太陽光発電の規制をめぐる法律問題

太陽光発電設備を規制する条例を作るⅡ

 

太陽光発電をめぐる状況

私は2年前,某市の議員サイドに依頼されて太陽光発電設備を規制する条例案を作成するお手伝いをし,それについて「太陽光発電設備を規制する条例を作る」という記事を作成したが,その条例案はさまざまな政治的駆け引きから「没」となった。某市では今度は一応市が主導して再び条例を作成する運びとなり,私は議員サイドからその条例案についてのコメントを求められたので,まず太陽光発電をめぐる状況を復習し,条例案にコメントすることにした。この記事はそのレジュメに手を加えたものである。なおこの間,「ウエッジ」という雑誌から,太陽光発電を規制する条例についての取材を受けたので,各自治体で制定された条例について若干調べてみたが,その時点では「事業策定ガイドライン」の推奨事項を念頭に置いて制定された条例は見かけなかった。なお本記事掲載後に大津市の条例を見つけた(外部サイトへのリンク)。規制対象が限定されているが,「大津市太陽光発電設備の設置ガイドライン」も作成されており,網羅的なものに見受けられるが,上記の点がどこまで意識されているかは直ちには判断しづらい。

前提となる問題の復習

新FIT法とみなし認定の復習

2017年4月1日,改正された「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下,新FIT法,ないし法)が施行され,これにより再生可能エネルギー発電事業者(以下,事業者)には,ⅰ新FIT法施行後に事業計画書を提出して事業計画認定を受ける事業者と,ⅱ既に設備認定を受け法の規定する事業計画書を提出したみなし認定事業者の2種の事業者が生じている(制度全体についての解説は,資源エネルギー庁の「なっとく再生可能エネルギー」を参照のこと)(資源エネルギー庁の外部サイトへリンク)(「事業計画書」は,「再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書」(外部サイトへのリンク),「再生可能エネルギー発電事業計画書【みなし認定用】」(外部サイトへのリンク))。

新FIT法による新制度について,「事業計画策定ガイドライン」(外部サイトへのリンク業」)(以下「ガイドライン」)は,「新たな認定制度では,事業計画が,①再生可能エネルギー電気の利用の促進に資するものであり,②円滑かつ確実に事業が実施されると見込まれ,③安定的かつ効率的な発電が可能であると見込まれる場合に,経済産業大臣が認定を行う(注:法9条3項)。さらに,この事業計画に基づく事業実施中の保守点検及び維持管理並びに事業終了後の設備撤去及び処分等の適切な実施の遵守を求め,違反時には改善命令や認定取消しを行うことが可能とされている。固定価格買取制度は,電気の使用者が負担する賦課金によって支えられている制度であり,認定を取得した再生可能エネルギー発電事業者は,その趣旨を踏まえた上で,法第9条第3項並びに施行規則第5条及び第5条の2に規定する基準に適合することが求められ,また,法に基づき事業計画を作成するに当たっては,施行規則様式中に示される事業計画書記載の表に掲げる事項を遵守することへの同意が求められる」と説明している(新FIT法の概要は,資源ネルギー庁がした「改正FIT法に関する直前説明会」の資料(外部サイトへのリンク)にまとめられている)。

「ガイドライン」は,事業者が新FIT法による事業計画を立てて事業認定を受け,それに基づいて実施する発電事業のあり方について,経産省(資源エネルギー庁)が作成したものである。この点「ガイドラインは,事業者が新FIT法及び施行規則に基づき遵守が求められる事項,及び法目的に沿った適切な事業実施のために推奨される事項(努力義務)について,それぞれの考え方を記載したものである。ガイドラインで遵守を求めている事項に違反した場合には,認定基準に適合しないとみなされ,新FIT法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)に規定する措置が講じられることがあることに注意されたい」,「努力義務として記載されているものについても,それを怠っていると認められる場合には,新FIT法第12条(指導・助言)等の対象となる可能性がある」とされている。そして施行規則5条等は,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を営むに当たって,関係法令(条例を含む。)の規定を遵守するものであること」,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備について,当該設備に関する法令(条例を含む。)の規定を遵守していること」,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を円滑かつ確実に実施するために必要な関係法令(条例を含む。)の規定を遵守するものであること」として,法令遵守の中に条例が含まれることを明記しているので,遵守が求められる事項には条例も含まれる(「事業報告書」には,「再生可能エネルギー発電事業を実施するに当たり,関係法令(条例を含む。)の規定を遵守すること」に合意することが求められている)。

このように事業者には,発電事業を遂行する上での,遵守事項と,推奨事項が定められている。前者には,FIT法・同施行令・同施行規則,その他の法律・規則,及び条例・規則がある(法令は,e-Gov法令検索で調べるのがよい)。後者は,これまでの事例の積み重ねから選択された「法目的に沿った適切な発電事業実施のために推奨される事項(努力義務)」であるが,「それを怠っていると認められる場合には,FIT法第12条(指導・助言)等の対象となる可能性がある」に止まる。

したがって,条例作成にあたり,推奨事項を条例化すれば,それが施行規則5条の「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備について,当該設備に関する法令(条例を含む。)の規定を遵守していること」との規定によって遵守事項に格上げされ,新FIT法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルートが適用されることになる。

なおみなし認定事業者も,「ガイドライン」や「法(条例を含む)」を遵守しなければならないが,設備認定を受けたにとどまっている事業者からすでに発電事業を開始している事業者まで様々な段階の事業者がいるので,ガイドラインや条例の,どの条項を遵守しなければならないかが問題となる。法・規則には経過規定があるので解決済みだが,ガイドラインや条例の適用関係はは,若干,問題が複雑になる(事業認定済みの事業者に条例を適用する場合も同様の問題が生じる)。

なお条例作成にあたって,推奨事項については担当官庁によって充分な検討がなされているであろうから問題が生じる可能性は低いが,推奨事項ではないその他の事項を条例に盛り込もうとする場合,新FIT法との関係で違法ではないか,憲法との関係で問題はないかとの検討が必要である。

その後の経緯…未稼働案件について

未稼働案件と新FIT法

旧FIT制度は,事業開始時から20年間,設備認定時の固定買取価格で買い取るというものであったが,制度発足時の固定買取価格は,開発時の高額の設備費用に対応して高額の固定買取価格が設定され,普及につれて設備費用も低額化するので,徐々に固定買取価格を低額化していくことが想定されていたが,認定から事業開始までに特段の制限がなかったことから,設備費用が低額化してから設備を設置して当初の高額な固定買取価格が得られるという見通しに基づく「投資事業」を産み,未稼働事案及び詐欺事案が多発した。

これについて新FIT法は,2017年3月31日までに,(1)運転開始している,又は(2)電力会社から系統に接続することについて同意を得ている(接続契約を締結している)条件を満たさない場合,原則として認定が失効するとした(実際に失効した事案もあるが,多くはなさそうだ。)。ただし,以下の場合には,例外的に認定失効が一定期間猶与され,その猶予期間中に接続の同意が得られれば,接続の同意を得た日(接続契約を締結した日)をもって新制度での認定を受けたものとみなされた。(【例外(1)】平成28年7月1日以降に旧制度での認定を受けた場合…旧制度での認定を受けた日の翌日から9ヵ月以内に,接続契約の締結が必要。【例外(2)】A.平成28年10月1日~平成29年3月31日の間に電源接続案件募集プロセス等を終えた場合又はB.平成29年4月1日時点で電源接続案件募集プロセス等に参加している場合)

そして,①2016年8月1日以降に接続契約を締結した案件は,運転開始期限を3年と設定したが(開始が遅くなると買取期間が短くなる),②2016年7月以前に接続契約を締結済みの案件は運転開始期限を設定しなかった。

「FIT制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応」について

しかし上記②についても未稼働のものが多く,2019年4月1日から「未稼働案件への新たな対応」がなされている。(「FIT制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応」(その説明について(外部サイトへのリンク1),(外部サイトへのリンク2))。

これは2012年度~14年度にFIT認定を受けた②について,「運転開始準備段階に入った=系統連系工事の着工申込みを送配電事業者が受領」していないものは,受領日から2年前の年度の調達価格が適用されることになり(申込みが受領されていれば高いまま),また施行期日の1年後が運転開始期限とされ(この施行期日以降に着工申込みが受領されたものは,最初の着工申込みの受領日から1年を運転開始期限とする),期限後は買取り期間が短縮されることになる。更に対象年度が拡大されることも検討されている。

現状

「なっとく再生可能エネルギー」の「事業計画認定情報 公表用ウェブサイト」に,2019年2月28日時点の,ある限定された範囲の認定情報が掲載されている。これから某市だけのものをまとめてみた。約2300件あるので,あまり失効していないようだ。

太陽光発電事業を規制する条例・規則の検討

太陽光発電事業の実施過程とその規制

ガイドラインは,事業者の発電事業の実施について,第1節企画・立案(1.土地及び周辺環境の調査・土地の選定・関係手続,2.地域との関係構築),第2節設計・施工,第3節運用・管理,第4節撤去及び処分(リサイクル,リユース,廃棄)に分けて遵守事項,推奨事項を掲記している。

住民,市サイドから大きくまとめれば,実施される事業について,Ⅰ.①設備が設置される場所が適切なこと,②設置される設備の具体的な態様が適切なこと(景観との関係でのセットバック,高さ制限と騒音等),③運用・管理が適切に実行されていること,④適切に撤去及び処分がなされること,Ⅱ.Ⅰについて市,住民が事業内容を把握し,少なくても住民が意見をいい,協議できること等が重要であろう。Ⅲガイドラインに記載されていない事項で必要なものは,条例化することも検討する必要があるが,FIT法や憲法との関係を検討する必要があるのは,上述したとおりである。

太陽光発電事業を規制する条例の基本的な問題点-総論

法律と条例の関係

法律と条例の関係について,整理する(今回は,「事例から学ぶ 実践! 自治体法務・入門講座」(著者;吉田勉)(Amazonにリンク)による)。

未規制

A 法律が積極的に空白化   ✕

B 法律が無関心 〇

規制領域

C 法律とは別目的・趣旨 〇(※)

D 法律と同一目的・趣旨

  最大限規制立法 ✕

  別段の規制を容認 〇

※1 ただし,法律の意図する目的・効果を阻害しないこと

※2 上乗せ規制,横出し規制

今回のケースは,FIT法が,「法令(条例を含む。)」としていることから通常のケースとは異質だが,B,C,Dの各場合があると考え,「法律の意図する目的・効果を阻害しないか」,「別段の規制を容認」しているかを検討すればよいが,あまり問題にはならないだろう。

新FIT法の事業認定と本条例案の許可制について-行政処分

行政処分について

両者とも「申請に対する処分」(行政処分)であり,講学上の許可,特許,認可のうち,「許可」である。

この点の理解のため,前掲書を適宜要約して引用する。

「行政処分とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」

「行政処分には,そのタイプとして,申請を待って処分するものと,特定の問題が生じたときに相手方の意向とは関係なく処分を行うものがあります。行政手続法では,前者を「申請に対する処分」,後者を「不利益処分」として,その実施の事前手続を定めている」

「行政処分といっても様々なものがあり,行政側がかなりの自由度があるものと,基本的には要件が具備されれば半ば自動的に処分がなされるものなど,そのレベルも様々です。また,行政処分のうち,国民の申請をもとに処分するものとしては,「許可」というのがその典型ですが,名称としては,許可のほか,「免許」(道路交通法の運転免許),「確認」(建築基準法),「認定」(土地収用法),「承認」(河川法の流水占用権の譲渡承認)など様々な名称があります。 しかしながら,これらは,法的な性格の違い(例えば,その許可等の裁量の度合い,無許可等の場合の効果等)はその名称からのみでは判断がつきませんので,行政法学では,許可,特許,認可に分けて考える」

「「許可」の場合は,これは本来自由にできるんだけれど,社会一般への悪影響を防止するため一応法律で禁止しておき具体的な申請に応じて不適当なところがなければ許可(禁止を解除)するという形です。許可することが原則ということになります。医師免許などは簡単な許可ではないだろうとお思いかもしれませんが,医学部を出て,国家試験に合格すれば誰でも免許がとれますので,これも許可が原則ということです。一方,「特許」の場合は,特別の許可といった意味合いがあり,公益事業の許可のように,需給調整を含めて政策目的等に合致して初めて許可できるようなものをいいます。公共事業用地の強制収用を可能にする土地収用法上の事業認定もこれに該当します」。

FIT法の事業認定と条例による許可の関係

FIT法の事業認定と条例による許可の関係が問題となる。

A FIT法により事業認定を受けている同じ事象について(上乗せ・横出し規制の場合を除き),条例で許可,不許可の判断をすることはおかしい。ただなぜか,しっかりした「事業認定通知書」(再生可能エネルギー発電事業計画の認定について(通知))が見当たらないので,いったい事業者が,文書上,どの範囲について事業認定を受けているのかがはっきりしない(ただ認定済みの事案について,遡って「設備の所在地」は,動かせないだろう)。

B 市と住民は,事業者が事業計画書に記載し認定を受けた事業内容について,適法に履行して安全性が確保されているかを監視したいが,それは条例による「許可」「許可取消し」の問題ではない。条例による検査によって,事業者の不遵守状況が分かれば,是正を求めることは可能だろうが,是正されなければ情報提供(通報)して,新FIT法による処分(法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルート)を求めることになる。認定の取消によって接続契約は解消される(お金が払われなくなる)というのが,もっとも実効性のある適法性の確保手段である。

また条例固有の許可要件に違反していることが分かれば,これについて条例による手続によって是正を求め,是正されなければ条例上の許可を取り消すというルートもあるが,これについても公表,罰則あるとしても,結局,許可が取り消された(条例に違反した)として,新FIT法による処分(法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルート)を求めなければ実効性がない。情報提供(通報)に「許可取消し」の場合が含まれていないのは,「許可取消し」の性質の誤解である。

C 太陽光発電事業を規制する条例制定の難しい点は,事業者にみなし認定事業者と,新FIT法適用事業者がおり,それぞれⅰ土地確保,ⅱ土地・建物の設計手続の進展と機材調達,ⅲ事業計画の認定(提出)時(ⅱとⅲは逆転するケースもあるだろう),ⅳ施工時が異なっており,これから施行する条例案で,どの段階にある発電事業を規制できるのかということである。なお新FIT法は,ⅲの事業計画の認定(提出)時に,法令(条例を含む)に適合することを求めている。

2年前の私案(「太陽光発電設備を規制する条例を作る」に掲記した条例案)は,ⅲ業計画の認定(提出)以前に,事業者に「届出」をさせて審査し,条例化した全ての推奨事項の実現を確保しようというものだったが,今回の条例案は,ⅳの前に設備設置申請-許可制を入れ込み,設備設置について条例による「規制の遵守」(セットバック,高さ制限,騒音防止等)を達成しようとするものとなっている。

設備設置前に条例による許可申請をするのであるから,上記のⅠ②「設置される設備の具体的な態様が適切なこと」については,おおよそ実現可能であるし多くの場合それで問題ないかもしれない(事業者は,多少無理をしてもそれに従うであろう)。ただ事業認定(提出)時に条例が施行されていない状態で設備の準備を進めていた事業者について,その後,準備していた設備の変更等をしなければならず,それに多額の費用がかるとすれば,損害賠償の問題が発生するので,このような場合は,できるだけ努力することで可とすべきであろう(なお,新FIT法の[事業報告書」には「構造図」の添付,提出が求められている)。

2年前の私案の経過措置は,上記のⅠ②「設置される設備の具体的な態様が適切なこと」については,適用除外としたが,上記のような考えに基づき,入れ込むことも可能であろう。

上記Ⅰ①「設備が設置される場所が適切なこと」については,事業計画提出時に条例が施行されていないと駄目である。

各論と感想

これからは条例案自体について検討することになるが,現時点ではそれを記事に掲載することは差し控えておこう。

しかし新FIT法,施行令,施行規則の体系は複雑になりすぎており,規制という面からだけ検討しようとしても骨が折れる。役所のWebに掲載されている施行規則(特に様式)にはミスプリが目立つし,それが本当に整合的なのかの,検証はほぼ不可能である。またWebの記事も乱雑である。しかも対象案件は膨大で,多額のお金も絡んでおり,更に地方分権によって国は地方を手足のように使えなくなった。

国政レベルの政策遂行のあリ方が,問われているというべきであろう(半分本気だが,整理には,AIの活用の余地があろう)。

 

太陽光発電資料集

(太陽光発電の基礎知識)

  • 「太陽光エネルギーによる発電」(著者:宮本潤)(Amazonにリンク
  • 「かんたん解説!!1時間でわかる太陽光発電ビジネス」(著者:江田健二)(Amazonにリンク
  • 「世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編」(著者:安田陽)(Amazonにリンク
  • 「世界の再生可能エネルギーと電力システム 経済・政策編」(著者:安田陽)(Amazonにリンク
  • 「再生可能エネルギーのメンテナンスとリスクマネジメント」(著者:安田陽)(Amazonにリンク

(FIT法の説明)

(太陽光発電の問題点)

(条例)

  • 「事例から学ぶ 実践! 自治体法務・入門講座」(著者;吉田勉)(Amazonにリンク
  • 「1万人が愛した はじめての自治体法務テキスト」(著者:森 幸二)(Amazonにリンク
  • 「自治体環境行政法」(著者:北村喜宣)(Amazonにリンク
  • 「自治体政策法務講義 改訂版」(著者:礒崎初仁)(Amazonにリンク
  • 「基本行政法 第3版」(著者:中原茂樹)(Amazonにリンク

 

 

 

 

 

手入れしよう

このWebについて大分手入れしたのでその報告をし,併せて身の回りの手入れすべき何点かのことを検討しておこう。

このWeb(ワードプレス)の手入れ

Webの作成は,とにかく記事の作成を優先することになるが,なんせ今の私は,「法と弁護士業務」と「問題解決と創造」の両方に足をのせ,万巻の書を読み、万里の道を行って記事を作成しようとしているので,なかなか体裁まで頭が回らない。

そうこうしている間に,体裁問題が山積みしてきたので,この数日で何とか手入れをした。

次のような問題があった。

①見出しの体裁5段階を(文字の大きさ,色,冒頭からの空け幅等)を,追加CSSでカスタマイズする。

②テーマでカスタマイズされていたリンクの下線を復活させる。

③投稿だけにあった次ページで「続きを読むという」機能を,固定ページも含めて「<!–nextpage–>というタグ」を使って,両方で1,2ページの表示とする。これに伴い,「分野別法律問題」の記事(本文と詳細目次)を一つの固定ページとし,詳細目次を2ページ目に掲載する(「契約法務」だけ試行してみた。)。投稿も,詳細目次は,2ページ目に掲載する。

④上部のメニューの「ブログ山ある日々」は固定ページなので,ここでワンクリックで,すべての投稿記事を見られるようにする。

⑤各記事について,ある部分を修正するたびに,不整合な点が生じていた。

これについては,大体手入れができたと思う。

ただもう一つ,いつの間にか,

⑥(多分,ワードプレスの仕様変更で)PDFが読めない

という問題が生じていた。私が資料として引用しているPDFに目を通すことはめったにないので,今まで気が付かなかった。早急に対応しよう。

ワードプレスの手入れについては,次のような記事を作成している。

改めて思うのだが,この類の問題の最大の難点は,手を入れようと思うと,必要な知識は雲散霧消し,いつもほぼスタート時点に立ち返ってしまうということである。今後の,デジタル時代でこれはかなり本質的な問題である。

「エコー」と「Kindle Fire 10」を手入れしよう

大分前に「エコー」を買ったが,孫と一緒に「アレクサ モアナの曲をかけて」と呼びかけるぐらいにしか使っていない。最近,「Kindle Fire 10」のOSがアップデートされて「「Alexa」の呼びかけで使えるハンズフリーモードのほか、Fire HD 10をEcho Showのように使える「Show Mode」にも対応」するようになったとのことなのだが,私の近くにある,「エコー」と「Kindle Fire 10」は,私の「アレクサ」の呼びかけにどちらがどう対応しているのか,と「Kindle Fire 10」にでる表示は何なのか,今は混乱していて見極め難いので,この連休にでも整理しよう。そのほかに,ブルーt-ス利用の,キーボード,イヤホン,超廉価版スマートウオッチ,Kindle Paper Whiteを英語使用にして,何とかモードを使うという課題もある。

R本の手入れ

どこかで書いたように,私は事務所移転の際に,R本の大半は寄付したので,現在自宅にあるのは,千数百冊の積読本だ。これを「私本管理」で整理し,「問題解決と創造」に使えるようにしよう。これも連休だ。

家庭菜園の手入れ

庭の家庭菜園に野菜の種をまいて収穫し,花を植えて愛で,毎日,水を撒くのはとても楽しい。しかし,いつまでも孫と一緒に,はなさかじいさんのように種を撒くのはいかがなものか。もう少し進歩したい。

カラダとアタマの手入れ

絶えず少しでも体を動かし,手入れすることがもっとも重要だ。何とか朝RUNを定着させたいのと,ほんの少しでいいから,折に触れてストレッチ系の動きをすることを定着させることが大切なようだ。

アタマの手入れは,散歩し,山に行き,自然を愛でて,情動を整えることに尽きる。いろいろやることがあってストレスになるのはよくないかなあ。そういえば先週の日曜日(2019/4/14)は,孫を引き連れ,山下公園(チューリップ),大桟橋(大型客船の入港),山下公園(フラワーフェスティバル?),人形の家と回り,リフレッシュした。山男の影いずこ。

一番大事な手入れ

あれこれ手入れすべきことを思い浮かべたが,一番大事なことが抜けていた。

一番大事なことは,「法を問題解決と創造に活かす」ための,私自身の仕事についての手入れだし,このWebでいえば,「新しい法律問題」と「法を問題解決と創造に活かす」及び「分野別法律問題」の作成・充実である。後者はこのWebの体裁に大分手を入れることができたので,そろそろ真正面から取り組まなくては…。永遠の助走では困るなあ。

日本のAIビジネスはどうなるのだろうか

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告4

 

AIビジネスに関する和書5冊

はじめに

日本のAIビジネスは今後どうなるのか,日本でAIビジネスを創造しようとする仕事に関わり,その意気込みやアドバイスを述べている和書を5冊紹介する(なお,「デジタル・トランスフォーメーションをめぐって」参照)。これらは,2019年4月15日の段階で私の目に入ったKindle本だけであり,関連する本は,R本も含めるともっと膨大であろう。

  • ①「未来IT図解 これからのITビジネス」(著者:谷田部卓)(未購入)
  • ②「いまこそ知りたいAIビジネス」(著者:石角友愛)(Amazonにリンク
  • ③「AIをビジネスに実装する方法 「ディープラーニング」が利益を創出する」(著者:岡田陽介)(Amazonにリンク
  • ④「問題解決とサービス実践のためのAIプロジェクト実践読本 第4次産業革命時代のビジネスと開発の進め方」(著者:山本大祐)(未購入)
  • ⑤「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」(著者:藤井 保文, 尾原 和啓)(Amazonにリンク

ここでは,すでに購入済み②③⑤の3冊について簡単に紹介しよう。いずれもシリコンバレーを経験する若い世代が書いた本であり,おじいさんはもとより,おじさんも置いてきぼりされる寂しさを抱くだろう。でもこの道はいつか来た道…概して人間そのものに関する考察が不十分なので,内容はどうしても微視的で一本調子だ。私たちが物事を俯瞰する知恵を持ち,改めて学ぼうという意識を持てば充分に対応できる。ただし⑤は大分趣きが違う。後述しよう。

「いまこそ知りたいAIビジネス」を読む

「いまこそ知りたいAIビジネス」(著者:石角友愛)Amazonにリンク

出版社等による紹介

本書は,私たちの仕事にAIがどのようにかかわってくるかを知りたい一般ビジネスパーソンや学生の皆さん,そして,実際にAI導入を考えている経営者や事業担当者の方にむけて書かれた,いわばAIビジネスの入門書です。

具体的には,「そもそもAIとは何なのか」から,「世界の最新AIビジネスではどんなことが起きているのか」「実際に自社にAI導入を考える際にはどんなステップを踏めばよいか」「今後のAIビジネスの課題とは何か」,そして,「AI時代に求められる人材とキャリア形成のあり方」といったことまで,文系ビジネスパーソンでもわかる平易な言葉で解説していきます。

平易な入門書といっても,著者はシリコンバレーを拠点に活躍する,AIビジネスデザインカンパニーの経営者。AI技術を使って企業の課題を解決するビジネスを展開しており,紹介される事例はいずれも最新,最先端のもの。実際にAIビジネスにかかわっている方や,エンジニア,データサイエンティストにも一読の価値ありの内容です。

覚書

「ハーバードでMBA取得,米グーグル本社勤務を経て,現在はシリコンバレーを拠点にAIビジネスデザイン企業を経営する著者が教える」 といわれると引いてしまうが,内容は,「AIビジネスの最新事情と「あたらしい働き方」」について,様々な問題に目配りしながら分かりやすく記述する,万人向け,一般企業向け入門書である。

第1章から第6章前半まではそのようなものとして読むとして,私が惹かれたのは,第6章の後半だ。すこし引用してみよう。

①「AI時代に生き残れる人,生き残れない人」から

アメリカで「CBO」という役職が生まれたが,CBOとは,技術コミュニティとビジネスコミュニティの架け橋となり,心理学や行動科学の知見を生かして会社のマーケティング戦略を考える役割の人を指す。2015年創業のスタートアップのニューヨークを拠点に活動しているレモネードという損害保険会社がある。この保険会社になぜ投資が集中しているかというと,人の行動を理解する意思決定論や行動経済学の研究を取り入れ,保険業界に画期的なイノベーションを起こしたからである。AIを徹底的に活用して人的コストを最小限に抑える代わりに,レモネードが投資しているのが,行動経済学に基づいた研究と,それを生かし生かしたモチベーション構築の仕組みである。レモネードは,デューク大学の心理学教授であるダン・アリエリー教授をCBOに迎え,保険会社と顧客の利害対立をなくすビジネスモデルを提唱し,『ソーシャルインシュランス(社会的な保険)』というコンセプトを生み出した。

これからのAI時代は,先ほどのレモネードの例のように,今あるものを組み合わせて,今までになかったものを生み出す力が求められる。今,アメリカで主流になりつつあるのは,AIバイリンガルを育てる教育だスタンフォード大学と並んで,コンピュータサイエンスの分野で世界1,2位を争う実績を持つカーネギーメロン大学のリベラルアーツ学部ではコンピュータサイエンス学部の学生も,リベラルアーツ学部の学生と同じクラスで哲学などの授業を取り,哲学部の生徒が解析授業を取る。たとえば,文学部では,「人文学解析」というクラスがあり,そのクラスではフランシス・ベーコン(哲学者)を中心とした近世イングランド地方の歴史上の人物がどうつながっていたかを表したデジタルソーシャルグラフを作ったりするという。これは歴史上の文学や調査などに基づいた情報を,ビジュアライゼーション技術を使ってツールにする,真のAIバイリンガルのスキルがないと作れない。

②「私たちはこれから何を学べばよいか」から

ムーク(MOOC=Massive open online course)という,インターネット上で大学の講義が受講できるシステムがある。AI時代になったときに,仕事を見つけることができるかどうかは,今後自分にどれだけ「リスキル」の投資ができるかにかかっている といえるだろう。日本でもリカレント教育の重要性が言われている。日本には終身雇用制度があるので,これまでは逃げ切りできるかもしれないといわれていた 40 代, 50 代の人たちも,これからは何らかの技術を身につけなければ100年時代を生き残れないといわれている。今後,日本でも意欲の高い層は自分で英語のムーク授業を受けどんどんキャリアアップしていくだろう。会社がフォーカスしなければいけないのは,意欲はあるが情報が足りない層,英語で学ぶことに抵抗がある層だ。ペラペラでなくてもいい。英語ができるだけで世界は何十倍,何百倍に広がるし,取得できる情報量が劇的に増える。

目次

第1章 ここがヘンだよ,日本のAIビジネス

第2章 AIビジネスの最先端を見てみよう

第3章 AIを導入したい企業がすべきこと

第4章 AIビジネスの課題とは

第5章 AI人材とこれからの日本

第6章 AI時代における私たちの働き方

詳細目次にリンク

「AIをビジネスに実装する方法」を読む

「AIをビジネスに実装する方法 「ディープラーニング」が利益を創出する」(著者:岡田陽介)Amazonにリンク

出版社等による紹介

もはや「AI(人工知能)を試験的に導入してみよう」という時代は過ぎ,様々な企業が,現実のビジネスにAIやディープラーニング技術を活かした事業展開を行っている。

そうした動きは決して製造業やハイテク企業に限ったことではなく,小売・流通業や物流などなど,業界や業種を問わず急速に広がっている。

本書は,設立わずか6年で,国内企業数社でのAI導入支援の実績をもち,ディープラーニングが成果を出し始めた2012年から,いち早く同技術に注目してきたITベンチャーであるABEJA(アベジャ)の経営トップが自ら語る「AIのビジネスへの実装の具体的方法」。

AI・ディープラーニングをどう現実のビジネスに活かせばいいのか? 基本的なしくみから,実装・運用の成功要件,最新事例までを,文系ビジネスマンでも理解できるように,わかりやすく解説する。

覚書

2018年10月10日発行。この本は,非常に正直な本だと思う。「設立わずか6年で,国内企業数社でのAI導入支援の実績」という件が,そんなもん?という感想を抱かせるし,第5章で紹介されている「AIを導入した企業のビフォー& アフター」(ICI石井スポーツ,パルコ,武蔵精密工業,コマツ」の事例や,「画像,音声,テキストが新しいビジネスを生む」もびっくりしない。

第4章までのAI(機会学習)の基本的な説明と相まって,敷居の低い,手堅く正直な本といえるだろう。

目次

1章 なぜ、いまだにAI導入を躊躇するのか

2章 ネコでもわかるディープラーニングの原理

3章 AIの導入前に知っておきたいこと

4章 データ取得から学習、デプロイ、運用まで ~AI導入のプロセスを知る~

5章 AIを導入した企業のビフォー&アフター

6章 画像、音声、テキストが新しいビジネスを生む

7章 レバレッジ・ポイントにAIの力を注ぎ込む

詳細目次にリンク

「アフターデジタル」を読む

「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」(著者:藤井 保文, 尾原 和啓)Amazonにリンク

出版社等による紹介

現在,多くの日本企業は「デジタルテクノロジー」に取り組んでいますが,そのアプローチは「オフラインを軸にしてオンラインを活用する」ではないでしょうか。

世界的なトップランナーは,そのようなアプローチを採っていません。

まず,来るべき未来を考えたとき,「すべてがオンラインになる」と捉えています。考えて見れば,モバイル決済などが主流となれば,すべての購買行動はオンライン化され,個人を特定するIDにひも付きます。IoTやカメラをはじめとする様々なセンサーが実世界に置かれると,人のあらゆる行動がオンラインデータ化します。つまり,オフラインはもう存在しなくなるとさえ言えるのです。

そう考えると,「オフラインを軸にオンラインをアドオンするというアプローチは間違っている」とさえ言えるでしょう。筆者らはオフラインがなくなる世界を「アフターデジタル」と呼んでいます。その世界を理解し,その世界で生き残る術を本書で解説しています。

デジタル担当者はもちろんのこと,未来を拓く,すべてのビジネスパーソンに読んでほしい1冊です。

覚書

この本は,上海で仕事をしている藤井保文さんと,「ITビジネスの原理」や「ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?」の著者がある尾原和啓さんんが,驚異的な進歩を遂げつつある中国のIT・AIの「すべてがオンラインになる」現状を材料として,「アフターデジタル」を論じたものである。

とりあえずの対象は消費行動ではあるのだが,「アフターデジタル」においては,人の行動や社会のあり方が大幅に変わるということも議論しており,「デジタルエコノミーはいかにして道を誤る-労働力余剰と人類の富」(著者:ライアン・エイヴェント)との関係も含めて,少し時間をかけて取り組みたい。

目次

第1章 知らずには生き残れない,デジタル化する世界の本質

第2章 アフターデジタル時代のOMO型ビジネス~必要な視点転換~

第3章 アフターデジタル事例による思考訓練

第4章 アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革

詳細目次にリンク

 

詳細目次に続く

 

AI問題を考える

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告3

 

この投稿は,固定ページ「世界:複雑な問題群」「世界の続き:AI問題」の記事の前半部分を投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「世界の続き:AI問題」をご覧ください。

 

「世界:複雑な問題群」各論の続き

AI問題

<コメント>

この項目では「AIをめぐる諸問題」(PC・IT技法も含めて「AI」と呼称する)について,「AIとは何か」,「AIにできることとその限界」,「AIがもたらすもの」,「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」,「AI本を読む」に項目立てして考察する。

このうち「AIの限界」については,人の知能との差異(フレーム問題,表象・自然言語)と,帰納推論・指数爆発の観点から考察しよう。

「AIのもたらすもの」は「仕事の変容」「世界(社会・経済)の変容」,「企業・政府,及び個人の生活の変容」に分けて検討してみよう。

「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」には,2020年2月末までに執筆する予定の原稿に併せて(「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告1」参照),その準備となる記事を掲載していく。

<この項目に関連する記事>

このWebでAIに関連する記事を掲載する(作成中)。

AIとは何か 作成中

AIにできることとその限界

<コメント>

PCにできることは,データを入力し,計算。推論し,出力することである。PCを人間の知能に近づけようというのがもともとものAIという試みだが,人間の知能のメカニズムはほとんど解明(再現)されておらず,PCによる計算・推論では当面近似すらできそうもない問題(フレーム問題,表象・自然言語の意味等)がある(限界1)。

一方,計算・推論のある領域では,PCは最初から人間の知能をはるかに凌駕している。特に,最近のPCは,扱えるデータの量や質,計算の能力や方法に大きな進歩があり,従前,人間の知能の領域と理解されていた領域でもPCによる計算・推論が優越する場面が多く登場している。それをAIと呼称することも多い。ただし,この場面ではその方法の多くが帰納推論であること,指数爆発を招く方法が多いこと等からの限界もある(限界2)。

<検討すべき何冊かの本>

作成中

<この項目に関連する記事>

作成中

AIがもたらすもの

<コメント>

「AIがもたらすもの」を,①「仕事の変容」,②「世界(社会・経済)の変容」,③「企業・政府,及び個人の生活の変容」に分けて検討してみよう。ただし,これはその主張が,「AIにできることとその限界」を踏まえての議論か,少なくてもそれを乗り越えようとしているか否かで,私の評価は大きく異なる。

・①「仕事の変容」について

①「仕事の変容」の問題は,ある意味で簡単なことである。現在,あるいは近未来に,PC(AI)ができるような仕事は,採算ベースに乗る限り,人からAIに置き換わるということである。

現在,私たちがしている仕事を,固定頭脳型(デスクワーク,対応等),移動頭脳身体型(多くの現場の仕事)に大別すると,前者のうちの計算や単純に自然言語を使用する仕事(単純型)は,早晩,AIに置き換わるであろう。複雑に自然言語を使用する仕事(複雑型)も,AIに追いかけられるだろう。ただフレームの選択,決断はAIには難しい。弁護士の仕事は,両者を含むが,日本の弁護士の仕事は複雑型も多いし,フレームの選択,決断に関わる部分も多いので,すぐにはなくならない(だろう)。

生命に基づく人間の身体機能をAIが代替するのは困難であるから,移動頭脳身体型は,当面なくなる見通しはないであろう。

・②「世界(社会・経済)の変容」,③「企業・政府,及び個人の生活の変容」について

②はマクロ問題,③はミクロ問題といえるが,一見,③の議論が多そうだが,②の方がまともな議論が熱心に行われている。ただしこれは極めて「複雑な問題」であるから,真偽の見極めは困難である。③は,その性質上,偶然が支配する部分が多く,「結果的」以上のことがいえるかどうか。じっくり考えていこう。

<検討すべき何冊かの本>

検討中

<この項目に関連する記事>

検討中

「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」

先日,ある法律雑誌から,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについて原稿の執筆依頼を受けた。私は「AIと弁護士業務」について昔から興味は持ち,このWebで目についた本や催しを取り上げ,その時々,感想を述べている。ただ,網羅的,かつ学問的な内容の原稿はどうもねとも思ったのだが,「それならちょうどよい,締め切りは2020年の2月末なので充分に時間はある」といわれ,その気になってしまった。

ただし酔生夢死のまま,2020年の2月を迎える危険性も大いにあるので。折に触れて原稿の構想,調査,執筆等々の進捗状況を記事にしていけば,何がしかの役に立つだろうと思い立ち,随時「執筆状況報告」を書き,ここにリンクさせることにする。

<執筆状況報告>

いてみたすることにした。まず「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについての分析視角をこわごわと言葉にしてみよう。

AI本を読む

まずホットなテーマである「AIがもたらすもの」に関係する本を紹介し,その上で,AIの基礎となる「基礎」と「技法」,更に「法律家のAI論」を紹介しよう。「技法」に掲載した本と「PC・IT・AI技法」に掲載した本,「法律家のAI論」と「IT・AI法務」に掲載した本はほとんど重なっていると思うが,その関係は追って調整する。

以下,私の手元にある本の紹介だが,省略する。

AIと法・再考

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告2

 

この投稿は,固定ページ「AIと法」の記事を大幅に改定したので,投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「AIと法」をご覧ください。

「AIと法」を考える

「AIと法」の問題の所在

3層の問題

「AIと法」という問題を考えるとき,次の3つの層の問題が考えられる。

Ⅰ まず,IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらす(ことができる)かという問題である。

Ⅱ 次に,①AIが将来,実用的なレベルに成熟して社会に浸透した場合に,どのような法律問題が生じるのか,②現在のITは「AI以前」であるとしても,実際は現在のIT・AIに生じている法律問題を解決するさえ困難なのではないか ,という問題である。

Ⅲ 最後に,法律に関連する業務で,IT・AIを使いこなすためにはどうすればいいのかという問題である。

検討

キラキラした魅力を発しているのは,もちろん,Ⅰである。対象には司法(裁判)のみならず,立法手法や行政過程も含まれるし,更には任意のルールや社会規範も含まれるであろう。私が今後考え,追い詰めていきたいのも,もちろんⅠである。これについては,「AIと法」のメインテーマとして今後「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」(作成中)において,集中的に検討し,論考を掲載していきたい

法律家はⅡ①を論じるのが好きだが,これはあくまで仮想の問題である。Ⅱ②について,現に頻発しているシステム開発やネットトラブルをめぐる紛争に,司法システムはきちんと対応できているだろうか。Ⅱについては「IT・AI法務IT・AI法務」で ,基本的な検討をする。

Ⅲは,法律家の「仕事の仕方」-生産性,効率性-の問題である。本項目は,「弁護士の仕事を知る」の下位項目であるから,対象を専ら弁護士業務に絞ってここで検討しよう。

その前提として,上記ⅠないしⅢを貫く「AIと法」の最も基本的な問題を,「AIに期待すること・しないこと」として指摘しておきたい。

AIに期待すること・しないこと

AIに期待すること

「私は,現時点で,(少なくても我が国の)法律家がする業務には大きな二つの問題があると考えている。ひとつは,法律が自然言語によるルール設定であることから,①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや,②適用範囲(解釈)に関する法的推論について,これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったこと。ふたつめは,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においても,ベイズ確率や統計等の科学的手法がとられていなかったことである」と指摘し,これを変える「方向性を支えるのがIT・AIだとは思うが,まだ具体的なテクノロジーというより,IT・AIで用いられる論理,言語,数学(統計)を検討する段階にとどまっているようだ。前に行こう。」と書いた(「プロフェッショナルの未来」を読む)。

「そしてこれが実現できれば,「法律の「本来的性質」が命令であろうと合意であろうと,また「国家」(立法,行政,司法)がどのような振舞いをしようと,上記の観点からクリアな分析をして適切に対応できれば,依頼者に役立つ「専門知識」の提供ができると思う。」」とも考えているのである。

イギリスでの議論

「プロフェッショナルの未来」の著者:リチャード・サスカインドには,「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future 」(by Richard Susskind)があり,これは,上述書の対象を法曹に絞り,さらに詳細に論じているようだ。

これに関連するKindle本を検索していて「Artificial Intelligence and Legal Analytics: New Tools for Law Practice in the Digital Age」(by Kevin D. Ashley)を見つけた。でたばかりの新しい本である。そしてその中に(1.5),内容の紹介として次のような記述があった。なお二人ともイギリスの人である。

Readers will find answers to those questions(How can text analytic tools and techniques extract the semantic information necessary for AR and how can that information be applied to achieve cognitive computing?) in the three parts of this book.

Part Ⅰ introduces more CMLRs developed in the AI&Law field. lt illustrates research programs that model various legal processes:reasoning with legal statutes and with legal cases,predicting outcomes of legal disputes,integrating reasoning with legal rules cases,and underlying values,and making legal arguments.These CMLRs did not deal directly with legal texts,but text analytics could change that in the near future.

Part Ⅱ examines recently developed techniques for extracting conceptual information automatically from legal texts. It explains selected tools for processing some aspects of the semantics or meanings of legal texts,induding: representing legal concepts in ontologies and type systems,helping legal information retrieval systems take meanings into account,applying ML to legal texts,and extracting semantic information automatically from statutes and legal decisions.

Part Ⅲ explores how the new text processing tools can connect the CMLRs,and their techniques for representing legal knowledge,directly to legal texts and create a new generation of legal applications. lt presents means for achieving more robust conceptual legal information retrieval that takes into account argument-related information extracted from legal texts. These techniques whihe enable some of the CMLRs Part Ⅰ to deal directly with legal digital document technologies and to reason directly from legal texts in order to assist humans in predicting and justifying legal outcomes.

Taken together, the three parts of this book are effectively a handbook on the science of integrating the AI&Law domain’s top-down focus on representing and using semantic legal knowledge and the bottom-up,data-driven and often domainagnostic evolution of computer technology and IT.

このように紹介されたこの本の内容と,私が「AIに期待すること」がどこまで重なっているのか,しばらく,この本を読み込んでみようと思う。

AIに期待しないこと

実をいうと,「IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらすか?」という質問に答えれば,今後,我が国の法律実務の現状を踏まえ,これに対応するために画期的なAI技法が開発される可能性はほとんどないだろう。我が国の法律ビジネスの市場は狭いし,そもそも世界の中で日本語の市場自体狭い。開発のインセンティブもないし,開発主体も存在しない。ただ,英語圏で画期的な自然言語処理,事実推論についての技法が開発され,それが移植できるこのであれば,それはまさに私が上記したような,法律分野におけるクリアな分析と対応に応用できるのではないかと夢想している。

したがって当面我が国の弁護士がなすべきことは,AIに期待し,怯えることではない。今の時代は誰でも,自分の生活や仕事に,PC(スマホを含む)・IT・AIの技法を活かしている。弁護士も,仕事に役立つPC・IT・AI技法を習得して,業務の生産性と効率性の向上に力を注ぐことが大切ではないだろうか。それをしないと,弁護士の仕事をAIに奪われるのではなく,他の国際レベルで不採算の業種もろとも,自壊していくのではないかと,私には危惧されるのである。

弁護士の仕事とPC・IT・AI技法

以下,弁護士の仕事の限りで,役に立つPC・IT・AI技法を簡単に紹介する。ただし,現状の略述であって将来を見越したものではない。その前に,私の「IT前史」を振り返っておこう。

私が2004年に考えていたこと

私は,弁護士会の委員会でITを担当していた2004年に「ITが弁護士業務にもたらす影響」という論考を作成している(2004年に私が考えていた「ITが弁護士業務にもたらす影響」参照)。

その中で「デジタル化して収集した生情報(注:事実情報),法情報を,弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理,思考,判断し,結論を表現することを可能とするツールの開発が急務である。例えば,弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(弁論要旨や最終準備書面)を作成するとき,必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり,しかもなお不十分だと感じることはよくあるのではないだろうか。あるいは供述の変遷を辿ったり,証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したいこともある。このような作業(の一部)は,パソコンの得意な分野である。また少なくても,当方と相手方の主張,証拠,関連する判例,文献等をデジタル情報として集約し,これらを常時参照し,コピー&ベイストしながら,書面を作成することは有益であるし,快感さえ伴う。これらの書面作成をいつまでも手作業ですることは質的にも問題であるし,実際これまで弁護士は忸怩たる思いを抱えながらこれらの作業をこなしていたのではなかろうか。目指すは,当面は進化したワードプロセッサー,データプロセッサーのイメージであるが,データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」があることも充分にあり得る。これらのの開発には,練達の弁護士の経験知をモデル化する必要があり,弁護士会がすすんで開発に取り組む必要があろう。」と指摘している。今振り返るとこれこそ,弁護士業務におけるAIの活用そのものであるが,これは,当分,実現される見通しはない。

私が2017年に考えていたこと

その後,2012年に画像認識に劇的な変化があったが私はそんなことも知らず,だんだん世間がAIについて騒ぎ出した2017年9月になって「弁護士として「AIと法」に踏み出す」を作成している。

そこでは,①「これからは,AIやIoTの中味に少しでも立ち入ってソフトやハードに触れながら,これを継続して使いこなすのが大事だと思う。傍観し批評する「初心者消費者」から,これを使いこなす「主体的消費者」へ大変身」が必要であること,②「弁護士と「AIと法」との関わりは,怒濤のように進展するであろうAIやIoTの開発,製作,販売,提供,利用等をいかなるルールの上に載せて行うかという,自ずから国際的な規模とならざるを得ない立法,法令適用,契約,情報保護,及び紛争処理等の問題である。我が国での現時点での弁護士の取り組みは,今の法令ではこうなる,こうなりそうだという程度であるが,それでは法的需要は支えきれない。AIに「主体的」に係わり,弁護士としての仕事をしていく必要がある」ことを指摘している。

これは正しいが,②の方はまったく進展していない。我が国のAIやIoTの開発レベルは,外国の技術の導入に追われ,そのような需要をさほど多くは生み出していないのかもしれない。

主体的消費者としてPC・IT・AI技法を使う

AIする前に

AIが,コンピュータやインターネットの技術的進展とデータ量の増加を背景に,従前の機械学習(プログラミング)にディープラーニングの手法を組み込んだ情報処理技術の最前線だとすれば,AIに心をとらわれる前に,今あるコンピュータ,インターネット,プログラミングに基づくIT技法を使いこなすことが,弁護士がAIにつき進むための前提である(「AIする」(あいする)はギャグです)。

重要な法律関連情報の収集

弁護士が業務でする情報処理のうち,当面,もっとも重要なのは,法律関係情報の収集分析である。これについては,何種類かの,判例,法令,法律雑誌の検索システムが提供されている。私は,「判例秘書」を使っている。

通常,判例検索システムには掲載している雑誌に含まれる以外の論文等は掲載されていないので,補足のため「法律判例文献情報」を使っている。ただ,これは単に文献の名称や所在が分かるだけで,文献がオンラインで見れるわけではない。法律のきちんとしたコンメンタールが,ネットで検索等で利用できれば便利だろうが,今のところ限られたものしかないようである。私は,パソコン版の「注釈民法」は利用しているが,民法改正でどうなることやら。

ところでアメリカのレクシスネクシスが開発中の「Legal Advance Reserch」のデモを見たことがあるが,州によって法律が違うこともあって,法令,裁判例,陪審例,論文,関連事実等,膨大になる事実を収集し,一気に検索,分析,可視化できるデータベースとのことである。これまでアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしていたリサーチの作業時間が一気に減り,弁護士のタイムチャージの減少(いや,弁護士の仕事の生産性の向上,効率化)とクライアントの経費削減が実現しつつあるようである。ついでにいうと,同じくアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしてすることで依頼者の大きな負担になっているe-ディスカバリーも,AI導入で,これもタイムチャージの大幅な減少がはかられつつあるとのことである。我が国において「リーガルテック」とか「レガテック」とかをいう人がいるが,やがて多くの工夫に支えられてその方向に行くとは思うが,現状では単なる「商売」以上とは思えない。

判例,法令,文献検索以外の技法

そこで前項の重要な法律関連情報(判例,法令,文献等)の収集以外で,今行われている弁護士業務を支えるIT技法を集めている本「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」,「法律家のためのスマートフォン活用術」を紹介する。いずれも私が昔所属していた「日本弁護士会連合会 弁護士業務改革委員会」の編著だ。

そのほかに,税理士さんがIT技法を駆使している「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)(Amazonにリンク)も役立ちそうなので紹介しておく。

それともともと裁判所がワープロ「一太郎」を使っていたことから,私もワープロというより清書ソフトとして「一太郎」を使っていた。Wordには不慣れなので,いろいろと勝手なことをされて「頭に血が上る」ことが多い。そこで「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」(Amazonにリンク)と,「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)(Amazonにリンク)を紹介しておく。「頭に血が上る」のは,私だけではない。

普通の仕事では,Excelも重要だろうが,弁護士業務ではそんなには使わない。

  • 「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」
  • 「法律家のためのスマートフォン活用術」
  • 「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)
  • 「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」
  • 「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)

ここで紹介した5冊については「仕事に役立つIT実務書」として「詳細目次」を作成したので,それを見て必要な項目を参照すればいいだろう。

再掲-ここに欠けているもの

これらに決定的に欠けているものは上記したとおりであり,「法律が自然言語によるルール設定であることについて科学的な検討や,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においてベイズ確率や統計等の科学的手法」が取り込まれた「人工知能」や,「進化したワードプロセッサー,データプロセッサー」」の実現の見通しもないというのが現状である。

でも何が起こるかは分かりませんよね。今後,「AIと法」について,「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」に,新しい情報,新しい考え方を集積していきたい。

AIにつながる数学とプログラミングの基本の本

前置き

続・ゲームへのコンタクト」に掲載した「「ゲーム情報学概論」(の第Ⅱ部,Ⅲ部)と「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」を理解するために,いったん「コンピューターにできること,AIにできること」の迂回したが,さて「AIにつながる数学とプログラミングの基本の本」を勉強しよう。この記事は,単に書名を紹介するだけだ。

「急がばまわれ」?

ところで,私は前に「ツールとしての統計学」という記事を作成し,次のように記載した。

統計学は,数学的な処理を前提とするので,数学的な素養も必要だ。

そこで私は,今後,まず,「計量経済学の第一歩―実証分析のススメ」(著者:田中隆一)を頭に入れて,「改訂版 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める」(著者:尾山大輔他),「経済学で出る数学 ワークブックでじっくり攻める」(著者:白石俊輔 )を勉強しようと思っている。それに加えて「大学初年級でマスターしたい物理と工学のベーシック数学」(著者:河辺 哲次)がほぼ理解できれば,私が通常読む本の数学的な処理については,問題がなくなるだろう。急がばまわえれだ。

しかし,どうもいまだ常用するほど「大学初年級でマスターしたい物理と工学のベーシック数学」を理解したとはいいがたい。

そこでもっと「数学とプログラミングの基本の本」にさかのぼろう。

数学の基本の本

  1. 「数学大百科事典 仕事で使う公式・定理・ルール127」(蔵本 貴文 )(Amazonにリンク)
  2. 「その問題、数理モデルが解決します 」(浜田 宏)(Amazonにリンク)
  3. 「いつでも・どこでも・スマホで数学!- Maxima on Android活用マニュアル」(梅野善雄)(Amazonにリンク)

ⅰに目を通して復習しながら,ⅱに行こう。ⅲは,様々な計算ができるアプリの解説本だ。

プログラミングの基本の本

  1. 「小学校でプログラミングを教える先生のためのコンピュータサイエンスの基礎-隙間時間を使って1ヵ月でマスターする」(渡辺毅)(Amazonにリンク)
  2. 「教養としてのプログラミング的思考-今こそ必要な「問題を論理的に解く」技術」(草野 俊彦)(Amazonにリンク)
  3. 「独学で身につけるためのプログラミング学習術」(北村拓也)(Amazonにリンク)
  4. 「プリンシプル オブ プログラミング-3年目までに身につけたい 一生役立つ101の原理原則」(上田勲)(Amazonにリンク)

これは順番に目を通せばよさそうだ。ⅰを見ればわかるように,なんせ,来年から小学校でプログラミングを教えるそうで,さあ,焦ろう。

 

 

 

 

社会問題を解決する方法序説

社会問題とは

社会問題とは,個人,企業,政府が,相互に関係,依存している複雑なシステム上の問題といえるだろう(複数の政府が関係すれば,国際(的な社会)問題である。)。

私たちは,社会問題や国際問題として,貧困,エネルギー資源の浪費と生態系の破壊,地球温暖化,戦争等々というような問題を挙げるが,このような問題を解決するには,問題を解きほぐし,十分な準備と関係する組織の強力な協調行動が必要であり,簡単ではない(これらについては,当面,「地球のなおし方-限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵」(著者:デニス・L・メドウズ,ドネラ・H・メドウズ)(Amazonにリンク)や, 「2052」(著者:ヨルゲン・ランダース)(Amazonにリンク)等を参照されたい)。

それはそれとして,もっと身の周りに,自分が一歩踏み出すことで解決すべき社会問題はないのであろうか。もちろんたくさんある。

その際,重要なのは,「政治が変われば社会はよくなる」などと考えないことだろう。もちろん,国内の中央政府,地方政府は,ルールを強制できる権力を有し,人と財を消費,分配する政策実行主体だから,多くの公共的な社会問題について,関与する領域や役割も多いが,しかしシステムの一つの要素にすぎず,その行動,ルールのどこをどのように変え,他の要素のどこをどのように変えるかという「システム思考」によって,政府の政策全体を検証,変革しなければ問題解決にはつながらず,「政治」が変わっただけでどうこうなるわけではない。だから私たちが社会問題に関わるとしたら,政府があまり関係しない問題か,政府が「謙虚に」問題解決にトライしている社会問題がよいだろう(後者が存在するかどうか?)。

そこで自分が一歩踏み出すきっかけとなるような3冊の本を紹介しておく。

3冊の本

①「社会が変わるマーケティング-民間企業の知恵を公共サービスに活かす」(著者: フィリップ・コトラー,ナンシー・リー)(Amazonにリンク

②「社会変革のためのシステム思考実践ガイド-共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する」(著者:デイヴィッド・ピーター・ストロー)(Amazonにリンク

③「社会的インパクトとは何か-社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド」(著者:マーク・J・エプスタイン,クリスティ・ユーザス)(Amazonにリンク

いきなり「社会問題」といってもとっつきにくいので,①のコトラーが「民間企業の知恵(マーケティング)を公共サービスに活かす」という観点から,様々な事例を紹介している。入口として優れている。

②は「システム思考」を基に,本格的に「社会問題」を解決する手法を論じたものであり,一番の基本書であろう。

③は,社会問題の解決を「社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド」という観点からきっちりと捉えようとしたもので,この分野の専門書といえよう。

詳細目次等が作成できていないので,追って掲載することとし,ここでは書名のみを紹介した。

 

 

世界の現在と未来を知るために

世界は今どうなっているのか

人の行動と,自然と,人工物が,相互に働き掛け反応して織りなす「世界」は,もともと巨大・複雑なシステムであり,最近になってシステム思考や,ビッグヒストリーという試みが何とかこれを解明しようとしていたと言えるだろう。従前の「経済学」,「社会学」,「歴史学」等の諸学は,隔靴掻痒の感を免れなかった。

ところが,10数年前から「世界」の要素として「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーが加わり,「世界」はますます複雑化し,その変化は劇的に加速されつつある。

私たちの生活や仕事,企業や政府の国内や国際的な活動,環境変動等は,いずれも今,このような複雑化・加速する「世界」の一場面として。相互に密接に関係しつつ,「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーによる「ハリケーン」に見舞われており,「世界」は,制御する対象どころか,その現況・将来を把握・予測するのさえ,困難になりつつある。

さらに言えば,そのような「世界」に古くからの「世界」が混在し,問題の解決はますます困難になりつつある。

しかしこのような中で,なんとか「サイバー空間」とテクノロジーを視野に入れつつ,「世界」を解析し問題解決につなげようとする試みもなされている。

ここではそのような試みから最近刊行されたKindle本6書を紹介しておく。紹介する6書は,①「巨大システム 失敗の本質」,②「サイバー空間を支配する者」,③「拡張の世紀」,④「NEW POWER」,⑤「遅刻してくれて,ありがとう(上) (下)」,⑥「デジタル・エイプ」であり,①は導入,②③は,サイバー空間の闇と光り,④はサイバー空間を元にしたビジネス展望,⑤⑥は,一歩退いた知性的な分析といえるだろう。視点の置き方によって記述内容・分析に違いはあるが,いずれもその内容は信用でき,熟読するに足りる本だと思う。詳細は今後必要に応じて紹介することとし,ここでは書名と私のごく簡単なコメントと出版社等による紹介を載せておく。

「世界」などという大風呂敷は?と敬遠する向きもあるかもしれないが,だれでも多かれ少なかれ「世界」の一部に向き合っているわけであり,今後の個人の仕事,企業経営等の方向性を見定めるのに大いに役立つだろう。

紹介する6書

「巨大システム 失敗の本質」

「巨大システム 失敗の本質~「組織の壊滅的失敗」を防ぐたった一つの方法」(著者: クリス・クリアフィールド,アンドラーシュ・ティルシック)(Amazonにリンク

私のコメント

複雑で密なシステムは統御困難であるということを,実例を挙げてわかりやすく説明している。我が国の失敗学の「最新版」というところだろうか。世界が複雑であるということを理解する入門に良い。

出版社等による紹介

・21世紀を生きるためには,電力網から浄水場,交通システム,通信ネットワーク,医療制度,法律まで,私たちの暮らしに重大な影響をおよぼす無数のシステムに頼るしかない。だがときにシステムは期待を裏切ることがある。これらの失敗や,メキシコ湾原油流出事故,福島の原子力災害,世界金融危機などの大規模なメルトダウン(組織の壊滅的失敗)でさえ,まったく違う問題に端を発したように見えて,じつはその根本原因は驚くほどよく似ている。

・複雑で結合されたシステムを運営するには,直感や自信を称え,よい知らせを聞きたがり,自分と見た目や考え方の似た人たちと過ごすことを好むといった「人間の本能や直感」に“逆らう”ことが,有効な対策を導き,問題解決のアイデアをもたらすことを示す。

 

「サイバー空間を支配する者」

「サイバー空間を支配する者~21世紀の国家・組織・個人の戦略」(著者:持永大, 村野正泰, 土屋大洋)(Amazonにリンク

私のコメント

下記の出版社等による紹介にもあるように「実態が不透明なサイバー空間を定量・定性的に包括的にとらえ,サイバー空間の行方を決める支配的な要素」を考察した本として,今の時点では,出色の出来だと思う。3人の著者によるからだろうか,多少重複もあるが,かえってわかりやすいか。「国家」(政府)の果たすべき役割も考えようとしているのだろうが,そもそも「国家」(政府)とは何か,この問題においてどのような役割を果たすことができるのかは,一筋縄ではいかない。

出版社等による紹介

・サイバー攻撃,スパイ活動,情報操作,国家による機密・個人情報奪取,フェイクニュース,そしてグーグルを筆頭とするGAFAに象徴される巨大IT企業の台頭――。われわれの日常生活や世界の出来事はほとんどがサイバー空間がらみになっています。サイバー空間はいまや国家戦略,国家運営から産業・企業活動,個人の生活にまで,従来では考えられなかったレベルで大きな影響を及ぼしつつあります。

・サイバー空間では,国家も企業も,集団も,個人もプレイヤーとなる。その影響力はそれぞれの地理的位置,物理的な規模とは一致しない。そして,経済やビジネスでもデータがパワーをもつ領域が広がっていますが,その規模はGDPでは測れません。

・本書は,これほど重要になっているのに,実態が不透明なサイバー空間を定量・定性的に初めて包括的にとらえ,サイバー空間の行方を決める支配的な要素を突き止めるものです。果たして,そこから見えてくるものは何か? 日本はサイバー空間で存在感を発揮できるのか?

 

「拡張の世紀」

「拡張の世紀~テクノロジーによる破壊と創造」(著者:ブレット・キング)(Amazonにリンク

私のコメント

今後,「サイバー空間」とテクノロジーがどのような,モノ,機能をもたらし,「世界」を「拡張」するのか。網羅的に検討している。著者」は,「金融テクノロジー分野におけるイノベーション,顧客チャネル戦略の専門家と紹介されており,内容も消して軽薄ではなく,手堅い。ただこれが「サイバー空間を支配する者」が描く現実の中で,どうなるかが問題である。また私は望まない「拡張」も多い。

出版社等による紹介

ヒト型ロボット,寿命延長,ゲノム編集,ブロックチェーン,空飛ぶクルマ,3Dプリント,AR・VR,etc。こうしたテクノロジーは世の中をどう変えていくのか。ヒトはどう変わるのか? 働き方,医療,交通,金融,教育,都市は?Tech界のグルが描き出す衝撃の未来予測!10年後の世界がここにある!

 

「NEW  POWER」

「NEW POWER~これからの世界の「新しい力」を手に入れろ」(著者: ジェレミー・ハイマンズ,ヘンリー・ティムズ)(Amazonにリンク

私のコメント

「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーが開くビジネス(NEW POWER)とこれまでのビジネス(OLD POWER)の差異と対立を,その価値観,モデルにより4領域に分け,詳細に,かつ分かりやすく検討していく姿勢に好感が持てる。ビジネスのヒントが満載である。

出版社等による紹介

いまや1,2年前とくらべただけでも世界が激変し,「個人でできること」の幅が大きく広がっている。そんないま「身につけるべきスキル」「意味のなくなったスキル」とは?いつでも誰とでも「つながれる」環境の中,いま何が起こっていて,あなたは一体何をすべきなのか?

 

「遅刻してくれて,ありがとう(上) (下)」

「遅刻してくれて,ありがとう~常識が通じない時代の生き方(上) (下)」(著者:トーマス・フリードマン)(Amazonにリンク

私のコメント

著者は,ピュリツァー賞を3度受賞した世界的ジャーナリストであり,これまでの4書がある方向を「煮詰める」傾向があるのに対し,一時停止して,「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーが,世界の政治,企業,生活にもたらすものを考えようという知性に満ちた本である。当たり前のことだが,「NEW  POWER」や「拡張の世紀」の「ハリケーン」の中でも,人類が延々と行ってきた「生活と行動」がある。著者は,「ハリケーンの目」に入ろう,自分史を振りかえって生活の場のコミュニティがその支えだとする。

そええは分かるがわが国ではどうか。わが国では,少なくても都市では地域のコミュニティは成立しがたいので,「ハリケーン」の「学びの場」でも作ってみようかという気になっている。

出版社等による紹介

・「何かとてつもないこと」が起きている――社会のめまぐるしい変化を前に,多くの人がそう実感している。だが,飛躍的な変化が不連続に高速で起きると,理解が追いつかず,現実に打ちのめされた気分にもなる。何より私たちは,スマホ登場以来,ツイートしたり写真を撮ったりに忙しく,「考える」時間すら失っている。

そう,いまこそ「思考のための一時停止」が必要だ。

・「平均的で普通な」人生を送ることが難しくなった「今」という時代を,どう解釈したらいいのか?変化によるダメージを最小限に抑え,革新的技術に対応するにはどうしたらいいのか?

 

「デジタル・エイプ」

「デジタル・エイプ~テクノロジーは人間をこう変えていく」(著者:ナイジェル シャドボルト,ロジャー ハンプソン)(Amazonにリンク

私のコメント

著者の一人,ナイジェル シャドボルトは,ティム・バーナーズ=リーと共同で「www」の仕組みを開発。英国を代表するコンピューター科学者で、最先端の人工知能・Webサイエンス研究者の一人と紹介されている。「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーを,進化,人類の知的発展の中に,科学的・学問的に位置付けており,熟読するに足りる。しかし,イギリスの本には,ウイットに富んだ知性のある面白いものが多いなあ。

出版社等による紹介

「私たちが新たな道具をつくったのではない。新たな道具が私たちをつくり出したのだ」

・デジタル機器によって,人間はどう変わっていくのか? AI,ロボット,スマホ,ウェブ,生物学,哲学,歴史,経済学……オックスフォード大学教授を務める英国トップクラスの人工知能研究者らが,膨大な知見から描き出す!

生まれたときから検索ツールに囲まれている世代にとって必要なスキルは,それ以前の世代とはまったく違う。

・これまで最重要だとされてきた「記憶力」の意味は以前より薄くなり,IT機器が「外部の脳」のような役割を果たす。人類の重要なサバイバルスキルのひとつだった「方向感覚」も備わっていない人間が増えていく。そのような「デジタルなサル(デジタル・エイプ)」が多数派となり,テクノロジーがいっそう進化した時代。

そこには一体,どんな「問題」があり,どんな「可能性」が存在するのか?

「最高峰の知性」が予測する,人類の未来。

「こころ」と行動

上記したように,今,「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーの新しい「世界」に古くからの「世界」が混在し,問題をますます複雑化している。新しい世界を見極めるのと同時並行的に,古くからの「世界」を支える人の「こころ」と行動を理解することが改めて重要だと思う(「「こころ」と行動の基礎」を参照)。

 

138億年!!

138億年とは

138億年とは,138億年前に宇宙が誕生したといわれるその年数である。もっともテレビでも放映されたクリストファー・ロイドの「137億年の物語―宇宙が始まってから今日までの全歴史」もあるし,140億年前ともいわれるが,1,2億年くらい大した問題ではない(のかなあ?)。

惑星科学者である松井孝典さんの「138億年の人生論」(Amazonへリンク)というKindle本を見つけたので,読めばきっと雄大な気持ちになるだろうと思って早速購入したのだが,その結果は!

「138億年の人生論」の中で松井さんは,宇宙,地球,生命,文明について何十年も考え続けてきたとするので,それがまとまっているであろう「宇宙誌」を購入しようと思ったのだが,「138億年の人生論」にも出てくる恐竜絶滅の原因を隕石の衝突だと特定した地質学者のウォルター・アルヴァレズが「宇宙,地球,生命,人間」を「ビッグヒストリー(ストーリー)」という観点から書いた「ありえない138億年史~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー~」(Amazonへリンク)(「A Most Improbable Journey: A Big History of Our Planet and Ourselves by Walter Alvarez)がKindle本にあることを見つけ,こちらの方が大分内容が新しそうなので急遽乗り換えて目を通してみた。

私は常々,人間や社会の問題を考えるときは,進化論をふまえなければだめだと思ってはいたが,それを更に生命,地球,宇宙(物質とエネルギー)にまで広げて考えようとする「ビッグヒストリー」の試みがあることはこれまで知らなかったが,今回,「ありえない138億年史」を読んで,いたく感銘を受けた。「ビッグヒストリー」は決して「大風呂敷」を広げようとする試みではなく,物事の核心にある物質的な問題の連続(方向性と周期性)と偶然から「人間」をあぶりだそうとするもので,今までの「史観」がいかに狭苦しいものであったかがよくわかる。

取り急ぎこの2冊を紹介しよう。

 

 「138億年の人生論」を読む(Amazonへリンク

著者:松井孝典

出版社等による紹介

“宇宙スケール”で考えると,人生はほんとうにスッキリするのです-。人生の目的とは?教養とは?仕事とは?人間関係とは?宇宙の誕生から文明のゆくえまで,138億年の時空スケールで追究しつくす世界的惑星学者がはじめて綴る,「知的興奮に満ちた100年人生」を送るための25講

私のコメント

松井さんが自分の一貫した努力,現在の立ち位置が誇らしいのは分かるが,若い人をターゲットにした「人生論」だとしても,いささか汎用性に欠けると思う。

人生とは,頭のなかに内部モデルをつくりあげることだという全体を貫く立論は興味深いし,記述のうち,「4 「正しい問い」を立てる」,「10 「ひらめき」は普段から考えている人にのみ訪れる」,「18 過去をふりかえる暇があれば新しいチャレンジを」,「23 英語以前に「日本語で伝えるべき内容」をもつ」,「24 インターネットは歴史に逆行している」等は大いに参考になる。

その他は,お弟子さん,後輩に対する指導,意見,愚痴というところではないか。少なくても私は,雄大な気持ちにはならなかった。

 

「ありえない138億年史」を読む(Amazonへリンク)

~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー~ 
著者:ウォルター・アルバレス
A Most Improbable Journey: A Big History of Our Planet and Ourselves by Walter Alvareb (Amazonへリンク

出版社等による紹介

われわれ人間は、なぜここにいるのか? それは人類の歴史だけを見てもわからない。宇宙誕生から現在までの通史-「ビッグヒストリー」の考え方が必要だ。自然科学と人文・社会科学を横断する驚きに満ちた歴史を、恐竜絶滅の謎(隕石衝突)を解明した地球科学者が明らかにする。

歴史は必然ではない。偶然が重大な役割を担っている。宇宙、地球、生命、人間の各領域において、この世界が実際にたどった道とは異なる道をたどる可能性は無数にあった。その結果、今日のものとは異なる人間世界が生まれる可能性もあれば、人間世界がまったく生まれない可能性もあったのだ。そのため、今あるこの世界を理解するには、物理学や化学を超えて、地質学や古生物学、生物学、考古学、天文学、宇宙学などの歴史科学の領域から人間の歴史へと目を向けるべきだろう。これらの歴史科学や歴史学が、今あるこの世界の歴史について学びつつあることを知る必要があるのだ。

私のコメント

これはとても優れた本だ。京大の火山学の先生の鎌田さんが長々と「本書に寄せて」を書いているのも頷ける(なんとなく,松井さんと張り合っている気がする。)。本の内容は網羅的ではなくて,ポイントを点描するという手法だが,それが核心をついている。著者は,「138億年の人生論」でも紹介されているように,親子で恐竜絶滅の原因が隕石衝突であることを解明した子の方だ。

翻訳本の目次だとわかりにくいが,PROLOGUEがIntroduction と1章,COSMOSが2章,EARTHが3~6章, LIFEが7章 ,HUMANITYが8,9章,EPILOGUEが10章という構成だ。

第1章に,隕石衝突の証拠発見のことと著者がビッグヒストリーに取り組んだことが書かれ,第2章に宇宙の誕生から地球の誕生までがまとめられる。

著者は地質学者ということで,地球がどのように人間が利用できる資源(特に砂)生んだのか,(第3章),そして人間の活動を踏まえ,地球の大陸+海(第4章),山(第5章),川(第6章)が語られる。ここで重要なのは,プレート・テクニクスだ。

そして第7章に,人間の体に生命の歴史が刻まれているという観点から,生命の誕生から歴史が語られる。

第8章では人類の移動が語られ,第9章では,言語,火,道具の使用のうち,火の利用と青銅器の製造について詳細に語られる。

そしてエピローグで,歴史の展開について,連続(方向性と周期性)と偶然による2分法を提案する。そして偶然とは,「まれ」であること,「予測不能」であること,「重大」な意味を持つことだとする。

この本は一流の科学者が,哲学をもって,宇宙,地球,生命のみならず人類の歴史にも挑んだもので,その記述には本当に感心させられる。本来,真正面から問題にぶつかるべきであるが,私は「ビッグヒストリー」というのは今回初めて出会った手法であるので,今回は,「ありえない138億年史」のほんの上っ面だけを紹介し,現在ぞくぞくと購入して読解に努めつつある「ビッグヒストリー」関係の本によってその大要をつかみ,改めて全体像について検討したい。

私は,「ビッグヒストリー」によって,偶然と激動の自然の中に,人間をシステムの要素として位置づけることができ,システム思考と突合せできそうだそうだという予感がある。最もそんなことはとっくにやられているかも知れないが。

著者が展開している「ビッグヒストリー」のWebとして,ChronoZoomがある。

なおビッグヒストリーのうち,人間の歴史は,デヴィッド・クリスチャンという人が,ビル・ゲイツさんの協力を得て展開しつつあるようだ。ビッグヒストリーの本の多くに,デヴィッドさんが絡んでいる。

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情報をめぐって

勉強法から情報へ

最近私は,お酒を飲むと翌日の体調が悪くなるので,できるだけお酒をひかえるようにしている。「お酒をひかえる」という道は何度も来て引き返した道ではあるが,今回は朝のスロージョギングとペアで実行しており,劇的なリバウンドもなく,なかなか快調だ。問題はこの時期,朝,外は寒く暗いということだが,朝風呂に入ってから走り出すので,なんとか乗り切れるだろう。ジョギングはスローなので,辛くはない。

そうするとある程度まとまった時間ができる。これまでは,時間ができても,その場限りの思い付きの読書をすることがほとんどだったが,今回は,少し系統的に勉強してみようと思い立った。そこでまずいろいろな「勉強法」の本に目を通してみた。結果,「勉強法」は大きく「目標・やる気」,「計画とプロセス」,「具体的方法」に大別できるだろうか。その中で,アメリカのAmazon 2017年ベスト・サイエンス書に選ばれた「Learn Better」(著者:アーリック・ボーザー )(Amazonへリンク)あたりは読みやすいのだが,各章(章題は,Value,Target,Develop,Extend,Relate,Rethink)に書かれていることが必ずしも体系的でないのと,内容も高低精粗ばらばらという面もあって,??という感想も持つのだが,とにかくこの本が取材を積み重ねていることには好感が持てるので,導入にはよいだろう。ちなみに,この本が推奨する「具体的方法」は様々な観点,方法の自問自答を繰り返すことであって,私にいわせれば中高年にぴったりの「ぶつぶつ勉強法」である。

「勉強法」はおって紹介することとするが,「勉強法」の本の中で私が気になったのは,「リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法」(著者:Andy Hunt)(Amazonへリンク)や,「エンジニアの知的生産術」(著者:西尾泰和)(Amazonへリンク)という,デジタル社会における真偽をかっちりさせなければならない領域の「勉強法」である。そこからにわかに興味が「情報」に移り,何点かの「情報」の本に目を通してみた。この記事はその最初の導入である。デジタル情報を流通させるためには,論理的で正確な手続が必要だが,一方,今現在流通している大量の情報には内容がでたらめなものが多いということが出発点である。

情報をめぐる問題①…情報の基礎

そもそも情報とは何で,どうして上記のようなことが起きるのかを原理的に説明できるのか。

それについて真正面から説明しようとする試みに,西垣通さんの「基礎情報学」がある(例えば「生命と機械をつなぐ知-基礎情報学入門」(Amazonへリンク))。基礎情報学は,情報を,生命情報,社会情報,機械情報に分類して考察する。そして各情報を,システム,メディア,コミュニケーションとプロパゲーションに位置付け,関係付けて考察しており,情報の基礎と問題点を学ぶには十分の本だ(ただ「情報科学」の本とは違い,哲学的な考察を導入して議論の広がりがあり,全体を把握するのは大変だ。)。因みに,生命情報の最初はアフォーダンスのようなことから説明されているので,どうして物的世界の情報の流れが生命情報になるのかというところは,「哲学入門」(著者:戸田山和久)(Amazonへリンク・本の森へリンク)が参考になる。

その他,「情報と秩序-原子から経済までを動かす根本原理を求めて」(セザー・ヒダルゴ)(Amazonへリンク)(冒頭は,「宇宙はエネルギー,物質,情報からできている。だが,宇宙を興味深いものにしているのは情報だ」から始まる。)や,「インフォーメーション-情報技術の人類史」(ジェイムズ・グリック)(Amazonへリンク)も,情報の基礎を別の観点から明らかにするものとして参考になるだろう。

冒頭に述べた,現在流通する多くの情報の内容がでたらめなものであるという事態はどこから生じるのか,どう対応すべきかは,すぐに答えの出る問題ではないが,カッカせずに,情報の基礎に立ち返って考察を重ねるべきであろう。

情報をめぐる問題②…CS(IT・AI)

情報をめぐる次の問題として,Computer Scienceを利用した情報の創造,流通,処理等(ITやAI)が,今どこに到達し,今後何を成し遂げるかという問題から目を離すわけにはいかない。これについて私は「ウキウキ派」ではあるが,一方,西垣さんがいう生命情報と機械情報の差異,またIT・AIが生み出す機械情報は,数学ができることしかできないという「コンピュータが仕事を奪う」(Amazonへリンク)等における新井紀子さんの指摘は,肝に銘じる必要がある。IT・AIについては,このWebでは「AIと法」,「IT・AI法務」,「IT・AI」等に分散して記載しているが,いずれ再整理する必要があるだろう。いずれにせよIT・AIは,情報の基礎に立ち返って考察することが大切である。

これとは別に,今現在,IT・AI環境の利用について多くの人が多大なストレスを感じておりそれをどう解消できるのかというのが目の前の大問題であり(「ウェルビーイングの設計論-人がよりよく生きるための情報技術」(著者:ラファエル A. カルヴォ & ドリアン・ピーターズ )(Amazonへリンク)),それをAIで成し遂げようというのは,やりたくはなるが,おそらく問題を複雑にするだけだろう。

情報をめぐる問題③…規制とGDPR

政府による規制

次に企業や政府が取得,利用等する情報の問題であるが,これはもっぱら政府が法によって企業の情報利用を規制するという局面が問題となる。通常の「情報法務」である。実務書はたくさんあるが,「データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A」(Amazonへリンク)あたりが利用しやすい。

これとは別に,政府は,みずから情報をどう扱っているか,企業の情報利用を規制する能力があるかということが,最近,深刻である。

前者についていえば,世界でも,わが国でも,政府(政治家+官僚)が行政情報を隠匿しようという動きが顕著である(例えば,「武器としての情報公開」(著者:春日部聡),(Amazonへリンク),「公文書問題 日本の「闇」の核心」(著者:瀬畑源)(Amazonへリンク))。その時いくらうまく立ち回り,もてはやされても,情報を隠匿すれば,後代から激しく弾劾されるというのが政治の常なのだが,ジャンク情報の氾濫の中でそれが見えなくなっているようだ。

後者の規制する能力があるかということは,要は政府が,多面的な情報の性格を的確にとらえて,必要不可欠情報規制に係る政策を立案,実行しているかということである。まず無理だろう。おかしければ批判し改善を促していかなければならない。その一番手は弁護士のはずだが,弁護士はどうも立法論,裁判所に弱く(これは個別事件の処理にあたっては,当たり前かもしれないが。),心もとない。自戒しなければならない。

GDPR

政府の規制する能力とも関係するが,2018年5月からGDPRが施行されたことを踏まえ,「黒船来る」みたいな議論がされているが,GDPRの目的は何であろうか,本当にプライバシー保護の徹底だろうか。もちろんそういう体裁はとっているが,実際の問題は,ヨーロッパにおけるビズネス権益だろう。

Googleにせよ,Face bookにせよ,始まりはまさに「電脳」の理念だったろうが,それを維持拡大するために頭を絞って始めた広告に個人のデータが結びつき,いまやその手法がビジネスの主流になってしまった。それはヨーロッパでは許さないよというのがGDPRではないか。「さよならインターネット-GDPRはネットとデータをどう変えるのか」(著者:武邑 光裕)(Amazonへリンク)を読んでそんなことを感じた。

情報をめぐる問題④…知財

最後の問題として,インターネットで流通する情報を,知財(特に著作権)との関係で検討すべき局面がある。知財とは何か,知財はどう保護されるか(あるいは利用が促進されるか)は,相当程度,流動的であり,インターネットで流通する大量の情報について,いちいちその権利侵害性を問題にしてもあまり意味はないと思うが,許容できない侵害行為もあるだろう。一方,インターネットで流通している情報に対して,いったい何権なのかよくわからない「権利」(あるいは複合体)が主張され,これをめぐって紛争になることも多い。流通する情報量に比べれば,多いというより僅少というほうが正しいか。ただしっかりした見識を持って対応しないと,つまらない「炎上」騒動に巻き込まれる可能性がある。これはある表現に対して,根拠もないでたらめな情報をぶつける(流通させる)という冒頭に指摘した問題と同じ構造である。

これらについて知財の概要を把握するために,「楽しく学べる「知財」入門」(著者: 稲穂 健市)(Amazonへリンク),「こうして知財は炎上する ビジネスに役立つ13の基礎知識 」(著者: 稲穂 健市)(Amazonへリンク)等が参考になる。あと「著作権」の概説書に目を通すのがよいだろう。

情報をめぐるその他の問題

ところで,西垣通さんが,基礎情報学に取り組む前に「こころの情報学」()という新書がある。その中で西垣さんは,情報が関連する分野として(1)コンピュータ科学分野 ,(2)遺伝情報を扱う分子生物学や、動物コミュニケーションを研究する動物行動学など、生物学の関連分野,(3)言語情報をはじめ諸記号の作用を研究する、記号学・哲学・言語学などの関連分野 ,(4)マスコミをはじめ多様なメディア情報と社会・文化・歴史との関係を研究する、社会学・メディア論・メディア史などの分野,(5)認知科学など、情報処理に関連した心理学の分野 ,(6)図書館情報学など、事物や概念の分類法を研究する関連分野 ,(7)情報経済や経営情報など、情報をめぐる経済学・経営学の分野 ,(8)著作権など、情報に関する法学の分野を挙げている。学者から見た当時の俯瞰図としてもっともであるが,私としては,現在,解決すべき問題はないかという観点から「情報をめぐる問題」を取り⑨挙げたということである。

西垣さんは,第2次人口知能ブームの時代に,アメリカでそれを実見したという立場にあり,その経験を踏まえ,「ネットとリアルのあいだ-生きるための情報学 (ちくまプリマー新書)」,「ネット社会の「正義」とは何か 集合知と新しい民主主義 (選書)」,「集合知とは何か-ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書),「ビッグデータと人工知能 – 可能性と罠を見極める (中公新書)」,「AI原論 神の支配と人間の自由 (講談社選書メチエ)」」等の著作があり,参考になる。IT,AIの問題は,若い人のイケイケどんどんだけでは,なかなか「正解」には達しない。

以上は一応の整理である。私の主たる関心は,情報そのものというより,情報の一機能であるルールにある。そこまでうまくつながるだろうか,朝のスロージョギングを継続しよう。