コーポレートガバナンスの基礎2…「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」を読む

著者:松田千惠子

はじめに

問題の所在

「コーポレートガバナンスの基礎1」で,コーポレートガバナンスの問題は,経営者,使用人の業務執行について,取締役会の監督,監査役の監査が実効的な機能を果たしているのかということであることに行き着いた。会社法では,この問題に対応する特別の仕組みとして,(指名)委員会等設置会社,遅れて監査等委員会設置会社が設けられているが,それでうまくいくのだろうか(それにしても,なんと覚えにくく,言いにくい,独りよがりの命名だろう。)。

そこで,コーポレートガバナンス全般について論じている「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」(以下「本書」)に目を通してみた。

本書でも紹介されているように,現時点でのコーポレートガバナンスをめぐる議論は,平成26年8月の伊藤レポート「「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書」,平成26年9月(平成29年5月改定)の「スチュワードシップ・コード」,平成27年6月の「コーポレートガバナンス・コード」を踏まえたものとなっている。

もっとも関係が深く重視されているのは「コーポレートガバナンス・コード」であり,これは東京証券取引所が制定したものである。これならば,上場企業の規律の問題であることがはっきりする。

大きなお世話

コーポレートガバナンスをめぐる議論を聞いていると,「大きなお世話」ではないかと思う議論が頻出する(因みに本書では「大きな世話」とするところが2か所登場する。)。会社制度は,委託者,受託者の私的な関係なのに,どうして国や有識者が出てきて,もっともらしいお説教をするのか。あなたの所属する組織のガバナンスはどうなのと,突っ込みの一つも入れたくなる。

この点,東京証券取引所であれば,自分が取り扱う商品(株式)の品質,価格を向上させたいので,上場してお金を集めたい会社は「コーポレートガバナンス・コード」に従ってねということで,とても分かりやすい。ただ東京証券取引所は,他にあおられて歩調を合わせてしまい,美辞麗句を並べたててルールを複雑化させ,企業に無意味な負担をさせない英知が必要である。本当に実効性のある核心を突く仕組みを確立し,運用しなければ,「コード」の中にコーポレートガバナンスは埋もれてしまうだろう。

私にとって不可解なのが,機関投資家に対する「スチュワードシップ・コード」である。金融庁のWebで「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストの公表」もされているが「踏み絵」?(今は「絵踏み」が普通らしい。)。この問題の「公共政策」としての検討は後日を期そう。

また本書によれば,伊藤レポートは,ROE(株主資本利益率)について8%を上回ることを最低ラインとし,より高くを目指すとしたことが,衝撃を与えたそうである。しかし,これは,誰が誰に対して,どのような資格に基づいて,どのようなツールが使用できるので,ここに書かれたことが実行できると「提言・推奨」をするのか,私には分からない(なお,平成29年に伊藤レポート2.0「持続的成長 に向けた長期投資(ESG・無形資産投資) 研究会報告書」,平成30年に伊藤レポート2.0「バイオメディカル産業版」「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会報告書」というものもある。)。

本書に戻って

なるほど

本書の著者は,豊富な実務経験があるらしく,地に足に着いた議論が随所に見られる。最初にHD(持株会社)と子会社の問題は,ガバナンスの問題であるという,「コロンブスの卵」を紹介しよう。

要は,あなたの会社は,株主をどう見ていますか(うるさい?て適当にあしらえ?口を出すな?),(買収した)子会社も,あなたの会社を,同じような株主として見ています。これを頭にたたき込まないと「グループ会社の経営」はできません。なるほど。

本書の構成

本書の構成は,次のように後記の「コーポレートガバナンスコードの基本原則」に対応した内容になっているとされる。

「第1章 企業をめぐる環境変化とコーポレートガバナンス」は,一般的な,「基本・概要」である。

「第2章 身も蓋もないガバナンスの話」(株主に関する論点…基本原則1【株主の権利・平等性の確保】,2【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】),「第3章 「マネジメントへの規律づけ」は機能するのか」(経営者と取締役会に関する論点…基本原則4【取締役会等の責務】),「第4章 「カイシャとあなた」は何をしなければならないか」(情報開示に関する論点…基本原則3【適切な情報開示と透明性の確保】,5【株主との対話】)が,コードに対応している。

最後の「第5章 「ガバナンスの担い手」になったらどうするか グループ経営とガバナンス」は「応用・グループ経営と子会社ガバナンス」である。

しかし本書のような内容の本の「章名」を「身も蓋もないガバナンスの話」などとすると,かえって何が書かれているのかわからなくなるし,また記述内容にもねじれや飛躍もあり,そこで何の議論をしているのかわかりにくいところもある。

本書の,実務経験に基づく具体的な記述は高く評価するが,全体の体系や構成,章名,見出しの命名は,工夫の余地がある。

ここは頭に入れたい

本書から,特に頭に入れたいところを,何点か取り上げて考えてみよう。

取締役と監査役の関係再考

もともとわが国の株式会社制度は,取締役は,取締役会(ボード)のメンバーとして,業務執行の監督をする,重要な業務執行の決定をする,業務執行は代表取締役と業務執行取締役がするという制度であった。そして監査役は,取締役の業務執行を監査するとされていた。この仕組みは,上場企業から中小会社まで同じで,それなりに定着していただろう。

ただ海外の投資家は,監査役に取締役会での議決権がないので,監査の実効性がないとみていることが指摘されていた。しかし,監査役が重要な業務執行の決定に参加した場合,それについて監査できるのだろうか。本当は,こういうことを言う海外の投資家は,業務執行をする取締役という概念を受け入れがたかったのだろう。

これに対応するために(指名)委員会等設置会社ができたわけだ。これなら海外の投資家も理解できるが,あまり使われていない。

しかも同時に会社法の立案者たちは「取締役は,定款に別段の定めがある場合を除き,株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する」としてしまい,我々の頭には,取締役=業務執行というスキームまでインプットされてしまった。これではいくら制度をいじっても彼我の認識の距離が縮まるはずがない。

業務執行取締役を含む取締役会の監督と監査役(会)の監査という制度の中で,どのようにコーポレートガバナンスの実効性を確保するかを考える方がはるかに大事だろう。しかもこれは上場企業に限られない問題だ。本書も,考え方の道筋はともかく,同意見だろう。

取締役会の監督と監査役(会)の監査の関係,上場企業における社外取締役と社外監査役は何をすべきなのか,これは別の稿で改めて考えよう。

マネジメントの監視(監督・監査)

会社のマネジメント(経営)は,大きく,経営戦略・マーケッティング,人事・組織,会計・財務に分けることができる。監査役というと会計・財務に目が行くが,それでは,マネジメント(経営)の重要な部分が欠落してしまう。

取締役と監査役は,取締役会に上程されるこれらに関する議事について,その問題の所在を理解して問題点を把握し,いろいろな言い方があり得るが,例えば企業価値向上につながるかという観点から,あるいは合理性・適性性の観点から,意見を言い,議決権を行使し,あるいは他に経営上の問題があれば,取締役会の外でも監視する義務がある。要は,株主に代わって監視するのだ。

一方,マネジメントとオペレーションは違うという観点も重要だろう。本書に,「オペレーションは優秀だがマネジメントのない日本企業」という記述がある。そこを引用してみよう。「日本の企業の多くは,「課長」級という意味でのマネジャーを生み出すことには大変長けていますが,「経営者」という真の意味でのマネジャーを生み出す仕組みを持っていません。」。「内部昇格の人々は,いったいいつ「経営者」になるのでしょうか。いつマネジメントとしてのスキルや資質を身につけるのでしょうか。平社員から課長になった時? 部長になった時? 確かに,部下が付いたことによって学ぶことは多いでしょう。チームを率いていかなければならず,リーダーシップも養われるかもしれません。業務知識も身につくし,管理のノウハウもだんだんわかってくるでしょう。しかし,それだけで経営者になれるでしょうか。残念ながらなれません。課長であっても部長であっても,しょせんは決められた業務の範囲内で,与えられた資源配分の範疇で,既存の業務をより良くすることが仕事の中心です。経営者は違います。決められた業務をやっているのではなく,次の一手を新しく考えなければなりません。資源配分は自分で考えなければなりません。その際には様々な利害の衝突や相反が出てきます。あちらを立てればこちらが立たず,といった場面も多いでしょう。ここで投資をすれば儲かりそうだが,おカネはないし,やる人もいない,などといった状況も考えられます。それらのバランスを取るためには,財務や人事などの知識も身につけておかなければなりません(これは,細かい業務知識ではありません。全体的なおカネの動きや人の心のマネジメントの話です。)。もちろん,業務知識があれば役に立つこともありますが,細かい知識よりも必要なのは戦略的な思考や大局を見る力です。そして何と言ってもリスクを取る意思決定をしなければなりません。そもそもリスクが何であるかを理解し,それを引き受けることを決定し,その責任を持たなければなりません。また,外部に対する発信力も必要です。」。そして「マネジメントが不在ならばガバナンスも不要です。」。

取締役と監査役は,当該企業にとって大切なことを見抜き,それについて的確に意見を言うことが肝要である。マネジメントには積極的に口を出すべきだが,オペレーションをあれこれ言うべきではない。ポジション取りはなかなかむつかしい。本書に,「暴走老人」と「逃走老人」を止めろとある。もちろんこれは経営者のことであるが,自分が「暴走老人」と「逃走老人」になってしまわないことも考えよう。。

マネジメントの情報開示

取締役と監査役がなすべき監視は,株主が何を知りたいかという情報公開の観点から見るのも分かりやすい。

株主が知りたいのは,「これまではちゃんとやってきていたのか」(過去の実績)です。満足のいく企業業績を出せていたのか? 将来を占ううえでもこの情報は重要です。これが「会計情報」です。次に,「きちんとやるような仕組みを持っているのか」(企業の仕組み)です。おカネを預けたとして,それがきちんと管理され,目的の投資が行われて成果があげられるような仕組みができているのか,怪しいことをやっている会社ではないのか,といったことです。内部統制報告書,ガバナンス報告書などもこれにあたるでしょう。最後に,これが一番重要ですが,「これから何をしようとしているのか」(将来の仮説)です。投資家が投資をするのは将来についてですから,企業がどのような将来像を描き,そのためにどのようにおカネを使って実際の成果をあげようとしているのか(そして株主に還元しようとしているのか)をはっきりさせてほしいのは当然です。この点は,これまで各企業の自発的開示に任されてきましたが,コーポレートガバナンス・コードの導入により,開示に圧力がかかることになりました。」。

本書のさわり

本書のさわりは「第5章 「ガバナンスの担い手」になったらどうするか グループ経営とガバナンス」である。

もっとも典型的なのは海外子会社のガバナンスである(経営ではない。経営するのは,現地にいる業務執行者である。)。この問題は,ガバナンスから理解し,実行すべきことである。

なおこの問題は同著者の「グループ経営入門」で,より整理された形で展開されているので「「グループ経営入門」を読む・持株会社と子会社 …コーポレートガバナンスの実践2」で紹介したい。

以上,雑駁な紹介になってしまったが,本丸はまだ先なので,本書の紹介は,一応これで終わりとする。気が付いたことがあれば,加除,訂正していく。

詳細目次とコーポレートガバナンスコードの基本原則

 

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海外との仕事をする準備(備忘)

依頼者が海外との仕事をする際,その仕事に弁護士として参加,支援するために必要となる準備事項・前提事項をまとめておく。なおこの項目については,日弁連が実務研修をしている事項が多いので,適宜それを引用する(日弁連「…」とする。)。内容について疑問があれば問い合わせていただきたい。

国際法と異文化理解

海外との仕事をするということは,日本国に属する私たちと,X国に属するY企業が向き合う関係だから,国と国との慣習,マナーである最低限の国際法を踏まえる必要がある。そうでないと思わぬ対立を招く。手頃な入門書として「国際法第3版」を紹介しておく。

また,人間対人間だからわかるだろうという前に,「異文化を理解する」姿勢を持つことが重要だ。これについては,まず「異文化理解 相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養」という本を読んでみることだ。個別事案への対応はそれからだろう

国際貿易

日本企業が輸出入に関与することはそれこそ日常茶飯時だから,弁護士がその実務に関与することは少ないが,対象商品に問題が生じた場合に,その対応を依頼されることが多い。多いのは輸入商品であるが,交渉レベルで解決すればともかく,裁判,執行の問題になることも多いが,海外で回収できる場合は少ない。日弁連「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第1回 海外取引に関する法的留意点」及び「貿易実務~中小企業の海外展開を支援するために必要な知識を中心に~」が参考になる。

国際私法と国際裁判管轄,及び国際租税

国際私法と国際裁判管轄は,海外との取引に紛争が生じた場合に,どこの裁判所に管轄があり,どこの法律が適用になるかという問題である。法律学の一分野であり,論理適用の問題であるが,その実効性が問題である。日弁連「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第2回 海外進出に関する法的留意点」及び「国際取引分野における国際私法の基本体系と動向」が参考になる。

海外との取引に関する税務問題も重要である。日弁連「税務面を考慮した中小企業海外取引の法的構造」は得難い情報である。

国際契約

海外との仕事の出発点は契約だ。さすがにすべて口頭でというケースはないが,重要なことの検討が不十分な契約書が多い。国際契約については,英文契約書がモデルになるメースが圧倒的に多い。日本での契約書にもその影響がある。

英文契約書を学ぶには,まず「はじめての英文契約書の読み方」(著者:寺村淳)をじっくり読みこむのがいい。そのうえで,「米国人弁護士が教える英文契約書作成の作法」(著者:チャールズ・M・フォックス(原書:Working with Contracts: What Law School Doesn’t Teach You by Charles M. Fox)がよさそうだ。

日弁連の研修には,「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題 第3回 英文契約の基礎知識(総論)及び国際取引契約の基礎(各論)」,及び「英文契約書作成の実務」の「第1回 英文ライセンス契約書作成の留意点」「第2回 英文製造委託契約書作成の留意点」「第3回 国際販売店契約の基礎」がある。復習用にいい。

海外進出実務

アメリカ,EU,中国,韓国についてはすでに十分な蓄積があるし,割と身近に実例も多くて,見当もつけやすいだろう(EUは,分かりにくいところもあるが,まずJETROで情報収集すべきであろう。)。アジアについては,「海外進出支援実務必携」に網羅的な情報が記載されている。

ここではASEANを考える。

ASEANに企業進出する際の基本的な問題点は,日弁連「海外子会社管理の実務~ケーススタディに基づくポイント整理~」,及び「中小企業の海外展開サポートにおける法律実務~失敗事例から学ぶ成功ノウハウ~」に貴重な情報がある。

そのうえで各国別の情報を丹念に検討すればいい。日弁連の研修には,「中小企業の海外展開業務に関わる実務上の諸問題」「第4回 現地法の基礎知識-中国法・ベトナム法」「第5回 現地法の基礎知識-発展途上国との取引の注意点」,「現地法の基礎知識-タイ法」,「現地法の基礎知識-インドネシア法」がある。

注意すべき点

金銭移動が伴う海外案件で注意すべき点だが,昔は外為法がとても大きな意味を持ったが今は基本的には事務的なことと理解していいだろう(日銀Web)。それに変わって今大きな意味を持つのが,マネーロンダリングである。これについて実務家は,今,細心の注意を払う必要がある(外務省Web)。そうではあるが,マネーロンダリングは,①犯罪収益,②テロ資金,③脱税資金の監視ということであり,①はさほど大きな拡がりを持つものではないし,②はかなり限定された時期,地域の「政治的な問題」である。③は国によって考え方が違う。また仮装通貨が多用されるとこれはどうなるのかという疑問もある。

 

 

IT活用を妨げるもの-生産性上昇の方法

IT活用を妨げるもの

ビジネスあるいは生活の場で,ITはどのように受け止められているのだろうか。パソコンがセットされて「情報」「プログラミング」の授業を受けた世代はともかく,それより上の世代にとっては,「何かすごい能力を持っている」が,自分には「近寄りがたく面倒なもの」ということだろうか。

実際,我が国におけるITの活用は,企業も市民も決して十分ではない。二つの側面からみてみよう。

まず,ビジネス現場での「およそ7割が失敗するというシステム開発プロジェクト。その最悪の結末である「IT訴訟」」(「なぜ,システム開発は必ずモメるのか」(著者:細川義洋)の帯)というのは,決してオーバーな表現ではない。「システムの問題地図~で,どこから変える?使えないITに振り回される悲しき景色」(著者:沢渡 あまね)には,ビジネス現場の現状が分かりやすく説明されている。弁護士にとっては飯の種だが,我が国の経済にとっては,盲腸のようなものだ。この2冊は追って紹介しよう。

もう一つの側面は「サイバー攻撃」である。ネットの利用は,面白いが,深入りすると怖いことになるというのは,市民,企業の共通の「思い」だろう。

うまく使えないわ,怖いことが起こりそうだわでは,使えないのは当然だ。しかし,前者は,発注者とベンダーの開発,契約のやり方を変えていくことで徐々に克服できそうだし,「サイバー攻撃」も,敵を知り己を知ることに手間暇を惜しまなけば,克服できるだろう。「サイバー攻撃」(著者::中島明日香)も追って紹介したい。

ITと生産性の上昇

日本経済の問題は生産性が低いことらしい」で,我が国の生産性が,1990年頃から他国に比して低く,その原因はITの可能性があることを指摘したが,「経済史から考える~発展と停滞の論理」(著者:岡崎哲二)にも,そのことが指摘されていたので引用しておく(同書107ページ以下)。

「1990年代以降の(注:日本の経済成長と比し)米国の経済成長について、その原動力を情報技術(IT)の普及によるTFP(注:全要素生産性)上昇に求める見方が有力である。2007年版の「米大統領経済諮問委員会年次報告」は、特に90年代後半以降の米国の成長について、IT資本への投資が流通や金融などの幅広い産業で活発に行われ、それら産業でTFPが大幅に上昇したことを強調している。

他方、日本については、2000年代に入ってもIT資本の投資が米国より小さいこと、またIT投資がTFPを押し上げる効果も小さかったことが、複数の研究で示されている。ITは多くの産業部門における生産プロセスや技術革新(イノベーション)に影響を与える点で、歴史上の蒸気機関や電力と同様に典型的な汎用技術(GPT)である。1990年代以降の日本経済の相対的低成長の有力な原因の一つは、ITという新しい汎用技術の導入と普及の遅れにあると見ることができる。

一般に、汎用技術については、それが発明されてから、広く経済に普及し、実際に生産性上昇に結びつくまでに長い時間差がある。新しい汎用技術が経済・産業の幅広い側面と関連しており、それだけに、いったん導入・普及に成功すれば大きな効果が生じる反面、そこに到達するまでに多くの課題を解決しなければならないのである。」。

筆者は明治以降の発展を支えたイノベーションとして,製糸業の近代的工場組織を,自動車工業のフォード・システム(移動式組み立てラインによる大量生産)を挙げ,これらが定着した「経験は、新しい汎用技術を移植し、それを生産性上昇に結びつけるために、組織を含めて関連するさまざまな分野のイノベーションが必要であることを示している。そしてまた、これらイノベーションの結果、技術が原型とは異なるかたちで定着し、それが日本の産業の国際競争力の源泉となった。

ITは、近代的工場組織、大量生産技術に匹敵するスケールの汎用技術であり、その一層の利用が今後の日本経済の持続的成長のために必須なことは論をまたない。一方で、過去の経験に照らせば、これまでその普及と生産性向上効果が十分に進んでいないことは、決して異常でも悲観すべきことでもない。それは、関連分野のイノベーションを伴いながら、日本に固有なかたちでのITの普及・利用の条件が形成される過程と見ることができる。

現在、政策的に必要なことは、この過程を促進し、少なくとも阻害しないことである。例えば介護・医療は、急速な高齢化の下で、今後需要が拡大する分野であるとともに、ITによる生産性向上の潜在的可能性が大きい分野でもある。しかし、現行の制度の下では、介護・医療施設経営者にとって、新しい技術を導入して生産性を向上させても、それが利益の増加に結びつかないため、新技術導入へのインセンティブが弱い。「成長戦略」を議論する際に真剣に考慮すべき論点である。」。

同書によれば,例示した二つのイノベーションの定着として30年という数字をあげているので,ITも30年という含み(あと10年ある。)なのだろうか。

でも本当にあと10年でIT活用が定着するのか

私はIT活用を妨げるものは克服できると上述したし,岡崎氏も今は「関連分野のイノベーションを伴いながら、日本に固有なかたちでのITの普及・利用の条件が形成される過程」としているが,ITが普及・利用されるためには何をしたらいいのか。放っておいても定着するという問題ではない。

IT技術を支える基本を考えてみると,その中心は,<英語の略字イメージに基づく記号>の<論理的操作(数学)>である。要するに英語と数学の簡易バージョンだ。英語と数学を日常的に普通に使いこなせる能力を備えて,はじめてITの活用ができるといえよう。ITをブラックボックスにしないためには,ベンダーはもとよりユーザーも,ITを支える英語,数学の使いこなしが必須だ。そのレベルは高くはないだろうが,通常人が使用する情緒的な自然言語の世界から,頭を切り替えるのには,苦痛が伴う。それを乗り越えられるかどうかが,本当にあと10年でIT活用が定着するかどうかのポイントだろう。

さてそうなると,問題はさほど簡単ではない。10年のうちに誰が何をしたらいいんだろう。私にもできることがありそうだ。少し考えてみよう。

経済指標からマクロ経済学の入口にたどり着く

もう少し整理しよう

経済指標について,先行する記事として「「経済」は分からないー経済指標にアクセスするー」,「経済指標を理解する」を掲載したが,これらはいわば食材の野菜を買ってきて並べたただけで,まだ調理する段階には至っていない(ましてや食事する段階にが遠い。)。もう少し整理してみよう。

問題は,国民経済計算(SNA)及びこれに係わる経済指標の基礎・概要を理解すること,及びこれを一応の前提にして展開されるマクロ経済学の入口に立つことである。

国民経済計算(SNA)の基礎・概要

「国民経済計算は「四半期別GDP速報」(QE)と「国民経済計算年次推計」の2つからなっている。「四半期別GDP速報」は速報性を重視し,GDPをはじめとする支出側系列等が,年に8回四半期別に作成・公表されている。「国民経済計算年次推計」は,生産・分配・支出・資本蓄積といったフロー面や,資産・負債といったストック面も含めて,年に1回作成・公表されている」というのが,大まかな国の説明だ。

これについては,各省庁のWebサイトを追う前に,SNAを説明した概説書に目を通した方がよい。

「新版NLASマクロ経済学」(著者:斎藤誠他)の「第Ⅰ部 マクロ経済の計測」の「第2章 国民経済計算の考え方・使い方」,「第3章 資金循環表と国際収支統計の作り方・見方」は,基本的なことから書かれていて参考になる。産業連関表,国際収支統計,資金循環統計を含めてGDP統計を位置づけており,これだけでもマクロ経済学の教科書の記載の曖昧さ,不愉快さが半減する。

また「経済指標を理解する」で,紹介した「経済指標を見るための基礎知識」(以下「基礎知識」という。これは,「08SNA」が日本の国民経済計算(JSNA)に盛り込まれる以前の時点で書かれたものではあるが,「08SNA」にも触れられているので,さほど問題はないと思う。)は,細かいところまで書かれていて,とても参考になる。特にQE(四半期別GDP速報)と確報(年次推計)の実務的な関係がよく理解できる(なお従来,確報,確々報と呼んでいたものを,それぞれ第一次年次推計,第二次年次推計とし,新たに第三次年次推計を加えたとのことである(「国民経済計算(GDP統計)に関するQ&A」14頁))。)

「新版NLASマクロ経済学」からピックアップ

「マクロ経済の物の循環に関する基本的な情報となる産業連関表(国民経済計算の作成は,産業連関表と呼ばれる一国経済の1年間の生産構造に関する情報をまとめた表が出発点となる。)は,総務省統計局を中心として,11府省庁か作成に関わっている。国内の資金循環については,日本銀行か作成している資金循環表が基本的な情報となる。また,日本と諸外国との間における「物と資金の循環」については,財務省と日本銀行が共同して作成している「国際収支統計」によって把握することができる。」。

産業連関表

これらの統計の関係について,総務省の産業連関表の頁にある「2 国民経済計算体系における産業連関表」には,「国民経済計算体系(SNA)とは,一国の経済の生産,消費,投資というフロー面の実態や,資産,負債というストックの実態を,実物面及び金融面から体系的,統一的に記録するための包括的かつ詳細な仕組みを提示したものである。すなわち,経済活動を「取引」,取引への参加者を「取引主体」と規定し,それぞれ商品別,目的別又は経済活動別,制度部門別等の観点から分類し,その概念を統一することにより,それまで独立的に作成されていた①産業連関表,②国民所得統計,③資金循環表,④国際収支表,⑤国民貸借対照表の五つの勘定表を相互に関連付け,その体系化を図ろうとしたものである。行列の形を用いて第4表のように表されている。」とある。

また「産業連関表の構造と見方」の第2図,第5図で,「粗付加価値合計=最終需要額合計-輸入額合計」という,二面等価の関係がわかる。これは,国民経済計算の国内総生産(GDP)(生産側)と,国内総生産(支出側)に「ほぼ」対応するとされる。「ほぼ」の理由は,上記に書かれている。

資金循環統計

資金循環統計について,日銀のWebサイトのQ&Aで,「資金循環統計と国民経済計算,あるいは国際収支統計との関係を教えてください」という問いに対し,(少し引用が長くなるが)「国民経済計算と資金循環統計…国民経済計算は,一国の経済活動を,(1)付加価値が生産される過程,(2)これが経済主体に分配・消費される過程,(3)消費されなかった部分が貯蓄として資本蓄積に回される過程に分解し,それぞれのフローの動きを,生産勘定,所得支出勘定,資本調達勘定という形で記録します。また,(4)期末時点の実物資産と金融資産のストックを期末貸借対照表として計上するとともに,(5)時価変動などによるストックの再評価や,その他の資産量変動を記録する調整勘定も設けています。資金循環統計の金融取引表,金融資産・負債残高表,調整表は,それぞれ国民経済計算における資本調達勘定のうちの金融勘定,期末貸借対照表,調整勘定にほぼ対応します。また,両統計の指標のうち,国民経済計算の資本調達勘定における「純貸出(+)/純借入(−)」が,資金循環統計の金融取引表の「資金過不足」に概念上一致するという関係にあります。このように,資金循環統計は,概念上,一国全体の経済活動を表すマクロ統計の体系(国民経済計算体系)の一部を構成しており,また,これらの計数作成のための基礎データとしても活用されています。なお,国民経済計算と資金循環統計では,取引項目,評価方法,勘定体系について若干の相違があります。」,「国際収支統計と資金循環統計…国際収支統計は,一定期間における一国のあらゆる対外経済取引を体系的に記録した統計です。概念的には,資金循環統計と同じく,一国全体の経済活動を表すマクロ統計の体系(国民経済計算体系)の一部を構成し,国際標準(国際収支マニュアル第6版)に沿って作成されています。資金循環統計では,海外部門を「国際収支統計における非居住者」と定義しています。このため,海外部門の資金過不足を「国際収支統計」における「経常収支」と「資本移転等収支」の合計額に,また,海外部門の金融資産・負債差額を,同じく「対外資産負債残高統計」における「純資産残高」から,資金循環統計における「うち金・SDR等」中の貨幣用金などを調整した金額に,それぞれ一致させています(国際収支統計が「わが国」の対外債権債務という視点から見るのに対して,資金循環統計では,「海外部門」の対内債権債務という視点から捉えることから,いずれかの資産(負債)は他方の負債(資産)となります)。この調整のうち,「うち金・SDR等」中の貨幣用金を控除するのは,同項目が国内の中央銀行,中央政府の資産として計上される一方,対応する負債が存在しないためです。なお,国際収支統計と資金循環統計の間には,部門分類,取引項目,勘定体系に若干の相違があります。上記のほかにも,資金循環統計では,国際収支統計や対外資産負債残高統計を基礎データとして利用しています。」と説明されている。

国際収支統計

国際収支統計については,日銀の「国際収支統計(IMF国際収支マニュアル第6版ベース)」の解説」に記載されている。国際収支統計と国民経済計算の関係については,「国民経済計算推計手法解説書」の「第6章 海外勘定の推計」に記載があるが,特段の問題はないと思う。ただここは,「貿易赤字とは何か」という「古典的な問題」がからんでいるところで,みんな熱くなる。国際収支の構成は下記のとおりだが,問題はこれが会計原則に従って記載されているということだ。

経常収支

貿易サービス収支

貿易収支(財輸出-財輸入)

サービス収支

第一次所得収支

第二次所得収支(経常移転収支)

資本移転等収支

金融収支

直接投資

証券投資

金融派生商品

その他投資

外貨準備

「基礎知識」を読む

大体以上のことを頭に入れて「基礎知識」に取り組むと,ずいぶん,見通しがよくなる。四半期別GDP速報(QE)と年次推計(旧称は,確報,確々報)が読めることが目標だ。

内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」の「統計データ」に,「四半期別GDP速報」(QE)と「国民経済計算年次推計」及び「その他の統計」が掲載されている。

QE

「四半期別GDP速報」の最新年(現時点では,平成29年(2017年))をクリックし,一番上右の「統計表」をクリックすると,「四半期」や「年度・暦年」の「国内総生産(「支出側)」を把握することができる。これを見ながら「基礎知識」の第4章までは読み進めることができる。

年次推計とSNA

次は年次推計だ。

国民経済計算(SNA)は,国連等が規定する標準的な表は,一国経済全体について「生産勘定」,「所得支出勘定」,「蓄積勘定」,「貸借対照表」に分けて作成され,同じ勘定を制度部門別(非金融法人企業,金融機関,一般政府,家計,対家計民間非営利団体)にも作成する。そしてこれを一覧できる統合経済勘定表も作成される。またこれとは別に「海外勘定」も作成される。

年次推計(平成23年基準)はJSNAであり,基本的に08SNAに準拠しているが,細かい点で異なっている。気にし始めるときりがないから,とにかく「年次推計」に取り組むしかない。

上記の「統計データ」の「国民経済計算年次推計」をクリックし,現時点で最新の「平成23年基準(2008SNA)-1994年から掲載」,「2016(平成28)年度 国民経済計算年次推計(2011年基準・2008SNA)」をクリックすると,「フロー編」(Ⅰ.統合勘定,Ⅱ.制度部門別所得支出勘定,Ⅲ.制度部門別資本勘定・金融勘定,Ⅳ.主要系列表,Ⅴ.付表)及び「ストック編」(Ⅰ.統合勘定,Ⅱ.制度部門別勘定,Ⅲ.付表,Ⅳ.参考表)から構成される膨大な情報群が現れる。これが現時点で最新の「年次推計」だ。

これに従って「基本知識」を参照に読み進めていけばいいのだろうが,とりあえず何をしていいかよくわからない。そこで「国富」とされる「期末貸借対照表勘定」でも見てみようかと思い,データを抜き出してみた。平成28暦年末の正味資産は約3351兆円となっているが(国の貸借対照表),国富調査は平成45年にやっただけで,あとは推計ということのようだから,どの程度誤差があるものだか,どうだか。

こういう作業をしていくと,だんだん,SNAお宅になりそうだ。。

三面等価の原則とISバランス,政府債務残高

ここまでの知識を利用して,ISバランス,政府債務残高について調べてみよう。

三面等価の原則

まず,三面等価の原則についてまとめておこう。

三面等価とは,GDP「総生産」を,「所得(どのように使われているか)」「支出(誰によって支払われているか)」という別な面・角度から見たものといわれる。

①国内総生産(GDP)=Y産出

②国内総所得(GDI)=C消費十S貯蓄十T税

③国内総支出(GDE)=C消費+1投資+G政府支出+(EX輸出-IM輸人)

②の貯蓄とは所得から税(社会保険料 などを 含む),消費支出を差し引いた残り

とされる。

④は,総供給のY産出+IM輸人と,総需要のC消費+1投資+G政府支出+EX輸出が,均衡していると考えればわかりやすい。

一方,SNA等では,

④分配面のGDP=雇用者所得+営業余剰+固定資本減耗+間接税-補助金

⑤支出面のGDP=民間最終消費支出+政府最終消費支出+総固定資本形成(民間住宅+民間企業設備+公的固定資本形成)+在庫変動(民間+公的)+財貨・サービスの純輸出(輸出-輸入)

③と⑤の関係はわかるが,②は④というクッションを置き,所得から消費でも税でもない部分を,貯蓄としたもののようだ。定義と実態が,交錯している気がする。冷静に見極めればいいのだが,ここではこれを前提に先に進もう。

ISバランス(貯蓄・投資バランス)

三面等価の原則から,ISバランス(貯蓄・投資バランス)式が導かれる。

C+S+T=C+I+G+(EX-IM)

S=I+(G-T)+(EX-IM)となる。

この式は同時に2つのことを意味する(東学『 資料政・経2015』305頁。 ただし,「中高の教科書でわかる経済学マクロ篇」からの孫引きである。同書には,1つは,貯蓄S(カネ)が,どのように世の中に回つたか(誰が借りたか),もう一つはモノ・サービス(実物)を誰が購入したか(誰が消費したか)です。)とある。

(1)貸した総額=借りた総額

(2)総生産の残り=購入した主体

「基本知識」には,「確報(年次推計)で得られるデータを使った分析として,まず,ISバランス,資金過不足について説明します。各制度部門は,投資を行います。そのための資金となるのが貯蓄です。しかし,通常は投資と貯蓄は一致せず,資金が不足の場合は借入等を行い,資金に余裕があれば預金・貸出などを行います。この貯蓄(S: Saving)と投資(I: Investment)の差がISバランスです。各部門のISバランスの中長期的動向を見たものが長期的なISバランスです。1980年度まで遡って見るため,旧基準のデータを使用しています。高度経済成長時代は,家計は貯蓄がプラスで,(非金融法人)企業は貯蓄がマイナスでした。企業が投資を行うための資金は家計の貯蓄で賄われていました。しかし,成長の鈍化などにより,企業の投資意欲は減退し,最近は企業も貯蓄過剰となっています。家計の側は,貯蓄の過剰幅は,かつての半分程度になっています。しかし,企業と家計を合わせれば,貯蓄過剰の水準は高いです。一方,海外は,ほとんど一貫してISバランスはマイナスです(我が国は必要な投資を海外からの貯蓄で賄っているわけではないのがわかります)。ですが,過去に比べて大きくマイナス幅が拡大しているわけではありません。結局,政府が,高齢化などによる財政赤字の拡大で,企業と家計の貯蓄を吸収している形に変わっています。データは,推計のフロー編付表18「制度部門別の純貸出(+)/純借入(-)」にまとめて掲載されています。年度と暦年の両方のデータがあります。最初が,投資など実物取引からの推計,2番目が預金や貸出など金融取引からの推計です。この2つは概念的には一致するはずですが,推計上使用するデータ等が異なるため,計数としては一致しません。このため,「統計上の不突合」という項目が最初の実物取引からの推計の方に設けられています。」と説明されてあり,ISバランスの意味あいがよくわかる。

上記の付表から,2009年以降のISバランスを作成してみた。

政府債務残高

年次推計から,政府債務残高も把握できる。「基本知識」に「ストック編の「制度部門別勘定」中の一般政府の「期末貸借対照表勘定」(政府のバランスシートです)に,期末資産残高(土地や固定資産などの非金融資産を含みます),(金融)負債,この二つの差である正味資産残高が掲載されています。さらに,年次推計のストック編の付表3「一般政府の部門別資産・負債残高」には,一般政府を,中央政府,地方政府,社会保障基金に分けた数値が掲載されています。分析の目的に応じて,社会保障基金を除いたり,土地や固定資産などの非金融資産を除いたりする場合も見られますので,そのためにも内訳は重要です。一般政府の負債残高は,一般政府の負債残高の推移(名目GDP比)をグラフにしたものです。「グロス負債」と「ネット負債」があります。グロス負債は,負債額そのものです。一方,ネット負債は,グロスの負債から金融資産残高を除いたものです。いずれも,「政府の借金残高」です。近年,財政赤字の拡大により,いずれも増加しています。」とある。

経済指標のアンチョコ

このようにQEとJSNAを読み解くのが王道だが,森の中で道を失いそうだ。そこでネットで公開されている統計のアンチョコも見てみよう。

・「新版NLASマクロ経済学」に記載されているデータが更新されている。

・「富山統計ワールド」の「統計指標のかんどころ」は,わかりやすい。

統計ダッシュボード

・日経新聞経済指標ダッシュボード

・「日本経済入門」(著者:野口悠紀雄)の「経済データ 様々な経済データについてのリンク集

・(参考)政府の提供している統計の入口が「e-Stat」であり,主たる担当官庁が,「総務省統計局」である。

マクロ経済学の入口に立つ

以上のような,経済指標や統計を見慣れると,マクロ経済についても,あまり頓珍漢なことは,いわなくなるだろう。

次は,「新版NLASマクロ経済学」をフォローしていけばいいのだろうが,これはこれでいささか大部で大変そうなので,とりあえず「マクロ経済学の核心」(著者:飯田泰之)が読み切れれば良しとしよう。

それとは別に,上でも触れた書きぶりがいささか挑発的な「高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学」,「中高の教科書でわかる経済学 マクロ編」(著者:菅原晃)について,冷静に,いい過ぎのところ,根拠不足のところが読み取れればいいなあと思っている。

これについては追ってということにしよう。

次は,社会の中で「法を問題解決と創造に生かす」,「アイデアをカタチに」の領域に進もう。

最後に「基礎知識」の詳細目次を紹介しておく。

続きを読む “経済指標からマクロ経済学の入口にたどり着く”

「シンポジウム 人工知能が法務を変える?」を聞く

人工知能が法務を変える?

2017年11月29日(水),日弁連法務研究財団と,第一東京弁護士会総合法律研究所IT法研究部会共催の,標記のシンポジウムを聞いた。

登壇して話をしたのは,マイクロソフトのエンジニア,日本カタリスト及びレクシスネクシス・ジャパンのそれぞれ外国人弁護士,日本人弁護士2名の,計5名である。

「AIと法」に関わる新しい話が聞けてそれなりに面白かったが,登壇者の誰も「人工知能が法務を変える?」ということをまともに考えている訳ではなく,ふらふらと「題名」につられて顔を出した人には拍子抜けだったかもしれない。ざっと内容を概観する。なお当日用いられた資料が法務研究財団のWebにアップされている。

マイクロソフトのエンジニアの人

現時点でのAiとは何かということを,地に足のついた議論として紹介してくれた。現にAIビジネスを魚化している人の話は,信頼できる。

ビジネス分野でAIが理解できている人は10人に1人だ。

画像や音声の分野はどんどん進むが,自然言語の意味の処理はむつかしい。ただし検索ということでいえば,先日公開されたアメリカのJFKの資料をデジタル化し,あっという間に処理,分析した。「犯人」とFBIのある人物との「関係」が浮かびあがった。人が見ていくと何年かかっても処理できない膨大な量だ。

AIというより機械学習という捉え方の方がわかりやすい。

日本カタリストの人

AIを利用したドキュメントレビューの紹介である。

アメリカの電子情報開示制度の下で,開示の対象となる電子情報(メール,チャット,LINE,FACEBOOK,電子ファイル,会計データ,Web等々)についてのドキュメントレビュー(関連あり・なし,秘匿特権あり・なし)が,AIシステムを利用して行われている。これによって大幅な弁護士費用の削減が可能だ。

まず,関連性あり・なしのレビューをする。AIシステムが,文書全体を関連する文書にグループ化し,そのサンプルを取り出し,レビューワーが,レビューすることで,グループ文書の関連性あり・なしのランク付けができる。

また関連性がある文書について,秘匿特権のレビューをし,提出する,しないを決定する。

これはアメリカでは現に利用されており,法廷におけるTAR(technology assisted review)の利用として連邦民事規則にも取り入れられている(のだと思う)。

日本の法廷でこういう形の立証が取り入れられるかどうかは疑問だが,例えば,今,証拠にするため電子メールを検討すると,返信が様々な送信メールになされているので送受信の全体の流れを把握するのがとても大変だ。それだけでも,工夫が欲しいところだ。でもそれはAIか?

レクシスネクシス・ジャパンの人

レクシスネクシス・ジャパンのトルコ人弁護士は,リーガルテックという観点から弁護士業について検討したる。その内容は,以下のとおりだが,きわめて刺激敵だ。

AI/Legal Techの現在の環境

リーガルリサーチ&情報収集

法改正及びインパクトへ対応

コンプライアンスリスク監視

 e Discovery

顧客ニーズ分析を含む業務支援

自動紛争解決(ODR)

資料/契約文書のレビュー

3分間でドラフティング

リーガルテックの成長

2012年リーガルテックに関する特許出題数:2012年99件から2016年579件に大幅増加 38% アメリカ 34% 中国 15% 韓国

法律家への影響

顧客開拓

ニッチ・専門分野へのニーズに対応

Data driven lawyerになり,best lawyerとなる

ネイティブ弁護士と競争

ビジョンを持つ信頼できるアドバイザーになる

真の付加価値を提供する

値段競争に陥らないサービス差別化

ワークライフバランス

レクシスネクシスの取り組み

検索,分析,可視化

その後,レクシスネクシスの「判例検索に加え、法令や立法、行政情報といった、リーガル情報を一元的に収録」したデータベース「Lexis Advance」のデモがあった。アメリカは,州ごとに法が違うこと,陪審があること等から,リーガルリサーチ&情報収集は徹底する必要があるから,これは有益だろう。日本ではまず情報がでてこないし,そもそもこのようなシステムを構築・提供するような市場もないというのが現実だろう。

我々は,当面。各種の判例検索,その他のデータベースを有効活用するしかない。

日本の弁護士ふたり

日本の弁護士ふたりは,これから「AIと法」に取り組みたいというところだろうか。

高橋弁護士は,「チャットボット」を作ってみたことの紹介である。すぐに「ボットの理解を超える」,人間は5回の入力で飽きることの報告は貴重だ。オタクレベルだが,AIを切り開くのはオタクである。

齋藤弁護士は,まだ見ぬAI法務の紹介である。講演に備えて十分な準備をされたのだろうが,その問題はどこにあるのと思ってしまう。この種の議論をする弁護士は多いが,私は他にすることがあるのではと思う。ただアメリカでの利用の報告は貴重である。

今後

いずれにせよこの時点で,このシンポジウムを試みたことは,高く評価されるべきだ。今後とも,このような企画があれば参加しよう。

 

アイデアをカタチにする・総論

アイデアをカタチにする仕組み造り

プラットフォーム

最近私は,アイデアをカタチにする仕組み造りに取り組もうと思っています。「アイデア」は,「思い」,「発想」,「夢」,「目標」等とも言えますし,「カタチにする」は,「実現する」,「解決する」,「創造する」とも言えるでしょう。もともと発明分野で使われていたものが,ビジネスの分野でも使われるようになったものですが,さほど一般的な表現ではないでしょう。ただビッグバン・セオリーの登場人物ハワード・ウォロウィッツが自分のエンジニアという仕事を「アイデアをカタチにするものだ。」と言っている場面をどこかで見かけたので,それなりに使われているのでしょうか。

最初は,ブランディングをしている年若のデザイナーの友人と共同で取り組めないかなと考えていたのですが,すぐには準備が整いそうにないので,まず私がWeb上で,そのプラットフォーム造りをしようと思います。

今考えていること

ところで今,私が考えていることは,クライアントが「アイデアをカタチ」にする新しい商品,サービス,システム,事業等を創造,起動することを,法務面から支援することです。

創造,起動の対象は,①Things(モノ),②IoT,③サービス,④システム,⑤事業(組織)のブランディング,⑥事業(組織)のスタートアップ,⑦表現等々に分別することができるでしょう。

共同事業者のデザイナーもいない状態では,「アイデア」はクライアントから持ち込まれるしかありませんが,態勢が整えば,自分でもアイデア造りに取り組もうと思います。

あらゆることの複雑化に伴い,ビジネスのみならず科学分野でも様々なアイデアも又,加速度的に生み出されていますが,カタチになるのはごく一部です。大部分はそれでいいのでしょうが,でも「あのアイデアがGoogleに!アーア」ということもありますよね。もっともカタチになったもののうち,ヒット,大ヒットするのはごく一部でしょうが,でもカタチにしないと消え去るだけ。今のビジネスは,数撃つしかないベンチャーキャピタルの投資と似通っています。結果はどうなるにせよ,少しでも充実したカタチを造ることが重要でしょう。

アイデアをカタチにする仕組みの方法・システム

アイデアをカタチにする仕組みの方法・システムを5W1Hの観点から検討すれば,WHEN,WHERE,WHOが,「今,ここで,私たち」であることは明らかですから,WHY,WHAT,HOWを検討することになります。

ところで,「アイデアをカタチにする」ということは,見方を変えれば,マイナスの「問題」であればその「問題を解決する」またはプラスの「価値を創造する」ということです。そこで,アイデアをカタチにするWHY,WHAT,HOWについて,従前「問題解決学」(佐藤允一さん)ないし「創造学」(中尾政之さん)として議論されてきたことを,その方法の中心として検討したいと思います。さらにその源泉には発明的な問題の解決手法である「TRIZ」があります。

ビジネスを支援する法務

アイデアをカタチにする事業について,さて弁護士は何ができるでしょうか。

調査

まず弁護士としては,持ち込まれたアイデアをよく理解する必要があります。そして特にそのアイデアがこれまでの歴史や経緯の中で,どう位置づけられるのか,新規性があるのか,関連分野でどのような研究が進展しているのか,そのアイデアと他の権利との関係はどうか,そのアイデアをカタチにするために必要となる技術や知財は何か等々を,調査する必要があります。

起案

対象事業の進展に応じて弁護士がすべきことは,ルール化,制度化でしょう。

①ルール(外部ルール(法令等)や外部との合意,内部ルール)の設定,及び当該ルールによって展開するビジネス(ゲーム)の追跡,ルール逸脱への対応等に係る実行態勢の確立と整備,運用

②内外の情報流通へ対応とコントロール

③当事者についての合理的な契約関係による規律の設定

④これらに係る法務全般

プラスαとして。

⑤資金調達のアシスト

⑥人材確保のアシスト

⑦必要となった技術・知財の獲得のアシスト

⑧多言語対応

⑨事業進展に応じた関与者の心身の健全性への留意

分業と全体の把握・統括

これらは,少し事業の規模が大きくなると,一人の弁護士ができるようなことでありませんから,適宜分業しなければなりませんが,全体は一人の弁護士が把握し統括しなければなりません。

これからの準備

まず調査方法を具体化し,「アイデアをカタチに法務」については典型的なケースをモデル化する必要があります。

アイデアをカタチにする対象

私が考えている,アイデアをカタチにする創造・起業の対象である「商品・サービス・組織」等は上述のとおりですが,でも考えてみれば,私たちの身の回りには,「アイデアをカタチ」にしたいことが,山のようにあります。

それを「健康」,「学習」,「社会制度」に分けて検討したいと思います。

アイデア倉庫

ところで,アイデアの湧出を活性化するアイデアツールを集めた本(内容によって「アイデア・デザイン編」,「IT・AI編」,「経営編」,「心身の向上技法編」,「世界の構造と論理編」,及び「冷水編」に分けています。)を整理した「アイデア倉庫」を作成しました。

重要な本については,具体的に紹介していきたいと思います。

 

IT・AIの法律書を使う

IT・AIの法律書

IT・AI関係の法律書のうち,法律相談形式のもの,及び関係する事項について体系的に触れているもののうち,私の手許にあるものについて,その詳細目次を掲載しておきます。皆さんが直面している問題が,どういう位置づけになるのかを理解する参考にしていただければと思います。当該書を入手して更に理解を深めるか,理解,解決が難しそうなら私に相談していただくこともお勧めします。

「インターネット新時代の法律実務Q&A<第3版>」,「IoT・AIの法律と戦略」,「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典」(作成中),「裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務」(作成中)を紹介します。

続きを読む “IT・AIの法律書を使う”

土日で何とかするWordPress

しばらくいじらないと分からなくなる

WordPressには,サーバーにインストールして使用する無料のプログラム版(WordPress.org)と,基本的には無料のブログサービス(WordPress.com)がある。後者には,有料のパーソナル,プレミアム,ビジネスの各プランがあり,それぞれのプランによって高校が外れる等の機能が追加される。

ブログサービス(WordPress.com)は,レンタルサーバーを用意する必要がなく,利用法も簡単なので,今私は,そのプレミアムプランを利用している(月1000円弱)。これだと一応,CSSも適用できる。ただブログサービスではできることに制限があることや,今のレイアウト(テーマ)が大分時間が経ったので変えてみたいこと等から,かねがね慣れてきたらプログラム版に移行したらどうかなと思っていた。事務所移転を契機に,レンタルサーバーで前のメールアドレスが使えるのではないかということと,MSオフィスが5セット使えることから,3ヶ月くらい前にレンタルサーバーの契約をした。ただ,まだMSオフィスを使っているだけで,移行の決断はできていない。

プログラム版に移行するために,WordPressの基本的な操作方法や現在のテーマの仕組みを理解・復習した上で(投稿するだけだと,仕組みのことはどんどん忘れていく。),これを別のテーマに変更し,その上で移行することになるが,やはり億劫だ。特にブログサービスからプログラム版への移行に伴う,ドメイン名とURLの変更は,理屈から勉強しなければならない。

移行するかしないか,移行にどんなメリットがあるのか,問題点を検討していこう。

現在のテーマ(Twenty Eleven)の問題

現在のテーマは,ページが変わる度にヘッダー画像が入れ替わることがとても気に入っている(自分でとった10枚ぐらいの山の写真を当てている)。この仕様のヘッダーを他のテーマで使用できるかどうかは分からないが,できないなら使用停止にすればいいだけのようだ。

あと現在のテーマは「ショーケース」(固定ページテンプレート)が利用できるが,これが何なのか、変更,移行の支障になるのかどうなるのか,よくわかっていない。

最近気がついたのだが,「テーマ」ページの該当テーマ上にポインターを置くと出てくる「テーマの詳細」をクリックすると,その「テーマ」の説明が出てくる。これでその「テーマ」の概要が理解できて,便利だ。

「テーマ」以前に,WordPressの基本的な操作方法を思い出す(習熟する)必要がある。操作の管理画面(ダッシュボード)は, プラン,投稿,メディア,リンク,固定ページ,コメント,フィードバック,外観(テーマ,カスタマイズ,ウィジット,メニュー,ヘッダー,背景,AMP,テーマオプション),プラグイン,ユーザー, ツール, 設定から構成されているが,これだけで複雑すぎる。いつもいじるのは,投稿,固定ページ,外観であり,特に外観が重要だ。これについては,WordPress.ORG日本語に丁寧な説明がある(昔はなかったような気がする。)。

「テーマ」の変更と移行の関係だが,考えてみれば,「テーマ」の変更は今でもワンクリックかツークリックで可能であること,移行は同じ「テーマ」ですればよいことを考えると,まず基本的な操作方法に習熟して現在の「テーマ」をしかるべきものに変更し,その後,移行した方がよいかどうかを検討すればよいだろう。

なぜ移行したいのか-エディタ問題-

私にとってWordPressの最大の問題は,ビジュアルエディタとテキストエディタ(HTMLモード)を切り替えると,HTMLタグが自動で除去されてしまうということである。普通は,簡単なビジュアルをエディタ使うが,時に少し変わったことをするためには,キストエディタを使わざるを得ない,その切り替えが,思いもよらない結果を生んでしまい,困ってしまう。これを止めさせるには,PS Disable Auto Formatting というプラグインを使えばよいことは知っていたが,プラグインは基本的には,プログラム版でしか使用できない。ビジネスプランでプラグインが使用できるようになったようだが,このプラグインは含まれていない。だからやはり…プログラム版と思っていたのだが,このプラグインを次項の「Instant WordPress」(その説明)で試してみると,テキストエディタからビジュアルエディタに切り替わらない。あれ!と思っていたのだが,どうもあるバージョンアップ以降,そうなってしまうようだ。それなら現時点で苦労してプログラム版に移行する必要はなさそうだ。でも油断していると,いつ何が起きるかわからないから,十分な目配りが必要だ。

結果,エディタ問題は何一つ解決せず,先送りだ。と思っていたが,TinyMCE Advancedというよく使われるプラグインである設定をするとこの問題に対応できるという記事を見つけた。しかもビジネス版で使用できるプラグインにも含まれている。でもこれだけのために。使用量が毎月1000円(割引がないと2000円)増額になるのは嫌だ。「Instant WordPress」でうまくいかないか。

試行錯誤しよう

このようなことをしばらく試行錯誤するしかないが,そのためのツールとしてパソコンにプログラム版をインストールしてあれこれ試して見ることができる「Instant WordPress」というソフトを見つけた。以前も似たようなサービスもあったが,これはとても簡単だ。とりあえず,これでこれで検討しよう。TinyMCE Advancedとについては,確認出来次第報告しよう。

WordPressのエディタはどうなの

私は,WordPressのエディタの問題について,いつまでもWordPress側が動かないのが,不思議でたまらない。もう少しプログラムをいじると対応できるとの記事もあるので,そうしている人も多いのかもしれないが,素人がいつも使うエディタなのにそういう問題かなあ。

HTMLのバグに次いで不思議な問題だ。

 

基本から考える個人情報保護法(その1)

楽しくない時代

最近,個人情報の保護に関する法律(以下「保護法」)に関して検討した事案があり,2017年5月30日から改正保護法が全面施行されたこともあるので,改めて保護法について基本から考えてみることにした。IT,AIに関する法務のかなりの部分は,「情報」,「データ」が関連するので,「AIと法」の法部門の嚆矢にふさわしいだろう。

さて多くの事業主や企業は「御社のした個人情報の取得(提供)は,違法である」といわれると,それだけで震え上がってしまう。これにプライバシー,コンプライアンス,説明責任と畳みかけられると,頭の中が真っ白になってしまうことになる。でもそのような指摘が正しいことは稀である。

今は,「個人情報」に限らず,本来正しい出自を持つ(であろう)言葉が,本来的な定義や意味内容とは関係なく「語感」を恣意的に膨らませたイメージを基にして,「ゴシップ」(ロビン・ダンバーがいう言語の起源を想定している。)の「武器」として使用され,あたかもそれが真実であるかの如くネットを通じて勢いよく拡散,流通してしまう。

何が正しいのかとは別に,このような事態になりそうな,あるいはなってしまったときの最低限の対応(あるいは心構え)だけは考えておく必要がある。私はIT,AI大好き人間であるが,この「ゴシップ」の拡散,流通を楽しいとは思わない。

前振りが長くなってしまったが,「ゴシップ」の拡散問題は追々考えていくとして,ここではまず「個人情報」として降りかかってきた火の粉を,正当に振り払うために,保護法を基本から考えてみよう。

まず本項(その1)では,保護法に違反するとどうなるのか,事業者が取り組むべき課題は「個人情報データベース」の適切な運用であること,そもそも「個人情報」とは何かという,保護法の「尾根」を辿ってみよう。

保護法に違反するとどうなるのかを考えよう

指導,助言,勧告(それでも是正されなければ命令)を受けるだけであること

保護法は,「個人情報取扱事業者」が「個人情報」(及び「個人データ」,「保有個人データ」)を取り扱う(取得,利用,提供等する)場合のルールを定めている。取り扱う「情報」が何種類にも分かれ(改正法によって「個人識別符号」,「要配慮個人情報」,「匿名加工情報」が付加された。),それに応じてなすべき行為も複雑に絡みあっているので,お世辞にも分かりやすいとはいえない。取り扱う「個人情報」が膨大で違反した場合の影響が大きい大手事業者以外は,内心びくびくしながら,表面をなぞって済ませるのが精一杯であろう。

ところで精一杯なぞった結果,残念ながら保護法に違反していた場合,どうなるのであろうか。

それは,保護法の「第3節 監督」に書かれている。

「個人情報取扱事業者」に何か問題があったら(ありそうだったら),

①必要な報告若しくは資料の提出を求められたり,立入検査を受けることがあります(40条1項),

②個人情報等の取扱いに関し必要な指導及び助言を受けることがあります(41条),

③「保護法の規定に違反した場合において個人の権利利益を保護するため必要があると認めるときは,違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告されることがあります(42条1項),

④「勧告を受けても正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは,その勧告に係る措置をとるべきことを命じられることがあります(42条2項),

⑤「緊急の場合はいきなり命じられることもあります」(42条3項)という流れになる。

そして, ④⑤に違反した場合は,「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」,①に従わなかった場合は,「30万円以下の罰金に処する」ことになる。

おや!「個人情報」の取扱いに不備があった場合は,お役所にいろいろと調べてもらって,保護法に沿うように指導,助言,勧告をしてもらい,それを聞き入れず,命令にも従わなかった場合にはじめて「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金」?これは決して重い罰則ではないし,お役所がそこまでやってくれたのなら普通は聞き入れるだろう。

その外に苦情処理制度に付き合わされることもある。多少煩わしい場合があるかも知れないが,それも問題がある場合に任意の解決をしようとする制度だ。

それに,今回の法改正で「個人情報取扱事業者」には,事実上,すべての事業者が含まれることになったこともあり,大量あるいはセンシティブな「個人情報」を取り扱っている事業者以外の行為が問題になることは稀であろう。

要は,保護法は,これからの「高度情報通信社会の進展」の中で大量に流通する「個人情報」の取扱いは極めて大切なことだから,漏洩等が生じないようにみんなで保護法のルールを守りましょうという,ソフトな「仕組み」になっている(「交通違反」の対応とは大違いだ。)。そう考えると,随分気楽になるし,保護法のルールも冷静に取り入れようという気になるのではないか。

それだけでは済まない問題もある

ただそれにも拘わらず,どうして「個人情報」の取扱いがこれほど問題なることがあるのだろうか。

ひとつは,「個人情報」の他に,「プライバシー」という法律上保護される利益があり,「個人情報」と「プライバシー」が重なる部分があって,保護法に違反することが,プライバシーの侵害と同視され,非難,クレームの対象とされてしまうことがあることにあろう。実態は単なる「ゴシップ」の類で言いがかりに等しい場合もあるが,そうでない場合もある。事業者としては「炎上」を意識し,内容に応じた適切な対応をすることを余儀なくされるのはやむを得ない。

もうひとつは,「個人情報」が業法に組み入れられている業種があり,その場合は,免許の問題にもなってしまうことがある。

さらに保護法の条文の構成,内容の出来がよくないことからもたらされる混乱もある。以下,これについて2点指摘しよう。

事業者が保護法によって取り組むべき課題は「個人情報データベース」の適切な運用であること

事業者が保護法によって取り組むべき一番大事な課題(ルール)は「個人情報データベース」の適切な運用である。そもそも保護法が適用される「個人情報取扱事業者」とは「個人情報データベース等を事業の用に供している者」(保護法2条5項)であり,個人情報データベース等を事業に使っていない者は,保護法の適用を受けないから,「個人情報」(「個人データ」,「保有個人データ」)についてのルールは一切適用されない。

事業者が,「個人情報データベース」を利用するからこそ,その構成「要素」である「個人情報」の「取得や利用目的」についてのルール,及び「個人情報データベース」のうち事業者に管理権限のあるもの(「保有個人データ」)について一定の事項の公表や本人の開示等の請求に対応する義務が定められているのである(保護法27条~34条)。

ここで用語を整理しておくと,「個人情報データベース等」とは,「個人情報を含む情報の集合物であって,ⅰ特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの及び,ⅱ特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるものから,利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定めるものを除いたもの」である(保護法2条4項)。ざっくりとPCで利用する「個人情報データベース」(整理された紙情報も含むが)を念頭に置けば足りるだろう。

そして,個人情報データベースを構成する個人情報を,「個人データ」と呼称し,保護法は個人情報データベースを構成する「個人データ」について,正確性の確保等,安全管理措置(従業員,委託先の監督を含む。「情報セキュリティ管理」),第三者提供の制限を規定している(保護法19条ないし26条)。

ここが事業者の「本丸」である。データベースの情報が漏洩したり,丸ごと第3者に提供されたりすることについて,守るべきルールがあり,そこに義務が課されているというのは当然であるし,それは分かりやすいであろう。

更に一定の管理権限を有する「保有個人データ」についての「個人情報データベース」について,付加的な義務が課されているのは前述のとおりである。

この部分の各論は,「その2」に譲ろう。

「個人情報」をめぐって

「個人情報」についての規定

保護法は,「個人情報」について15条から18条に規定している。

保護法を読む場合,まず2条の定義を読み,15条から18条を読むのが普通であるが,これを読んで,ここに何が書かれ,具体的にこれがどういうルールなのか,理解できる人はいないだろう。それほど不安定で曖昧模糊として書きぶりになっている。

しかし,事業者が取り組むべき課題は「個人情報データベース」の適切な運用であることを理解し,「個人情報」は取得後,「個人情報データベース」の「個人データ」として加工,収納されるが,その間の,どこに落ち着くか分からないぼやっとした過程を,「取得」,「利用目的」で制御したのが「個人情報」の規定であると捉えれば,随分分かりやすくなる。

個人情報の取得

「個人情報」の「取得」は出発点であるが,「偽りその他不正の手段」によらない限り自由に取得すべきものである(ただし,改正法で導入された「要配慮個人情報」の取得には本人の「同意」が必要である。)。

「個人情報」の「利用目的」とは何か

問題は入り組んだルールになっている「利用目的」であるが,目的であるから「……のため」に利用するという形で,できる限り特定することになろうが,ここでも,個人情報は「個人情報データベース」に加工,収納されるべき要素であるから,「利用目的」は,「個人情報データベースを構築しこれを……のために利用する」という形で問題になると考えるのが分かりやすい。

したがって個人情報取扱事業者(個人情報データベース等を事業の用に供している者)が,個人情報データベースと無関係に取得した「個人情報」は,保護法の埒外にあると解すべきであろう。中小の事業主や企業ではこの種の一過性の「個人情報」が問題とされることが多い。仮に,個人情報取扱事業者である限りすべての「個人情報」について保護法の適用があると解するのであれば(お役所は,目的的な「解釈」ができないことから,無反省にそのようなことを言う),保護法18条の解釈に工夫を凝らすことになろう。さらにそのような「個人情報」は個人情報データベースに組み入れられることはないから,有形情報は廃棄すれば足りる。

そもそも「個人情報」とは何か

ここで,通常一番最初に取り上げられるそもそも「個人情報」とは何かについて検討する。

「個人情報」の定義の基本は,「生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」である(法2条1項)。

すなわち,「生存する個人に関する情報」のうち,その中に記述された「氏名,生年月日等」(「識別の手段となる情報」といえよう,)があることで,特定の個人を識別することができるものである。

「生存する個人に関する情報」の中に記述された「氏名,生年月日等」の「識別の手段となる情報」だけでも「個人情報」ではあろうが,そんなカスカスの情報に特段の意味があるわけではなく,それによって特定の個人のものであることが分かる「生存する個人に関する様々な情報」が,保護法の「保護」に値する「個人情報」である。

そうであるからこそ「識別の手段となる情報」はなくても,「他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるもの」は,「個人情報」となることが理解できる。

これまでの世上流通していた「解説」は「個人情報」として主として「識別の手段となる情報」だけを取り上げていたから,わかりにくさが倍増していた。それが保護法から人を遠ざけていた面があったと思うが,今回の法改正によってこの点の理解は深まったように思う。

その1のまとめ

以上,保護法に違反すると事業者はどうなるのか,事業者が取り組むべき課題は「個人情報データベース」の適切な運用であること,そもそも「個人情報」とは何かという,保護法の「尾根」を辿ってみた。「その2」では,事業者が取り組むべき課題について詳述することにする。

こういう俯瞰図の元に保護法にアクセスすると,随分,分かりやすいと思うのだが,ここまででかなりの分量になってしまった。以下,参照条文を載せておく。

 

続きを読む “基本から考える個人情報保護法(その1)”

弁護士として「AIと法」に踏み出す

AIが喧(かまびす)しい

最近,AIに関する話題が広く喧伝されている。しばらく本屋さんに行かないと,「人工知能」や「ディープラーニング」に関する新しい本が充ち溢れていてびっくりしてしまう(さすがに,Kindle本は,少し遅れる。)。ネット上での情報の氾濫はいうまでもない。

アメリカのクイズ番組でIBMのワトソンというAIが,歴代のチャンピオン2人に勝利したとか,そのワトソンの改良版が日本でも金融機関や医療機関で採用されたとか,AIが将棋のみならず碁でもプロを圧倒したとか,更にはさほど遠くない時期にAIによる自動運転車が実用化されるとか等々を聞くと,AIの能力が人を凌駕することが現実化しつつあるように思われる。

その結果,人の仕事が奪われるとか,2045年にはAIの能力が人を超えて制御できなくなるシンギュラリティ(技術的特異点)が来るということもいわれている。

私はパソコンもITも大好き人間なので,AIが現実化しつつあることにはゾクゾクしてしまうが,一方,昔からなぜか弁護士の仕事は,早々にAIによって淘汰されるともいわれているので,その意味では心穏やかではいられない。

だが,果たしてそうか。

AIの現状はどうか

そこで最近,「人工知能」や「ディープラーニング」,シリコンバレー発の新しい技術やビジネスの本を読み込んでいる。本当に面白く心がわくわくしてくるし(胡散臭い本も多いけれど),多面的に読むことで,見えてくることも多い。

今AIが,本当の意味での出発点に立ったことだけは,間違いないといえそうだ。それは,コンピュータの処理能力の劇的な進歩,インターネットを通じて流通するデータの爆発的な増加,増加するデータを収納できるクラウド(サーバー)の普及等に加え,画像認識,音声認識等ではあるが,コンピュータ自身が「特徴量」を取得するアルゴリズム(ディープラーニング)の端緒がひらかれたことによる。

ただまだやっと出発点に立ったに過ぎないというのが正しそうで,特に,ディープラーニングが何を切り拓くことができるかはまだまだ予想しがたいので,人の仕事が奪われるというより,どれだけAIやIoT(「センサー+物+インターネット+データ+クラウド+AI」)によって,これまでにはなかった様々な作業が行え,サービス提供できるものが開発できるかということが,現下の課題だろう。

AIの能力が人を超え制御できなくなるなどということは,到底考える段階ではないようだ(もちろん,想像,考察することは興味深いが。)。

いかにAIと対応すべきか

冷静に考えれば,今後順調にAIやIoTといわれるものが世の中に充ち満ちても,人にとっては新しい商品やサービスが提供されるということに過ぎず,開発者を除く大部分の人にとっては,これまでどおり,いかにこれを受け入れ使いこなすか(どうすればつまらないことで時間や費用を浪費せず,生産性を上げることができるか)という問題が生じるだけである。

そして,人とその新商品や新サービスとの接点(「ユーザーインターフェイス」といえよう。)は,これまでもそうであったように,あるいはこれまでにも増して,人々を多くのストレスにさらすであろう。

現に実現しつつある,自動運転車,ワトソンによる医療判断,兵器のいずれも,人とAIのどちらが主体となって(責任をもって)操作するのかが,当面最大の問題であることが指摘されている(「AIが人間を殺す日」(小林雅一著))。

私が向き合うようなAIやIoTはそんな大それたハードやソフトではないが,それでもそのAIやIoTとどう接し,どう使いこなすかが最大の問題である。

これから何をどうすべきか

上述したように,私はパソコンもITも大好き人間で,これまで膨大な費用と時間と手間をこれに投じ(浪費し),大きな喜びの他には,ごくごくわずかな成果を得ただけであった。冷静に振り返れば,使いこなせば迅速かつ正確で,大きく生産性を上げることができるであろうITなのに,膨大な費用と時間と手間を浪費してきた一番の原因は,私とITの接点(ユーザーインターフェイス)に穴が空いていたことである。

その穴は,私がいつまでもITのハードやソフトをよちよちとその場しのぎでを使うだけの「初心者消費者」に止まり,それ以上に,コンピュータやアルゴリズム,ネットワークの仕組みを継続的に理解して使いこなそうとしなかったことにある(言い訳ではないが,Web作成の労力のかなりの部分をHTMLのバグの補修に当てなければならないことを知ったときの徒労感は大きかった。)。

だからこれからは,AIやIoTの中味に少しでも立ち入ってソフトやハードに触れながら,これを継続して使いこなすのが大事だと思う。傍観し批評する「初心者消費者」から,これを使いこなす「主体的消費者」へ大変身だ。実はそれには,どうしてもその場限りで限りでぶつ切りされてしまう興味を,少し繋ぐ(継続する)ことに留意するだけでいいのだけれど。

弁護士と「AIと法と」の関わり

弁護士と「AIと法」との関わりを考えてみよう。

弁護士とAIの関わりは,弁護士が,弁護士業務にいかにAIを活用するかということであるが,これについて上述したように「弁護士の仕事は,早々にAIによって淘汰される」といわれる。しかしこれは連邦国家でかつ判例法の国であるアメリカでは,何が法であるかの探求に大きな労力が割かれるので,そのためにAIが全面で活躍する余地があるのであろう。単一国家で成文法の国である我が国ではその意味でのAIの活躍の余地がなく,弁護士の業務としてもっとも重要なのは,事実の収集,確定なので,当面,AIによって弁護士が淘汰されることはないと思われる。

弁護士と「AIと法」との関わりは,怒濤のように進展するであろうAIやIoTの開発,製作,販売,提供,利用等をいかなるルールの上に載せて行うかという,自ずから国際的な規模とならざるを得ない立法,法令適用,契約,情報保護,及び紛争処理等の問題である。我が国での現時点での弁護士の取り組みは,今の法令ではこうなる,こうなりそうだという程度であるが,それでは法的需要は支えきれない。AIに「主体的」に係わり,弁護士としての仕事をしていく必要がある。

私も可能な限り取り組んでみよう。

今後のための「覚書」

まず,「2004年に私が考えていた「ITが弁護士業務にもたらす影響」」を紹介し,今広く読まれている「人工知能は人間を超えるか」(松尾豊著)から検討する。

その他,「人工知能」を網羅的に検討している「教科書」的な本,シリコンバレー発の新しい技術やビジネスの本等,参考になりそうなものを紹介しつつ,新しい動きもフォローしよう。

ただ私は,生命→進化・遺伝→AIとは異なる人間の知能(認知)→その人間が作る「社会」という流れの中で,「社会」がこれからも存続し,より円滑に機能することを実現させることに最大の興味がある。いくら新しいAIをたたえようと,戦争と極端な経済的格差を廃絶できないようでは,意味がない。それだけは忘れないようにしなければ。