ見ぬAI法務の紹介である。講演に備えて十分な準備をされたのだろうが,その問題はどこにあるのと思ってしまう。この種の議論をする弁護士は多いが,私は他にすることがあるのではと思う。ただアメリカでの利用の報告は貴重である。

今後

いずれにせよこの時点で,このシンポジウムを試みたことは,高く評価されるべきだ。今後とも,このような企画があれば参加しよう。