「Think clearly」を読む

「Think clearly 最新の学術研究から導いた,よりよい人生を送るための思考法」(著者:ロルフ・ドベリ)(Amazonにリンク
「The Art of the Good Life: Clear Thinking for Business and a Better Life by Rolf Dobelli」(Amazonにリンク

自分の生活と仕事を見直すために

丸善も薦める本

東京駅近くの丸の内オアゾに丸善の本店がある。そこの1階から2階,2階から3階へのエレベーターの脇に,同じ本の大きなポスターが何枚も張ってある。気が付くと最近は,「センスメイキング」,「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」と,いずれも私が先にKindleで購入し評価していた本だったが,今は(2019年6月中旬),本書「Think clearly」のポスターが張ってある。私は本書もポスターの張り出しに先行してKindleで購入し,前2書以上に評価していた。取り急ぎ紹介したい。なお本書は「連休を振り返る」「仕事について考えよう」で書名だけだが挙げておいた。

本書は52の論考からなっており,著者はその内容を,よりよい人生を生きるための「思考の道具箱」(Thinking for Business and a Better Life)とまとめている。

著者はスイス人生まれでドイツ語でこの本を書いているが,もちろん英訳されている。ドイツ語からの邦訳,英訳時にどちらかに(どちらも?)若干の編集が行われているようで,論考の並べ方が異なっている。

よりよい人生を生きる?

「よりよい人生を生きる」といわれるとこそばゆいが,著者は次のようにいう。
「よりよい人生を手にするのは,けっしてたやすいことではない。賢いといわれている人たちでさえ,人生でつまずくことがは多いのは,人間は,自分たちがつくりあげた世界を,もはやわかっていないからだ。いまや人間の直観は,信頼できるコンパスではない。そして,私たちはこの不透明な世界を,別の世界のためにつくられた脳を駆使して生き抜こうとしている。別の世界とは石器時代である。私たちに搭載されているソフトウェアもハードウェア(つまり私たちの脳)も,マンモスが草を 食んでいた時代のままだ。文明の発展が速すぎたために,脳の進化はそのスピードに適応できていない。だからいつでも使える「思考の道具箱」を用意しておけば,世界をより客観的にとらえ、長期的によい結果をもたらす行動ができるようになる」。

この状況認識-(私の言葉でいえば)言語とテクノロジーの蓄積,交錯によって世界は劇的に複雑化しているが,(目的手段推論付き)オシツオサレツ動物である人間はこれに適応できていない-から,「思考の道具箱」を用意したというのである。

思考の道具箱

著者が用意する「思考の道具箱」の出典は,「ひとつ目は,過去四〇年にわたる心理学研究の成果だ。精神心理学,社会心理学,ポジティブ心理学,ヒューリスティックスおよびバイアス研究,行動経済学,臨床心理学,それに,認知行動療法の中でも特に効果の高いものも取り入れてある」と説明される(まとめて「行動経済学と呼ぼう)。ふたつ目は,ストア派の思想,三つ目は,「投資関連書籍だ。ウォーレン・バフェットのビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーは,世界でもっとも成功しているバリュー投資家のひとりだが,現代に生きる偉大な思想家のひとりでもある」とされる。

このポジションの取り方がなかなか素晴らしい。人の誤りやすさに焦点を当てた科学である心理学(行動経済学)は,広くいきわたりつつあるが,どうしても人はこんなにも誤った思い込みをしているという「アンチテーゼ」に力点が置かれ,「そのあとどうするの」という点で説得力に欠けがちだ。しかし本書は心理学(行動経済学)に加え,権勢の中で質素に生きることの誇りを説くストア派,長期間にわたって成功し続けている投資家と,いずれも迫力あるただならぬ気配を漂わせる言説を加えることで,「今からどうするの」に応えている。

私はこれまでチャーリー・マンガー(+ウォーレン・バフェット)は全く視野に入っていなかったが,著者の本書での紹介に加えて「完全なる投資家の頭の中-マンガーとバフェットの議事録」(著者:トレン・グリフィン)(Amazonにリンク)を読むと,人の行動がどういうものであり ,成功する企業がどういうものであるかについての「メンタル・モデル」は確かに卓越している。

いずれにせよ,上記の状況認識の中で,誤りやすいことを充分に理解して前に進もうとすることで,よりよい人生を切り開こうとする著者の「思考の道具箱」には,リアリティがある。

3点支持

そこで,直ちにわかるのは,この「思考の道具箱」は思考するためにあるのであって,「信仰」の対象ではない。マンガーに関する本書か,上掲本のどこかに,マンガーが,「メンタル・モデル」の総数はせいぜい80か90だといったら,それを教えてくれという問い合わせが殺到したということが書いてあった記憶があるが,そういうことがだめなんだろうなと思う。

山登り(岩登り)の基本技法に3点支持がある。四肢(手足)のうち三肢で体を支える,一肢を自由にして次の手がかり・足場へ移動する技法だ。3点支持,3点支持と唱えるだけで岩場ではずいぶん落ち着く。

私には,この3点支持という言葉が,著者やマンガーの流儀にふさわしい気がする。3点というのは,上記の本書の3点の出典という意味も含んでもよいが,それに限らず「思考の道具箱」,「メンタル・モデル」を利用しつつ,出来るだけ自分の頭で確実な支点を確保して(せいぜい3点だろう),そこから次の地平を自由に目指すが,確保した3点も確実ではなく,たえず行動は試行錯誤に晒されるという意味も含むだろう。

本書の使用法

本書の使用法というのも変ないい方かもしれないが,本書の52の論考を,最初からずらずらと読んで理解し,ここはいいなあ,これはなんだというような反応をしていただけではあまり役には立たないだろう(上述したように,邦訳,英訳で順番が違う。後掲する)。

本書はの読み方として一番いいと思うのは,まず52の論考を,自分なりのカテゴリーを作って(例えば,「行動することと考えること」,「人生哲学」,「複雑な世界」,「日常のあり方」,「ビジネス」とぢてみたが,うまくいっていない),並び替え,相互の関係を検討してみるということである。本書が素晴らしいのは。その8割方はきわめてまっとうなことが書いてあることで,全体の構成についてあまり不安に陥らず,これは良さそうだが,これらは矛盾している,共通する点があるとすればそれは何だろう等々と,思考実験を含め,自分にとって確実な支点を確保することで,自分がこれから何をやるかに,役立てることができそうなことだ。ついでに邦訳と英訳をランダムに読んでみるといろいろと発見もある。ただ金科玉条にするものではなく,突っ込みどころ満載だ。

私が気に入った点

私が本書で気に入った点は,何点かあるが,まず「複雑な世界」のことは分からないから「複雑すぎる質問」の収納箱を作って入れて置こうということであろうか。私はどちらかといえば「複雑な世界(システム)」の全体像を解明しようと思ってきたが,できないことはできないので,自分が手に負えることだけすればよいという「道具箱」は救われる。私は,制度(システム)全体をにらみつつ,そのなかで,ルロール(法)の機能と制御を考えて行けばいいのかなと改めて思った。そんなに時間もないし。

でてくる人,本も,「幸せな選択,不幸な選択」(ポール・ドーラン ),「失敗の科学 失敗から学習する組織,学習できない組織」(マシュー・サイド),ダニエル・カーネマン,ファインマン,バートランド・ラッセルと等々と,常識的で好感が持てる。

フォーカスイリュージョンの指摘も重要だし,出来るだけ試した方がいいということで,秘書(の面接)問題の指摘もある。ひとりの秘書の採用に100人のの応募があったとき,面接と決定はどうすればよいか。「「最初の37人」は、面接はしても全員不採用にして、ひとまずその37人の中でもっとも優秀な女性のレベルを把握する。そしてその後も面接を続け、それまでの37人のうちもっとも優秀だった人のレベルを上回った最初の応募者を採用する」というのが「唯一の正解だそうだ。数学的な説明は例えば「高校数学の美しい物語」「秘書問題(お見合い問題)とその解法」(外部サイトにリンク)にある。

その他「生き方」というレベルでの対応や,「ビジネス」についての言説も鬼気迫るものがあるが追って紹介しよう。

一方,デジタル関係は苦手なようだ。著者は。静かな生活を送るには退けるというが,好きで飛込みたい人もいるだろう。読む本も1年20冊という。これで済めばいいが,私もあれこれ追いかけはやめよう。

次に,邦訳の順番に,英訳を付加して,52の論考を並べる。

 

AIと法・再考

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告2

 

この投稿は,固定ページ「AIと法」の記事を大幅に改定したので,投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「AIと法」をご覧ください。

「AIと法」を考える

「AIと法」の問題の所在

3層の問題

「AIと法」という問題を考えるとき,次の3つの層の問題が考えられる。

Ⅰ まず,IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらす(ことができる)かという問題である。

Ⅱ 次に,①AIが将来,実用的なレベルに成熟して社会に浸透した場合に,どのような法律問題が生じるのか,②現在のITは「AI以前」であるとしても,実際は現在のIT・AIに生じている法律問題を解決するさえ困難なのではないか ,という問題である。

Ⅲ 最後に,法律に関連する業務で,IT・AIを使いこなすためにはどうすればいいのかという問題である。

検討

キラキラした魅力を発しているのは,もちろん,Ⅰである。対象には司法(裁判)のみならず,立法手法や行政過程も含まれるし,更には任意のルールや社会規範も含まれるであろう。私が今後考え,追い詰めていきたいのも,もちろんⅠである。これについては,「AIと法」のメインテーマとして今後「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」(作成中)において,集中的に検討し,論考を掲載していきたい

法律家はⅡ①を論じるのが好きだが,これはあくまで仮想の問題である。Ⅱ②について,現に頻発しているシステム開発やネットトラブルをめぐる紛争に,司法システムはきちんと対応できているだろうか。Ⅱについては「IT・AI法務IT・AI法務」で ,基本的な検討をする。

Ⅲは,法律家の「仕事の仕方」-生産性,効率性-の問題である。本項目は,「弁護士の仕事を知る」の下位項目であるから,対象を専ら弁護士業務に絞ってここで検討しよう。

その前提として,上記ⅠないしⅢを貫く「AIと法」の最も基本的な問題を,「AIに期待すること・しないこと」として指摘しておきたい。

AIに期待すること・しないこと

AIに期待すること

「私は,現時点で,(少なくても我が国の)法律家がする業務には大きな二つの問題があると考えている。ひとつは,法律が自然言語によるルール設定であることから,①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや,②適用範囲(解釈)に関する法的推論について,これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったこと。ふたつめは,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においても,ベイズ確率や統計等の科学的手法がとられていなかったことである」と指摘し,これを変える「方向性を支えるのがIT・AIだとは思うが,まだ具体的なテクノロジーというより,IT・AIで用いられる論理,言語,数学(統計)を検討する段階にとどまっているようだ。前に行こう。」と書いた(「プロフェッショナルの未来」を読む)。

「そしてこれが実現できれば,「法律の「本来的性質」が命令であろうと合意であろうと,また「国家」(立法,行政,司法)がどのような振舞いをしようと,上記の観点からクリアな分析をして適切に対応できれば,依頼者に役立つ「専門知識」の提供ができると思う。」」とも考えているのである。

イギリスでの議論

「プロフェッショナルの未来」の著者:リチャード・サスカインドには,「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future 」(by Richard Susskind)があり,これは,上述書の対象を法曹に絞り,さらに詳細に論じているようだ。

これに関連するKindle本を検索していて「Artificial Intelligence and Legal Analytics: New Tools for Law Practice in the Digital Age」(by Kevin D. Ashley)を見つけた。でたばかりの新しい本である。そしてその中に(1.5),内容の紹介として次のような記述があった。なお二人ともイギリスの人である。

Readers will find answers to those questions(How can text analytic tools and techniques extract the semantic information necessary for AR and how can that information be applied to achieve cognitive computing?) in the three parts of this book.

Part Ⅰ introduces more CMLRs developed in the AI&Law field. lt illustrates research programs that model various legal processes:reasoning with legal statutes and with legal cases,predicting outcomes of legal disputes,integrating reasoning with legal rules cases,and underlying values,and making legal arguments.These CMLRs did not deal directly with legal texts,but text analytics could change that in the near future.

Part Ⅱ examines recently developed techniques for extracting conceptual information automatically from legal texts. It explains selected tools for processing some aspects of the semantics or meanings of legal texts,induding: representing legal concepts in ontologies and type systems,helping legal information retrieval systems take meanings into account,applying ML to legal texts,and extracting semantic information automatically from statutes and legal decisions.

Part Ⅲ explores how the new text processing tools can connect the CMLRs,and their techniques for representing legal knowledge,directly to legal texts and create a new generation of legal applications. lt presents means for achieving more robust conceptual legal information retrieval that takes into account argument-related information extracted from legal texts. These techniques whihe enable some of the CMLRs Part Ⅰ to deal directly with legal digital document technologies and to reason directly from legal texts in order to assist humans in predicting and justifying legal outcomes.

Taken together, the three parts of this book are effectively a handbook on the science of integrating the AI&Law domain’s top-down focus on representing and using semantic legal knowledge and the bottom-up,data-driven and often domainagnostic evolution of computer technology and IT.

このように紹介されたこの本の内容と,私が「AIに期待すること」がどこまで重なっているのか,しばらく,この本を読み込んでみようと思う。

AIに期待しないこと

実をいうと,「IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらすか?」という質問に答えれば,今後,我が国の法律実務の現状を踏まえ,これに対応するために画期的なAI技法が開発される可能性はほとんどないだろう。我が国の法律ビジネスの市場は狭いし,そもそも世界の中で日本語の市場自体狭い。開発のインセンティブもないし,開発主体も存在しない。ただ,英語圏で画期的な自然言語処理,事実推論についての技法が開発され,それが移植できるこのであれば,それはまさに私が上記したような,法律分野におけるクリアな分析と対応に応用できるのではないかと夢想している。

したがって当面我が国の弁護士がなすべきことは,AIに期待し,怯えることではない。今の時代は誰でも,自分の生活や仕事に,PC(スマホを含む)・IT・AIの技法を活かしている。弁護士も,仕事に役立つPC・IT・AI技法を習得して,業務の生産性と効率性の向上に力を注ぐことが大切ではないだろうか。それをしないと,弁護士の仕事をAIに奪われるのではなく,他の国際レベルで不採算の業種もろとも,自壊していくのではないかと,私には危惧されるのである。

弁護士の仕事とPC・IT・AI技法

以下,弁護士の仕事の限りで,役に立つPC・IT・AI技法を簡単に紹介する。ただし,現状の略述であって将来を見越したものではない。その前に,私の「IT前史」を振り返っておこう。

私が2004年に考えていたこと

私は,弁護士会の委員会でITを担当していた2004年に「ITが弁護士業務にもたらす影響」という論考を作成している(2004年に私が考えていた「ITが弁護士業務にもたらす影響」参照)。

その中で「デジタル化して収集した生情報(注:事実情報),法情報を,弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理,思考,判断し,結論を表現することを可能とするツールの開発が急務である。例えば,弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(弁論要旨や最終準備書面)を作成するとき,必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり,しかもなお不十分だと感じることはよくあるのではないだろうか。あるいは供述の変遷を辿ったり,証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したいこともある。このような作業(の一部)は,パソコンの得意な分野である。また少なくても,当方と相手方の主張,証拠,関連する判例,文献等をデジタル情報として集約し,これらを常時参照し,コピー&ベイストしながら,書面を作成することは有益であるし,快感さえ伴う。これらの書面作成をいつまでも手作業ですることは質的にも問題であるし,実際これまで弁護士は忸怩たる思いを抱えながらこれらの作業をこなしていたのではなかろうか。目指すは,当面は進化したワードプロセッサー,データプロセッサーのイメージであるが,データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」があることも充分にあり得る。これらのの開発には,練達の弁護士の経験知をモデル化する必要があり,弁護士会がすすんで開発に取り組む必要があろう。」と指摘している。今振り返るとこれこそ,弁護士業務におけるAIの活用そのものであるが,これは,当分,実現される見通しはない。

私が2017年に考えていたこと

その後,2012年に画像認識に劇的な変化があったが私はそんなことも知らず,だんだん世間がAIについて騒ぎ出した2017年9月になって「弁護士として「AIと法」に踏み出す」を作成している。

そこでは,①「これからは,AIやIoTの中味に少しでも立ち入ってソフトやハードに触れながら,これを継続して使いこなすのが大事だと思う。傍観し批評する「初心者消費者」から,これを使いこなす「主体的消費者」へ大変身」が必要であること,②「弁護士と「AIと法」との関わりは,怒濤のように進展するであろうAIやIoTの開発,製作,販売,提供,利用等をいかなるルールの上に載せて行うかという,自ずから国際的な規模とならざるを得ない立法,法令適用,契約,情報保護,及び紛争処理等の問題である。我が国での現時点での弁護士の取り組みは,今の法令ではこうなる,こうなりそうだという程度であるが,それでは法的需要は支えきれない。AIに「主体的」に係わり,弁護士としての仕事をしていく必要がある」ことを指摘している。

これは正しいが,②の方はまったく進展していない。我が国のAIやIoTの開発レベルは,外国の技術の導入に追われ,そのような需要をさほど多くは生み出していないのかもしれない。

主体的消費者としてPC・IT・AI技法を使う

AIする前に

AIが,コンピュータやインターネットの技術的進展とデータ量の増加を背景に,従前の機械学習(プログラミング)にディープラーニングの手法を組み込んだ情報処理技術の最前線だとすれば,AIに心をとらわれる前に,今あるコンピュータ,インターネット,プログラミングに基づくIT技法を使いこなすことが,弁護士がAIにつき進むための前提である(「AIする」(あいする)はギャグです)。

重要な法律関連情報の収集

弁護士が業務でする情報処理のうち,当面,もっとも重要なのは,法律関係情報の収集分析である。これについては,何種類かの,判例,法令,法律雑誌の検索システムが提供されている。私は,「判例秘書」を使っている。

通常,判例検索システムには掲載している雑誌に含まれる以外の論文等は掲載されていないので,補足のため「法律判例文献情報」を使っている。ただ,これは単に文献の名称や所在が分かるだけで,文献がオンラインで見れるわけではない。法律のきちんとしたコンメンタールが,ネットで検索等で利用できれば便利だろうが,今のところ限られたものしかないようである。私は,パソコン版の「注釈民法」は利用しているが,民法改正でどうなることやら。

ところでアメリカのレクシスネクシスが開発中の「Legal Advance Reserch」のデモを見たことがあるが,州によって法律が違うこともあって,法令,裁判例,陪審例,論文,関連事実等,膨大になる事実を収集し,一気に検索,分析,可視化できるデータベースとのことである。これまでアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしていたリサーチの作業時間が一気に減り,弁護士のタイムチャージの減少(いや,弁護士の仕事の生産性の向上,効率化)とクライアントの経費削減が実現しつつあるようである。ついでにいうと,同じくアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしてすることで依頼者の大きな負担になっているe-ディスカバリーも,AI導入で,これもタイムチャージの大幅な減少がはかられつつあるとのことである。我が国において「リーガルテック」とか「レガテック」とかをいう人がいるが,やがて多くの工夫に支えられてその方向に行くとは思うが,現状では単なる「商売」以上とは思えない。

判例,法令,文献検索以外の技法

そこで前項の重要な法律関連情報(判例,法令,文献等)の収集以外で,今行われている弁護士業務を支えるIT技法を集めている本「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」,「法律家のためのスマートフォン活用術」を紹介する。いずれも私が昔所属していた「日本弁護士会連合会 弁護士業務改革委員会」の編著だ。

そのほかに,税理士さんがIT技法を駆使している「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)(Amazonにリンク)も役立ちそうなので紹介しておく。

それともともと裁判所がワープロ「一太郎」を使っていたことから,私もワープロというより清書ソフトとして「一太郎」を使っていた。Wordには不慣れなので,いろいろと勝手なことをされて「頭に血が上る」ことが多い。そこで「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」(Amazonにリンク)と,「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)(Amazonにリンク)を紹介しておく。「頭に血が上る」のは,私だけではない。

普通の仕事では,Excelも重要だろうが,弁護士業務ではそんなには使わない。

  • 「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」
  • 「法律家のためのスマートフォン活用術」
  • 「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)
  • 「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」
  • 「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)

ここで紹介した5冊については「仕事に役立つIT実務書」として「詳細目次」を作成したので,それを見て必要な項目を参照すればいいだろう。

再掲-ここに欠けているもの

これらに決定的に欠けているものは上記したとおりであり,「法律が自然言語によるルール設定であることについて科学的な検討や,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においてベイズ確率や統計等の科学的手法」が取り込まれた「人工知能」や,「進化したワードプロセッサー,データプロセッサー」」の実現の見通しもないというのが現状である。

でも何が起こるかは分かりませんよね。今後,「AIと法」について,「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」に,新しい情報,新しい考え方を集積していきたい。

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告

原稿を執筆する

先日ある法律雑誌から,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについて原稿の執筆依頼を受けた。私は「AIと弁護士業務」について昔から興味はもっているが,このWebでは目についた本や催しを取り上げて,その時々,感想を述べているだけで,網羅的,かつ学問的な内容の原稿はどうもと思ったのだが,「それならちょうどよい,締め切りは来年の2月末なので充分に時間はある」といわれ,その気になってしまった。

考えてみればこのWebのPC・IT・AI関係の記事についても,「あれをやろう,これを書こう」とそのままになっていることも多いので,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」いうことに焦点を当て,時間をかけてあれこれつぶしていくのも面白いだろうと思いはじめた。私は百名山登山のように「つぶしていく」のが好きだし,頭が整理できると気持ちがよい。

もっとも締め切りが近づいてくると焦るかもしれないが。それはそのときだ。

ただ酔生夢死のまま,来年の2月を迎える危険性も大いにあるので。折に触れて原稿の構想,調査,執筆等々の進捗状況を記事にしていけば,何がしかの役に立つだろうと思い立ち,第1回目の「執筆状況報告」をすることにした。まず「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについての分析視角をこわごわと言葉にしてみよう。

問題の分析視角

AIとは何か-AIは仕事に何をもたらすのか

まずAIとは何かを,イメージや自然言語だけではなく,PC,IT,AIの技術的基礎を踏まえてしっかりと把握すること,そしてAIが仕事-人や組織の思考と行動-に何をもたらすことができるかを「進化的適応」,行動科学,脳科学,複雑系科学等を踏まえて理解することが必要だろう。ここまでは助走である。

さてAIの開発は現在「驀進中」だし,人によってとらえ方も様々だが,私はPC,IT技法の進化系であるととらえたいと思っている。そのようにとらえたとき,AI技法は,人びとの仕事(ここでは知的作業を問題にする)にどのような変革をもたらすことができるのか(ここは,「デジタルトランスフォーメーション」の議論が関係する(このサイト上の記事にリンク)。

システム思考に関連して,カネヴィンフレームワークという複雑な問題群の捉え方があり,問題の因果関係に着目して,単純系,煩雑系,複合系,カオス系に類型化する。これを前提とすると,AIは煩雑系,複合系についての因果関係を整理,予測して,これに関わる仕事をかえることができるだろう。

ただAIを待っていれば天から何かが降ってくるわけではなく,自分から呼び込み,使いこんで仕事の現実(非生産性)を変えて行く気持ちが必要だろう。実は現状のPC・IT技法でも,単純系,煩雑系ではできることはたくさんあるのに,できていないというのが実際だろう。

弁護士業務のモデル化とAI

弁護士業務を個別的な作業(調べ,考え,読み,書く)に分解してみると,知的作業としてさほど特異なものではない。したがって,外国では弁護士はAIで淘汰されるであろうという議論も多いが,その具体的な内容に着目すると,法を「解釈」し,事実を認定し(法的推論である),人を説得するという一連の行為は,当面は,AIに置き換えがたいものが多い。一方,調べ,考え,読み,書くという個別的な作業そのものについては,AIの活用により劇的に変革される可能性が大きいだろう。

AIによる,政府と弁護士業務の変容

以上は割と無難な議論だが,問題はAIが予想もつかない形で社会のあり方を変え,それが政府の「法に基づく支配」や,弁護士の役割を変容させる可能性も大きいと思われることである。

弁護士がAIによってブラシュアップして待っていても,いつしか弁護士業務への需要が低下するということも大いにあり得るだろう。ただよりよい「ルール」を現実化し,事実を推論するという能力は,社会にとって必須と思われるので,弁護士業務の内容は変容しつつ,弁護士という仕事は残るかもしれない。

あれこれ第1案として考えてみた。

PC,IT,AIの技術的基礎の本

上記とは関係ないのだが,Kindle本が安くなっていたので最近買ったPC,IT,AIの技術的基礎の本を,備忘のため掲記しておく。

  • 「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン 機械学習・統計学・アルゴリズムをやさしく解説」(著者:梅田 弘之)
  • 「帰宅が早い人がやっている パソコン仕事 最強の習慣112」(著者: 橋本 和則)
  • 「Windowsでできる小さな会社のLAN構築・運用ガイド 第3版」(著者:橋本和則)
  • 「DNSをはじめよう ~基礎からトラブルシューティングまで~ はじめようシリーズ」(著者:mochikoAsTech)
  • 「先輩がやさしく教えるシステム管理者の知識と実務」(著者:木下 肇)
  • 「よく解る!世界一やさしい 超パソコン入門用語」(著者:パソコン用語研究会)

「こころ」と行動の基礎

2019/04/04更新

「こころ」と行動

この世界の複雑な様々なシステムは,おおよそ,人の行動(言語行動を含む)とモノ・情報の動き,及びその相互作用から成り立っていると捉えることができよう。

世界の様々な複雑なシステムを理解するためには,まず人の行動を基礎に置くべきだろうが,そのためには,進化論を踏まえ人の行動と「こころ」との関係についてもあまり的外れでない理解をする必要があるだろう

その上で人の行動とモノ・情報の動き及びその相互作用を捉えることにができれば,様々なシステムのどこをどのように動かせば問題解決につながるかという道筋も見えてくるだろう。

そこで「「こころ」と行動の基礎」という項目を設けたが,この問題に深入りすると,それこそ一生ここから出てこれなくなるので,ここでは,「基礎」としてさほど的外れでないであろう概観ということで済ませることとし,そのための7冊を検討するとにする。

7冊の本

そのために7冊の本を紹介しよう。

  1. 「入門! 進化生物学-ダーウィンからDNAが拓く新世界へ」(著者: 小原嘉明)
  2. 「「こころ」はいかにして生まれるのか」(著者:櫻井 武)
  3. 「哲学入門」(著者:戸田山和久)
  4. 「意思決定の心理学-脳とこころの傾向と対策」(著者:阿部修士)
  5. 「進化教育学入門 動物行動学から見た学習」(著者: 小林朋道)
  6. 「行動の基礎」(著者:小野 浩一)
  7. 「〔エッセンシャル版〕行動経済学」(著者:ミシェル バデリ)

1の「入門! 進化生物学」は,最新の知見に基づき,進化論・遺伝学について,幅広く検討した本,2「「こころ」はいかにして生まれるのか」は,「こころ」をどう捉え,考えるべきかについて,最新科学を踏まえ説明している。この本は,行動理解につなげる意識がないと,いささか散漫に思える内容だが,人間の行動理解を念頭に置くとなかなか素晴らしい。以上が,前提となる2冊だ。

次にこれらの前提となる知識を踏まえて,人間の「「こころ」と行動」を理解するために,私もこれまでにも紹介し,折に触れて目を通しているがいまだによく頭に入らない3「哲学入門」が必須だ(特に「第5章 機能」)(本の森での紹介1本の森での紹介2)。これを読み込めば,「こころ」と行動の基礎」についての端的な理解が得られるだろう。

3もそうだが,人間を進化論を踏まえて理解するということは,人間を動物の延長上に捉えることであり,そのためには,心理学者が書いた4「「意思決定の心理学」,「動物行動学者が「学習」について書いた5「進化教育学入門 がお薦めだ。ただし,自分の学習やAI時代にどう生かすかは,今後の問題だ。

更にこれまで一貫して行動を人間理解の焦点にしてきた行動分析学から,6の「行動の基礎」を取り上げたい。現時点の行動分析学を,進化論や,動物行動学を踏まえどう考えるかは,賄家」興味深い問題だ。

そして最後に,7「〔エッセンシャル版〕行動経済学」を取り上げる。「行動経済学」の本は,ともすると,エピソード集になりがちで,いいささか使いにくい。この本は,入門書であろうが,人間の行動とのからみが要領よくまとめられていてお薦めだ。なお,行動経済学も進化論(進化的適応)を踏まえた行動科学であるという5の指摘はそのとおりだと思う。

以下,7冊の本の内容を紹介するが,現時点(2019年4月4日)では,紹介は,一部だけになっている。

「入門! 進化生物学」

作成中

「「こころ」はいかにして生まれるのか」

「「こころ」はいかにして生まれるのか-最新脳科学で解き明かす「情動」」(著者:櫻井 武)(Amazonにリンク)

まとめの紹介

この本はたまたま,原著に「まとめ」があるので,取り急ぎ,それだけ紹介しておこう。末尾に詳細目次も掲載した。

第1章「脳の情報処理システム」のまとめ

1 脳において大脳皮質は情報量の大きな情報を速く処理するために,「後づけ」で増築された演算装置である。

2 大脳皮質は感覚情報を要素ごとに分解してデジタル的に処理し,それを脳内で再構成している。

3 人の脳は前頭前野がとくに発達しており,感覚情報の統合的理解,認知,未来予測などに関与している。

4 ヒトに備わった,他者の立場に立って考え「共感」することができるという能力は,「こころ」を考えるうえで欠かせない機能である。

第2章「「こころ」と情動」のまとめ

1 情動とは感情の客観的・科学的な評価である。

2 情動は「情動体験」(≒感情)と「情動表出」(身体反応)に分けられ,後者を観察することにより客観的に記載できる。

3 情動は脳がつくりだすが,その結果,引き起こされた情動表出は脳にフィードバック情報を送り,情動を修飾する。

第3章「情動をあやつり,表現する脳」のまとめ

1 情動は大脳辺縁系でつくられる。

2 大脳辺縁系は記憶にも深く関わっており,海馬は陳述記憶の生成に,扁桃体は情動記憶の生成に重要である。

3 感覚は大脳皮質と大脳辺縁系で並列処理され,前者は感覚情報の物理的側面を,後者は情動的側面を受けもつ。

第4章「情動を見る・測る」のまとめ

1 情動の高まりは表情をふくむ行動,交感神経の興奮,副腎皮質ホルモンの上昇に表れる。

2 情動は行動,自律神経系,内分泌系の測定によって観察できる。

3 脳機能画像解析により扁桃体の興奮を測定することも情動を測定する一手段である。

4 動物を用いて扁桃体や視床下部室傍核の活動を調べることにより,情動を推し量ることができる。

第5章「海馬と扁桃体」のまとめ

1 海馬は新たな陳述記憶の生成に不可欠である。

2 陳述記憶は時間がたつにつれて大脳皮質,とくに側頭葉皮質に移行する。

3 扁桃体は情動記憶を受けもつ。

4 ストレスホルモンは陳述記憶を弱め,情動記憶を強くする。

第6章「おそるべき報酬系」のまとめ

1 ドーパミンが側坐核に放出されると,その原因になった行動をやめられなくなる。

2 ドーパミンは腹側被蓋野に存在するドーパミン作動性ニューロンから供給される。

3 前頭前野は不確実な報酬を大きな報酬ととらえ,ドーパミンの放出を促す。

4 予測した報酬の大きさと,実際に得られた報酬の差(報酬予測誤差)が,前頭前野が感じる報酬の大きさとなる。

第7章「「こころ」を動かす物質とホルモン」のまとめ

1 脳内には「こころ」の機能に強く影響をおよぼすたくさんの種類の脳内物質が存在する。

2 血液中をめぐる多くのホルモンも,脳機能を強く変容させる。

終 章 「こころ」とは何か

ここの「まとめ」は原著にはない。

・私たちは前頭前野の機能により,自らがおかれている環境を理解し,自分の身体の状態を認知しながら生活している。前頭前野は意識や認知,論理的思考,内省,倫理的判断,未来の予測などに深くかかわっており,また,思考に用いる作業記憶もこの部分に存在する機能である。作業記憶の内容は,現時点で私たちが認知していることである。私たちの「自我」や「意識」はこの部分に存在すると言っても間違いではない。しかしながら,私たち自身の行動の選択に,前頭前野がおよぼしている影響は,実は限定的なものでしかない。もっと強く行動をドライブしているのは,根源的には脳の深部の構造であり,無意識の過程なのである。私たちは自分の行動をすべて自らの意志でコントロールしていると錯覚しがちであるが,私たちの行動を意識がコントロールしている部分は,ごく一部である。

・ヒトや動物は外界の状況を,感覚系を介してキャッチしている。その情報は,視床を介して扁桃体にやってくる。その人が恐怖を感じる対象や状況を認知したときに,扁桃体は強く興奮する。扁桃体が中心核を介して視床下部や脳幹に情報を送ると,自律神経や内分泌系が変動するとともに,脳内でもモノアミン系ニューロン群が大きく活動を変える。とくに青斑核ノルアドレナリンニューロンの活動が増え,扁桃体に作用することにより,恐怖行動は強化される…一方で,喜びを感じているときには,報酬系の活動が起こっている。報酬をゲットできる,あるいはゲットできるかもしれないと前頭前野が認知することにより,腹側被蓋核のドーパミン作動性ニューロンが活動することが,喜びの「こころ」をつくる。ドーパミンは側坐核に働き,喜びを生むに至った行動を強化するとともに,扁桃体にも情報を送り,筋肉の緊張を緩める方向に働く。黒質のドーパミン作動性ニューロンも働いて筋肉はよりスムーズに動くようになり,身体全体の動きは大きくなる。

「哲学入門」…「「こころ」と行動の基礎」

人間の行動は,まず第一にオシツオサレツ動物と同じ仕方で決定される。いくつかの傾向性があり,それがニーズと知覚情報によってアフォードされるという仕方だ。これがベースになる。

ところが,人間はこうした傾向性を調整する別の仕方を獲得した。その結果,目的手段推論の結果によって,ベースにある傾向性をリセットできるようになった。だとするなら,目的手段推論を入力(知覚・欲求)と出力(行動)をつねに媒介しているものと捉えるのはよろしくない。いつでも立ち止まって,いまやろうとしていることがベストなのかを考えていたら行動の時機を逸してしまう。ときどき問題が重要なとき,たっぷり時間があるとき,行為を止めて,私たちは目的手段推論を作動させる。で,その結果に応じていまの傾向性をリセットして,新しい傾向性にあとをゆだねる。

人間はオシツオサレツ動物とは質の異なったまったく別次元の存在なのではない。目的手段推論というちょっとした拡張機能つきのオシツオサレツ動物なのである。ただ,この拡張機能はバカにできない。「人間らしさ」のルーツがこの拡張機能にあるからだ

「意思決定の心理学」

作成中

「進化教育学入門」

作成中

「行動の基礎」

「行動の基礎-豊かな人間理解のために」(著者:小野 浩一)(Amazonにリンク)

これは当面,末尾に詳細目次だけを掲載しておく。

「〔エッセンシャル版〕行動経済学」

「〔エッセンシャル版〕行動経済学」(著者:ミシェル バデリ)(Amazonにリンク)

これは当面,末尾に詳細目次だけを掲載しておく。

詳細目次に続く

続きを読む “「こころ」と行動の基礎”

問題解決と創造の方法を改稿しました

この投稿は,固定ページ「問題解決と創造の方法」の内容を整理し,投稿したものです。固定ページの方はその内容を,適宜,改定していきますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「問題解決と創造の方法」(固定ページにリンク)をご覧ください。

問題の所在-問題解決と創造の方法を考える

問題解決(下述するように,創造は,問題解決の一場面と位置づけることができる。)の方法は,以下のとおり,「解決すべき問題の基本的な構造-考察1」,「問題解決の領域(対象)とその方法-考察2 4要素5領域と行動分析学・システム思考」,「問題解決を支える思考法とアイデア-考察3」に分けて考察することが適切であると考えている。

まず,「解決すべき問題の基本的な構造-考察1」で,基本となる3書を紹介する。

解決すべき問題の基本的な構造(考察1) 基本3書

「図解 問題解決入門」 基本書1

まず「解決すべき問題の基本的な構造」(問題構造図式と呼ばれることがある。)については,「「新版[図解]問題解決入門~問題の見つけ方と手の打ち方」(著者:佐藤 允一)(Amazonにリンク・本の森の紹介)の分析が,簡便でわかりやすい。

同書は「問題」を「目標と現状のギャップ」ととらえ(後記「問題解決大全」によると,これは,ハーバート・A. サイモンが,言い出したらしい。),原因となる「入力」,「制約条件」や「外乱(不可抗力)」が影響する「プロセス」を経て,結果となる「出力(現状)」が生じるという「問題構造図式」を提示する。この図式をふまえ,「入力」や「制約条件」をコントロールすることで,「出力(現状)」を変え,問題解決を考えようというのである(「佐藤問題構造図式」という。)。これだけでは単なる枠組みの整理に過ぎないが,それだけに様々な問題解決の手法を整理して位置づけるのに便利である。

次に同書は,「問題」を,発生型(既に起きている問題),探索型(今より良くしたい問題),設定型(この先どうするか)に分類しており(この分類は「時間型分類」といえよう。),これも有用である。

さらにこれは私見ではあるが,「問題」を,個人型,人工物型,システム型に大別することも有用である(この分類は「対象型分類」といえよう。)。「世界」の大部分の問題は,「システム思考」が対象とすべき複雑な「システム型」の問題であるが,個人の問題の多くは,個人型として個人の意思決定と行動改善の方法として捉えることが適切であるし,人工物(多くは商品であろう。)の問題は,人より物の振る舞いが前面に出る設定型,探索型の問題であるから,別に検討したほうが良さそうだ。ただし,それぞれの方法を他に応用することは有益である。なお企業に関わる「問題」は,個人型,人工物型,システム型のいずれの要素も含んでおり,併せて経営分析,経営戦略等として検討されているから,別途,検討すべきである。

「創造はシステムである」 基本書2

「創造」は,佐藤問題構造図式の時間型分類の,設定型(この先どうする)ないし探索型(今より良くしたい問題)として,問題解決の一場面と位置づけることができる。

「創造はシステムである~「失敗学」から「創造学」へ」(著者:中尾政之)(Amazonにリンク本の森の紹介)は,「創造」(自分で目的を設定して,自分にとって新しい作品や作業を,新たに造ることと定義する。)の過程を,「思い」(願望)→「言葉」(目的)→「形」(手段)→「モノ」(アクションプラン)ととらえ,まず「目的」を言葉として設定することが重要だとする(これが「出力」となる「結果」である。)。そしてその「原因」となる「入力」「制約条件」等を<「形」(手段)+「モノ」(アクションプラン)>と捉え,その具体的な内容に「思考演算子」(これは,TRIZ(トゥリーズ)のことである。)を適用して,検討,選択し,「目的」を実現していく。システムである人工物の設計,創作を念頭に置いた問題構造図式の変化型であるが,システムについての問題解決は複雑,難解なものが多いので,まず人工物の創造でこれに習熟することには意味がある(ただし同書には,「システム思考」の話は出てこない。)。

「問題解決大全」 基本書3

なおこの2つの方法に止まらず,「問題解決と創造」を実現する観点から考え出された様々な技法がある。それらの主要なものが「問題解決大全」(Amazonにリンク・本の森の紹介)で,丁寧に検討されている。「問題解決大全」では,問題解決の手法をリニア(直線的) な問題解決とサーキュラー(円環的) な問題解決の2つに大別して取り上げた上,問題解決の過程を,大きくは4段階,詳細には14段階に整理し,それぞれに該当する技法を紹介している。①問題の認知(目標設定,問題察知,問題定義,問題理解),②解決策の探求(情報収集,解の探求,解決策の改良,解決策の選択),③解決策の実行(結果予測,実行計画,進行管理),④結果の吟味(結果の検証,反省分析,学習・知識化)である。基本書1,2を十二分に補完する内容となっている。

基本書1,2にこれを加えた3書を基本となる方法となる「基本3書」としたい。そのためまず3書の詳細目次(「問題解決と創造の方法」基本3書の詳細目次)を作成した。これを見ているだけでも頭の整理になる。

問題解決の領域(対象)とその方法-考察2 4要素5領域と行動分析学・システム思考

世界を4要素5領域(個人・企業・政府・環境の4要素+世界:社会・経済・歴史の5領域)に区分することを,「問題解決と創造を学ぶ」で提唱した。そして,それぞれの要素・領域の問題をその相互の関係や時間を視野に入れて解決する方法として,個人は主として「行動分析学」,企業・政府・環境・世界の複雑な問題には「システム思考」が有用である。

「行動分析学」と「システム思考」については,「「行動分析学」と「システム思考」で世界を見る」を作成しているので当面この記事で紹介に変えたい。

個人の問題解決 補足

個人の問題解決の方法については,当然,様々な提案がなされ,流行り廃りがある。私は「行動分析学」をメインにしたが,違った捉え方を基本とする考えもありうる。以下紹介する本はそれぞれ優れた面もあるが,どうしても基本的な部分が曖昧な気がして,そのままでは私の好みにはぴったりこない。それぞれについて,二重過程理論や行動分析学に位置づけて理解するとスッキリする。なお,あれこれ面倒くさいことを言われなくても実行しますよと言える人には,「ペンタゴン式目標達成の技術 一生へこたれない自分をつくる」(著者:カイゾン・コーテ) (Amazonにリンク・本の森の紹介)を既にお勧めした。呼吸,瞑想,認知,知識,健康,自律,時間についの,無理でない実践法が紹介されている。

  • 「スマート・シンキング 記憶の質を高め、必要なときにとり出す思考の技術」(著者:アート・マークマン)(Amazonにリンク・本の森の紹介)
  • 「幸せな選択,不幸な選択~行動科学で最高の人生をデザインする」(著者:ポール・ドーラン)(Amazonにリンク・本の森の紹介)
  • 「習慣の力」(The Power of Habit)(著者:チャールズ・デュヒッグ)(Amazonにリンク・本の森の紹介)
  • 「あなたの生産性を上げる8つのアイディア」(SMARTER FASTER BETTER)(著者:チャールズ・デュヒッグ)(Amazonにリンク本の森の紹介
  • 「スマート・チェンジ 悪い習慣を良い習慣に作り変える5つの戦略」(著者:アート・マークマン)(Amazonにリンク・本の森の紹介)
  • 「仕事・お金・依存症・ダイエット・人間関係 自分を見違えるほど変える技術 チェンジ・エニシング」(著者:ケリー・パターソン外)(Amazonにリンク・本の森の紹介)
  • 「マインドセット:「やればできる!」の研究」(著者:キャロル・S・ドゥエック)(Amazonにリンク・本の森の紹介)
  • 「クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法」(著者:デイヴィッド ケリー, トム ケリー)(Amazonにリンク・本の森の紹介)

問題解決策を支える思考法とアイデア-考察3

上記の考察1,2による問題解決策(入力)が適切(論理的,科学的)であるためには,これを支える適切な「思考法とアイデア」が必要である。

ここでは,「問題解決策を支える思考法とアイデア」を獲得するために,「思考の基礎」,「危機的な現代の思考」,「アイデア」に分けて何冊かの本を紹介しておく。

思考の基礎

人の思考の基礎である早い思考,遅い思考(「二重過程理論)について,「意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策」(著者:阿部 修士 )(Amazonにリンク・本の森の紹介)を挙げておこう。もちろん,「ファスト&スロー」を読み込めばいいのだが,批判的に検討しやすい本としてあげておく(カーネマンについて,アレコレ言うのは,多少しんどい。)。

これを踏まえ,早い思考について,1992年時点で検討している「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」(著者:スチュアート・ サザーランド)と,主として遅い思考の内容を緻密に検討している「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」(著者:ケン マンクテロウ)を紹介しておく。この2冊については内容を簡単に紹介しよう。

「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」(著者:スチュアート・ サザーランド)

「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」(著者:スチュアート・ サザーランド)(Amazonにリンク・本の森の紹介)は, ヒトと組織(の中のヒト)の思考の特質(不合理性)について,丁寧にきちんと整理して論じている。著者は,サセックス大学の心理学教授であったが1998年に亡くなっており,本書の刊行は1992年で30年近い前である(しかしKindle本の刊行,翻訳等は最近行われているようだ。)。しかし内容は非常にしっかりしており,かつ著者の表現は機知に満ちていて,読んでいて楽しい。本書刊行後,ネットの普及等でヒトと組織(の中のヒト)の思考の不合理性は強まっているが,ネット普及前の「原型」はどうだったのかという観点から捉え,現状をその「変容」と見ればいいだろう。本書は近々「本の森」で紹介したいが,著者が「序章」で本書の構成について述べている部分だけも紹介しておきたい。

「こうした本では,序章の締め括りで,各章の要約を述べるのが約束事になっている。読者が本書を読まないでもすむように,ここで内容を要約するほど私は親切ではないが,全体の構成だけ簡単に説明しておこう。2章(誤った印象)では,人が判断ミスをおかす最もありふれた原因を述べる。その後に詳しく見ていく不合理な思考の多くにこの原因が絡んでいる。続く七つの章(服従,同調,内集団と外集団,組織の不合理性,間違った首尾一貫性,効果のない「アメとムチ」,衝動と情動)では,不合理な判断や行動をもたらす社会的要因と感情的要因を見ていく。10章から19章まで(証拠の無視,証拠の歪曲,相関関係の誤り,医療における錯誤相関,因果関係の誤り,証拠の誤った解釈,一貫性のない決断・勝ち目のない賭け,過信,リスク,誤った推理)は,事実をねじ曲げてしまうために陥る誤りを扱い,それに続く二つの章(直感の誤り,効用)では,手元にある情報の範囲内で,少なくとも理論上は最善の結論を出せるような方法を述べ,そうした方法で出した結論と直感的な選択とを比較して,直感がいかに当てにならないかを示す。22章(超常現象)では,それまでに述べてきた誤りのいくつかを振り返り,超常現象やオカルト,迷信がなぜ広く信じられているかを考える。最終章(合理的な思考は必要か)では,ヒトの進化の歴史と脳の特徴から,不合理な思考をもたらす根源的な素地を考え,併せて合理的な判断や行動を促すことが果たして可能かどうかを考える。そして最後(合理的な思考は必要か)に,「合理性は本当に必要なのか,さらには,合理性は望ましいのか」を考えてみたい。」。

なお著者は合理性について次のように言っている。

「合理性は、合理的な思考と合理的な選択という二つの形をとる。手持ちの情報が間違っていないかぎり、正しい結論を導き出すのが、合理的な思考だと言えるだろう。合理的な選択のほうはもう少し複雑だ。目的がわからなければ、合理的な選択かどうか評価できない。手持ちの情報をもとにして、目的を達成できる確率が最も高い選択が合理的な選択と言えるだろう。」。

「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」(著者:ケン マンクテロウ)

「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」(著者:ケン マンクテロウ)(Amazonにリンク・本の森の紹介) は,人間の実際の思考を踏まえて,合理的な推論と意思決定について検討した本である。著者は,イギリスの心理学者である。少し前に入手していたが,古典的三段論法,「ならば」,因果推論,確率的説明,メンタルモデル理論,二重過程理論,帰納と検証,プロスペクト理論等,感情,合理性,個人差や文化の影響がもたらす複雑さ等,幅広く検討していて,「思考と推論」を考える上では必須の本であると思っていた。ただ問題はここに入り込むと,出てこられなくなることである。ほどほどが大事だ。

危機的な現代の思考

前項の本がいわば原則を論じているのに対し,現代の思考の危機について論じた本は多いが,ここでは「人の知能・思考がとらえる世界とは何か-方法論の基礎」として紹介した,「知ってるつもり 無知の科学」(著者:スティーブン スローマン, フィリップ ファーンバック)(Amazonにリンク・本の森の紹介)と,「武器化する嘘 情報に仕掛けられた罠」(著者:ダニエル・J・レヴィティン)(Amazonにリンク・本の森の紹介)を挙げておく。

以上の5冊に目を通せば,「思考」の重要事項については,ほぼ把握できよう。

アイデア

早い思考に親近性があるが,思考以前とも言える,アイデアや発想を生み出す方法は,なかなか楽しい。

まず「問題解決大全」(著者:読書猿)に著者による「アイデア大全」(Amazonにリンク・本の森の紹介)は,多くのアイデアや発想を生み出す豊富を取り上げており,必読書だろう。ただともすると,いろいろ知っておしまいということになりかねない。そこで,アイデア書として名のしれた何冊かを紹介しておく。

「IDEA FACTORY 頭をアイデア工場にする20のステップ」(著者:アンドリー・セドニエフ)(Amazonにリンク・本の森の紹介)

「アイデアのつくり方」(著者:ジェームス W.ヤング)(Amazonにリンク・本の森の紹介)

「アイデア・バイブル」(著者:マイケル・マハルコ)(Amazonにリンク・本の森の紹介)

「アイデアのちから」(著者:チップ・ハース、ダン・ハース)(Amazonにリンク・本の森の紹介)

方法論の基礎

ところでこれまで紹介した本は,どちらかといえば,経験の集積という本が多く,(「行動分析学」と「システム思考」は科学的方法であるが,これも含めて)「方法論の基礎」を踏まえて,論理的,科学的に捉え返す必要がある。

具体的には,問題解決基礎論,思考とアイデア,行動分析学,システム思考,哲学,言語・論証,論理学・数学(確率・統計),CS・IT・AI,進化論・脳科学・認知科学・心理学,ゲーム理論・経済学,複雑系科学,その他(失敗学,選択の科学等)を検討する。ここで重要なのは,「問題解決と創造」につながる事件の経過による変動を踏まえた事象の記述とモデル化である。

問題解決と創造の対象となる「人:生活・仕事・文化」「企業」「政府」「環境」「世界:社会・経済・歴史」の4要素,5領域では,それぞれ少しずつ異なった科学的な方法(あるいは経験論に科学的手法を組み込んだもの)が活用されている。「環境」では自然科学的な方法が,「世界:社会・経済・歴史」や「政府」(公共政策)では,社会科学的な方法が用いられてきたが(当面,「創造の方法学」,「原因を推論する」,「原因と結果の経済学」,「計量経済学の第一歩」,「社会科学の考え方」,「ゲーム理論による社会科学の統合」等の書名だけを挙げておく。),進化論,行動経済学,ゲーム理論,複雑系科学,複雑系ネットワーク等が新しい分析を試みている。

投稿記事の紹介

下位メニューの「問題解決と創造(投稿)」には,「問題解決と創造の方法」に関連する投稿が時系列順に掲載される。大切なのは,森羅万象について次々に起こりつつある自然科学,社会科学の知見を,美的感覚を研ぎすましてアイデアや「問題解決と創造」に結びつけることであろう。以上を踏まえて考察を深化させていきたいが,ここではこれまで作成した「問題解決と創造の方法」に関係する投稿記事を紹介しておこう。

参考 書庫

ところで,思考,アイデアの湧出を活性化するツールちなるを集めた本を整理した「書庫」を作成している(内容によって「アイデア・デザイン編」,「IT・AI編」,「経営編」,「心身の向上技法編」,「世界の構造と論理編」,及び「冷水編」に分けている。)。分類は古いものだが,当面,このままにしておく。

 

 

 

 

「行動分析学」と「システム思考」で世界を見る

問題解決と創造の「入力」について考える

問題解決と創造(創造は問題解決の一場面と考えられるので,以下「問題解決」とする。)について考えていく場合,その全体の構造については,佐藤の問題構造図式(入力→プロセス→出力,及び制約条件と外乱)で整理するとして,「プロセス」に「入力する」(働きかける)具体的な内容は,どのように考え,実行すればいいのか。

まず解決すべき問題領域は,大きくは,個人の問題と,組織,環境,世界の社会・経済等の複雑なシステムの問題に分けて考えることが出来るから,問題解決のための「入力」の内容,及びそれを立案,実行する方法は,両者で大きく異なっているだろう(もちろん共通する部分もある。)。

個人の問題解決 行動分析学

行動分析学へのアクセス

個人には他者も含むとして,個人が問題解決すべき対象は,専らその「行動の改善」である。これについては,自己啓発書,ビジネス書が,洋書,和書を問わず,世に溢れており,私が保有するKindle本,R本も,汗牛充棟であるが,なかなか出発点とする最初の一冊として適当なものが見当たらなかった。それでも洋書(翻訳本)には,概してアイデアに満ちたものも多いのだが,立論の基本や全体の構成がよくわからないか,翻訳の問題もあるのだろうが,個々の記述の趣旨が汲み取れないものが多い。

そういう中で,「行動」,「行動」と呟いているうちに,ふと昔,「行動分析学」の新書を何冊か読んで興味を引かれたことを思い出し,Kindle本を探してみた(R本は事務所移転時に,とっくに処分していた。)。前読んだことがあってすぐに手に入ったのが,「行動分析学入門-ヒトの行動の思いがけない理由」(著者:杉山尚子)(Amazonにリンク・本の森の紹介),「メリットの法則 行動分析学・実践編」(著者: 奥田健次)(Amazonにリンク・本の森の紹介)である。更に杉山尚子さんが監修をしているという「行動分析学で社員のやる気を引き出す技術」(著者:舞田竜宣)(Amazonにリンク・本の森の紹介)には,ビジネスについての具体例が記述されていると思い購入した。

「行動分析学」は(その内容については追ってその概要を説明するが),上記の新書等を読む限りでは,人間の行動について核心をついている部分がある一方,上記の新書等の説明では全体の体系や個々の概念が,曖昧かつ穴だらけと思えて,これでは「使えない」という印象であった。しかし念のため有斐閣アルマとしてでている「行動分析学 行動の科学的理解を目指して」(著者:坂上貴之, 井上雅彦)(Amazonにリンク・本の森の紹介)に目を通してみたところ,上記の不満は一気に解消した。行動分析学は,心理学の中では異端の一派というイメージがある(?)一方,知的障害者らの療法において自らの実用性を証明し続ける責務を課されているからだろうか,著者たちは,学問における行動分析学の位置づけと自分らの記述の意味合いについて厳密,緻密に対処しようとしており,本書は,私の好みにも合う。その分,もともと行動分析学は相当概念を特殊な意味合いで使用し造語も多い上,本書はそれに屋上屋を架す部分があり,読み通すのに苦労する。

そうではあっても行動分析学は,個人の問題解決に向けての「仮説」としては,充分な科学的内容を備えている。ただ,専ら動物や,知的障害者らにおける,実験,実践を通じて発展してきた「学問」だから,個人の行動改善に,直接,本書を当てはめようとすると,戸惑ってしまう。そこで,厳密性には欠けるが実用的な場面を想定している「使える行動分析学: じぶん実験のすすめ (ちくま新書)」(著者:島宗 理)(Amazonにリンク・本の森の紹介)や,上記した「行動分析学で社員のやる気を引き出す技術」(著者:舞田竜宣)(Amazonにリンク・本の森の紹介)等で具体的な問題を想定し,その解決策を立案,実行し,疑問があれば本書に戻って基本から考えるという作業が有用だろう。

文化随伴性から政策行動科学へ

本書の最後の部分に,個人の問題を超える社会の問題解決について本書の意気込みが表れているので,長くなるが紹介しよう(文化随伴性という用語も追って紹介する。)。いきなりこの「行動分析学」の世界に入るのはなかなか大変だが。

 動物個体のオペラントに代表される,環境に直接働きかける行動において,その環境とは,もっぱら物理的化学的生物的な性質を有する自然や人工の環境を指していた。しかし,同じオペラントである言語行動の働きかける環境は聞き手であり,この聞き手の行動を通して従来の環境の変化を生み出す点に,この言語行動の特徴があった。文化随伴性は,これをさらに系統立って拡張していく仕組みを用意したといえる。たとえば,さまざまな教育機関は,国や政府,特定の集団のルールに対して,特定の反応を自発することを推奨し,そのルールに従う行動を強化する。こうした教育機関が組織的に強化する教育行動は文化を効率的に伝承する機能を持っている。
 しかし,文化随伴性の最も重要な部分は,それがHN性(注:「今ここ性」 [to be here now]) を超えることを可能にする仕組みを持っている点にあると思われる。さまざまな制度,機関,規範などの文化的装置を作り出すことで,多数の個体に対して,過去から未来にわたる時間と地球規模の空間に接近をすることを可能にさせるとともに,これらの文化的装置を通じてHN性を大きく改善させることが可能になったと考えられる。たとえばネットワーク環境に検索を通じてアクセスすることで,私たちはこれまでに考えられなかった「記憶」の拡がりを体験することができるようになった。
 しかし,HN性から自由になって時空の拡張が可能となる一方で,私たちはその見返りに,未来の予期,過去への悔悟,そこには存在しないが空間的な距離を隔てたものからの脅威といった,HN性のみの世界であれば,存在しえなかった新たな行動の創出を余儀なくされており,そうした新しい行動はヒトに「ストレス」や「不安」と呼ばれるような新しい問題行動を生み出すに至っているようにも思われる。仕事の効率化や交通の高密度化が次々と生み出す苛立ち,うつ,不安の症状に,現代の私たちは苛まれている)。
 いわゆる「文化」というものが,特定の共同体の行動傾向や,それを規定する強化子や弁別刺激からなる随伴性として捉えられるのであるなら,その変容も可能なはずである。ただし,これまでに述べてきた学習性行動に関わる随伴性と異なり,文化随伴性は長い年月をかけて幾重にもある種の安全装置が掛けられており,慣行のシステムのなかには,変化させやすいものとさせにくいものがある。会社組織の改革と比較して,宗教の戒律や法律のなかの憲法や教育制度は変革させにくいし,変革に対しては多くの不安や抵抗を伴う。しかも私たちはこれらの変革に伴う結果について,たしかな科学的根拠を持たずに議論している。
 会社組織のなかの行動システムの変更は,売上や利益という明確な価値の基準が適用可能であり,組織や制度改革の影響としての効果が測定しやすい。しかし,教育や憲法の場合は,その効果指標が複雑であったり,測定に時間がかかりすぎたりしてしまう。ましてや宗教の戒律となると,それに従うことによる「価値」が形成されているために,変更には強い抵抗が生じるであろう。何より私たちは,「自然に」変わることは受け入れても,政治や教育によって意図的に変容させられることを好まない。
 しかし現在,私たちは少子高齢化や環境問題といった長期的な取組みのもとで意図的に変わることを求められている問題に直面している。文化随伴性に関わる行動分析学は,ある政策やルール変更が人々の行動にどのような変容をもたらし,引き続いて長期的な変容を維持しうるかを科学的に分析する政策行動科学という領域を発展させることで,今後もその存在価値を見出すに違いない。

個人の問題解決 番外編…行動分析学が面倒な人へ

私は個人の問題解決には「行動分析学」に添って解決策を実行することが適切だと思うが,要はダイエットして,勉強すればいいんでしょう,あれこれ面倒くさいことを言われなくても実行しますよと言える人には,「ペンタゴン式目標達成の技術 一生へこたれない自分をつくる」(著者:カイゾン・コーテ) (Amazonにリンク・本の森の紹介)をお勧めする。呼吸,瞑想,認知,知識,健康,自律,時間についの,無理でない実践法が紹介されている。

複雑な問題の解決 システム思考

システム思考へのアクセス

システム思考は,恐らく「行動分析学」よりよく知られてだろう。特にシステム思考の応用形である「学習する組織」や「U理論」は,最近,割とよく目にする。システム思考そのものの紹介も追ってすることにして,ここでは,システム思考へのアクセス方法を紹介しよう。

システム思考の前史となる一般システム理論,サイバネティックスは置き,システム思考は,MITのジェイ・フォレスターさんが,経営や社会システムにフィードバック制御の原理を適用してはじめた「システム ダイナミクス」(システム内でつながり合う要素同士の関係を、ストック・フロー・変数・それらをつなぐ矢印の4種類で表し微積分やコンピュータソフトによって定量分析する)について,これは専門的でわかりにくいので,「因果ループ図」を用いて,変数のつながりやフィードバック関係を直感的にわかりやすく説明し,複雑な事象の振舞いについてその特徴を把握し定性的な分析を行う「システム思考」が提唱された。システム思考は,「学習する組織-システム思考で未来を創造する」(「The Fifth Discipline」。初版は「最強組織の法則」)(著者:ピーター・センゲ)(Amazonにリンク・本の森の紹介)で,ポピュラーになった。

MITの「システムダイナミクス」の研究グループや連携する研究者には,ピーター・センゲさんの外,ジョン・スターマンさん,デニズ・メドウズさん,ドネラ・メドウズさん,ヨルゲン・ランダースさんらがいる。彼らの業績や日本での紹介等をふまえ,「システム思考」を3つに分けることができるだろう。

システムダイナミクスに基づいた「成長の限界」の考察

上記のグループには,システムダイナミクスを踏まえ地球の持続可能性を真正面から検討したローマクラブの「成長の限界」(1772),これに続く「限界を超えて 」(1992),「人類の選択」(2005),さらにヨルゲン・ランダースさんの「2052」(2012)(Amazonにリンク・本の森の紹介)がある。

既に亡くなられたドネラ・メドウズさんの「地球のなおし方 限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵」(2005)(Amazonにリンク・本の森の紹介)もある。

世界の社会,経済や地球の自然,生態系の今後を検討するうえで,必読の文献だ。

システム思考を社会,経営に適用する

システム思考は広く複雑なシステムの問題に適用できるが,その基本として「世界はシステムで動く- いま起きていることの本質をつかむ考え方」(著者:ドネラ・H・メドウズ)(Amazonにリンク・本の森の紹介)や,「システム思考―複雑な問題の解決技法」(ジョン・D・スターマン)(Amazonにリンク・本の森の紹介),更には,「学習する組織 システム思考で未来を創造する」(著者:ピーター・センゲ)(Amazonにリンク・本の森の紹介)は,重要だ。

なお上記したように「システム思考」には,「因果ループ図」を用いるが,その作画ができるソフト(Vensim)が無料で提供されている。

システム思考の日本での展開

日本では,前項の本を翻訳している 小田理一郎さん,枝廣淳子(チェンジ・エージェント社を作り,わかりやすい記事を提供している。)が書いた「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方」(Amazonにリンク・本の森の紹介)や「もっと使いこなす!「システム思考」教本」(Amazonにリンク・本の森の紹介)がある。たしかにわかりやすいが,前項で紹介した本も十分にわかりやすい。

その他にも日本で書かれた本はいろいろあるが,ここまでの紹介で十分だろう。

なお,システム思考を紹介する活動として,日本未来研究センターシステムダイナミックス日本支部システム思考・デザイン思考で夢をかなえる/(株)Salt,,慶應義塾大学大学院ステムデザイン・マネジメント研究科,,慶応丸の内シティキャンパス(慶応では思考デザイン×システム思考が追求されている。このシステム思考は,広義のシステム思考だという説明をどこかで見た。)等があり,参考になる。日本未来研究センターは,上記の「Vensim」のマニュアルの翻訳,紹介をしている他,代表者が英文で長大な「貨幣とマクロ経済ダイナミックス−会計システムダイナミックスによる分析」を表しているが,読みきれない。

とにかくシステム思考が,今と将来の世界を考えるために重要な方法(技法)であることは間違いない。ビジネス書にあれこれ目を通す暇があったらこれに習熟したほうが良さそうだ。ただ日本での普及は今ひとつのようだ,欧米でもあまり歓迎はされていないか?

 

 

「読解力」から見えるAIと人を分かつもの

読解力ブーム?

「読解力」がブームである。 といっても,それはもっぱら私の読書範囲に限られるのかもしれないが,私は,最近,「国語ゼミ―AI時代を生き抜く集中講義」(著者:佐藤 優)(Amazon),「大人のための国語ゼミ」(著者:野矢 茂樹)(Amazon),そして「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(著者:新井 紀子)(Amazon)に目を通した。

前二書は,文字どおり,国語(要約力や読解力)の重要性を説き,新井さんの本は,柱となる主張の一つとして,中高生は各学科の学力以前に,教科書の説明や問題を問う文が理解できていないのではないかということを指摘している。

大体,学者や知識人は,年をとると,国語や国が大切だと言い始めるので,その意味では珍しくないともいえるし,私の中で「読解力」とは,できの悪い日本語の文章を何とか理解するためのやむを得ない技術という思いもあって,「読解力」を持ち上げることには抵抗もあったのだが,新井さんの本が参戦したことにより,ずいぶんと違った景色が見えてきた。

新井さんは,人工知能(人の知能と同等の機能を有するもの)と,それを実現するためのAI技術を区別し,AI技術がそこそこ進展しても,人工知能はできない,なぜなら,AI技術を支えるものは,加算と乗法の数学だから,それでできることは限られる,人間の脳,自然言語の機能を,数学がカバーすることはおおよそありえないと,明快に断言する。

一方,新井さんは,AIによる東大入試合格を目標とする「東ロボ」プロジェクトをプロデュースしたことでAI讃美派と見られているかもしれないが,実はこれは最初から「東ロボ」は東大に合格できないということを明らかにするためのプロジェクトであった,ただ多くの人の知恵と協力によってAI技術を駆使してMARCH入試の合格のレベルに達したが,これ以上は無理ということのようだ。

そして人間の知能は,数学に支えられたAI技術ではとてもカバーできないが,MARCH入試の合格レベルの仕事であればAI技術が到達したから,「コンピュータが仕事を奪う」(Amazon)。これは新井さんが最初に言い出したことだとしている。そしてそれにつけても,中高生は(したがって多くの大人も),教科書の説明や問われている問題文が理解できていないので,暗記で表面を繕っても,AI技術に代替されることになる,だから「読解力」…という議論の運びになる。

AIと自然言語による論証

私はこれまで,そこそこAI論に目を通してきたが,新井さんの本は今回はじめて読んだ。最初からこういう見取り図が得られていれば,全体の動きや今後の方向性に関する理解がずっとはやかったなと思った。AI技術を支えるプログラミングが,数学による計算によっている以上,それがAI技術にできる限界であることに疑問の余地はない。ただ数学が適用可能な分野では,今のAI技術が,圧倒的なスピードで量を処理できることには日々驚かされる。ここらあたりは「数学の言葉」(Amazon)を含めた新井さんの3册の本と,もう少し技術的な本でフォローすればよいだろう(例えば「新人工知能の基礎知識」(著者:太原 育夫)(Amazon)。

一方,自然言語で主力となるのは,帰納的論証だ。これまで読んだ「論理学」の本は,演繹的論証(記号論理学)について書いているだけで,帰納的論証は飛躍があって,あまり使えないよねという記述しか目に入ってこなかったが,今回,自然言語による論証は,そのほとんどが帰納的論証であることに気がついてみると,これが「読解力」,そして「表現力」の本丸だということがわかる。

論証というと,相当以前から,上記の野矢さんの「新版 論理トレーニング」(Amazon)という本があり,私も購入していたが,接続詞を入れさせようとするところで嫌になった。接続関係と,接続詞は違う。野矢さんにはどうもその感覚がないようだ。接続詞の機能は複雑である(「文章は接続詞で決まる」(著者:石黒圭))(Amazon)。

そこであれこれ探していると,「論理的思考の最高の教科書」(著者:福澤一吉)(Amazon)という本が紹介されていることを見つけたが,なんと私はこれを既に購入していた。そのときは一瞥してあまり感心しなかったが,今回読み直してみると,論証の全体を網羅しているわけではないが,部分的にはとても優れた考察がなされていることが分かった。同著者のKindle本には他に,「文章を論理で読み解くための クリティカル・リーディング 」(Amazon),「新版 議論のレッスン」(Amazon)がある。これらはそれぞれに優れているが,著者の欠点は,それぞれに小出しして全体を網羅しないこと,あるいは体系性への情熱が欠けていることだ。

ところで福澤さんの論証論を一言でいえば,根拠(Data)→論拠(Warrant)→主張(Claim)ということだが,ほぼ同じことを英文読解の場面で横山横山雅彦さんがいっている(「ロジカル・リーディング」(Amazon),「「超」入門! 論理トレーニング 」(Amazon))。これらは,ディベートでも強調されていることだ。

そしてこれらのバックになるのが「議論の技法」(スティーヴン・トゥールミン)(「The Uses of Argument by Stephen E. Toulmin)(Amazon)だ。ただ翻訳書は絶版でずいぶん高い値段がついている。

論理的な論証を心がけるには,これらの議論のポインを押さえる必要がある。追って要約して紹介したい。

論理的に論証してどうなるのか

ところで論理的な論証はそれ自体はいいことであることに間違いはないが,問題はそのような論証による結論が,どう「問題解決と創造」の役立つかだ。でたらめな論証による結論が役立つことだってありうる。役立つためには,論証過程だけではなく,その前提となる根拠(Data),論拠(Warrant)が重要だ。これらは,適切な手続きによって導かれた「世界」に関する科学的な知識といっておくが,それがどのようなものであるかについては,どうも分析哲学を一瞥する必要があるかもしれないと思っている(「現代存在論講義ⅠⅡ」(著者:倉田剛)(Amazon)。

こんなことをしていると,いつまでたっても「問題解決と創造」にたどり着かない。いやほぼ「問題解決と創造の方法と技術」にたどり着きつつあると言っていいだろうか。ここからが長いか?

 

 

問題解決と創造の<現場と思考>を考える

この投稿は,固定ページ「問題解決と創造の方法」に新しく追加した部分を投稿したものです。固定ページの方はその内容を,適宜,改定していきますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「問題解決と創造の方法」(固定ページにリンク)をご覧ください。ただしその後,「問題解決と創造の方法」の内容を改め,前半部分は,別項目に,移動しました。

問題解決と創造の<現場と思考>

問題解決と創造の方法と技術を身につけ実践する前に,実践する現場(環境:自然とテクノロジー)について大まかに理解し,かつ創造の方法と技術を操作する主体である個人と組織の思考の特質(非合理性と合理的な推論と意思決定)について理解しておくことは意味あることだろう。もっともここに深入りすると,現場での問題解決と創造に至る前にそこをぐるぐる回りするけで終わってしまうということは,「知識人」,「教員」だけでなく「科学者」にもありがちなことだ。

現場(環境:自然とテクノロジー)を知る

現場(環境:自然とテクノロジー)を知るには,まず中学,高校レベルの「教科書」に目を通すのもよいが(ブルーバックスに「新しい高校の…教科書」シリーズ(Amazon)や,「発展コラム式中学の理科の教科書」シリーズ(Amazon)がある。),理科が苦手な大人向けに雑多な知識を集めたより読みやすい「入門書」に目を通すのがよいだろう。

そのような本はたくさんあるだろうが,たまたま私が最近購入したというだけだが「もう一度学びたい科学」(Amazon)からはじめてみよう。PART.1の「科学の大原理・大法則」は何とか分かるかな。PART.2の「ニュースがわかる科学の基本」の「生命の科学」,「気象の科学」,「エネルギーと環境の科学」,「宇宙の科学」だけでは全く物足りない。

まず1点目に「化学」分野はまったく抜けているので,ここは私の本棚にあった「ぼくらは「化学」のおかげで生きている」(著者:齋藤勝裕)(Amazon)でカバーすることにしよう。実際私たちの生活では「物理」はテクノロジーとして商品に封じ込められているので商品の使用法さえ分かればよいことが多いが,私のような「化学音痴」は,身の回りの物質のこと,食品のこと,生物の体のこと等々,なかなか理解するのが困難だ。炭素と水素が分かればまあいいか。

2点目に生命の歴史もない。そこで「系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史 僕たちの祖先を探す15億年の旅」」(著者:長谷川政美 )(Amazon)の写真と曼陀羅図を楽しもう。ホモサピエンス代表は,著者のお孫さんだ。もっとも,本書には,真正細菌,古細菌ドメインには触れられておらず,最初の分岐は「シャクナゲとヒトの共通祖先」からだ。それについては,「たたかう植物 仁義なき生存戦略 」(著者:稲垣栄洋)(Amazon)の「植物vs.病原菌」に「トコンドリアと共生した生物の一部が,次にシアノバクテリアと共生して葉緑体を手に入れた。こうして,ミトコンドリアのみを持つ動物と,ミトコンドリアに加えて葉緑体を持つ植物が誕生したのである」とあり,イメージしやすい。もっともこの本の内容は豊富であり,植物,いや生命を理解するためにぜひとも一読すべきであるので追って紹介しよう(ただ類書は多い。)。

3点目に「地球の歴史,自然」もまったく不十分だ。これについては「地球とは何か 人類の未来を切り開く地球科学」(著者:鎌田 浩毅)(Amazon)が,まだ速読しただけだが,網羅的でよさそうだ。ただ過去の地震歴から,」2020年から2030年にかけて「関東中央圏での直下型地震」,「南海トラフ巨大大地震」が起こる可能性があるとしていて衝撃的だが,どうなんだろう。もう少し読み込んでみよう。

さて,以上に加えて「眠れなくなるほど面白い図解物理の話」(著者:長澤 光晴)(Amazon) ,「眠れなくなるほど面白い図解科学の大理論」(著者:大宮 信光 )(Amazon) には,もう少し突っ込んだ内容が記述されており,これらに親しみ,科学全体を通観できれば,しろうと科学者の端くれになれよう(なおこのシリーズには,化学,生物,宇宙等もあるが,内容,レベルはまちまちのようだ。)。

科学分野にはこれに引き続いて読むべき興味深い本は多い。「環境:自然とテクノロジー」(固定記事にリンク)に,少し紹介している。

個人と組織の思考の特質(非合理性と合理的な推論と意思決定)について知る

「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」(著者:スチュアート・ サザーランド)

ここでは問題解決と創造の方法と技術を検討する前に,ヒトと組織(の中のヒト)の思考の特質(不合理性)について,丁寧にきちんと整理して論じている「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」(著者:スチュアート・ サザーランド)(Amazon) をあげておきたい。著者は,サセックス大学の心理学教授であったが1998年に亡くなっており,本書の刊行は1992年で30年近い前である(しかしKindle本の刊行,翻訳等は最近行われているようだ。)。しかし内容は非常にしっかりしており,かつ著者の表現は機知に満ちていて,読んでいて楽しい。本書刊行後,ネットの普及等でヒトと組織(の中のヒト)の思考の不合理性は強まっているが,ネット普及前の「原型」はどうだったのかという観点から捉え,現状をその「変容」と見ればいいだろう。本書は近々「本の森」で紹介したいが,著者が「序章」で本書の構成について述べている部分だけも紹介しておきたい。

「こうした本では,序章の締め括りで,各章の要約を述べるのが約束事になっている。読者が本書を読まないでもすむように,ここで内容を要約するほど私は親切ではないが,全体の構成だけ簡単に説明しておこう。2章(誤った印象)では,人が判断ミスをおかす最もありふれた原因を述べる。その後に詳しく見ていく不合理な思考の多くにこの原因が絡んでいる。続く七つの章(服従,同調,内集団と外集団,組織の不合理性,間違った首尾一貫性,効果のない「アメとムチ」,衝動と情動)では,不合理な判断や行動をもたらす社会的要因と感情的要因を見ていく。10章から19章まで(証拠の無視,証拠の歪曲,相関関係の誤り,医療における錯誤相関,因果関係の誤り,証拠の誤った解釈,一貫性のない決断・勝ち目のない賭け,過信,リスク,誤った推理)は,事実をねじ曲げてしまうために陥る誤りを扱い,それに続く二つの章(直感の誤り,効用)では,手元にある情報の範囲内で,少なくとも理論上は最善の結論を出せるような方法を述べ,そうした方法で出した結論と直感的な選択とを比較して,直感がいかに当てにならないかを示す。22章(超常現象)では,それまでに述べてきた誤りのいくつかを振り返り,超常現象やオカルト,迷信がなぜ広く信じられているかを考える。最終章(合理的な思考は必要か)では,ヒトの進化の歴史と脳の特徴から,不合理な思考をもたらす根源的な素地を考え,併せて合理的な判断や行動を促すことが果たして可能かどうかを考える。そして最後(合理的な思考は必要か)に,「合理性は本当に必要なのか,さらには,合理性は望ましいのか」を考えてみたい。」。

なお著者は合理性について次のように言っている。

「合理性は、合理的な思考と合理的な選択という二つの形をとる。手持ちの情報が間違っていないかぎり、正しい結論を導き出すのが、合理的な思考だと言えるだろう。合理的な選択のほうはもう少し複雑だ。目的がわからなければ、合理的な選択かどうか評価できない。手持ちの情報をもとにして、目的を達成できる確率が最も高い選択が合理的な選択と言えるだろう。」。

「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」(著者:ケン マンクテロウ)

「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」(著者:ケン マンクテロウ)(Amazon) は,人間の実際の思考を踏まえて,合理的な推論と意思決定について検討した本である。著者は,イギリスの心理学者である。少し前に入手していたが,古典的三段論法,「ならば」,因果推論,確率的説明,メンタルモデル理論,二重過程理論,帰納と検証,プロスペクト理論等,感情,合理性,個人差や文化の影響がもたらす複雑さ等,幅広く検討していて,「思考と推論」を考える上では必須の本であると思っていた。ただ問題はここに入り込むと,出てこられなくなることである。ほどほどが大事だ。

問題解決と創造への出発

以上を踏まえた上で,問題解決と創造のために,どのように頭と心を働かせるべきなのか。

以下,「問題解決と創造の方法と技術」の「固定ページ」に続く。

 

 

「創造はシステムである」を読む

~「失敗学」から「創造学」へ 著者:中尾政之

原因,結果,因果関係

ある分野の学問的な解明は,ある事象(ものごと)についてなぜその「結果」が生じたのか,「結果」に因果関係のあるその「原因」は何かという形をとることが多い。著者の「失敗学」も,その典型であろう。

しかしこれをひっくり返して,ある「結果」を生じさせるためにはどのような「原因」を設定し,実行すればよいかを考察するのが,著者の「創造学」である。ただ著者は,機械工学畑のエンジニアなので,話題は,モノ作りの話が中心になるが,それに限られているわけではない。

著者は,創造(著者の定義は「自分で目的を設定して,自分にとって新しい作品や作業を,新たに造ること」)の過程を,「思い」(願望)→「言葉」(目的)→「形」(手段)→「モノ」(アクションプラン)ととらえ,まず「目的」を言葉として設定することが重要だとする(これが「出力」となる「結果」である。)。そしてその「原因」となる「入力」を<「形」(手段)+「モノ」(アクションプラン)>と捉え,その具体的な内容を「思考演算子」を適用して検討していく。

本書の概要

筆者の言葉を借りれば本書は,①「いつもと違うことを何かやってやろう」と勇んで創造するために,「その〝何〟とは何なのか」を考えることで要求機能を列記し(なお環境に制約されるので仕方なく達成しなければならない消極的要求機能を「制約条件」という。),②次にその〝何〟を実現するための設計解を,「いつものワンパターンの思考演算」を使って創出し,③さらに「あちらを 叩けばこちらが立たず」の干渉が生じる要求機能を整理することで,互いに独立で最少の数の要求機能群を設定し,④最後に,複雑な状況下で創造するとき,どのように組織(モジュラーとインテグレイテッド)を構築すれば成功率が高まるかを検討するという内容である。

①③の目的の設定,整理,②の設計解を求める思考演算が,二つのポイントである。そしてまず頭に叩き込むべきことは,②の思考演算である。

設計解を求める思考演算

筆者は,旧ソ連の特許を解析して発明者の頭の動きの共通性を抽出したと言われているTRIZ(トゥリーズ)という技法の「教科書を読んで簡単な思考演算子をいくつか覚える」と,容易に新しい設計解を導くことができという。

そして筆者は,ある調査により全体の98%を占めた技法のトップ12を紹介し,1から5までについて詳細に説明している(第2章)。

1.挿入付加(20%),第3物質,第3機能,複合物質
2.分割(19%),機能分離,並列化,オフライン化,副次排除
3.変形(13%),回転,相似,対称,交互,ベクトル分割
4.交換(9%),反転,内外,前後,左右,入出力,因果,動静
5.流線(8%),アナロジー,等角写像,駄肉そぎ,デッドスペース
6.合体(5%),集合,一体化,付加,加算,乗算,相乗効果
7.変換(5%),作用変換,時間関数化
8.電磁場(4%),場の挿入
9.相変化(4%),凍結化
10.表面改質(4%),表面処理
11.独立化(3%),非干渉化
12.冗長化(3%),市販品利用,安全対策

著者は,「設計解は必ず存在する」とし,これらの技法がうまくいかない場合の二つの原因として「自分の課題を一般化・抽象化できない」,「一般的な設計解が提示されたのにその知識を自分の課題に特殊化,具体化して適用できない」ことを指摘する。

とにかく本書の第2章は,特に「文科系」のひとはあまり目にしないことなので,よく読んで頭に叩き込むのがよい。

システムは可視化できる

しかし,要求機能を列記しこれを満足する設計解を求めてもうまくいかない場合に「自分が何をやりたいのか,何を作りたいのかがよくわからず,考えが整理されていない」ことがある。どうやって整理するか。

要求機能はいくらでも列記できるので,まず下位の類似機能を上位の概念でくくって上位機能に合体する,機能が実現すると従属機能と効果も自動的に成立する,上位の設計解が決まると下位機能が決まるということで,整理すると,要求機能を半数から4分の3程度には,減らすことができる(要求機能が漏れている方が気づくのが大変である。)。その上で,要求機能と設計解の関係を示すとすっきりするが,設計解が別の要求機能に干渉して,達成できないものも存在する。

日本では「すり合わせ生産は日本の強み」などといって「干渉設計」が好まれてきたが,「干渉」は失敗の原因の多くを占める。要求機能が干渉している場合,設計行列は非対角成分が存在する行列になるので,すべての解が一括して定まり,設計条件がひとつ変更されても,設計解がすべて変わることになる。トラブルを起こさないようにしたいのなら,干渉が起きないような「独立設計」を目指すべきだ。

ここまでが,「問題解決の創造と方法」の基本である。

著者は日本の現状を踏まえ,「干渉設計」とそれを支える「インテグレイテッド」組織について考察を進めるが,それは別の「問題解決」であろう。

なお以上の紹介は,大雑把すぎるので,今後,適宜,増補していきたい。

それと,以上の考察の目的(要求機能)は,対象が自分自身に向いていない。自分が何かを達成したい(ダイエット),何かをやめたい(酒,たばこ等々)という場合は,どう考えればいいのだろうか。例を酒をやめるということにして,「習慣の力」や「仕事・お金・依存症・ダイエット・人間関係 自分を見違えるほど変える技術 チェンジ・エニシング」等を参考にして考察してみよう。 

詳細目次

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「問題解決と創造の方法」基本3書の詳細目次

「問題解決と創造の方法」基本3書

詳細目次

新版[図解]問題解決入門~問題の見つけ方と手の打ち方 著者:佐藤 允一

目次

はしがき

1 問題とは何か

1 見える問題と見えない問題 /2 問題意識はどこからくるか /3 問題をとらえるものの見方 /4 目標と現状のギャップが問題 /5 「問題がない」という問題 /6 問題と問題点は異なる

2 問題を見つける

1 問題解決の当事者は誰か /2 問題はどのように確定するか /3 問題には三つのタイプがある /4 「すでに起きている」という問題 /5 「今より良くしたい」という問題 /6 「この先どうするか」という問題

3 問題を組み立てる

1 問題の「仕組み」を考える /2 問題は環境変化から /3 方針は目標達成の方法論 /4 目標を具体的な課題とする /5 課題達成の手段と活動 /6 課題達成を妨げる条件

4 問題点を挙げる

1 見える障害と見えない障害 /2 突然発生した不可抗力的な障害 /3 「打つ手がまずかった」という問題点 /4 「やり方がまずかった」という問題点 /5 「自分の手に負えない」という問題点 /6 できる範囲とできない範囲

5 解決策を考える

1 対策はアイデアではない /2 目標を修正する必要はないか /3 応急処置としての当面策 /4 戦術レベルの根本策 /5 戦略レベルの根本策 /6 解決策に優先順位をつける

[事例研究]急激な円高! 売上減少

 

創造はシステムである

~「失敗学」から「創造学」へ」 著者:中尾政之

第1章 創造は要求から

1 試しに創造してみよう

2 思いを言葉にしよう

3 創造を言葉で示すのは難しい

4 日本の企業は以心伝心が大好きだった

5 夢を言葉にして語れば,必ず実現する

6 目的を定量的に設定しよう

7 明治以来,要求機能も輸入してきた

8 リサーチとソリューションを分離してみょう

9 要求機能を列挙してみょう

10 不況時に研究室をどうやってサバイバルさせるか

11 目的を持つには,生きる力が必要である

第2章 思考方法はワンパターン

1  簡単な思考演算を用いると,新たな設計解か導ける

2 「凍結させる」の思考演算を使う

3 思考演算子を用いるには,思考の上下運動が不可欠である

4 TRIZを用いて思考を上下運動させる

5 頻繁に用いる思考演算子にはどのようなものがあるのか

6 挿入付加の思考演算子の応用-第3物質の挿人

7 分割の思考演算子の応用-機能分離,並列化,副次排除

8 変形・交換・流線の思考演算子の応用-逆さにする

9 困ったときは,思考演算をやってみよう

第3章 システムは可視化できる

1 要求機能を整理しないと,創造したいものの全体像がわからない

2 ジャガイモ皮剥ぎ器の要求機能をあげよう

3 干渉を逆手にとって成功させよう

4 組織間で干渉が生じて,コミュニケーションエラーが起きる

5 いまどきの干渉管理をやってみよう

第4章 真似ができない創造化

1 干渉設計よりもわかりにくい複雑設計が続々と生まれた

2 人智を超えるような複雑な設計で失敗する

3 モジュラーとインテダレイテッドで戦わせてみよう

4 干渉が大好きな日本の大企業はどうやって失敗を減らすか

5 外見は面倒,中身は単純,真似ができない創造化

6 インテグレイテッドな頭の使い方が中小企業の武器である

7 高級レストランは インテグレイテッドである

8 世の中には インテグレイテッドとモジュラーの両方が必要である

おわりに

 

問題解決大全

~ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール 著者:読書猿

まえがき 問題解決を学ぶことは意志の力を学ぶこと

本書の構成について

第Ⅰ部 リニアな問題解決

第1章 問題の認知

01 100年ルール THE 100-YEAR RULE 大した問題じゃない

02 ニーバーの仕分け NIEBUHR’S ASSORTING 変えることのできるもの/できないもの

03 ノミナル・グループ・プロセス NOMINAL GROUP PROCESS ブレスト+投票で結論を出す

04 キャメロット CAMELOT 問題を照らす理想郷という鏡

05 佐藤の問題構造図式 SATO’S PROBLEM STRUCTURE SCHEME 目標とのギャップは直接解消できない

06 ティンバーゲンの4つの問い TINBERGEN’S FOUR QUESTIONS 「なぜ」は4 種類ある

07 ロジック・ツリー LOGIC TREE 問題を分解し一望する

08 特性要因図 FISHBONE DIAGRAM 原因と結果を図解する

第2章 解決策の探求

09 文献調査 LIBRARY RESEARCH 巨人の肩に乗る

10 力まかせ探索 BRUTE-FORCE SEARCH 総当たりで挑む万能解決法

11 フェルミ推定 FERMI ESTIMATE 未知なるものを数値化する

12 マインドマップ® MIND MAPPING® 永遠に未完成であるマップで思考プロセスを動態保存する

13 ブレインライティング METHODE635 30分で108のアイデアを生む集団量産法

14 コンセプトマップ CONCEPT MAP 知識と理解を可視化する

15 KJ法 KJ METHOD 混沌をして語らしめる、日本で最も有名な創造手法

16 お山の大将 KING OF THE MOUNTAIN 比較で判断を加速する

17 フランクリンの功罪表 MERIT AND DEMERIT TABLE 線1 本でつくる意思決定ツール

18 機会費用 OPPORTUNITY COST 「選ばなかったもの」で決まる

19 ケプナー・トリゴーの決定分析 DECISION ANALYSIS 二重の評価で意思決定する

第3章 解決策の実行

20 ぐずぐず主義克服シート ANTI-PROCRASTINATION SHEET 先延ばしはすべてを盗む

21 過程決定計画図 PROCESS DECISION PROGRAM CHART 行動しながら考える思考ツール

22 オデュッセウスの鎖 CHAIN OF ODYSSEUS 意志の力に頼らない

23 行動デザインシート BEHAVIOR DESIGN SHEET 過剰行動の修正は不足行動で

第4章 結果の吟味

24 セルフモニタリング SELF MONITORING 数えることで行動を変える

25 問題解決のタイムライン PROBLEM SOLVING TIMELINE 問題解決を時系列で振り返る

26 フロイドの解き直し SOLVE AGAIN FROM SCRATCH 解き終えた直後が最上の学びのとき

第Ⅱ部 サーキュラーな問題解決

第5章 問題の認知

27 ミラクル・クエスチョン THE MIRACLE QUESTION 問題・原因ではなく解決と未来を開く

28 推論の梯子 THE LADDER OF INFERENCE 正気に戻るためのメタファー

29 リフレーミング REFRAMING 事実を変えず意味を変える

30 問題への相談 CONSULTING THE PROBLEM ABOUT THE PROBLEM 問題と人格を切り離す

31 現状分析ツリー CURRENT REALITY TREE 複数の問題から因果関係を把握する

32 因果ループ図 CAUSAL LOOP DIAGRAM 悪循環と渡り合う

第6章  解決策の探求

33 スケーリング・クエスチョン SCALING QUESTION 蟻の一穴をあける点数化の質問

34 エスノグラフィー ETHNOGRAPHY 現場から知を汲み出す

35 二重傾聴 DOUBLE LISTENING もう1つの物語はすでに語られている

第7章 解決策の実行

36 ピレネーの地図 A MAP OF THE PYRENEES 間違ったプランもないよりまし

37 症状処方 PRESCRIBING THE SYMPTOM 問題をもって問題を制する

問題解決史年表