AI時代の弁護士業務(試論)

2019年10月21日,今進めているDX Projectの会合で,「AI時代の弁護士業務(試論)」について話をします。普段,口にしないことなので,少し詳細なレジュメを用意しました。それをそのまま掲載します。なおこれがこのWeb「弁護士村本道夫の山ある日々」への最後の投稿です。今後は,これまでのこのWebの記事全部を移動している「未来の法律事務所」をご覧ください。

「DXの世界に,知ら無くていい知識は無い! 関係しない業界は無い!」に励まされて

1.私とIT,AIとの関わり

(1)弁護士になりたての頃,マッキントッシュ,ハイパーカードにはまる。裁判所が一太郎を採用したこと等から,Windowsに転向。

(2)「ITが弁護士業務にもたらす影響」執筆(「いま弁護士は,そして明日は?」(日弁連弁護士業務委員会編 2004年12月 第一法規))→別添資料

(3)ゲーム制作受託会社の監査役をし,開発契約,運用契約等のレビューもしている→後掲「ゲームAI技術入門」(著者:三宅陽一郎)

(4)「AI時代の弁護士業務(試論)」執筆中(「法と支配」(日本法律家協会)2020年4月号掲載予定)

(5)別添資料を読み返してみると,そこに指摘した弁護士業務に関わる状況はほとんど変わっていないことが分かる。

2.「ITが弁護士業務にもたらす影響」における弁護士業務の分析

(1) 前提…弁護士業務の紹介とDX

ⅰ DXの対象を「a顧客体験,b業務プロセス,cビジネスモデル」とする(「一流ビジネススクールで教えるデジタル・シフト戦略-テクノロジーを武器にするために必要な変革」(著者:ジョージ・ウェスタ―マン等))

ⅱ 弁護士業務は,①法律問題(生じた事実への法とルールの適用)の検討と,助言・文書作成,及び②「裁判」(法的手続)への代理人・弁護人としての参加,に大別できる。②には①がその要素として含まれ,②は①の総合的な応用型といえる。弁護士業務の改革は,a顧客体験を踏まえたb業務プロセスの改革の問題といえよう。しかし, a顧客体験を良好化することは,弁護士のb業務プロセス固有の問題ではなく簡単ではない。

ⅲ 「裁判」(法的手続)は,権利を発生させる根拠となる「法とルール」(主張)を提示し,主張に該当する事実が存在するとして証拠を提出(立証)することによって判断権者を説得し当該主張・立証を認めさせて権利を認定させるという過程である。相手方から見れば反論し,反証し,権利を認めさせないという過程である。このような制度,経験は日常的にも,社会的にも類例が乏しい特殊なものである。

また「法とルール」の設定,「裁判」(法的手続)は,それぞれ歴史的に形成された現代社会の重要な政治「制度」(三権分立)であり,当該「制度」を主催し,担当・運用し(改革を拒む)組織があるし,その目的は,適切な「法とルール」の設定・解釈と「正しい」事実認定に基づき,適切な権利者の適切な権利を認定することである。

自分の主張・立証が認められなかったことに不満を持つ顧客が発生することは当然であるが,顧客は,より早く,より安く,より便利に,より分かりやすくというようなことはいえても,その本質的な部分,法とルール(の設定・解釈)のあり方はそれでいいのか,事実認定の方法は正しいのかという部分については,批判が及びにくい。また「裁判」に顧客を代理して参加するのが弁護士であるが,弁護士は「制度」内で業務を行うだけで,「制度」そのものを改善できるわけではない。これは基本的には別ルートの問題である。

それでも法とルール(の設定・解釈)は,憲法論,政治的価値という限られた範囲ではあるものの問題にされるが,事実認定はほとんど批判されない。当事者以外には,個別事件の事実認定の問題は把握しがたいのだが,現在の裁判所の事実認定の情緒性(非科学性)は,問題が多い(とりあえず,要件事実と主観的に争点設定した判決様式の事実摘示の分裂の影響も大きい。)。

ⅳ 以下「ITが弁護士業務にもたらす影響」の要旨を紹介するが。「ⅱ 弁護士に求められるもの」が,「AI時代の弁護士業務」改革論である。

 

(2) ITが弁護士業務にもたらす影響」の要旨

ⅰ 弁護士がITに求めるもの

「➀裁判所は,全ての判例を電子データベースとして公開すべきだ。②裁判所や検察庁における書面の授受を,Eメールを利用し電子情報で行いたい(注:市民からいえば,電子申請)。③裁判所や検察庁の尋問調書,供述調書等を電子情報で交付すべきだ。さらに,④証人尋問を含む法廷でのやりとりや被疑者,被告人との接見を,インターネットを利用したテレビ会議システムを利用して行うようにすることが大切である」等の指摘がなされ,費用と熱意の問題であるが,私は早晩,実現するとしたが,現在も概ね課題にとどまっている(後記5(2)ⅰ)。メディアで(外国の動向として)報じられ,求められのも,このレベル+αである。これは便利ではあるのだが,「裁判」でのやり取りは,センシティブで秘密性の高いものが多く,オンラインはセキュリティの面から,どうだろうか。

ⅱ 弁護士に求められるもの

➀弁護士業務の中核は大きな意味での情報処理であり,その過程は,情報の収集(インプット)一情報の処理(記憶一演算)一情報の表現(アウトプット)から構成されている。

②「情報の収集(インプット)」を,I.生の情報(事情聴取,尋問,契約書やその他の文書,その他生のデータから得られる情報)の収集に関わるスキル(以下「I生情報スキル」と呼ぶ。),Ⅱ.法関連情報(法令,判例,文献,その他)の収集に関わるスキル(以下「Ⅱ法情報スキル」という。)に分け

③「情報の処理(記憶一演算)一情報の表現(アウトプット)」をひとまとめにして,Ⅲ.収集した情報に基づく判断,表現(以下「Ⅲ判断スキル」という。)と分類してみる。このように分類したとき,今後弁護士に求められる「知」は何であろうか。

④「Ⅱ法情報スキル」は広く行き渡っている。「I生情報スキル」と「Ⅲ判断スキル」が専門性の成立根拠であると次のように一応はいえる。

「問題は,収集,整理した生情報と法情報を,頭(主記憶装置+演算装置)に入れ,筋道立てて思考,判断し(プログラムの実行),その結論を表現(アウトプット)することである。これが判断スキルである。弁護士の頭の中で実行される「プログラム」は,入力された生情報,法情報を,法実務経験のエッセンスを踏まえ筋道立てて思考,判断し,結論を得て表現する過程を実行するものである。このように考えれば,実は弁護士の「専門性」が,この判断スキルにあるのは,明らかである。そして一人の弁護士が情報収集に割ける時間も,運用できるプログラムの種類(法分野)も頭の容量も限られているから,他の弁護士と区別される「専門性」成立の根拠がある。さらに生情報スキルは,弁護士の一般的な人間的としての実力が問われているといってよいであろう。人間に対する興味と洞察,そして経済や経営,社会の動き,歴史,自然科学等々に対する充分な知見があってはじめて有効な生情報の収集ができるのである。」。

⑤「しかし,これは,ITは知らないが,判断スキルにも生情報スキルにも長けていると自己評価し,かつ「有能」と自負している弁護士にとっては何らインパクトはないであろう。法情報スキルに代替性があるということは,その能力を備えた者を雇用し指揮命令すればいいのだから。

しかし,実は,生情報スキルも,判断スキルも,今後激しいIT化の波にさらされると予想されるのであり,特にIT化された判断スキルについては,代替はむつかしく,さらにIT化された全ての過程を代替させるような弁護士は,そもそも手間がかかりすぎて,実務的にはつかいものにならないといえよう。

生情報スキルについては当面,音声情報,活字,筆記の文字情報のデジタル化が実用化されるであろう。なお,生情報に分類した個別事件を離れた一般分野の情報については,法情報スキルと同じ問題状況になる(注:現在のレクシスネクシスの「Lexis Advance」(https://www.lexisnexis.jp/global-solutions/lexis-advance)等)。

そして,デジタル化して収集した生情報,法情報を,弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理,思考,判断し,結論を表現することを可能とするIT技法の開発が急務である。

例えば,弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(弁論要旨や最終準備書面)を作成するとき,必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり,しかもなお不十分だと感じることはよくあるのではないだろうか。あるいは供述の変遷を辿ったり,証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したりしたいこともある。このような作業(の一部)は,パソコンの得意な分野である。また少なくても,当方と相手方の主張,証拠,関連する判例,文献等をデジタル情報として集約し,これらを常時参照し,コピー&ベイストしながら,書面を作成することは有益であるし,快感さえ伴う。…目指すIT技法は,当面は進化したワードプロセッサー,データプロセッサーのイメージであるが,データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」(注:AI)があることも充分にあり得る。」。

⑥「デジタル化して収集した生情報,法情報を,パソコンで稼働させるプログラムによって整理,思考,判断し,結論を表現することを可能とするIT技法の開発」が重要であるとの指摘は,その後15年が経過してますます意味を持つ現実的な課題である。

ただ法とルール,裁判制度の捉え方は国により,また社会の進展具合により異なり,IT分野における日本語市場の狭さ,その中での弁護士市場の狭さにより,やるなら弁護士がやるしかないという状況だ。ただイギリスやアメリカで開発された技法が移植される可能性はある。

3.AI論…AIをどう眺めながら問題に向かうのか

(1)私は,日本で法律分野のエキスパートシステムを開拓するとの動きがあったことも何となく記憶しているし,ITについては強い興味を持った。以降,パソコン,ネット,周辺機器の性能は飛躍的に向上し,「ITが弁護士業務にもたらす影響」起案後15年たった今のAIブームを支える基盤となっている。ITは自分が使いこなすというイメージだったが,AIは勝手に何かをするというイメージもあるが,AIとどう向き合うべきなのか。

私の現状は座学にとどまっているので,ここでは最近目にした3冊のAI本を紹介して私の考えに代えたい。結論をいえば,Aiは楽しい,AIを考えいじっていると人間の認知,思考,行動の優れた点,劣った点,不可解さが浮かび上がってくる。汎用型AIが実現するかどうかの予想は,「わからない」。

 (2)「人類の歴史とAIの未来」(著者:バイロン・リース)「The Fourth Age」(by Byron Reese)

これを基に考えると落ち着く。1 第一の時代:言語と火(10万年前),2 第二の時代:農業と都市(1万年前),3 第三の時代:文字と車輪(五千年前),4 第四の時代:ロボットとAIと分ける。3を細かく(印刷,産業革命等)分けないところが面白い

5 3つの大きな問い ➀宇宙は何からできているのか 一つの物質原子(一元論),二元論(物理的なモノ+スピリチュアル,or+精神的なモノ),②私たちは結局何なのだろう 機械,動物,人間(私たちの中に機械,動物とは違う何かがある),③「自己」とは何だろう 脳の巧妙なトリック,創発する心,魂。強いAI論は,これらの問いにどう答えるかに密接に関連しており,これに答えられるまで強いAI論(汎用型AI論)は横に置く。ただし,テクノロジーの指数関数的進化は,現実だ。

(3)「スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運」(著者:ニック・ボストロム)

真正面から人工知能に向き合いたいときに,お薦め。Amazonでの紹介「・AIについての最も重要な命題=人類はAIを制御できるか、という「AIコントロール問題」と真正面から格闘した本命本。・近未来においてスーパーインテリジェンスは実現する可能性はあるのか? どのようなプロセスで実現されるのか?スーパーインテリジェンスはどのような種類の能力をもち、人類に対してどのような戦略的優位性をもつのか? その能力が獲得される要因は何か? 人類が滅亡する危機に直面するリスク、人類との共存の可能性についてどう考えるべきか? これらAIをめぐる真に根源的な問題について著者は、類書をはるかに超えた科学的、論理的な考察を徹底して慎重に積み重ね、検証する。」。

法とルール論として,次の記述は参考になる。

「超絶知能AIエージェントが社会全体で行う行動の作為や不作為は、ルールとして定めることができるのであろうか。おそらく、それにもっとも近いのは、われわれ人間が社会で生活を送る上での行動基準を定めた法律制度ということになるかもしれない。しかし、既存の法律制度は、人類の長年の試行錯誤の末に実現されたものである。なおかつ、変化の速度が比較的ゆっくりした人間社会を対象としている。しかも、法律というものは、内容が現実に合わなければ、必要に応じて個別規定を改めることもできる。そして、もっとも大事な点は、法律制度には、裁判官や陪審員といった人たちが法の番人として存在していて、しかも、彼らは、論理的に可能な解釈であっても、人間の一般常識や普遍的良識という尺度に照らして、法文の解釈が立法者の意思に反することが分明である場合は、その解釈を強いて適用するようなことはしない、ということだ。つまり、詳細なルールからなる非常に複雑なシステム(制度)を綿密に構築し、しかも、完全完璧なシステムを最初の試みで成功裏に完成させて、非常に多様な状況に適切に対応可能なシステムとして誕生させるような所業はおそらく人間の力を超えている」

(4)「ゲームAI技術入門」(著者:三宅陽一郎)

ゲーム開発を通じ,人間の人間の認知,思考,行動とゲームAIを対比する。取り急ぎ次のインタビュー記事を見ると見通しがつく。

・「「シンギュラリティの理論は崩れている」三宅陽一郎が語るAIの社会実装」(https://ainow.ai/2019/07/02/170473/#i-7

「問い:ゲームの人工知能は現実に応用できますか?

三宅氏:難しいと思います。仮想空間ではAIの研究が、かなり加速的にできます。そこでわかってきたことは、仮想空間というのは、ノイズがないということです。センサーで完全に情報が取れ、完全に行為を実現できます。それは現実世界の知能に似ているかというと実はあまり似ていません。本物の知能は常にノイズとか不確定性の中で動いているので、そこが知能の本質だったりするんですね。つまり、人間の感覚や行動は100パーセント信用できません。現実世界でAIを動かすときは、ゲーム空間の純粋なロジック空間で培った人工知能はあまり役に立たないんです。」

「AIのみが加速的に進化して、人間の知能を超えた力を持つとされるシンギュラリティ。しかし、実際は特化型AIを人間がまとうことにより、人間の知能も拡張されていくのだ。AIの発展と人間の知能の拡張が同時に起きることにより、人間とAIの関係性もより進化していくと考えられる。AIの社会実装に向けて、単体のAIの発達だけでなく、人間の1つの機能としてのAIの発達が進むことを期待したい。」。

4.15年間の「空白」を踏まえた弁護士業務の分析-DX論とプロフェッショナル論

(1)DXからみた弁護士業務の分析視角

ⅰ DXの対象は「a顧客体験,b業務プロセス,cビジネスモデル」とする(「一流ビジネススクールで教えるデジタル・シフト戦略」(著者:ジョージ・ウェスタ―マン等))。DXの意義は,「ヒトではなく,電子を走らせろ。電子は疲れない」(「Why Digital Matters?-“なぜ”デジタルなのか」(プレジデント社 企画編集部「経営企画研究会,SAP」)。

分析手法として,顧客体験はデザイン思考,全体を通じてシステム思考(「システム思考がモノ・コトづくりを変える」(著者:稗方 和夫)。が有効である。同書に「DXが注目されるこの時代、時には「AIを使えば問題は解決できる。とにかくAIを入れろ」という乱暴な話を聞くことがあるかもしれない。しかし、AIは魔法の杖ではない。現実には限りある予算や資源を用いて、AIやその他の新技術を活用して目標を達成するには、「どこに(どの業務に)」「何の目的で(どんな効果のために)」導入すればよいのかを見極めなければならない。そのためには、当事者の「人」まで含んだ大きなシステムとして検討対象を認識し、問題設定することが必要である。このような問題設定を本書で紹介したシステム思考に基づいて行い、さまざまな施策・シナリオについてシステム・ダイナミクスを用いて比較検討をすることで、ステークホルダーは主体的に、自信を持って、認識の共有を維持しながら、施策の選択と実行のリードができるだろう。」。

ⅱ 検討

弁護士業務のDXについては上記した「デジタル化して収集した生情報,法情報を,パソコンで稼働させるプログラムによって整理,思考,判断し,結論を表現することを可能とするIT技法の開発」が核心部分だが,百年河清を待っていても仕方がないので,とりあえず身近なIT技法を習得しよう。次の2書がある。

「法律家のためのスマートフォン活用術」(平成25年)

「法律家のためのITマニュアル新訂版」(平成27年)

「法とルール」のあり方については,上記した「スーパーインテリジェンス」での指摘を踏まえて考えていこう。もう少し分析的に考えれば,法律が自然言語によるルール設定であることから,①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや,②適用範囲(解釈)についての法的推論について,これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったことを指摘しておこう。さらに行為規範と評価規範の区別,複雑性への理解の欠如も看過できない。

事実認定については「要件事実と主観的に争点設定した新様式判決書の事実摘示の分裂の影響も大きい」と指摘したが,要は,新様式判決書は,権利の発生,消滅に係わる要件事実を論理的の構成するのではなく,主観的な争点を挙げて,それに沿って一気に(「経験則」によって)「事実認定」をして結論を出すという,情緒的,主観的かつ非科学的な手法になっている。これが「役人根性」と結び付くと何が起こるかは容易に想定できる。

(2) プロフェッショナル論

ⅰ 「プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法 」(The future of the profession)(著者:リチャード・サスカインド, ダニエル・サスカインド)を検討する。

「これまでの専門職は、社会において知識の管理・活用を任された「門番」のような存在であったと位置付けられている。人間が一人であらゆる知識を頭に詰め込み、活用するなどということはできない。そこで私たちは、専門家に個々の専門領域における知識の管理を任せ、その役割に見合う特権的な地位を与えた。しかしいま、社会は「印刷を基盤とした産業社会」から、「テクノロジーを基盤としたインターネット社会」へと変貌を遂げつつある。変化はまだ完了しておらず、移行期特有のさまざまな弊害が表れているものの、「テクノロジーを基盤としたインターネット社会」においては、知識の生産・流通のあり方が大きく変わる。専門家の役割もきく変わる。その仕事は細かなタスクに分解され、他の人々に任せることができるものは委託され、一部は高度に進化した機械によって置き換えられるだろう。こうして知識を生産・流通する新たなモデルが生まれ、専門職に携わる人々も、その中で新たな役割(それは従来の「専門家」とはかけ離れたものになるかもしれない) を見出すようになると考えている。」。

これについては一度Webで論じたことがある。

「専門知識を提供する仕事の明日はどうなるか そのような仕事に携わるすべての人に一読をお勧めする…この本の著者のサスカインド親(リチャード・サスカインド)は,イギリスの法律家で,かねて「The End of Lawyers?: Rethinking the nature of legal services 」や「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future」を書いて,ITが法律業務をどう変えるのかということに論陣を張っていたが,この本は,子のダニエル・サスカインドとの共著で,視野を専門職一般に広げ,ITとAIがこれらの専門職のありかたをどう変えるかを,詳細,緻密に論じている。しかし問題は専門職に止まらず,必要としている者にまともな「知識」を提供することを生業とする仕事は,明日はどうなるかと捉え返すことができる。専門職として取り上げられ(第2章)当該業務へのIT・AIの浸透状況が検討されているのは,医療,教育 ,宗教,法律,ジャーナリズム,経営コンサルティング,税務と監査,建築である。この章だけでも,IT・AIについて,まっとうな観点からの新しい情報として一読に値する。特に医療は,今後完全にIT・AIに制覇されるし,それが必要不可欠なことがよくわかる。その他の業務については,内容も方法も,凸凹がある。

もともとサスカインド親は,80年代に法律のエキスパートシステムの開発を志し,上記の2著作もまさに法律業務をターゲットにしている。したがってこの本が順を追って専門職の業務内容を分析し,いかにその業務の多くがIT・AIによって置き換えられるかを懇切丁寧に論じているのは,主として頑として動かない法律家を対象にしていることは明らかである。

ところで,専門職で使う分析手法を,定性的,定量的と分ければ,定量的な部分が大きいものは,文句なしに,IT・AIになじむし,そちらの方が効率的だから,その仕事の一部がIT・AIに置き換えられていくのは当然だろう。実際上記であげられた専門職の中でこれまでの仕事のありかたを変えることに抵抗があるのは,法律と教育ぐらいではなかろうか。しかも教育は予算が付けば 柔軟に変わるだろうし(宗教,,ジャーナリズムは,その業務内容もIT・AIの利用方法も意味合いが違うだろう。)。したがって,著者の論述の限りで,専門職や,それに止まらず「専門知識」を提供するすべての仕事にとって,この本の分析が核心を突き,大いに参考になるのは間違いない。」。

ⅱ 弁護士業務でのAIの利用についての諸外国の実情

5の第2,2 弁護士業務での利用について,及び同第3,5 ABA TECHSHOW

「Artificial Intelligence and Legal Analytics」(by Ashley, Kevin)

「The End of Lawyers?: Rethinking the nature of legal services 」

「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future」

5 2019年9月7日 弁護士業務改革シンポ 第2分科会「やっときた!もうすぐ実現,e裁判。次はAI考えよう。

(1)目次

第1 裁判のIT化について   1 諸外国の現状について 2 日本の現状について

第2 AIについて   1 AIの現状 2 弁護士業務での利用について

第3 シカゴ調査報告   1 イリノイ州上訴裁判所 2 シカゴ弁護士会  3 カークランド&エリス法律事務所での意見交換  4 本人訴訟団体との意見交換  5 ABA TECHSHOW6 終わりに

(2)裁判のIT化について

ⅰ 日本の現状について…「未来投資戦略2018」

司法府による自律的判断を尊重しつつ,民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT 化の実現を目指すこととし,以下の取組を段階的に行う。

・ まずは,現行法の下で,来年度から,司法府には,ウェブ会議等を積極的に活用する争点整理等の試行・運用を開始し,関係者の利便性向上とともに争点整理等の充実を図ることを期待する。

・ 次に,所要の法整備を行い,関係者の出頭を要しない口頭弁論期日等を実現することとし,平成34 年度頃からの新たな制度の開始を目指し,法務省は,来年度中の法制審議会への諮問を視野に入れて速やかに検討・準備を行う。司法府には新たな制度の実現を目指した迅速な取組を期待し,行政府は必要な措置を講ずる。

・ さらに,所要の法整備及びシステム構築などの環境整備を行い,オンラインでの申立て等を実現することとし,法務省は,必要な法整備の実現に向け,来年度中の法制審議会への諮問を視野に入れて速やかに検討・準備を行う。

・ また,法務省は,オンラインでの申立て等の実現に向けたスケジュールについて,司法府の環境整備に向けた検討・取組を踏まえた上で,来年度中に検討を行う。

ⅱ 裁判のIT化について  諸外国の現状について

6 AI・IT法務

・「ロボット・AIと法」(宍戸常寿編)

・アジャイル開発と契約

・持続可能性を組み込む

この夏の課題-「未来の法律事務所」へ

このWebを「未来の法律事務所」と改題し内容を見直します

これまでこのWebは「弁護士村本道夫の山ある日々 法を問題解決と創造に活かす」として運用してきました。Web作成の最初期は,確かに私自身が山行に明け暮れた「山ある日々」と重なっていましたが,100名山を完登したあとは次第に山から遠ざかり,名前倒れになっていました。愛着はあるのですが,このままでは相変わらず趣味のWebのように見えて中身が伝わりにくいので,未来を見据えた弁護士活動をするという趣旨で「未来の法律事務所」に改題します。この夏の間に必要な手を加えます。

未来?

ただ私にとって未来というのは,なかなか微妙です。昔ならそろそろ「引退」を考えてもいい年になり,心身共前途多難だろうと思う一方,今私が考えていることは,2052年に持続可能な世界を創る活動に弁護士として参画し,これを見届けたいということです。

「2052」というのは,1972年にローマクラブから委託され,ドネラ・メドウザ,デニス・メドウザさんらと一緒に「成長の限界」を書いたノルウエーのヨルゲン・ランダースさんという科学者が,2012年に,その間の40年の地球の劣化を振り返り,40年後の2052年を予測した「2052 今後40年のグローバル予測」という本が予測対象とした年です。そのとき地球は,何とか破滅は逃れるだろうが,その後は決して甘くないという見通しです。

2052年は33年先ですが,平均余命が20年くらいなので,私が2052年を見届けるのはだいぶ苦しい。ただメドウザさんらの本を翻訳したシステム思考家の枝廣淳子さんに「人生のピークを90代にもっていく!」という本があって,これに倣って生きていけば大丈夫。でも枝廣さんには,「朝2時起きでなんでもできる!」という本もあって,徹底の仕方が半端ではない。

「未来の法律事務所」の内容

未来の法律事務所は,「持続可能な世界」を創造するための「法律サービス」を提言,実行することを主目的とします。

「持続可能な世界」を創造するためには,企業は,「持続可能な世界」という枠組みの中で,財の生産・消費と投資をすべきですし,投資家はESG投資という観点からこれを評価します。政府も,「持続可能な世界」を創造するために,立法,政策実行をすべきです。弁護士はそのための企業,政府の活動を,支援し,監視し,是正します。

「法律サービス」には,もちろん,個人や企業の価値・権利を擁護する通常の弁護士としての活動内容も含まれますが,価値・権利も「持続可能な世界」という枠組みの中に位置づけられるべきです。

「未来法律事務所」はこのような観点から「法律サービス」と「持続可能な世界」についての情報を提供し,実行します。

また「DX」もそのための方法として考察し,さらには,「問題解決」に遡って考察します。

「DX」については,プロジェクトに参加する予定があります。「AI時代の弁護士業務」という論考も作成します。

これらの記事については,これまでの記事が生かせるものもありますが,相当部分を新たに書き下ろし,修正する必要があると思っています。

技術的な問題

技術的な問題については,出来るだけ負担を軽くしたいと思います。

Webのベースは今までどおりWordPressで何の問題もないのですが,comのままにするか,orgにするかという問題があります。自分でサーバー管理をすると余計な問題が生じる可能性もありますが,orgの「自由」は魅力的です。だいぶ手を加えるとすると,新たにorgにしたい気もします。新しいEditorのGutenbergをどうするかという問題もあります。少し考えましょう。

テーマは,Lightningにしようと思っています。写真も利用しやすい環境になりましたが,私は写真を撮るのが致命的に下手なようです。だから見栄えはあまり変わらないかもしれません。

なお「未来の法律事務所」はWebの題名です。私はこれまでどおり「カクイ法律事務所」で弁護士として執務しています。

 

 

「高齢者の法律相談に回答する-私たちの生活と終活-」を作成する

-高齢者の法律相談に回答する1-

何をしたいのか

「高齢者の法律相談に回答する-私たちの生活と終活-」という項目を作ってみようと思う。

私も一歩を踏み入れつつある「高齢者」の「生活と終活」についての(私自身も関係する)様々な問題について,「法律問題」を主軸にしながら,もう少し視野を広げて,回答,調査,説明することにしてみたいと思う。

最近は「高齢者」に関する本も多く出されており,参考になるが,一番の問題は,高齢者として,あるいはその家族として,何から手を付ければいいのか,何が問題なのかが,いくら本に囲まれても,それだけでは分からないということであろう。もちろん,地域,職場には相談に乗って下さる方もいるであろうが,この複雑な社会の当事者の状況も千差万別である中で,公私の制度をにらみつつ,様々な問題に適切に回答するのは簡単ではない。

それは私にとっても同じだが,弁護士という立場から検討できることと,私にとっても切実な問題なので,ある水準は確保できるであろう。

当面,次の2冊をとっかかりにしよう。いずれも「辛口」の本である。

超高齢社会の法律,何が問題なのか」 (著者:樋口範雄)

超高齢社会の基礎知識」(著者:鈴木隆雄)

構成

高齢者にとってもっとも切実な問題である「居場所と食動の確保」を柱としよう。その次は,いわゆる終活である。そしてこれらを円滑に進めるためには,現況を記録することが重要だ。これらについて弁護士へ相談したりとホームロイヤーを依頼することも考えよう。

加えて,毎日を充実させるために,「健康」,「生活の彩り」,「高齢者を論じた本を読もう」を取り上げよう。

今考えている構成は,次のとおりだ。

  • 居場所と食動の確保
    • 基本的選択
    • 介護と医療
    • 意思決定と遂行-管理者・補助者の依頼
    • 資金手当
      • 資産
      • 仕事と事業
  • 終活
    • 遺言
    • 終末医療
  • 現況を記録する
  • 相談とホームロイヤー
  • 健康
  • 生活の彩り
  • 高齢者を論じた本を読もう
    • 超高齢社会の基礎知識
    • 日本人の勝算
    • ライフシフト(LIFE SHIFT)
    • ケアを問いなおす
    • 超高齢社会の法律、何が問題なのか
    • 東大がつくった高齢社会の教科書: 長寿時代の人生設計と社会創造 東京大学高齢社会総合研究機構
    • 東大が考える100歳までの人生設計 ヘルシーエイジング 東京大学高齢社会総合研究機構
    • 未来の年表1,2

次の「項目」に関連する記事が載っている。

私が考えること

ここで私が取り上げていることは,主として高齢者個人から見た「問題解決」である。だが高齢者にとっても社会における「価値創造」,社会への「参加」が重要である。それがたとえほほえみであっても。それが生きるということだろう。

 

太陽光発電の規制をめぐる法律問題

太陽光発電設備を規制する条例を作るⅡ

 

太陽光発電をめぐる状況

私は2年前,某市の議員サイドに依頼されて太陽光発電設備を規制する条例案を作成するお手伝いをし,それについて「太陽光発電設備を規制する条例を作る」という記事を作成したが,その条例案はさまざまな政治的駆け引きから「没」となった。某市では今度は一応市が主導して再び条例を作成する運びとなり,私は議員サイドからその条例案についてのコメントを求められたので,まず太陽光発電をめぐる状況を復習し,条例案にコメントすることにした。この記事はそのレジュメに手を加えたものである。なおこの間,「ウエッジ」という雑誌から,太陽光発電を規制する条例についての取材を受けたので,各自治体で制定された条例について若干調べてみたが,その時点では「事業策定ガイドライン」の推奨事項を念頭に置いて制定された条例は見かけなかった。なお本記事掲載後に大津市の条例を見つけた(外部サイトへのリンク)。規制対象が限定されているが,「大津市太陽光発電設備の設置ガイドライン」も作成されており,網羅的なものに見受けられるが,上記の点がどこまで意識されているかは直ちには判断しづらい。

前提となる問題の復習

新FIT法とみなし認定の復習

2017年4月1日,改正された「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下,新FIT法,ないし法)が施行され,これにより再生可能エネルギー発電事業者(以下,事業者)には,ⅰ新FIT法施行後に事業計画書を提出して事業計画認定を受ける事業者と,ⅱ既に設備認定を受け法の規定する事業計画書を提出したみなし認定事業者の2種の事業者が生じている(制度全体についての解説は,資源エネルギー庁の「なっとく再生可能エネルギー」を参照のこと)(資源エネルギー庁の外部サイトへリンク)(「事業計画書」は,「再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書」(外部サイトへのリンク),「再生可能エネルギー発電事業計画書【みなし認定用】」(外部サイトへのリンク))。

新FIT法による新制度について,「事業計画策定ガイドライン」(外部サイトへのリンク業」)(以下「ガイドライン」)は,「新たな認定制度では,事業計画が,①再生可能エネルギー電気の利用の促進に資するものであり,②円滑かつ確実に事業が実施されると見込まれ,③安定的かつ効率的な発電が可能であると見込まれる場合に,経済産業大臣が認定を行う(注:法9条3項)。さらに,この事業計画に基づく事業実施中の保守点検及び維持管理並びに事業終了後の設備撤去及び処分等の適切な実施の遵守を求め,違反時には改善命令や認定取消しを行うことが可能とされている。固定価格買取制度は,電気の使用者が負担する賦課金によって支えられている制度であり,認定を取得した再生可能エネルギー発電事業者は,その趣旨を踏まえた上で,法第9条第3項並びに施行規則第5条及び第5条の2に規定する基準に適合することが求められ,また,法に基づき事業計画を作成するに当たっては,施行規則様式中に示される事業計画書記載の表に掲げる事項を遵守することへの同意が求められる」と説明している(新FIT法の概要は,資源ネルギー庁がした「改正FIT法に関する直前説明会」の資料(外部サイトへのリンク)にまとめられている)。

「ガイドライン」は,事業者が新FIT法による事業計画を立てて事業認定を受け,それに基づいて実施する発電事業のあり方について,経産省(資源エネルギー庁)が作成したものである。この点「ガイドラインは,事業者が新FIT法及び施行規則に基づき遵守が求められる事項,及び法目的に沿った適切な事業実施のために推奨される事項(努力義務)について,それぞれの考え方を記載したものである。ガイドラインで遵守を求めている事項に違反した場合には,認定基準に適合しないとみなされ,新FIT法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)に規定する措置が講じられることがあることに注意されたい」,「努力義務として記載されているものについても,それを怠っていると認められる場合には,新FIT法第12条(指導・助言)等の対象となる可能性がある」とされている。そして施行規則5条等は,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を営むに当たって,関係法令(条例を含む。)の規定を遵守するものであること」,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備について,当該設備に関する法令(条例を含む。)の規定を遵守していること」,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を円滑かつ確実に実施するために必要な関係法令(条例を含む。)の規定を遵守するものであること」として,法令遵守の中に条例が含まれることを明記しているので,遵守が求められる事項には条例も含まれる(「事業報告書」には,「再生可能エネルギー発電事業を実施するに当たり,関係法令(条例を含む。)の規定を遵守すること」に合意することが求められている)。

このように事業者には,発電事業を遂行する上での,遵守事項と,推奨事項が定められている。前者には,FIT法・同施行令・同施行規則,その他の法律・規則,及び条例・規則がある(法令は,e-Gov法令検索で調べるのがよい)。後者は,これまでの事例の積み重ねから選択された「法目的に沿った適切な発電事業実施のために推奨される事項(努力義務)」であるが,「それを怠っていると認められる場合には,FIT法第12条(指導・助言)等の対象となる可能性がある」に止まる。

したがって,条例作成にあたり,推奨事項を条例化すれば,それが施行規則5条の「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備について,当該設備に関する法令(条例を含む。)の規定を遵守していること」との規定によって遵守事項に格上げされ,新FIT法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルートが適用されることになる。

なおみなし認定事業者も,「ガイドライン」や「法(条例を含む)」を遵守しなければならないが,設備認定を受けたにとどまっている事業者からすでに発電事業を開始している事業者まで様々な段階の事業者がいるので,ガイドラインや条例の,どの条項を遵守しなければならないかが問題となる。法・規則には経過規定があるので解決済みだが,ガイドラインや条例の適用関係はは,若干,問題が複雑になる(事業認定済みの事業者に条例を適用する場合も同様の問題が生じる)。

なお条例作成にあたって,推奨事項については担当官庁によって充分な検討がなされているであろうから問題が生じる可能性は低いが,推奨事項ではないその他の事項を条例に盛り込もうとする場合,新FIT法との関係で違法ではないか,憲法との関係で問題はないかとの検討が必要である。

その後の経緯…未稼働案件について

未稼働案件と新FIT法

旧FIT制度は,事業開始時から20年間,設備認定時の固定買取価格で買い取るというものであったが,制度発足時の固定買取価格は,開発時の高額の設備費用に対応して高額の固定買取価格が設定され,普及につれて設備費用も低額化するので,徐々に固定買取価格を低額化していくことが想定されていたが,認定から事業開始までに特段の制限がなかったことから,設備費用が低額化してから設備を設置して当初の高額な固定買取価格が得られるという見通しに基づく「投資事業」を産み,未稼働事案及び詐欺事案が多発した。

これについて新FIT法は,2017年3月31日までに,(1)運転開始している,又は(2)電力会社から系統に接続することについて同意を得ている(接続契約を締結している)条件を満たさない場合,原則として認定が失効するとした(実際に失効した事案もあるが,多くはなさそうだ。)。ただし,以下の場合には,例外的に認定失効が一定期間猶与され,その猶予期間中に接続の同意が得られれば,接続の同意を得た日(接続契約を締結した日)をもって新制度での認定を受けたものとみなされた。(【例外(1)】平成28年7月1日以降に旧制度での認定を受けた場合…旧制度での認定を受けた日の翌日から9ヵ月以内に,接続契約の締結が必要。【例外(2)】A.平成28年10月1日~平成29年3月31日の間に電源接続案件募集プロセス等を終えた場合又はB.平成29年4月1日時点で電源接続案件募集プロセス等に参加している場合)

そして,①2016年8月1日以降に接続契約を締結した案件は,運転開始期限を3年と設定したが(開始が遅くなると買取期間が短くなる),②2016年7月以前に接続契約を締結済みの案件は運転開始期限を設定しなかった。

「FIT制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応」について

しかし上記②についても未稼働のものが多く,2019年4月1日から「未稼働案件への新たな対応」がなされている。(「FIT制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応」(その説明について(外部サイトへのリンク1),(外部サイトへのリンク2))。

これは2012年度~14年度にFIT認定を受けた②について,「運転開始準備段階に入った=系統連系工事の着工申込みを送配電事業者が受領」していないものは,受領日から2年前の年度の調達価格が適用されることになり(申込みが受領されていれば高いまま),また施行期日の1年後が運転開始期限とされ(この施行期日以降に着工申込みが受領されたものは,最初の着工申込みの受領日から1年を運転開始期限とする),期限後は買取り期間が短縮されることになる。更に対象年度が拡大されることも検討されている。

現状

「なっとく再生可能エネルギー」の「事業計画認定情報 公表用ウェブサイト」に,2019年2月28日時点の,ある限定された範囲の認定情報が掲載されている。これから某市だけのものをまとめてみた。約2300件あるので,あまり失効していないようだ。

太陽光発電事業を規制する条例・規則の検討

太陽光発電事業の実施過程とその規制

ガイドラインは,事業者の発電事業の実施について,第1節企画・立案(1.土地及び周辺環境の調査・土地の選定・関係手続,2.地域との関係構築),第2節設計・施工,第3節運用・管理,第4節撤去及び処分(リサイクル,リユース,廃棄)に分けて遵守事項,推奨事項を掲記している。

住民,市サイドから大きくまとめれば,実施される事業について,Ⅰ.①設備が設置される場所が適切なこと,②設置される設備の具体的な態様が適切なこと(景観との関係でのセットバック,高さ制限と騒音等),③運用・管理が適切に実行されていること,④適切に撤去及び処分がなされること,Ⅱ.Ⅰについて市,住民が事業内容を把握し,少なくても住民が意見をいい,協議できること等が重要であろう。Ⅲガイドラインに記載されていない事項で必要なものは,条例化することも検討する必要があるが,FIT法や憲法との関係を検討する必要があるのは,上述したとおりである。

太陽光発電事業を規制する条例の基本的な問題点-総論

法律と条例の関係

法律と条例の関係について,整理する(今回は,「事例から学ぶ 実践! 自治体法務・入門講座」(著者;吉田勉)(Amazonにリンク)による)。

未規制

A 法律が積極的に空白化   ✕

B 法律が無関心 〇

規制領域

C 法律とは別目的・趣旨 〇(※)

D 法律と同一目的・趣旨

  最大限規制立法 ✕

  別段の規制を容認 〇

※1 ただし,法律の意図する目的・効果を阻害しないこと

※2 上乗せ規制,横出し規制

今回のケースは,FIT法が,「法令(条例を含む。)」としていることから通常のケースとは異質だが,B,C,Dの各場合があると考え,「法律の意図する目的・効果を阻害しないか」,「別段の規制を容認」しているかを検討すればよいが,あまり問題にはならないだろう。

新FIT法の事業認定と本条例案の許可制について-行政処分

行政処分について

両者とも「申請に対する処分」(行政処分)であり,講学上の許可,特許,認可のうち,「許可」である。

この点の理解のため,前掲書を適宜要約して引用する。

「行政処分とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」

「行政処分には,そのタイプとして,申請を待って処分するものと,特定の問題が生じたときに相手方の意向とは関係なく処分を行うものがあります。行政手続法では,前者を「申請に対する処分」,後者を「不利益処分」として,その実施の事前手続を定めている」

「行政処分といっても様々なものがあり,行政側がかなりの自由度があるものと,基本的には要件が具備されれば半ば自動的に処分がなされるものなど,そのレベルも様々です。また,行政処分のうち,国民の申請をもとに処分するものとしては,「許可」というのがその典型ですが,名称としては,許可のほか,「免許」(道路交通法の運転免許),「確認」(建築基準法),「認定」(土地収用法),「承認」(河川法の流水占用権の譲渡承認)など様々な名称があります。 しかしながら,これらは,法的な性格の違い(例えば,その許可等の裁量の度合い,無許可等の場合の効果等)はその名称からのみでは判断がつきませんので,行政法学では,許可,特許,認可に分けて考える」

「「許可」の場合は,これは本来自由にできるんだけれど,社会一般への悪影響を防止するため一応法律で禁止しておき具体的な申請に応じて不適当なところがなければ許可(禁止を解除)するという形です。許可することが原則ということになります。医師免許などは簡単な許可ではないだろうとお思いかもしれませんが,医学部を出て,国家試験に合格すれば誰でも免許がとれますので,これも許可が原則ということです。一方,「特許」の場合は,特別の許可といった意味合いがあり,公益事業の許可のように,需給調整を含めて政策目的等に合致して初めて許可できるようなものをいいます。公共事業用地の強制収用を可能にする土地収用法上の事業認定もこれに該当します」。

FIT法の事業認定と条例による許可の関係

FIT法の事業認定と条例による許可の関係が問題となる。

A FIT法により事業認定を受けている同じ事象について(上乗せ・横出し規制の場合を除き),条例で許可,不許可の判断をすることはおかしい。ただなぜか,しっかりした「事業認定通知書」(再生可能エネルギー発電事業計画の認定について(通知))が見当たらないので,いったい事業者が,文書上,どの範囲について事業認定を受けているのかがはっきりしない(ただ認定済みの事案について,遡って「設備の所在地」は,動かせないだろう)。

B 市と住民は,事業者が事業計画書に記載し認定を受けた事業内容について,適法に履行して安全性が確保されているかを監視したいが,それは条例による「許可」「許可取消し」の問題ではない。条例による検査によって,事業者の不遵守状況が分かれば,是正を求めることは可能だろうが,是正されなければ情報提供(通報)して,新FIT法による処分(法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルート)を求めることになる。認定の取消によって接続契約は解消される(お金が払われなくなる)というのが,もっとも実効性のある適法性の確保手段である。

また条例固有の許可要件に違反していることが分かれば,これについて条例による手続によって是正を求め,是正されなければ条例上の許可を取り消すというルートもあるが,これについても公表,罰則あるとしても,結局,許可が取り消された(条例に違反した)として,新FIT法による処分(法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルート)を求めなければ実効性がない。情報提供(通報)に「許可取消し」の場合が含まれていないのは,「許可取消し」の性質の誤解である。

C 太陽光発電事業を規制する条例制定の難しい点は,事業者にみなし認定事業者と,新FIT法適用事業者がおり,それぞれⅰ土地確保,ⅱ土地・建物の設計手続の進展と機材調達,ⅲ事業計画の認定(提出)時(ⅱとⅲは逆転するケースもあるだろう),ⅳ施工時が異なっており,これから施行する条例案で,どの段階にある発電事業を規制できるのかということである。なお新FIT法は,ⅲの事業計画の認定(提出)時に,法令(条例を含む)に適合することを求めている。

2年前の私案(「太陽光発電設備を規制する条例を作る」に掲記した条例案)は,ⅲ業計画の認定(提出)以前に,事業者に「届出」をさせて審査し,条例化した全ての推奨事項の実現を確保しようというものだったが,今回の条例案は,ⅳの前に設備設置申請-許可制を入れ込み,設備設置について条例による「規制の遵守」(セットバック,高さ制限,騒音防止等)を達成しようとするものとなっている。

設備設置前に条例による許可申請をするのであるから,上記のⅠ②「設置される設備の具体的な態様が適切なこと」については,おおよそ実現可能であるし多くの場合それで問題ないかもしれない(事業者は,多少無理をしてもそれに従うであろう)。ただ事業認定(提出)時に条例が施行されていない状態で設備の準備を進めていた事業者について,その後,準備していた設備の変更等をしなければならず,それに多額の費用がかるとすれば,損害賠償の問題が発生するので,このような場合は,できるだけ努力することで可とすべきであろう(なお,新FIT法の[事業報告書」には「構造図」の添付,提出が求められている)。

2年前の私案の経過措置は,上記のⅠ②「設置される設備の具体的な態様が適切なこと」については,適用除外としたが,上記のような考えに基づき,入れ込むことも可能であろう。

上記Ⅰ①「設備が設置される場所が適切なこと」については,事業計画提出時に条例が施行されていないと駄目である。

各論と感想

これからは条例案自体について検討することになるが,現時点ではそれを記事に掲載することは差し控えておこう。

しかし新FIT法,施行令,施行規則の体系は複雑になりすぎており,規制という面からだけ検討しようとしても骨が折れる。役所のWebに掲載されている施行規則(特に様式)にはミスプリが目立つし,それが本当に整合的なのかの,検証はほぼ不可能である。またWebの記事も乱雑である。しかも対象案件は膨大で,多額のお金も絡んでおり,更に地方分権によって国は地方を手足のように使えなくなった。

国政レベルの政策遂行のあリ方が,問われているというべきであろう(半分本気だが,整理には,AIの活用の余地があろう)。

 

太陽光発電資料集

(太陽光発電の基礎知識)

  • 「太陽光エネルギーによる発電」(著者:宮本潤)(Amazonにリンク
  • 「かんたん解説!!1時間でわかる太陽光発電ビジネス」(著者:江田健二)(Amazonにリンク
  • 「世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編」(著者:安田陽)(Amazonにリンク
  • 「世界の再生可能エネルギーと電力システム 経済・政策編」(著者:安田陽)(Amazonにリンク
  • 「再生可能エネルギーのメンテナンスとリスクマネジメント」(著者:安田陽)(Amazonにリンク

(FIT法の説明)

(太陽光発電の問題点)

(条例)

  • 「事例から学ぶ 実践! 自治体法務・入門講座」(著者;吉田勉)(Amazonにリンク
  • 「1万人が愛した はじめての自治体法務テキスト」(著者:森 幸二)(Amazonにリンク
  • 「自治体環境行政法」(著者:北村喜宣)(Amazonにリンク
  • 「自治体政策法務講義 改訂版」(著者:礒崎初仁)(Amazonにリンク
  • 「基本行政法 第3版」(著者:中原茂樹)(Amazonにリンク

 

 

 

 

 

「パワハラ」の法律問題

「 ジュリスト 2019年4月号(1530号)の特集「パワハラ予防の課題」」を読む。

これは久しぶりの法律記事である。

「パワハラ」問題の現状

法令改正

今回のジュリストの特集は「パワハラ予防の課題」である。

2019年3月,パワハラに関する法案(「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(旧称「雇用対策法」)の改正案)が国会に提出されたという報道があったが,「新しい法令の成立を調べる」から,内閣法制局,衆議院の動きをみても見当たらず,ここ何日かあれこれ探していたのだが,結局,3月8日に,「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」として国会提出されていることが確認できた(その内容は,厚労省のWebサイト(外部サイトの記事にリンク)に掲載されている。ただこれは従前の審議会等の経緯を追っている人には分かるのだろうが,そうでないと見当が付かない。関連する他の法令改正案とドッキングさせることで法案名が隠されてしまう提出手法はいかがなものだろうか(いろいろなものが含まれるだろうと予想が付く場合はまだいのだが,本件は「等」からだけで見当をつけなければならない)。

それまでの検討過程

なお法案提出までには,政府内部で,「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」,「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」,「労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)」等が開催され,報告書が作成されたり,建議が行われたりしている(その内容は,後記原論文(本ジュリスト35頁)の記載からたどれる)。

Webサイト「あかるい職場応援団」による情報提供

また,厚労省は従前から,「パワハラ裁判事例,他者の取組など,パワハラ対策についての総合情報サイト「あかるい職場応援団」」(外部サイトの記事にリンク)を設け,情報提供している。最近,厚労省に寄せられる労働相談で最も多いということだから(後記原論文),厚労省の対応の省力化を兼ねたサービス提供であろう。早晩,改正法令を踏まえた内容に修正されるだろうが(大した修正ではない),現状でも,「パワハラ基本情報」,「パワハラで悩んでいる方」,「管理職の方」,「人事担当の方」,「その他」,「相談窓口のご案内」,「Q&A」等から構成され,「動画で学ぶパワハラ」や「パワーハラスメントオンライン研修」もあり,非常に使いでのある,力の入ったサイトである(ただ,焦点を絞って検討しないと散漫になるが)。なお,これについては,次ページでサイトマップから飛べるようにした。

「パワハラ」問題の基礎知識

パワハラの定義と類型

職場においては,多種・多様な問題が生じる。「パワハラ」は,職場におけるある種の不適切な人間関係(言動)の切り取りと,それへの対応の問題である。

「パワハラ」は,次のように,定義としての3要素,典型的な6類型に整理されている。

パワハラの3要素

  • ①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  • ②業務の適性な範囲を超えて行われること
  • ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること,又は就業環境を害すること

パワハラの6類型

  • ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • ②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
  • ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害)
  • ⑤過小な要求(業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  • ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

新法案の内容

新法案は3要素を,「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③その雇用する労働者の就業環境が害されること」とし(少し気になるのは従前の整理から「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること」が消えたことである。「パワハラ」の本質的要素は「人格攻撃」であるとされるが,新法案からそれが読み取れるであろうか)。

そして、事業主は、「パワハラ」が生じないように「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」との事業者の義務が法定されたのである。

ただ新法案が成立してもその適用は大企業は2020年4月,中小企業は2022年4月からとされている。

問題の考え方

「パワハラ」の限定

私は,新法案が定義を設けて「パワハラ」を限定して対応しようとすることについては賛成である。「パワハラ」といわれることで,職場の人間関係が悪化し,生産性が著しく低下すること,なにより職場が楽しくなくなるような言動は,なくすのが良い。

激動する現代社会において,職場におけるコミュニケーションの確保が難しくなりつつあるのは客観的な事実であると考えるが,それに苛立つ上司が「パワハラ」領域に足を踏み入れることも多いであろうが,一方,上からものをいわれた経験が乏しい部下が,上司の対応を「パワハラ」であると弾劾することも増えている。そのような場合,「パワハラ」の具体的な定義がないと,「パワハラ」という単語だけが一人歩きしてすべてが「パワハラ」で括られてしまい(この現象も現代社会の大きな特徴だ),上司も「パワハラ」弾劾にどう対応していいか困惑する場面が増えている。

しかし,上記のとおり「パワハラ」は,職場において生じる不適切な人間関係(言動)のうち,優越的な関係に基づき,必要かつ相当な範囲を超える,労働者の就業環境が害される行為であるとされており,このように定義されると,上司も,部下も,会社も,当該言動がそれに該当するか否か,検討する「余裕」を持つことができ,具体的な対応を検討することができる。少なくても上司が何かを命令したり,叱責したりするだけで「パワハラ」かなあという,疑心暗鬼に陥らなくて済む。

「パワハラ」から漏れる行為

職場においては「パワハラ」の定義には該当しないが,民法上の不法行為には該当するような様々な不適切な行為が生じることが考えられるが,それは事業者が対応すべき「パワハラ」の問題ではないとしても,その多くは,事業者の安全配慮義務(労働契約法5条)や職場環境配慮義務(労働契約法3条)に関する問題として,事業者は対応しなければならないだろう。又いわゆる「逆パワハラ」ということがいわれるが,「(ある特別な知識等を有している)優越的な関係を背景とした言動」とした「パワハラ」として扱うのかどうかという問題がある。そのような事例も類型的に多くなりつつああることは事実だとしても,「パワハラ」とは別に扱うかう方が適切なケースが多いだろう。「パワハラ」とはこういうものだという共通認識が失われることは,適切なことではない。

問題の整理

そうすると,①民法上の不法行為に該当する「パワハラ」と(この場合は,行為者の不法行為による損害賠償責任や労災補償責任,事業者の安全配慮義務や職場環境整備義務に違反する賠償責任の問題が生じる),②該当しない「パワハラ」が考えられが,事業者は,両者について,新法案によって「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」。

また,③「パワハラ」には該当しないが民法上の不法行為に該当するものについては事業者の安全配慮義務や職場環境整備義務に違反する賠償責任の問題が生じるので,一般的なコンプライアンス上の対応をしなければならない。

④「パワハラ」にも民法上の不法行為にも該当しない行為については,毅然として対応する叡智も必要である。

実務的な対応

私はある企業のコンプライアンス委員会の委員長をしているが,委員会はこれまで,従業員からのコンプライアンス違反の通報への対応(調査,取締役会への助言・勧告)を主としていたが,パワハラ,セクハラ,マタハラ,育児・介護ハラ等の法定を契機に,現在,これらについての相談窓口としても機能させ,これに適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる仕組みを作る準備をしている。仕組みづくりができたら,モデルケースとして紹介したい。

ジュリストの特集「パワハラ予防の課題」について

その構成と内容

今回の特集は,下記①の座談会,及び②~⑤の論文から構成されている。

【特集】パワハラ予防の課題

■座談会

①現場から考えるパワハラとその予防 原 昌登/久保村俊哉/白井久明/杉浦ひとみ

■論文

②パワーハラスメントとは―労働法の見地から 著者:原 昌登

③スポーツ界のハラスメント問題―人間関係と団体のガバナンスにみる日米比較 著者:川井圭司

④学校現場におけるパワーハラスメント―子ども法の視点から「教育」を問い直す 著者: 横田光平

⑤パワーハラスメントとは―組織論の見地から 著者:太田 肇

①について

労働法学者,企業の担当者,スポーツ界のパワハラに関与している弁護士,学校現場におけるパワハラに関与している弁護士による座談会である。企業の担当者の逆パワハラの指摘がとても印象的だった。

職場における「パワハラ」これまでの記述によってかなりの情報がカバーされているが,予防のポイントとして,ⅰパワハラに当たるか否かイマジネーションを働かせること,ⅱ指導方法を学び共有すること,ⅲ外部の目が届く環境を作ること,ⅳ相談できる環境を作ること,ⅴ粘り強く研修を続けることなどが挙げられた事を「紹介しておく(このの整理は②の論文による。)。

その他について

②は要領よくまとめられている。①の座談会も含め,スポーツ界(③論文),学校現場におけるパワハラ(④論文)については,スポーツ界については,基本的には任意であること,学校現場は「優越的な関係を背景にした教育」の問題であることから,どう考えるべきか,直ちには考えがまとまっていない。⑤は「組織論の見地から」というが,いかにも視野が狭い気がする。機会があれば考察を深めたい。

Webサイト「あかるい職場応援団」のサイトマップに続く。

AI問題を考える

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告3

 

この投稿は,固定ページ「世界:複雑な問題群」「世界の続き:AI問題」の記事の前半部分を投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「世界の続き:AI問題」をご覧ください。

 

「世界:複雑な問題群」各論の続き

AI問題

<コメント>

この項目では「AIをめぐる諸問題」(PC・IT技法も含めて「AI」と呼称する)について,「AIとは何か」,「AIにできることとその限界」,「AIがもたらすもの」,「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」,「AI本を読む」に項目立てして考察する。

このうち「AIの限界」については,人の知能との差異(フレーム問題,表象・自然言語)と,帰納推論・指数爆発の観点から考察しよう。

「AIのもたらすもの」は「仕事の変容」「世界(社会・経済)の変容」,「企業・政府,及び個人の生活の変容」に分けて検討してみよう。

「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」には,2020年2月末までに執筆する予定の原稿に併せて(「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告1」参照),その準備となる記事を掲載していく。

<この項目に関連する記事>

このWebでAIに関連する記事を掲載する(作成中)。

AIとは何か 作成中

AIにできることとその限界

<コメント>

PCにできることは,データを入力し,計算。推論し,出力することである。PCを人間の知能に近づけようというのがもともとものAIという試みだが,人間の知能のメカニズムはほとんど解明(再現)されておらず,PCによる計算・推論では当面近似すらできそうもない問題(フレーム問題,表象・自然言語の意味等)がある(限界1)。

一方,計算・推論のある領域では,PCは最初から人間の知能をはるかに凌駕している。特に,最近のPCは,扱えるデータの量や質,計算の能力や方法に大きな進歩があり,従前,人間の知能の領域と理解されていた領域でもPCによる計算・推論が優越する場面が多く登場している。それをAIと呼称することも多い。ただし,この場面ではその方法の多くが帰納推論であること,指数爆発を招く方法が多いこと等からの限界もある(限界2)。

<検討すべき何冊かの本>

作成中

<この項目に関連する記事>

作成中

AIがもたらすもの

<コメント>

「AIがもたらすもの」を,①「仕事の変容」,②「世界(社会・経済)の変容」,③「企業・政府,及び個人の生活の変容」に分けて検討してみよう。ただし,これはその主張が,「AIにできることとその限界」を踏まえての議論か,少なくてもそれを乗り越えようとしているか否かで,私の評価は大きく異なる。

・①「仕事の変容」について

①「仕事の変容」の問題は,ある意味で簡単なことである。現在,あるいは近未来に,PC(AI)ができるような仕事は,採算ベースに乗る限り,人からAIに置き換わるということである。

現在,私たちがしている仕事を,固定頭脳型(デスクワーク,対応等),移動頭脳身体型(多くの現場の仕事)に大別すると,前者のうちの計算や単純に自然言語を使用する仕事(単純型)は,早晩,AIに置き換わるであろう。複雑に自然言語を使用する仕事(複雑型)も,AIに追いかけられるだろう。ただフレームの選択,決断はAIには難しい。弁護士の仕事は,両者を含むが,日本の弁護士の仕事は複雑型も多いし,フレームの選択,決断に関わる部分も多いので,すぐにはなくならない(だろう)。

生命に基づく人間の身体機能をAIが代替するのは困難であるから,移動頭脳身体型は,当面なくなる見通しはないであろう。

・②「世界(社会・経済)の変容」,③「企業・政府,及び個人の生活の変容」について

②はマクロ問題,③はミクロ問題といえるが,一見,③の議論が多そうだが,②の方がまともな議論が熱心に行われている。ただしこれは極めて「複雑な問題」であるから,真偽の見極めは困難である。③は,その性質上,偶然が支配する部分が多く,「結果的」以上のことがいえるかどうか。じっくり考えていこう。

<検討すべき何冊かの本>

検討中

<この項目に関連する記事>

検討中

「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」

先日,ある法律雑誌から,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについて原稿の執筆依頼を受けた。私は「AIと弁護士業務」について昔から興味は持ち,このWebで目についた本や催しを取り上げ,その時々,感想を述べている。ただ,網羅的,かつ学問的な内容の原稿はどうもねとも思ったのだが,「それならちょうどよい,締め切りは2020年の2月末なので充分に時間はある」といわれ,その気になってしまった。

ただし酔生夢死のまま,2020年の2月を迎える危険性も大いにあるので。折に触れて原稿の構想,調査,執筆等々の進捗状況を記事にしていけば,何がしかの役に立つだろうと思い立ち,随時「執筆状況報告」を書き,ここにリンクさせることにする。

<執筆状況報告>

いてみたすることにした。まず「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについての分析視角をこわごわと言葉にしてみよう。

AI本を読む

まずホットなテーマである「AIがもたらすもの」に関係する本を紹介し,その上で,AIの基礎となる「基礎」と「技法」,更に「法律家のAI論」を紹介しよう。「技法」に掲載した本と「PC・IT・AI技法」に掲載した本,「法律家のAI論」と「IT・AI法務」に掲載した本はほとんど重なっていると思うが,その関係は追って調整する。

以下,私の手元にある本の紹介だが,省略する。

AIと法・再考

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告2

 

この投稿は,固定ページ「AIと法」の記事を大幅に改定したので,投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「AIと法」をご覧ください。

「AIと法」を考える

「AIと法」の問題の所在

3層の問題

「AIと法」という問題を考えるとき,次の3つの層の問題が考えられる。

Ⅰ まず,IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらす(ことができる)かという問題である。

Ⅱ 次に,①AIが将来,実用的なレベルに成熟して社会に浸透した場合に,どのような法律問題が生じるのか,②現在のITは「AI以前」であるとしても,実際は現在のIT・AIに生じている法律問題を解決するさえ困難なのではないか ,という問題である。

Ⅲ 最後に,法律に関連する業務で,IT・AIを使いこなすためにはどうすればいいのかという問題である。

検討

キラキラした魅力を発しているのは,もちろん,Ⅰである。対象には司法(裁判)のみならず,立法手法や行政過程も含まれるし,更には任意のルールや社会規範も含まれるであろう。私が今後考え,追い詰めていきたいのも,もちろんⅠである。これについては,「AIと法」のメインテーマとして今後「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」(作成中)において,集中的に検討し,論考を掲載していきたい

法律家はⅡ①を論じるのが好きだが,これはあくまで仮想の問題である。Ⅱ②について,現に頻発しているシステム開発やネットトラブルをめぐる紛争に,司法システムはきちんと対応できているだろうか。Ⅱについては「IT・AI法務IT・AI法務」で ,基本的な検討をする。

Ⅲは,法律家の「仕事の仕方」-生産性,効率性-の問題である。本項目は,「弁護士の仕事を知る」の下位項目であるから,対象を専ら弁護士業務に絞ってここで検討しよう。

その前提として,上記ⅠないしⅢを貫く「AIと法」の最も基本的な問題を,「AIに期待すること・しないこと」として指摘しておきたい。

AIに期待すること・しないこと

AIに期待すること

「私は,現時点で,(少なくても我が国の)法律家がする業務には大きな二つの問題があると考えている。ひとつは,法律が自然言語によるルール設定であることから,①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや,②適用範囲(解釈)に関する法的推論について,これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったこと。ふたつめは,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においても,ベイズ確率や統計等の科学的手法がとられていなかったことである」と指摘し,これを変える「方向性を支えるのがIT・AIだとは思うが,まだ具体的なテクノロジーというより,IT・AIで用いられる論理,言語,数学(統計)を検討する段階にとどまっているようだ。前に行こう。」と書いた(「プロフェッショナルの未来」を読む)。

「そしてこれが実現できれば,「法律の「本来的性質」が命令であろうと合意であろうと,また「国家」(立法,行政,司法)がどのような振舞いをしようと,上記の観点からクリアな分析をして適切に対応できれば,依頼者に役立つ「専門知識」の提供ができると思う。」」とも考えているのである。

イギリスでの議論

「プロフェッショナルの未来」の著者:リチャード・サスカインドには,「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future 」(by Richard Susskind)があり,これは,上述書の対象を法曹に絞り,さらに詳細に論じているようだ。

これに関連するKindle本を検索していて「Artificial Intelligence and Legal Analytics: New Tools for Law Practice in the Digital Age」(by Kevin D. Ashley)を見つけた。でたばかりの新しい本である。そしてその中に(1.5),内容の紹介として次のような記述があった。なお二人ともイギリスの人である。

Readers will find answers to those questions(How can text analytic tools and techniques extract the semantic information necessary for AR and how can that information be applied to achieve cognitive computing?) in the three parts of this book.

Part Ⅰ introduces more CMLRs developed in the AI&Law field. lt illustrates research programs that model various legal processes:reasoning with legal statutes and with legal cases,predicting outcomes of legal disputes,integrating reasoning with legal rules cases,and underlying values,and making legal arguments.These CMLRs did not deal directly with legal texts,but text analytics could change that in the near future.

Part Ⅱ examines recently developed techniques for extracting conceptual information automatically from legal texts. It explains selected tools for processing some aspects of the semantics or meanings of legal texts,induding: representing legal concepts in ontologies and type systems,helping legal information retrieval systems take meanings into account,applying ML to legal texts,and extracting semantic information automatically from statutes and legal decisions.

Part Ⅲ explores how the new text processing tools can connect the CMLRs,and their techniques for representing legal knowledge,directly to legal texts and create a new generation of legal applications. lt presents means for achieving more robust conceptual legal information retrieval that takes into account argument-related information extracted from legal texts. These techniques whihe enable some of the CMLRs Part Ⅰ to deal directly with legal digital document technologies and to reason directly from legal texts in order to assist humans in predicting and justifying legal outcomes.

Taken together, the three parts of this book are effectively a handbook on the science of integrating the AI&Law domain’s top-down focus on representing and using semantic legal knowledge and the bottom-up,data-driven and often domainagnostic evolution of computer technology and IT.

このように紹介されたこの本の内容と,私が「AIに期待すること」がどこまで重なっているのか,しばらく,この本を読み込んでみようと思う。

AIに期待しないこと

実をいうと,「IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらすか?」という質問に答えれば,今後,我が国の法律実務の現状を踏まえ,これに対応するために画期的なAI技法が開発される可能性はほとんどないだろう。我が国の法律ビジネスの市場は狭いし,そもそも世界の中で日本語の市場自体狭い。開発のインセンティブもないし,開発主体も存在しない。ただ,英語圏で画期的な自然言語処理,事実推論についての技法が開発され,それが移植できるこのであれば,それはまさに私が上記したような,法律分野におけるクリアな分析と対応に応用できるのではないかと夢想している。

したがって当面我が国の弁護士がなすべきことは,AIに期待し,怯えることではない。今の時代は誰でも,自分の生活や仕事に,PC(スマホを含む)・IT・AIの技法を活かしている。弁護士も,仕事に役立つPC・IT・AI技法を習得して,業務の生産性と効率性の向上に力を注ぐことが大切ではないだろうか。それをしないと,弁護士の仕事をAIに奪われるのではなく,他の国際レベルで不採算の業種もろとも,自壊していくのではないかと,私には危惧されるのである。

弁護士の仕事とPC・IT・AI技法

以下,弁護士の仕事の限りで,役に立つPC・IT・AI技法を簡単に紹介する。ただし,現状の略述であって将来を見越したものではない。その前に,私の「IT前史」を振り返っておこう。

私が2004年に考えていたこと

私は,弁護士会の委員会でITを担当していた2004年に「ITが弁護士業務にもたらす影響」という論考を作成している(2004年に私が考えていた「ITが弁護士業務にもたらす影響」参照)。

その中で「デジタル化して収集した生情報(注:事実情報),法情報を,弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理,思考,判断し,結論を表現することを可能とするツールの開発が急務である。例えば,弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(弁論要旨や最終準備書面)を作成するとき,必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり,しかもなお不十分だと感じることはよくあるのではないだろうか。あるいは供述の変遷を辿ったり,証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したいこともある。このような作業(の一部)は,パソコンの得意な分野である。また少なくても,当方と相手方の主張,証拠,関連する判例,文献等をデジタル情報として集約し,これらを常時参照し,コピー&ベイストしながら,書面を作成することは有益であるし,快感さえ伴う。これらの書面作成をいつまでも手作業ですることは質的にも問題であるし,実際これまで弁護士は忸怩たる思いを抱えながらこれらの作業をこなしていたのではなかろうか。目指すは,当面は進化したワードプロセッサー,データプロセッサーのイメージであるが,データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」があることも充分にあり得る。これらのの開発には,練達の弁護士の経験知をモデル化する必要があり,弁護士会がすすんで開発に取り組む必要があろう。」と指摘している。今振り返るとこれこそ,弁護士業務におけるAIの活用そのものであるが,これは,当分,実現される見通しはない。

私が2017年に考えていたこと

その後,2012年に画像認識に劇的な変化があったが私はそんなことも知らず,だんだん世間がAIについて騒ぎ出した2017年9月になって「弁護士として「AIと法」に踏み出す」を作成している。

そこでは,①「これからは,AIやIoTの中味に少しでも立ち入ってソフトやハードに触れながら,これを継続して使いこなすのが大事だと思う。傍観し批評する「初心者消費者」から,これを使いこなす「主体的消費者」へ大変身」が必要であること,②「弁護士と「AIと法」との関わりは,怒濤のように進展するであろうAIやIoTの開発,製作,販売,提供,利用等をいかなるルールの上に載せて行うかという,自ずから国際的な規模とならざるを得ない立法,法令適用,契約,情報保護,及び紛争処理等の問題である。我が国での現時点での弁護士の取り組みは,今の法令ではこうなる,こうなりそうだという程度であるが,それでは法的需要は支えきれない。AIに「主体的」に係わり,弁護士としての仕事をしていく必要がある」ことを指摘している。

これは正しいが,②の方はまったく進展していない。我が国のAIやIoTの開発レベルは,外国の技術の導入に追われ,そのような需要をさほど多くは生み出していないのかもしれない。

主体的消費者としてPC・IT・AI技法を使う

AIする前に

AIが,コンピュータやインターネットの技術的進展とデータ量の増加を背景に,従前の機械学習(プログラミング)にディープラーニングの手法を組み込んだ情報処理技術の最前線だとすれば,AIに心をとらわれる前に,今あるコンピュータ,インターネット,プログラミングに基づくIT技法を使いこなすことが,弁護士がAIにつき進むための前提である(「AIする」(あいする)はギャグです)。

重要な法律関連情報の収集

弁護士が業務でする情報処理のうち,当面,もっとも重要なのは,法律関係情報の収集分析である。これについては,何種類かの,判例,法令,法律雑誌の検索システムが提供されている。私は,「判例秘書」を使っている。

通常,判例検索システムには掲載している雑誌に含まれる以外の論文等は掲載されていないので,補足のため「法律判例文献情報」を使っている。ただ,これは単に文献の名称や所在が分かるだけで,文献がオンラインで見れるわけではない。法律のきちんとしたコンメンタールが,ネットで検索等で利用できれば便利だろうが,今のところ限られたものしかないようである。私は,パソコン版の「注釈民法」は利用しているが,民法改正でどうなることやら。

ところでアメリカのレクシスネクシスが開発中の「Legal Advance Reserch」のデモを見たことがあるが,州によって法律が違うこともあって,法令,裁判例,陪審例,論文,関連事実等,膨大になる事実を収集し,一気に検索,分析,可視化できるデータベースとのことである。これまでアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしていたリサーチの作業時間が一気に減り,弁護士のタイムチャージの減少(いや,弁護士の仕事の生産性の向上,効率化)とクライアントの経費削減が実現しつつあるようである。ついでにいうと,同じくアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしてすることで依頼者の大きな負担になっているe-ディスカバリーも,AI導入で,これもタイムチャージの大幅な減少がはかられつつあるとのことである。我が国において「リーガルテック」とか「レガテック」とかをいう人がいるが,やがて多くの工夫に支えられてその方向に行くとは思うが,現状では単なる「商売」以上とは思えない。

判例,法令,文献検索以外の技法

そこで前項の重要な法律関連情報(判例,法令,文献等)の収集以外で,今行われている弁護士業務を支えるIT技法を集めている本「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」,「法律家のためのスマートフォン活用術」を紹介する。いずれも私が昔所属していた「日本弁護士会連合会 弁護士業務改革委員会」の編著だ。

そのほかに,税理士さんがIT技法を駆使している「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)(Amazonにリンク)も役立ちそうなので紹介しておく。

それともともと裁判所がワープロ「一太郎」を使っていたことから,私もワープロというより清書ソフトとして「一太郎」を使っていた。Wordには不慣れなので,いろいろと勝手なことをされて「頭に血が上る」ことが多い。そこで「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」(Amazonにリンク)と,「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)(Amazonにリンク)を紹介しておく。「頭に血が上る」のは,私だけではない。

普通の仕事では,Excelも重要だろうが,弁護士業務ではそんなには使わない。

  • 「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」
  • 「法律家のためのスマートフォン活用術」
  • 「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)
  • 「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」
  • 「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)

ここで紹介した5冊については「仕事に役立つIT実務書」として「詳細目次」を作成したので,それを見て必要な項目を参照すればいいだろう。

再掲-ここに欠けているもの

これらに決定的に欠けているものは上記したとおりであり,「法律が自然言語によるルール設定であることについて科学的な検討や,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においてベイズ確率や統計等の科学的手法」が取り込まれた「人工知能」や,「進化したワードプロセッサー,データプロセッサー」」の実現の見通しもないというのが現状である。

でも何が起こるかは分かりませんよね。今後,「AIと法」について,「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」に,新しい情報,新しい考え方を集積していきたい。

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告

原稿を執筆する

先日ある法律雑誌から,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについて原稿の執筆依頼を受けた。私は「AIと弁護士業務」について昔から興味はもっているが,このWebでは目についた本や催しを取り上げて,その時々,感想を述べているだけで,網羅的,かつ学問的な内容の原稿はどうもと思ったのだが,「それならちょうどよい,締め切りは来年の2月末なので充分に時間はある」といわれ,その気になってしまった。

考えてみればこのWebのPC・IT・AI関係の記事についても,「あれをやろう,これを書こう」とそのままになっていることも多いので,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」いうことに焦点を当て,時間をかけてあれこれつぶしていくのも面白いだろうと思いはじめた。私は百名山登山のように「つぶしていく」のが好きだし,頭が整理できると気持ちがよい。

もっとも締め切りが近づいてくると焦るかもしれないが。それはそのときだ。

ただ酔生夢死のまま,来年の2月を迎える危険性も大いにあるので。折に触れて原稿の構想,調査,執筆等々の進捗状況を記事にしていけば,何がしかの役に立つだろうと思い立ち,第1回目の「執筆状況報告」をすることにした。まず「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについての分析視角をこわごわと言葉にしてみよう。

問題の分析視角

AIとは何か-AIは仕事に何をもたらすのか

まずAIとは何かを,イメージや自然言語だけではなく,PC,IT,AIの技術的基礎を踏まえてしっかりと把握すること,そしてAIが仕事-人や組織の思考と行動-に何をもたらすことができるかを「進化的適応」,行動科学,脳科学,複雑系科学等を踏まえて理解することが必要だろう。ここまでは助走である。

さてAIの開発は現在「驀進中」だし,人によってとらえ方も様々だが,私はPC,IT技法の進化系であるととらえたいと思っている。そのようにとらえたとき,AI技法は,人びとの仕事(ここでは知的作業を問題にする)にどのような変革をもたらすことができるのか(ここは,「デジタルトランスフォーメーション」の議論が関係する(このサイト上の記事にリンク)。

システム思考に関連して,カネヴィンフレームワークという複雑な問題群の捉え方があり,問題の因果関係に着目して,単純系,煩雑系,複合系,カオス系に類型化する。これを前提とすると,AIは煩雑系,複合系についての因果関係を整理,予測して,これに関わる仕事をかえることができるだろう。

ただAIを待っていれば天から何かが降ってくるわけではなく,自分から呼び込み,使いこんで仕事の現実(非生産性)を変えて行く気持ちが必要だろう。実は現状のPC・IT技法でも,単純系,煩雑系ではできることはたくさんあるのに,できていないというのが実際だろう。

弁護士業務のモデル化とAI

弁護士業務を個別的な作業(調べ,考え,読み,書く)に分解してみると,知的作業としてさほど特異なものではない。したがって,外国では弁護士はAIで淘汰されるであろうという議論も多いが,その具体的な内容に着目すると,法を「解釈」し,事実を認定し(法的推論である),人を説得するという一連の行為は,当面は,AIに置き換えがたいものが多い。一方,調べ,考え,読み,書くという個別的な作業そのものについては,AIの活用により劇的に変革される可能性が大きいだろう。

AIによる,政府と弁護士業務の変容

以上は割と無難な議論だが,問題はAIが予想もつかない形で社会のあり方を変え,それが政府の「法に基づく支配」や,弁護士の役割を変容させる可能性も大きいと思われることである。

弁護士がAIによってブラシュアップして待っていても,いつしか弁護士業務への需要が低下するということも大いにあり得るだろう。ただよりよい「ルール」を現実化し,事実を推論するという能力は,社会にとって必須と思われるので,弁護士業務の内容は変容しつつ,弁護士という仕事は残るかもしれない。

あれこれ第1案として考えてみた。

PC,IT,AIの技術的基礎の本

上記とは関係ないのだが,Kindle本が安くなっていたので最近買ったPC,IT,AIの技術的基礎の本を,備忘のため掲記しておく。

  • 「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン 機械学習・統計学・アルゴリズムをやさしく解説」(著者:梅田 弘之)
  • 「帰宅が早い人がやっている パソコン仕事 最強の習慣112」(著者: 橋本 和則)
  • 「Windowsでできる小さな会社のLAN構築・運用ガイド 第3版」(著者:橋本和則)
  • 「DNSをはじめよう ~基礎からトラブルシューティングまで~ はじめようシリーズ」(著者:mochikoAsTech)
  • 「先輩がやさしく教えるシステム管理者の知識と実務」(著者:木下 肇)
  • 「よく解る!世界一やさしい 超パソコン入門用語」(著者:パソコン用語研究会)

前回の投稿から1か月も間が空いてしまった

この頭は動作していません??

前回,「このページは動作していません」という記事を投稿してから1か月が経過してしまった。この間必ずしも「この頭は動作していません」という状態にあったわけではなく,2週間は次の投稿記事を考えていたが,その後は,ある事件の「控訴理由書」の作成に追われ,数日前にやっと完了して,息をついたところだ。

前回の投稿時から考えたこと

著作権法判例百選第5版事件はどうなったか

前々回の投稿が2月22日の「最近の知財法改正を一覧する」だから,その頃,一生懸命に,知財,著作権について考えていた。

「こうして知財は炎上する-ビジネスに役立つ13の基礎知識」(著者:稲穂健市)の中に,次のような紹介があった。

「『判例百選(第4版)』の編者のひとりとされた大渕哲也・東京大学教授は,改定版である『判例百選(第5版)』の編者から自らを除外されたことにより著作権と著作者人格権を侵害されたとして,第5版の出版差し止めの仮処分を東京地裁に申し立て,東京地裁は出版を差し止める仮処分決定を出したが,知財高裁は仮処分の決定を取り消した。これにより,約1年遅れて第5版は無事に出版された(筆者の「なぜこんなことになったのか筆者にはよくわからないが,「著作権村」のパワーバランスが関係しているのかもしれない」とのコメントがある。)。

この「著作権判例百選事件」,果たして『著作権判例百選(第6版)』に掲載されることになるのだろうか?」

これを読んで私は出版を楽しみにし,出版直後の3月14日に購入した(その時は気が付かなかったが,Kindleのプリント・レプリカ形式でも出ている。)。

なんと,出ていた(18事件)が報告が遅くなった。あまり知性を感じない事件ではある(著作権紛争にはそういう事件が多い。)。

働き方改革をめぐって

そういえばこの4月から「働き方改革」に関する法令の多くが施行されるのできっちりまとめておく必要があるだろう。

厚労省は「働き方改革」の実現に向けて」の冒頭に「我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。」とする。支離滅裂でひどい書きぶりだと思うが,できたものは労基が罰則付きで強制するように跋扈するだろうから,関係する会社がこれで足をすくわれないよう,しっかり対応できるように目配りしていくしかない。

法とルールの基礎理論をめぐって

政府が進める知財法,情報法,会社法,労働法,行政法等(その他すべて)についての理念,手法なき法令の複雑化がこのまま進めば社会は窒息するので,使いやすくわかりやすいルールを策定し,施行するにはどうすればいいかの検討は必須であるとずっと言い続けているが,どう取り組むべきかは極めてむつかしい。

知財法は,とりあえずレッシグをよく読んでみよう。

基本は,進化→行動→法とルール←システムという構造の中で,使いやすくわかりやすく機能する法とルールは,どうあるべきかということであるが,この構図のままでは抽象度が高すぎて,「理念,手法」の提示まではまだ遠い。もう少し時間が必要だ。

ITと進化をめぐって

ITが社会や政治にもたらす影響について,様々に論じられているが,ネット上の言説は何でもありで攻撃的だし,それが押えられないことは所与の前提とするしかない。

ところで最近,これって「万人は万人に対して狼」,「万人の万人に対する闘争」というホッブスの世界ではないかということにふと気が付いたのである。ホッブスは近代国家論の端緒を開いたといわれるが,ホッブスの死後およそ350年が経過して,社会は闘争状態に回帰した。

しかし,「万人の万人に対する闘争」についてのホッブスの具体的な認識は,人間を進化論的に見たときどうなんだろうか(「リバイアサン」の翻訳本に少し目を通してみたが,全然古臭くないが,ダーウィン200年前の人である。)。多少なりとも,ダーウィンがもたらした知見と重なっているだろうか。更には現代の進化論を踏まえる,行動分析学,オートポイエーシス,アフォーダンスから見てどうなんだろうか。ITを突破口にする 法とルールの基礎理論へのルートもありそうだ。

このところKindleのIT本が安くなっていたので,何点かの「PC・IT・AI技法」の本も買った。

いろいろと乗りかかった船を進めよう。

 

最近の知財法改正を一覧する

最近の知財法改正を一覧する

問題の所在

知財法は,古くからの歴史の風雨にもまれてきたわけではなく,新しい,したがって多くは人為的な法令であるから,政府が理解するその時々の社会・経済状況に応じて,次々と手が加えられやすい。我が国の知財法もその例にもれず,改正を追っかけるのが大変だ。

それでも当該法令が真正面から改正の対象となっているときは,まだ目に入りやすいが,他の法令の改正に伴って改正される場合は,本当にわかりにくい。

そこで,未施行分も含めて,最新の法令を調べるにはどうしたらいいのかを検討し,最近の知財法改正を一覧することにした。

法令検索

それにしても,政府がe-Gov(電子政府の総合窓口)で「法令検索」(外部サイトの記事にリンク)を提供していることは高く評価できる(一方,「行政文書」を隠そうとすることは,時代の流れに逆行し,そのうち破たんするだろう。)。

まず,「法令検索」の「法令名」で当該法令を検索すれば,「施行日」現在の最新の法令と「未施行」部分があることが分かる(「目次」の右隣にある)。

ただし,「データベースに未反映の改正がある場合があります。最終更新日以降の改正有無については、上記「日本法令索引」のリンクから改正履歴をご確認ください」とあるように,「施行日」が過ぎていても,条文に反映されていないことがあるが,せいぜい長くて2か月程度のタイムラグのようだ。その場合は,国立国会図書館が作成している,「日本法令索引」の改正履歴を見れば,どの法律による改正が反映されていないのかある程度の見当は付くが,複数の改正法があったり,法律の成立と施行日がずれていたりすることから,どの法律のどの部分がいつから施行されるのかは,「附則」等を確かめなければわからないので,一目瞭然とはいかないようだ。別の情報を探した方がいいかもしれない。このあたりはもう少し調べてみよう。

それと今気が付いたが,「未施行」欄には,未施行部分が施行されたときの将来の法令が出ている。上記のタイムラグがある場合も,ここに反映されていればいいのだが,どうだろうか。確認出来れば,ここの記述に反映しよう。

概説書を理解するために

ところで最新の法令を知りたいということとは別に,概説書等を読むためには,その概説書が書かれた後の法令改正も頭に入れておく必要がある。特に,頻繁に改正されることが多い知財法分野では,その必要性が大きい。

そこで試みまでに,知財5法プラス不正競争防止法について,平成26年以降の改正,及び未施行部分を網羅してみることにした。

作業は,当該法令の検索,未施行部分のピックアップ,及び当該法令について「日本法令索引」に記載された平成26年以降の部分をピックアップするということである。もっとわかりやすくまとまられている情報もあるだろうが,これも大事な作業である。ただこれに熱中すると,どうしても中味がおろそかになる。役所はどうだろうか。

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