気になっていたこと

「哲学入門」と「The Roots of Reason」

気になっていたこと

誰でも,どうでもいいことが気になり,忘れられないことがある(大事なことで忘れることは無数にあるが)。

私の場合,そのひとつに,戸田山さんが「哲学入門」で,David Papineauが挙げる認知デザインは6段階あるとしながら,4,5段階(6段階目は人間)については重要でないとして,まったく触れておらず,それが何か気になって仕方なかった(ググっても見つけられなかった)。それで2018年9月にそれが書いてあるはずの「The Roots of Reason: Philosophical Essays on Rationality, Evolution, And Probability」(Amazonにリンク)を買おうと思ったが,一口では言えない手際の悪さで,間違って,高額なKindle本の「Thinking about Consciousness」を買ってしまった(「「哲学入門」を読む 2」)。

それでめすっかりげていたのだが,半年余りが経過し,なにがあったのか,上記の経緯もすっかり忘れてしまったので,改めて古本で「The Roots of Reason」を買ったのである。

認知デザインの6段階は何か,その他

戸田山さんは第1段階からはじめるが,David Papineauは,Lebel 0からだ(第3章の「The Evolution of Means-End Reasoning」にある)。人間に至る5段階は,以下のとおりである。

  • Lebel 0 Monotoma-Do R
  • Lebel 1 Opportunists-If C,do R
  • Lebel 2 Needers-If C and D,do R
  • Lebel 3 Choosers-If Ci and Di,do Ri, when Di is the dominant need
  • Lebel 4 Learners-after experience shows that Ci,Di and R lead to reward,then(as before):If Ci and Di,do Ri, when Di is the dominant need

分かったからなんということはないが,とりあえず一安心。せっかくだから,「The Roots of Reason」(論文集だが)を読もうと思ったが,どうも最近(年をとってきたからという意味だが),古本のほこり(ダニ)に弱く,かゆくなってきてたまらない。まずは,アルコール噴射,そして虫干しだ。

ところで「哲学入門」を読む 2」には,目的手段推論は英語で何というか気になるので確かめたいとも書いているが,そのことはすっかり忘れていた。これは多分,章題の「Means-End Reasoning」だろう。ついでに,この記事の末尾に「「啓蒙思想2.0」を手にしたところ,「直感」と「理性」の正確な分析とその使い途を踏まえ,「政治・経済・生活を正気に戻すために」どうすればいいのかについて詳細な検討がされていることに気がつき,興味津々,今の「情況」を切り拓く手掛かりになりそうだ,次はこれを紹介しよう」とあるが,これも忘れていた(というより,これは試みていたが,そのままになってしまった。細目次がない本は本当にやりにくい)。

自立

分業と自立,若者の自立

ところで年をとってきて古本のほこり(ダニ)に弱くなった関連で話は飛ぶが,最近よく「自立」ということを考える。

もともとは,「この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた」(著者:ルイス ダートネル )(Amazonにリンク)や,そこでも引かれている「ゼロからトースターを作ってみた結果 」著者:ルイス ダートネル )(Amazonにリンク)(この本は「現代経済学 ゲーム理論・行動経済学・制度論」(著者:瀧澤弘和)(Amazonにリンク)で「われわれの文明がいかに分業と交換の複雑なシステムで構成されているのかがわかる。しかも、この複雑な依存関係は、比較的簡単な人工物自作できないほどのものなのだ」として紹介されている)で,われわれはある日,文明(分業と交換)がなくなると,何ができるのだろう,われわれは,他者(文明・分業)に依存せず世界から何を引き出せるのだろうという文脈で考えていたことである。

さらに古くは,「自立」は,「自立の思想的拠点」(著者:吉本隆明)で,私の気に入っていた観念であったが,久しく忘れていた。これも忘れていたが,高橋和巳にも「自立の思想」という本もあった。政治的文脈はともかく,昔の若者(であった私)にとって「自立」は,いかにも魅力的な観念であった。

中高年の自立

でも今「自立」は,中高年こそ考えるべきことであろう。

高齢者にとって,その生活と行動の「自立」は切実な問題である。私が今準備している「高齢者の法律問題」の項目に,私にとっても切実な,生活と行動の「自立」を加えて考えていこう。

更に中年(壮年)にとっては,自分は社会の「分業と交換」においてある重要な役割を担っていると自負していても,ある日そこから引きはがされたときに,形は変わっても同レベルのことができるのかという問いかけこそ,「自立」の問題であろう。特に「PC・IT・AI」の時代に,何によって「自立」できるのか,若者は,とりあえず「起業」というスタイルを用意している(「THE END OF JOBS 僕たちの20年戦略 」(著者:テイラー・ピアソン)(Amazonにリンク)。

ビジネスでよく見かける中年(壮年)のフレーズは,「培った人脈を生かす」であるが,問題はその人脈を生かして何ができるかということであろう。人脈そのものは,依存でしかない。

「自立」とは何か

少し話を急ぎすぎた。「自立」は,人の生活と行動(あるいは組織)全体を貫く問題であるが,「自立」という観念はどう捉えたらいいのだろうか。。

とりあえず私の「自立」とは何かについての仮説(概念整理)は,「世界と距離を保ち飲み込まれずに見る(理解する)ことができるということ」である。私はこのWebで「問題解決と創造」を」サブテーマにしているが,問題解決は,世界から降りかかってくることに対応することであり,(価値)創造は,世界に参加することであると位置づけられるだろう。そうすると私と世界の関係について,対応する,参加するほかに(前提としてというべきか),距離を保ち飲み込まれずに見る(理解する)ことがあるということである。問題解決,創造,自立という観念を回しながら,世界と関わるのは楽しそうである

これからはこのWebの「問題解決と創造」に「自立」という観点も含めて考えていこうと思う。そしてこれは多分,人間は,目的手段推論付きオシツオサレツ動物ということと重なっている。

 

太陽光発電の規制をめぐる法律問題

太陽光発電設備を規制する条例を作るⅡ

 

太陽光発電をめぐる状況

私は2年前,某市の議員サイドに依頼されて太陽光発電設備を規制する条例案を作成するお手伝いをし,それについて「太陽光発電設備を規制する条例を作る」という記事を作成したが,その条例案はさまざまな政治的駆け引きから「没」となった。某市では今度は一応市が主導して再び条例を作成する運びとなり,私は議員サイドからその条例案についてのコメントを求められたので,まず太陽光発電をめぐる状況を復習し,条例案にコメントすることにした。この記事はそのレジュメに手を加えたものである。なおこの間,「ウエッジ」という雑誌から,太陽光発電を規制する条例についての取材を受けたので,各自治体で制定された条例について若干調べてみたが,その時点では「事業策定ガイドライン」の推奨事項を念頭に置いて制定された条例は見かけなかった。なお本記事掲載後に大津市の条例を見つけた(外部サイトへのリンク)。規制対象が限定されているが,「大津市太陽光発電設備の設置ガイドライン」も作成されており,網羅的なものに見受けられるが,上記の点がどこまで意識されているかは直ちには判断しづらい。

前提となる問題の復習

新FIT法とみなし認定の復習

2017年4月1日,改正された「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下,新FIT法,ないし法)が施行され,これにより再生可能エネルギー発電事業者(以下,事業者)には,ⅰ新FIT法施行後に事業計画書を提出して事業計画認定を受ける事業者と,ⅱ既に設備認定を受け法の規定する事業計画書を提出したみなし認定事業者の2種の事業者が生じている(制度全体についての解説は,資源エネルギー庁の「なっとく再生可能エネルギー」を参照のこと)(資源エネルギー庁の外部サイトへリンク)(「事業計画書」は,「再生可能エネルギー発電事業計画認定申請書」(外部サイトへのリンク),「再生可能エネルギー発電事業計画書【みなし認定用】」(外部サイトへのリンク))。

新FIT法による新制度について,「事業計画策定ガイドライン」(外部サイトへのリンク業」)(以下「ガイドライン」)は,「新たな認定制度では,事業計画が,①再生可能エネルギー電気の利用の促進に資するものであり,②円滑かつ確実に事業が実施されると見込まれ,③安定的かつ効率的な発電が可能であると見込まれる場合に,経済産業大臣が認定を行う(注:法9条3項)。さらに,この事業計画に基づく事業実施中の保守点検及び維持管理並びに事業終了後の設備撤去及び処分等の適切な実施の遵守を求め,違反時には改善命令や認定取消しを行うことが可能とされている。固定価格買取制度は,電気の使用者が負担する賦課金によって支えられている制度であり,認定を取得した再生可能エネルギー発電事業者は,その趣旨を踏まえた上で,法第9条第3項並びに施行規則第5条及び第5条の2に規定する基準に適合することが求められ,また,法に基づき事業計画を作成するに当たっては,施行規則様式中に示される事業計画書記載の表に掲げる事項を遵守することへの同意が求められる」と説明している(新FIT法の概要は,資源ネルギー庁がした「改正FIT法に関する直前説明会」の資料(外部サイトへのリンク)にまとめられている)。

「ガイドライン」は,事業者が新FIT法による事業計画を立てて事業認定を受け,それに基づいて実施する発電事業のあり方について,経産省(資源エネルギー庁)が作成したものである。この点「ガイドラインは,事業者が新FIT法及び施行規則に基づき遵守が求められる事項,及び法目的に沿った適切な事業実施のために推奨される事項(努力義務)について,それぞれの考え方を記載したものである。ガイドラインで遵守を求めている事項に違反した場合には,認定基準に適合しないとみなされ,新FIT法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)に規定する措置が講じられることがあることに注意されたい」,「努力義務として記載されているものについても,それを怠っていると認められる場合には,新FIT法第12条(指導・助言)等の対象となる可能性がある」とされている。そして施行規則5条等は,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を営むに当たって,関係法令(条例を含む。)の規定を遵守するものであること」,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備について,当該設備に関する法令(条例を含む。)の規定を遵守していること」,「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電事業を円滑かつ確実に実施するために必要な関係法令(条例を含む。)の規定を遵守するものであること」として,法令遵守の中に条例が含まれることを明記しているので,遵守が求められる事項には条例も含まれる(「事業報告書」には,「再生可能エネルギー発電事業を実施するに当たり,関係法令(条例を含む。)の規定を遵守すること」に合意することが求められている)。

このように事業者には,発電事業を遂行する上での,遵守事項と,推奨事項が定められている。前者には,FIT法・同施行令・同施行規則,その他の法律・規則,及び条例・規則がある(法令は,e-Gov法令検索で調べるのがよい)。後者は,これまでの事例の積み重ねから選択された「法目的に沿った適切な発電事業実施のために推奨される事項(努力義務)」であるが,「それを怠っていると認められる場合には,FIT法第12条(指導・助言)等の対象となる可能性がある」に止まる。

したがって,条例作成にあたり,推奨事項を条例化すれば,それが施行規則5条の「当該認定の申請に係る再生可能エネルギー発電設備について,当該設備に関する法令(条例を含む。)の規定を遵守していること」との規定によって遵守事項に格上げされ,新FIT法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルートが適用されることになる。

なおみなし認定事業者も,「ガイドライン」や「法(条例を含む)」を遵守しなければならないが,設備認定を受けたにとどまっている事業者からすでに発電事業を開始している事業者まで様々な段階の事業者がいるので,ガイドラインや条例の,どの条項を遵守しなければならないかが問題となる。法・規則には経過規定があるので解決済みだが,ガイドラインや条例の適用関係はは,若干,問題が複雑になる(事業認定済みの事業者に条例を適用する場合も同様の問題が生じる)。

なお条例作成にあたって,推奨事項については担当官庁によって充分な検討がなされているであろうから問題が生じる可能性は低いが,推奨事項ではないその他の事項を条例に盛り込もうとする場合,新FIT法との関係で違法ではないか,憲法との関係で問題はないかとの検討が必要である。

その後の経緯…未稼働案件について

未稼働案件と新FIT法

旧FIT制度は,事業開始時から20年間,設備認定時の固定買取価格で買い取るというものであったが,制度発足時の固定買取価格は,開発時の高額の設備費用に対応して高額の固定買取価格が設定され,普及につれて設備費用も低額化するので,徐々に固定買取価格を低額化していくことが想定されていたが,認定から事業開始までに特段の制限がなかったことから,設備費用が低額化してから設備を設置して当初の高額な固定買取価格が得られるという見通しに基づく「投資事業」を産み,未稼働事案及び詐欺事案が多発した。

これについて新FIT法は,2017年3月31日までに,(1)運転開始している,又は(2)電力会社から系統に接続することについて同意を得ている(接続契約を締結している)条件を満たさない場合,原則として認定が失効するとした(実際に失効した事案もあるが,多くはなさそうだ。)。ただし,以下の場合には,例外的に認定失効が一定期間猶与され,その猶予期間中に接続の同意が得られれば,接続の同意を得た日(接続契約を締結した日)をもって新制度での認定を受けたものとみなされた。(【例外(1)】平成28年7月1日以降に旧制度での認定を受けた場合…旧制度での認定を受けた日の翌日から9ヵ月以内に,接続契約の締結が必要。【例外(2)】A.平成28年10月1日~平成29年3月31日の間に電源接続案件募集プロセス等を終えた場合又はB.平成29年4月1日時点で電源接続案件募集プロセス等に参加している場合)

そして,①2016年8月1日以降に接続契約を締結した案件は,運転開始期限を3年と設定したが(開始が遅くなると買取期間が短くなる),②2016年7月以前に接続契約を締結済みの案件は運転開始期限を設定しなかった。

「FIT制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応」について

しかし上記②についても未稼働のものが多く,2019年4月1日から「未稼働案件への新たな対応」がなされている。(「FIT制度における太陽光発電の未稼働案件への新たな対応」(その説明について(外部サイトへのリンク1),(外部サイトへのリンク2))。

これは2012年度~14年度にFIT認定を受けた②について,「運転開始準備段階に入った=系統連系工事の着工申込みを送配電事業者が受領」していないものは,受領日から2年前の年度の調達価格が適用されることになり(申込みが受領されていれば高いまま),また施行期日の1年後が運転開始期限とされ(この施行期日以降に着工申込みが受領されたものは,最初の着工申込みの受領日から1年を運転開始期限とする),期限後は買取り期間が短縮されることになる。更に対象年度が拡大されることも検討されている。

現状

「なっとく再生可能エネルギー」の「事業計画認定情報 公表用ウェブサイト」に,2019年2月28日時点の,ある限定された範囲の認定情報が掲載されている。これから某市だけのものをまとめてみた。約2300件あるので,あまり失効していないようだ。

太陽光発電事業を規制する条例・規則の検討

太陽光発電事業の実施過程とその規制

ガイドラインは,事業者の発電事業の実施について,第1節企画・立案(1.土地及び周辺環境の調査・土地の選定・関係手続,2.地域との関係構築),第2節設計・施工,第3節運用・管理,第4節撤去及び処分(リサイクル,リユース,廃棄)に分けて遵守事項,推奨事項を掲記している。

住民,市サイドから大きくまとめれば,実施される事業について,Ⅰ.①設備が設置される場所が適切なこと,②設置される設備の具体的な態様が適切なこと(景観との関係でのセットバック,高さ制限と騒音等),③運用・管理が適切に実行されていること,④適切に撤去及び処分がなされること,Ⅱ.Ⅰについて市,住民が事業内容を把握し,少なくても住民が意見をいい,協議できること等が重要であろう。Ⅲガイドラインに記載されていない事項で必要なものは,条例化することも検討する必要があるが,FIT法や憲法との関係を検討する必要があるのは,上述したとおりである。

太陽光発電事業を規制する条例の基本的な問題点-総論

法律と条例の関係

法律と条例の関係について,整理する(今回は,「事例から学ぶ 実践! 自治体法務・入門講座」(著者;吉田勉)(Amazonにリンク)による)。

未規制

A 法律が積極的に空白化   ✕

B 法律が無関心 〇

規制領域

C 法律とは別目的・趣旨 〇(※)

D 法律と同一目的・趣旨

  最大限規制立法 ✕

  別段の規制を容認 〇

※1 ただし,法律の意図する目的・効果を阻害しないこと

※2 上乗せ規制,横出し規制

今回のケースは,FIT法が,「法令(条例を含む。)」としていることから通常のケースとは異質だが,B,C,Dの各場合があると考え,「法律の意図する目的・効果を阻害しないか」,「別段の規制を容認」しているかを検討すればよいが,あまり問題にはならないだろう。

新FIT法の事業認定と本条例案の許可制について-行政処分

行政処分について

両者とも「申請に対する処分」(行政処分)であり,講学上の許可,特許,認可のうち,「許可」である。

この点の理解のため,前掲書を適宜要約して引用する。

「行政処分とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」

「行政処分には,そのタイプとして,申請を待って処分するものと,特定の問題が生じたときに相手方の意向とは関係なく処分を行うものがあります。行政手続法では,前者を「申請に対する処分」,後者を「不利益処分」として,その実施の事前手続を定めている」

「行政処分といっても様々なものがあり,行政側がかなりの自由度があるものと,基本的には要件が具備されれば半ば自動的に処分がなされるものなど,そのレベルも様々です。また,行政処分のうち,国民の申請をもとに処分するものとしては,「許可」というのがその典型ですが,名称としては,許可のほか,「免許」(道路交通法の運転免許),「確認」(建築基準法),「認定」(土地収用法),「承認」(河川法の流水占用権の譲渡承認)など様々な名称があります。 しかしながら,これらは,法的な性格の違い(例えば,その許可等の裁量の度合い,無許可等の場合の効果等)はその名称からのみでは判断がつきませんので,行政法学では,許可,特許,認可に分けて考える」

「「許可」の場合は,これは本来自由にできるんだけれど,社会一般への悪影響を防止するため一応法律で禁止しておき具体的な申請に応じて不適当なところがなければ許可(禁止を解除)するという形です。許可することが原則ということになります。医師免許などは簡単な許可ではないだろうとお思いかもしれませんが,医学部を出て,国家試験に合格すれば誰でも免許がとれますので,これも許可が原則ということです。一方,「特許」の場合は,特別の許可といった意味合いがあり,公益事業の許可のように,需給調整を含めて政策目的等に合致して初めて許可できるようなものをいいます。公共事業用地の強制収用を可能にする土地収用法上の事業認定もこれに該当します」。

FIT法の事業認定と条例による許可の関係

FIT法の事業認定と条例による許可の関係が問題となる。

A FIT法により事業認定を受けている同じ事象について(上乗せ・横出し規制の場合を除き),条例で許可,不許可の判断をすることはおかしい。ただなぜか,しっかりした「事業認定通知書」(再生可能エネルギー発電事業計画の認定について(通知))が見当たらないので,いったい事業者が,文書上,どの範囲について事業認定を受けているのかがはっきりしない(ただ認定済みの事案について,遡って「設備の所在地」は,動かせないだろう)。

B 市と住民は,事業者が事業計画書に記載し認定を受けた事業内容について,適法に履行して安全性が確保されているかを監視したいが,それは条例による「許可」「許可取消し」の問題ではない。条例による検査によって,事業者の不遵守状況が分かれば,是正を求めることは可能だろうが,是正されなければ情報提供(通報)して,新FIT法による処分(法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルート)を求めることになる。認定の取消によって接続契約は解消される(お金が払われなくなる)というのが,もっとも実効性のある適法性の確保手段である。

また条例固有の許可要件に違反していることが分かれば,これについて条例による手続によって是正を求め,是正されなければ条例上の許可を取り消すというルートもあるが,これについても公表,罰則あるとしても,結局,許可が取り消された(条例に違反した)として,新FIT法による処分(法第12条(指導・助言),第13条(改善命令),第15条(認定の取消し)のルート)を求めなければ実効性がない。情報提供(通報)に「許可取消し」の場合が含まれていないのは,「許可取消し」の性質の誤解である。

C 太陽光発電事業を規制する条例制定の難しい点は,事業者にみなし認定事業者と,新FIT法適用事業者がおり,それぞれⅰ土地確保,ⅱ土地・建物の設計手続の進展と機材調達,ⅲ事業計画の認定(提出)時(ⅱとⅲは逆転するケースもあるだろう),ⅳ施工時が異なっており,これから施行する条例案で,どの段階にある発電事業を規制できるのかということである。なお新FIT法は,ⅲの事業計画の認定(提出)時に,法令(条例を含む)に適合することを求めている。

2年前の私案(「太陽光発電設備を規制する条例を作る」に掲記した条例案)は,ⅲ業計画の認定(提出)以前に,事業者に「届出」をさせて審査し,条例化した全ての推奨事項の実現を確保しようというものだったが,今回の条例案は,ⅳの前に設備設置申請-許可制を入れ込み,設備設置について条例による「規制の遵守」(セットバック,高さ制限,騒音防止等)を達成しようとするものとなっている。

設備設置前に条例による許可申請をするのであるから,上記のⅠ②「設置される設備の具体的な態様が適切なこと」については,おおよそ実現可能であるし多くの場合それで問題ないかもしれない(事業者は,多少無理をしてもそれに従うであろう)。ただ事業認定(提出)時に条例が施行されていない状態で設備の準備を進めていた事業者について,その後,準備していた設備の変更等をしなければならず,それに多額の費用がかるとすれば,損害賠償の問題が発生するので,このような場合は,できるだけ努力することで可とすべきであろう(なお,新FIT法の[事業報告書」には「構造図」の添付,提出が求められている)。

2年前の私案の経過措置は,上記のⅠ②「設置される設備の具体的な態様が適切なこと」については,適用除外としたが,上記のような考えに基づき,入れ込むことも可能であろう。

上記Ⅰ①「設備が設置される場所が適切なこと」については,事業計画提出時に条例が施行されていないと駄目である。

各論と感想

これからは条例案自体について検討することになるが,現時点ではそれを記事に掲載することは差し控えておこう。

しかし新FIT法,施行令,施行規則の体系は複雑になりすぎており,規制という面からだけ検討しようとしても骨が折れる。役所のWebに掲載されている施行規則(特に様式)にはミスプリが目立つし,それが本当に整合的なのかの,検証はほぼ不可能である。またWebの記事も乱雑である。しかも対象案件は膨大で,多額のお金も絡んでおり,更に地方分権によって国は地方を手足のように使えなくなった。

国政レベルの政策遂行のあリ方が,問われているというべきであろう(半分本気だが,整理には,AIの活用の余地があろう)。

 

太陽光発電資料集

(太陽光発電の基礎知識)

  • 「太陽光エネルギーによる発電」(著者:宮本潤)(Amazonにリンク
  • 「かんたん解説!!1時間でわかる太陽光発電ビジネス」(著者:江田健二)(Amazonにリンク
  • 「世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力システム編」(著者:安田陽)(Amazonにリンク
  • 「世界の再生可能エネルギーと電力システム 経済・政策編」(著者:安田陽)(Amazonにリンク
  • 「再生可能エネルギーのメンテナンスとリスクマネジメント」(著者:安田陽)(Amazonにリンク

(FIT法の説明)

(太陽光発電の問題点)

(条例)

  • 「事例から学ぶ 実践! 自治体法務・入門講座」(著者;吉田勉)(Amazonにリンク
  • 「1万人が愛した はじめての自治体法務テキスト」(著者:森 幸二)(Amazonにリンク
  • 「自治体環境行政法」(著者:北村喜宣)(Amazonにリンク
  • 「自治体政策法務講義 改訂版」(著者:礒崎初仁)(Amazonにリンク
  • 「基本行政法 第3版」(著者:中原茂樹)(Amazonにリンク

 

 

 

 

 

連休を振り返る

連休の計画をたてはしたものの

今年のゴールデンウィークは,10日間ということで一念発起して何をするかの計画を立ててみたものの,なんせ,天気と,孫娘の気分,疲労度次第でその日の行動が決まるので,私の思いどおりにはいかない(なお私の予定は,月一回のCPUPのリース更新のための医者がよいと,家庭菜園の手入れだけだった。写真のような植物の成長には本当に感動を覚える)。

振り返ってみると,あまり遠出はしておらず,遠出したのは清水の「ちびまる子ちゃんランド」,海の公園での少し時期が早すぎた潮干狩りぐらいで,あとは近場か,家遊びだ。苔の盆栽づくりは,結局,鎌倉の苔の寺へは行かず,Amazonとコーナンで買った苔で済ませてしまったことが残念だ。

そんな感じなので,とにかく余った時間があれば,寝転んで,本に目を通していた。「高齢者」の法律問題や,「改正著作権」,「改正相続法」の把握,整理,太陽光発電の現状把握等のための読書も予定に入っていたが,4月22日に作成した「「問題解決と創造」を予習する」という記事(本記事)のフォローのための読書が中心になってしまった。

最近次々と膨れ上がる本の山(本当は検索も面倒になったKindle本)に耐えかねて,やっと,①身につけて運用したいこと,②焦点にして解読し関わりたいこと,③へえーと眺めていたいこと等に分けて読書してみようという気になってきた。まともな本読みなら当然にしていることだろうが,今までの私のように酒を味わう合間の読書では,どれも眺める読書になってしまう。自戒しよう。

「システム思考」と「行動分析学」

「身につけて運用したいこと」の最右翼は,「システム思考」と「行動分析学」だ(「ゲーム理論」も入れておいた方がよかった。)。

まず「行動分析学」からと思い,本記事では和書入門書としてもっとも入手しやすいと思われる「行動分析学入門-ヒトの行動の思いがけない理由」(著者:杉山尚子)(Amazonにリンク)を挙げ,これを頭にたたきこもうと思ったのだが,どうも挙げている例がしっくり来ず,ポイントの表現もずれているような気がして嫌になった。そこで急遽,「行動分析学 行動の科学的理解をめざして」(著者:坂上貴之)(Amazonにリンク)に切り替えたが,これは抽象的過ぎて,何を論じているかがわからない部分が多い。そこで「行動分析学マネジメント-人と組織を変える方法論」(著者:舞田 竜宣,杉山尚子)(Amazonにリンク)が,ある想像上の会社でおこる様々な事例に行動分析学の分析手法をあてはめて論じているので,行動分析学が何かが分かってくる(大したことではないなとも思うが,人はそれほど分かりにくいと考えれば,その意味合いが分かってくる。)。行動分析学はこの和書2冊を出発点にすればよい。

「システム思考」について,本記事で紹介している和書2冊(「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?」,「もっと使いこなす!「システム思考」教本」(著者:枝廣淳子, 小田理一郎))はよい本だが,ドネラ・メドウズさんの本とか,「学習する組織」,「社会変革のためのシステム思考実践ガイド」等,読むべき本が目白押しだ。ソフトやプログラミングもやってみよう。だからこそ最初に,この和書2冊をしっかり頭に叩き込むのが迷路に入り込まない近道だ。

「こころ・行動」「思考・言語」「勉強法・読書法」

本記事では,その前に「こころ・行動」,「思考・言語」,「勉強法・読書法」,「英語・数学」を挙げている。「勉強法・読書法」,「英語・数学」が「①身につけて運用したいこと」であるのは当然だが,「こころ・行動」「思考・言語」も,「勉強法・読書法」,「英語・数学」,「システム思考」,「行動分析学」を支える基本となるし,その後の様々な問題へのアクセスの基本となるから「①身につけ展開される運用したいこと」である。

連休中に,フォローとして次のような本に目を通していた。

「こころ・行動」

「哲学入門」(著者:戸田山和久)について

  1. 「意味と意味と目的の世界」(著者:ルース・ギャレット・ミリカン)(Amazonにリンク
  2. 「Beyond Concepts: Unicepts, Language, and Natural Information」by Ruth Garrett Millikan(Amazonにリンク
  3. 「The Roots of Reason: Philosophical Essays on Rationality, Evolution, and Probability」by David Papineau(Amazonにリンク

ここはなかなかむつかしい。ⅱは,80歳を過ぎたミリカンの最新本だが,どうしてこのような頭の働かせ方ができるのか。ⅲは,オシツオサレツ動物の全部を知りたくて,注文中だ。

「思考・言語」

「進化教育学入門 動物行動学から見た学習」(著者:小林朋道)について

  • 「心の先史時代」(著者:スティーヴン ミズン)(Amazonにリンク

この本に分かりやすく「課題専用モジュール」のことが書かれている。ジェリー・フォーダー,ハワード・ガードナー,レダ・コスミデス,ジョン・トゥービー,D・ギアリー等の研究が紹介されている。

「チョムスキーと言語脳科学」(著者:酒井邦嘉)について

  1. 「統辞構造論  付『言語理論の論理構造』序論 (岩波文庫)」(著者:ノーム・チョムスキー)(Amazonにリンク
  2. 「ことばの分析から学ぶ科学的思考法―理論言語学の考え方」(著者:畠山雄二)(Amazonにリンク
  3. 「情報科学のための自然言語学入門」(著者:畠山雄二)(Amazonにリンク

「課題専用モジュール」の下位モジュールとして,脳内文法が考えられている。ⅱ,Ⅲは,どれだけ「科学的」なのか,実は私はまだ腑に落ちていない。

仕事について考えよう

本記事では,応用(対象)編として,「世界の諸相」,「日本文化」,「AI」,「デジタルな世界」と続くが,この連休中の読書では,応用(対象)編として,「仕事」に関わる「THE END OF JOBS 僕たちの20年戦略」(著者:テイラー・ピアソン)(Amazonにリンク)(The End of Jobs: Money, Meaning and Freedom Without the 9-to-5 by Taylor Pearson)(Amazonにリンク)を読んでみた。執筆時26歳という若い起業家である。

この本はなかなか道具立てが優れている(クネビン・フレームワーク,システム思考家ロン・デイヴィソンの「The Forth Economy」,ニコラス・タレブの「月並みの国」「果ての国」,ペリー・マーシャルの主張する「トラフィック」「エコノミクス」「コンバージョン」の3要素からなるトライアングル,ミハイ・チクセントミハイの「フロー体験」,「段階的起業法」(ステアステップ・メソッド)や「徒弟制度」(アプレンティスシップ)等々)。

これらを背景に,著者が,お金,自由,意味をもたらす「起業」を勧める情熱もわかるが,このレベルの話と,今後の世界の仕事がどうなるかというレベルは異なるので(企業内起業も含めても,多数が起業するわけではない),立体的な視野を持つ必要がある。

そこで,この本を立体的に読むために,まず,ニコラス・タレブとパーティーで隣り合ったことから本を書き始めたというドイツの企業家ロルフ・ドベリの次の本がよい。頭がクリアになる。翻訳書名が紛らわしいが,最新の「Think clearly」の英書の題名は「The Art of the Good Life」であり,第1作目の「なぜ,間違えたのか?」の英書名が「The Art of thinking clearly」である。

そして私の「仕事」と世界の「仕事」の構造の両方を捉えている次の本を熟読するのがよい。

  1. 「ネクスト・ソサエティ 歴史が見たことのない未来がはじまる」(著者:P・F・ドラッカー )(Amazonにリンク
  2. 「フラット化する世界-経済の大転換と人間の未来」(著者:トーマス・フリードマン)(Amazonにリンク
  3. 「遅刻してくれて,ありがとう 上・下」(著者:トーマス・フリードマン)(Amazonにリンク)
  4. 「デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか」(著者:ライアン エイヴェント)(Amazonにリンク

ⅰは2000年初頭まで,ⅱは2007年まで,ⅲ,ⅳは,その後の動きを捉えている。富も視野に入れているのが,ⅳだ。しかしドラッカー は本当によくものが見える人だ。改めて感心する。

最後に大事なことを書いておこう。あれもこれも目を通さず,焦点を絞ること。

 

 

「パワハラ」の法律問題

「 ジュリスト 2019年4月号(1530号)の特集「パワハラ予防の課題」」を読む。

これは久しぶりの法律記事である。

「パワハラ」問題の現状

法令改正

今回のジュリストの特集は「パワハラ予防の課題」である。

2019年3月,パワハラに関する法案(「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(旧称「雇用対策法」)の改正案)が国会に提出されたという報道があったが,「新しい法令の成立を調べる」から,内閣法制局,衆議院の動きをみても見当たらず,ここ何日かあれこれ探していたのだが,結局,3月8日に,「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」として国会提出されていることが確認できた(その内容は,厚労省のWebサイト(外部サイトの記事にリンク)に掲載されている。ただこれは従前の審議会等の経緯を追っている人には分かるのだろうが,そうでないと見当が付かない。関連する他の法令改正案とドッキングさせることで法案名が隠されてしまう提出手法はいかがなものだろうか(いろいろなものが含まれるだろうと予想が付く場合はまだいのだが,本件は「等」からだけで見当をつけなければならない)。

それまでの検討過程

なお法案提出までには,政府内部で,「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」,「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」,「労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)」等が開催され,報告書が作成されたり,建議が行われたりしている(その内容は,後記原論文(本ジュリスト35頁)の記載からたどれる)。

Webサイト「あかるい職場応援団」による情報提供

また,厚労省は従前から,「パワハラ裁判事例,他者の取組など,パワハラ対策についての総合情報サイト「あかるい職場応援団」」(外部サイトの記事にリンク)を設け,情報提供している。最近,厚労省に寄せられる労働相談で最も多いということだから(後記原論文),厚労省の対応の省力化を兼ねたサービス提供であろう。早晩,改正法令を踏まえた内容に修正されるだろうが(大した修正ではない),現状でも,「パワハラ基本情報」,「パワハラで悩んでいる方」,「管理職の方」,「人事担当の方」,「その他」,「相談窓口のご案内」,「Q&A」等から構成され,「動画で学ぶパワハラ」や「パワーハラスメントオンライン研修」もあり,非常に使いでのある,力の入ったサイトである(ただ,焦点を絞って検討しないと散漫になるが)。なお,これについては,次ページでサイトマップから飛べるようにした。

「パワハラ」問題の基礎知識

パワハラの定義と類型

職場においては,多種・多様な問題が生じる。「パワハラ」は,職場におけるある種の不適切な人間関係(言動)の切り取りと,それへの対応の問題である。

「パワハラ」は,次のように,定義としての3要素,典型的な6類型に整理されている。

パワハラの3要素

  • ①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  • ②業務の適性な範囲を超えて行われること
  • ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること,又は就業環境を害すること

パワハラの6類型

  • ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • ②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
  • ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害)
  • ⑤過小な要求(業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  • ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

新法案の内容

新法案は3要素を,「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③その雇用する労働者の就業環境が害されること」とし(少し気になるのは従前の整理から「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること」が消えたことである。「パワハラ」の本質的要素は「人格攻撃」であるとされるが,新法案からそれが読み取れるであろうか)。

そして、事業主は、「パワハラ」が生じないように「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」との事業者の義務が法定されたのである。

ただ新法案が成立してもその適用は大企業は2020年4月,中小企業は2022年4月からとされている。

問題の考え方

「パワハラ」の限定

私は,新法案が定義を設けて「パワハラ」を限定して対応しようとすることについては賛成である。「パワハラ」といわれることで,職場の人間関係が悪化し,生産性が著しく低下すること,なにより職場が楽しくなくなるような言動は,なくすのが良い。

激動する現代社会において,職場におけるコミュニケーションの確保が難しくなりつつあるのは客観的な事実であると考えるが,それに苛立つ上司が「パワハラ」領域に足を踏み入れることも多いであろうが,一方,上からものをいわれた経験が乏しい部下が,上司の対応を「パワハラ」であると弾劾することも増えている。そのような場合,「パワハラ」の具体的な定義がないと,「パワハラ」という単語だけが一人歩きしてすべてが「パワハラ」で括られてしまい(この現象も現代社会の大きな特徴だ),上司も「パワハラ」弾劾にどう対応していいか困惑する場面が増えている。

しかし,上記のとおり「パワハラ」は,職場において生じる不適切な人間関係(言動)のうち,優越的な関係に基づき,必要かつ相当な範囲を超える,労働者の就業環境が害される行為であるとされており,このように定義されると,上司も,部下も,会社も,当該言動がそれに該当するか否か,検討する「余裕」を持つことができ,具体的な対応を検討することができる。少なくても上司が何かを命令したり,叱責したりするだけで「パワハラ」かなあという,疑心暗鬼に陥らなくて済む。

「パワハラ」から漏れる行為

職場においては「パワハラ」の定義には該当しないが,民法上の不法行為には該当するような様々な不適切な行為が生じることが考えられるが,それは事業者が対応すべき「パワハラ」の問題ではないとしても,その多くは,事業者の安全配慮義務(労働契約法5条)や職場環境配慮義務(労働契約法3条)に関する問題として,事業者は対応しなければならないだろう。又いわゆる「逆パワハラ」ということがいわれるが,「(ある特別な知識等を有している)優越的な関係を背景とした言動」とした「パワハラ」として扱うのかどうかという問題がある。そのような事例も類型的に多くなりつつああることは事実だとしても,「パワハラ」とは別に扱うかう方が適切なケースが多いだろう。「パワハラ」とはこういうものだという共通認識が失われることは,適切なことではない。

問題の整理

そうすると,①民法上の不法行為に該当する「パワハラ」と(この場合は,行為者の不法行為による損害賠償責任や労災補償責任,事業者の安全配慮義務や職場環境整備義務に違反する賠償責任の問題が生じる),②該当しない「パワハラ」が考えられが,事業者は,両者について,新法案によって「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」。

また,③「パワハラ」には該当しないが民法上の不法行為に該当するものについては事業者の安全配慮義務や職場環境整備義務に違反する賠償責任の問題が生じるので,一般的なコンプライアンス上の対応をしなければならない。

④「パワハラ」にも民法上の不法行為にも該当しない行為については,毅然として対応する叡智も必要である。

実務的な対応

私はある企業のコンプライアンス委員会の委員長をしているが,委員会はこれまで,従業員からのコンプライアンス違反の通報への対応(調査,取締役会への助言・勧告)を主としていたが,パワハラ,セクハラ,マタハラ,育児・介護ハラ等の法定を契機に,現在,これらについての相談窓口としても機能させ,これに適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる仕組みを作る準備をしている。仕組みづくりができたら,モデルケースとして紹介したい。

ジュリストの特集「パワハラ予防の課題」について

その構成と内容

今回の特集は,下記①の座談会,及び②~⑤の論文から構成されている。

【特集】パワハラ予防の課題

■座談会

①現場から考えるパワハラとその予防 原 昌登/久保村俊哉/白井久明/杉浦ひとみ

■論文

②パワーハラスメントとは―労働法の見地から 著者:原 昌登

③スポーツ界のハラスメント問題―人間関係と団体のガバナンスにみる日米比較 著者:川井圭司

④学校現場におけるパワーハラスメント―子ども法の視点から「教育」を問い直す 著者: 横田光平

⑤パワーハラスメントとは―組織論の見地から 著者:太田 肇

①について

労働法学者,企業の担当者,スポーツ界のパワハラに関与している弁護士,学校現場におけるパワハラに関与している弁護士による座談会である。企業の担当者の逆パワハラの指摘がとても印象的だった。

職場における「パワハラ」これまでの記述によってかなりの情報がカバーされているが,予防のポイントとして,ⅰパワハラに当たるか否かイマジネーションを働かせること,ⅱ指導方法を学び共有すること,ⅲ外部の目が届く環境を作ること,ⅳ相談できる環境を作ること,ⅴ粘り強く研修を続けることなどが挙げられた事を「紹介しておく(このの整理は②の論文による。)。

その他について

②は要領よくまとめられている。①の座談会も含め,スポーツ界(③論文),学校現場におけるパワハラ(④論文)については,スポーツ界については,基本的には任意であること,学校現場は「優越的な関係を背景にした教育」の問題であることから,どう考えるべきか,直ちには考えがまとまっていない。⑤は「組織論の見地から」というが,いかにも視野が狭い気がする。機会があれば考察を深めたい。

Webサイト「あかるい職場応援団」のサイトマップに続く。

「問題解決と創造」を予習する

「問題解決と創造」を予習するための虎の巻

「問題解決と創造に向けて」は,徐々に内容が整いつつあるが,一方で次第に長大化しており,ある部分の記述,検討が,全体の中でどういう意味合いを持つのか,その位置付けが分からないことや,そもそも何を解決しようとしているのかが分からなくなることもある。そこで,そもそも 「問題解決と創造」では,どういうことが問題となるのか,何が分かっていればいいのか等々,あらかじめ全体を概観し,予習するための本を集めてみた(虎の巻というには,みんな立派な本だが,できるだけ日本人著者の本にした。)。

これらは,「問題解決と創造に向けて」における構成とは異なり,総論としての,「こころ・行動」,「思考・言語」,「勉強法・読書法」,「英語・数学」(ただしこれは人それぞれだろうから,省略する),各論としての「システム思考」,「行動分析学」,「世界の諸相」,「日本文化」,「AI」,「デジタルな世界」という構成にした。

ここで取り上げた本は,暫定的なものではあるが,私としては当面,いつも参照したいものなので,これらについては少し丁寧に「本の森」で紹介していくことにしたい。

一方で「思考・言語」で,「チョムスキーと言語脳科学」を取り上げながら,「行動分析学」に重要な位置付けを与えるのはどうかという人もいるだろうが,当面これで行きたい。又「日本文化」の「ヒト 異端のサルの1億年」は,最後の3章の「ホモ・サピエンスの起源」,「最後の漁撈採集民,日本人」,「ほほえみの力」が日本人の起源について興味深く,これと「漢文の素養」で日本文化を語ろうという無謀な試みだ。

「世界の諸相」や,「デジタルな世界」の考察は,やはりグローバルな視点がないと追いつけそうもない。日本人著者によるものはわずか一書になってしまった。 

本の紹介

こころ・行動

  • 「哲学入門」(著者:戸田山和久) (Amazonにリンク)(本の森)
  • 「「こころ」はいかにして生まれるのか」(著者:櫻井武)(Amazonにリンク)(本の森)

思考・言語

  • 「進化教育学入門 動物行動学から見た学習」(著者:小林朋道)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「チョムスキーと言語脳科学」(著者:酒井邦嘉)(Amazonにリンク)(本の森)

 勉強法・読書法

  • 「進化する勉強法:漢字学習から算数、英語、プログラミングまで」(著者:竹内龍人)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「「読む」技術~速読・精読・味読の力をつける~」(著者:石黒圭)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「国語読解・要約法」(著者:谷田貝常夫)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「読書は1冊のノートにまとめなさい[完全版] 」(著者:奥野宣之)(Amazonにリンク)(本の森)

英語・数学

 省略

システム思考

  • 「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方」(著者:枝廣淳子, 小田理一郎)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「もっと使いこなす!「システム思考」教本」(著者:枝廣淳子, 小田理一郎)(Amazonにリンク)(本の森)

行動分析学

  • 「行動分析学入門-ヒトの行動の思いがけない理由」(著者:杉山尚子)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「自由と尊厳を超えて」(著者:B/・・スキナー)(Beyond freedom and dignity by B.F.Skinner」(Amazonにリンク)(本の森)

世界の諸相

  • 「ありえない138億年史~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー」(著者: ウォルター・アルバレス)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「ビッグヒストリー入門」(著者:デヴィッド・クリスチャン)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「FACTFULLNESS」(著者:ハンス・ロスイング)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「2052~今後40年のグローバル予測」(著者:ヨルゲン・ランダース)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「巨大システム 失敗の本質―「組織の壊滅的失敗」を防ぐたった一つの方法」(著者:クリス・クリアフィールド, アンドラーシュ・ティルシック)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「50~いまの経済をつくったモノ」(著者:ティム・ハーフォード)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「遅刻してくれて,ありがとう~常識が通じない時代の生き方(上)」(著者:トーマス・フリードマン)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「遅刻してくれて,ありがとう~常識が通じない時代の生き方(下)」(著者:トーマス・フリードマン)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」(著者:ルイス・ダートネル)(Amazonにリンク)(本の森)

日本文化

  • 「ヒト 異端のサルの1億年」(著者:島泰三)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「漢文の素養~誰が日本文化をつくったのか?~」(著者:加藤徹)(Amazonにリンク)(本の森)

 AI

  • 「未来IT図解~これからのAIビジネス」(著者:谷田部 卓)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン 機械学習・統計学・アルゴリズムをやさしく解説」(著者:梅田弘之)(Amazonにリンク)(本の森)

デジタルな世界

  • 「アフターデジタル~オフラインのない時代に生き残る」(著者:藤井保文)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか 労働力余剰と人類の富」(著者:ライアン・エイヴェント)(Amazonにリンク)(本の森)
  • 「デジタル・エイプ~テクノロジーは人間をこう変えていく」(著者:ナイジェル シャドボルト,ロジャー ハンプソン)(Amazonにリンク)(本の森)

 

手入れしよう

このWebについて大分手入れしたのでその報告をし,併せて身の回りの手入れすべき何点かのことを検討しておこう。

このWeb(ワードプレス)の手入れ

Webの作成は,とにかく記事の作成を優先することになるが,なんせ今の私は,「法と弁護士業務」と「問題解決と創造」の両方に足をのせ,万巻の書を読み、万里の道を行って記事を作成しようとしているので,なかなか体裁まで頭が回らない。

そうこうしている間に,体裁問題が山積みしてきたので,この数日で何とか手入れをした。

次のような問題があった。

①見出しの体裁5段階を(文字の大きさ,色,冒頭からの空け幅等)を,追加CSSでカスタマイズする。

②テーマでカスタマイズされていたリンクの下線を復活させる。

③投稿だけにあった次ページで「続きを読むという」機能を,固定ページも含めて「<!–nextpage–>というタグ」を使って,両方で1,2ページの表示とする。これに伴い,「分野別法律問題」の記事(本文と詳細目次)を一つの固定ページとし,詳細目次を2ページ目に掲載する(「契約法務」だけ試行してみた。)。投稿も,詳細目次は,2ページ目に掲載する。

④上部のメニューの「ブログ山ある日々」は固定ページなので,ここでワンクリックで,すべての投稿記事を見られるようにする。

⑤各記事について,ある部分を修正するたびに,不整合な点が生じていた。

これについては,大体手入れができたと思う。

ただもう一つ,いつの間にか,

⑥(多分,ワードプレスの仕様変更で)PDFが読めない

という問題が生じていた。私が資料として引用しているPDFに目を通すことはめったにないので,今まで気が付かなかった。早急に対応しよう。

ワードプレスの手入れについては,次のような記事を作成している。

改めて思うのだが,この類の問題の最大の難点は,手を入れようと思うと,必要な知識は雲散霧消し,いつもほぼスタート時点に立ち返ってしまうということである。今後の,デジタル時代でこれはかなり本質的な問題である。

「エコー」と「Kindle Fire 10」を手入れしよう

大分前に「エコー」を買ったが,孫と一緒に「アレクサ モアナの曲をかけて」と呼びかけるぐらいにしか使っていない。最近,「Kindle Fire 10」のOSがアップデートされて「「Alexa」の呼びかけで使えるハンズフリーモードのほか、Fire HD 10をEcho Showのように使える「Show Mode」にも対応」するようになったとのことなのだが,私の近くにある,「エコー」と「Kindle Fire 10」は,私の「アレクサ」の呼びかけにどちらがどう対応しているのか,と「Kindle Fire 10」にでる表示は何なのか,今は混乱していて見極め難いので,この連休にでも整理しよう。そのほかに,ブルーt-ス利用の,キーボード,イヤホン,超廉価版スマートウオッチ,Kindle Paper Whiteを英語使用にして,何とかモードを使うという課題もある。

R本の手入れ

どこかで書いたように,私は事務所移転の際に,R本の大半は寄付したので,現在自宅にあるのは,千数百冊の積読本だ。これを「私本管理」で整理し,「問題解決と創造」に使えるようにしよう。これも連休だ。

家庭菜園の手入れ

庭の家庭菜園に野菜の種をまいて収穫し,花を植えて愛で,毎日,水を撒くのはとても楽しい。しかし,いつまでも孫と一緒に,はなさかじいさんのように種を撒くのはいかがなものか。もう少し進歩したい。

カラダとアタマの手入れ

絶えず少しでも体を動かし,手入れすることがもっとも重要だ。何とか朝RUNを定着させたいのと,ほんの少しでいいから,折に触れてストレッチ系の動きをすることを定着させることが大切なようだ。

アタマの手入れは,散歩し,山に行き,自然を愛でて,情動を整えることに尽きる。いろいろやることがあってストレスになるのはよくないかなあ。そういえば先週の日曜日(2019/4/14)は,孫を引き連れ,山下公園(チューリップ),大桟橋(大型客船の入港),山下公園(フラワーフェスティバル?),人形の家と回り,リフレッシュした。山男の影いずこ。

一番大事な手入れ

あれこれ手入れすべきことを思い浮かべたが,一番大事なことが抜けていた。

一番大事なことは,「法を問題解決と創造に活かす」ための,私自身の仕事についての手入れだし,このWebでいえば,「新しい法律問題」と「法を問題解決と創造に活かす」及び「分野別法律問題」の作成・充実である。後者はこのWebの体裁に大分手を入れることができたので,そろそろ真正面から取り組まなくては…。永遠の助走では困るなあ。

日本のAIビジネスはどうなるのだろうか

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告4

 

AIビジネスに関する和書5冊

はじめに

日本のAIビジネスは今後どうなるのか,日本でAIビジネスを創造しようとする仕事に関わり,その意気込みやアドバイスを述べている和書を5冊紹介する(なお,「デジタル・トランスフォーメーションをめぐって」参照)。これらは,2019年4月15日の段階で私の目に入ったKindle本だけであり,関連する本は,R本も含めるともっと膨大であろう。

  • ①「未来IT図解 これからのITビジネス」(著者:谷田部卓)(未購入)
  • ②「いまこそ知りたいAIビジネス」(著者:石角友愛)(Amazonにリンク
  • ③「AIをビジネスに実装する方法 「ディープラーニング」が利益を創出する」(著者:岡田陽介)(Amazonにリンク
  • ④「問題解決とサービス実践のためのAIプロジェクト実践読本 第4次産業革命時代のビジネスと開発の進め方」(著者:山本大祐)(未購入)
  • ⑤「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」(著者:藤井 保文, 尾原 和啓)(Amazonにリンク

ここでは,すでに購入済み②③⑤の3冊について簡単に紹介しよう。いずれもシリコンバレーを経験する若い世代が書いた本であり,おじいさんはもとより,おじさんも置いてきぼりされる寂しさを抱くだろう。でもこの道はいつか来た道…概して人間そのものに関する考察が不十分なので,内容はどうしても微視的で一本調子だ。私たちが物事を俯瞰する知恵を持ち,改めて学ぼうという意識を持てば充分に対応できる。ただし⑤は大分趣きが違う。後述しよう。

「いまこそ知りたいAIビジネス」を読む

「いまこそ知りたいAIビジネス」(著者:石角友愛)Amazonにリンク

出版社等による紹介

本書は,私たちの仕事にAIがどのようにかかわってくるかを知りたい一般ビジネスパーソンや学生の皆さん,そして,実際にAI導入を考えている経営者や事業担当者の方にむけて書かれた,いわばAIビジネスの入門書です。

具体的には,「そもそもAIとは何なのか」から,「世界の最新AIビジネスではどんなことが起きているのか」「実際に自社にAI導入を考える際にはどんなステップを踏めばよいか」「今後のAIビジネスの課題とは何か」,そして,「AI時代に求められる人材とキャリア形成のあり方」といったことまで,文系ビジネスパーソンでもわかる平易な言葉で解説していきます。

平易な入門書といっても,著者はシリコンバレーを拠点に活躍する,AIビジネスデザインカンパニーの経営者。AI技術を使って企業の課題を解決するビジネスを展開しており,紹介される事例はいずれも最新,最先端のもの。実際にAIビジネスにかかわっている方や,エンジニア,データサイエンティストにも一読の価値ありの内容です。

覚書

「ハーバードでMBA取得,米グーグル本社勤務を経て,現在はシリコンバレーを拠点にAIビジネスデザイン企業を経営する著者が教える」 といわれると引いてしまうが,内容は,「AIビジネスの最新事情と「あたらしい働き方」」について,様々な問題に目配りしながら分かりやすく記述する,万人向け,一般企業向け入門書である。

第1章から第6章前半まではそのようなものとして読むとして,私が惹かれたのは,第6章の後半だ。すこし引用してみよう。

①「AI時代に生き残れる人,生き残れない人」から

アメリカで「CBO」という役職が生まれたが,CBOとは,技術コミュニティとビジネスコミュニティの架け橋となり,心理学や行動科学の知見を生かして会社のマーケティング戦略を考える役割の人を指す。2015年創業のスタートアップのニューヨークを拠点に活動しているレモネードという損害保険会社がある。この保険会社になぜ投資が集中しているかというと,人の行動を理解する意思決定論や行動経済学の研究を取り入れ,保険業界に画期的なイノベーションを起こしたからである。AIを徹底的に活用して人的コストを最小限に抑える代わりに,レモネードが投資しているのが,行動経済学に基づいた研究と,それを生かし生かしたモチベーション構築の仕組みである。レモネードは,デューク大学の心理学教授であるダン・アリエリー教授をCBOに迎え,保険会社と顧客の利害対立をなくすビジネスモデルを提唱し,『ソーシャルインシュランス(社会的な保険)』というコンセプトを生み出した。

これからのAI時代は,先ほどのレモネードの例のように,今あるものを組み合わせて,今までになかったものを生み出す力が求められる。今,アメリカで主流になりつつあるのは,AIバイリンガルを育てる教育だスタンフォード大学と並んで,コンピュータサイエンスの分野で世界1,2位を争う実績を持つカーネギーメロン大学のリベラルアーツ学部ではコンピュータサイエンス学部の学生も,リベラルアーツ学部の学生と同じクラスで哲学などの授業を取り,哲学部の生徒が解析授業を取る。たとえば,文学部では,「人文学解析」というクラスがあり,そのクラスではフランシス・ベーコン(哲学者)を中心とした近世イングランド地方の歴史上の人物がどうつながっていたかを表したデジタルソーシャルグラフを作ったりするという。これは歴史上の文学や調査などに基づいた情報を,ビジュアライゼーション技術を使ってツールにする,真のAIバイリンガルのスキルがないと作れない。

②「私たちはこれから何を学べばよいか」から

ムーク(MOOC=Massive open online course)という,インターネット上で大学の講義が受講できるシステムがある。AI時代になったときに,仕事を見つけることができるかどうかは,今後自分にどれだけ「リスキル」の投資ができるかにかかっている といえるだろう。日本でもリカレント教育の重要性が言われている。日本には終身雇用制度があるので,これまでは逃げ切りできるかもしれないといわれていた 40 代, 50 代の人たちも,これからは何らかの技術を身につけなければ100年時代を生き残れないといわれている。今後,日本でも意欲の高い層は自分で英語のムーク授業を受けどんどんキャリアアップしていくだろう。会社がフォーカスしなければいけないのは,意欲はあるが情報が足りない層,英語で学ぶことに抵抗がある層だ。ペラペラでなくてもいい。英語ができるだけで世界は何十倍,何百倍に広がるし,取得できる情報量が劇的に増える。

目次

第1章 ここがヘンだよ,日本のAIビジネス

第2章 AIビジネスの最先端を見てみよう

第3章 AIを導入したい企業がすべきこと

第4章 AIビジネスの課題とは

第5章 AI人材とこれからの日本

第6章 AI時代における私たちの働き方

詳細目次にリンク

「AIをビジネスに実装する方法」を読む

「AIをビジネスに実装する方法 「ディープラーニング」が利益を創出する」(著者:岡田陽介)Amazonにリンク

出版社等による紹介

もはや「AI(人工知能)を試験的に導入してみよう」という時代は過ぎ,様々な企業が,現実のビジネスにAIやディープラーニング技術を活かした事業展開を行っている。

そうした動きは決して製造業やハイテク企業に限ったことではなく,小売・流通業や物流などなど,業界や業種を問わず急速に広がっている。

本書は,設立わずか6年で,国内企業数社でのAI導入支援の実績をもち,ディープラーニングが成果を出し始めた2012年から,いち早く同技術に注目してきたITベンチャーであるABEJA(アベジャ)の経営トップが自ら語る「AIのビジネスへの実装の具体的方法」。

AI・ディープラーニングをどう現実のビジネスに活かせばいいのか? 基本的なしくみから,実装・運用の成功要件,最新事例までを,文系ビジネスマンでも理解できるように,わかりやすく解説する。

覚書

2018年10月10日発行。この本は,非常に正直な本だと思う。「設立わずか6年で,国内企業数社でのAI導入支援の実績」という件が,そんなもん?という感想を抱かせるし,第5章で紹介されている「AIを導入した企業のビフォー& アフター」(ICI石井スポーツ,パルコ,武蔵精密工業,コマツ」の事例や,「画像,音声,テキストが新しいビジネスを生む」もびっくりしない。

第4章までのAI(機会学習)の基本的な説明と相まって,敷居の低い,手堅く正直な本といえるだろう。

目次

1章 なぜ、いまだにAI導入を躊躇するのか

2章 ネコでもわかるディープラーニングの原理

3章 AIの導入前に知っておきたいこと

4章 データ取得から学習、デプロイ、運用まで ~AI導入のプロセスを知る~

5章 AIを導入した企業のビフォー&アフター

6章 画像、音声、テキストが新しいビジネスを生む

7章 レバレッジ・ポイントにAIの力を注ぎ込む

詳細目次にリンク

「アフターデジタル」を読む

「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」(著者:藤井 保文, 尾原 和啓)Amazonにリンク

出版社等による紹介

現在,多くの日本企業は「デジタルテクノロジー」に取り組んでいますが,そのアプローチは「オフラインを軸にしてオンラインを活用する」ではないでしょうか。

世界的なトップランナーは,そのようなアプローチを採っていません。

まず,来るべき未来を考えたとき,「すべてがオンラインになる」と捉えています。考えて見れば,モバイル決済などが主流となれば,すべての購買行動はオンライン化され,個人を特定するIDにひも付きます。IoTやカメラをはじめとする様々なセンサーが実世界に置かれると,人のあらゆる行動がオンラインデータ化します。つまり,オフラインはもう存在しなくなるとさえ言えるのです。

そう考えると,「オフラインを軸にオンラインをアドオンするというアプローチは間違っている」とさえ言えるでしょう。筆者らはオフラインがなくなる世界を「アフターデジタル」と呼んでいます。その世界を理解し,その世界で生き残る術を本書で解説しています。

デジタル担当者はもちろんのこと,未来を拓く,すべてのビジネスパーソンに読んでほしい1冊です。

覚書

この本は,上海で仕事をしている藤井保文さんと,「ITビジネスの原理」や「ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?」の著者がある尾原和啓さんんが,驚異的な進歩を遂げつつある中国のIT・AIの「すべてがオンラインになる」現状を材料として,「アフターデジタル」を論じたものである。

とりあえずの対象は消費行動ではあるのだが,「アフターデジタル」においては,人の行動や社会のあり方が大幅に変わるということも議論しており,「デジタルエコノミーはいかにして道を誤る-労働力余剰と人類の富」(著者:ライアン・エイヴェント)との関係も含めて,少し時間をかけて取り組みたい。

目次

第1章 知らずには生き残れない,デジタル化する世界の本質

第2章 アフターデジタル時代のOMO型ビジネス~必要な視点転換~

第3章 アフターデジタル事例による思考訓練

第4章 アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革

詳細目次にリンク

 

詳細目次に続く

 

AI問題を考える

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告3

 

この投稿は,固定ページ「世界:複雑な問題群」「世界の続き:AI問題」の記事の前半部分を投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「世界の続き:AI問題」をご覧ください。

 

「世界:複雑な問題群」各論の続き

AI問題

<コメント>

この項目では「AIをめぐる諸問題」(PC・IT技法も含めて「AI」と呼称する)について,「AIとは何か」,「AIにできることとその限界」,「AIがもたらすもの」,「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」,「AI本を読む」に項目立てして考察する。

このうち「AIの限界」については,人の知能との差異(フレーム問題,表象・自然言語)と,帰納推論・指数爆発の観点から考察しよう。

「AIのもたらすもの」は「仕事の変容」「世界(社会・経済)の変容」,「企業・政府,及び個人の生活の変容」に分けて検討してみよう。

「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」には,2020年2月末までに執筆する予定の原稿に併せて(「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告1」参照),その準備となる記事を掲載していく。

<この項目に関連する記事>

このWebでAIに関連する記事を掲載する(作成中)。

AIとは何か 作成中

AIにできることとその限界

<コメント>

PCにできることは,データを入力し,計算。推論し,出力することである。PCを人間の知能に近づけようというのがもともとものAIという試みだが,人間の知能のメカニズムはほとんど解明(再現)されておらず,PCによる計算・推論では当面近似すらできそうもない問題(フレーム問題,表象・自然言語の意味等)がある(限界1)。

一方,計算・推論のある領域では,PCは最初から人間の知能をはるかに凌駕している。特に,最近のPCは,扱えるデータの量や質,計算の能力や方法に大きな進歩があり,従前,人間の知能の領域と理解されていた領域でもPCによる計算・推論が優越する場面が多く登場している。それをAIと呼称することも多い。ただし,この場面ではその方法の多くが帰納推論であること,指数爆発を招く方法が多いこと等からの限界もある(限界2)。

<検討すべき何冊かの本>

作成中

<この項目に関連する記事>

作成中

AIがもたらすもの

<コメント>

「AIがもたらすもの」を,①「仕事の変容」,②「世界(社会・経済)の変容」,③「企業・政府,及び個人の生活の変容」に分けて検討してみよう。ただし,これはその主張が,「AIにできることとその限界」を踏まえての議論か,少なくてもそれを乗り越えようとしているか否かで,私の評価は大きく異なる。

・①「仕事の変容」について

①「仕事の変容」の問題は,ある意味で簡単なことである。現在,あるいは近未来に,PC(AI)ができるような仕事は,採算ベースに乗る限り,人からAIに置き換わるということである。

現在,私たちがしている仕事を,固定頭脳型(デスクワーク,対応等),移動頭脳身体型(多くの現場の仕事)に大別すると,前者のうちの計算や単純に自然言語を使用する仕事(単純型)は,早晩,AIに置き換わるであろう。複雑に自然言語を使用する仕事(複雑型)も,AIに追いかけられるだろう。ただフレームの選択,決断はAIには難しい。弁護士の仕事は,両者を含むが,日本の弁護士の仕事は複雑型も多いし,フレームの選択,決断に関わる部分も多いので,すぐにはなくならない(だろう)。

生命に基づく人間の身体機能をAIが代替するのは困難であるから,移動頭脳身体型は,当面なくなる見通しはないであろう。

・②「世界(社会・経済)の変容」,③「企業・政府,及び個人の生活の変容」について

②はマクロ問題,③はミクロ問題といえるが,一見,③の議論が多そうだが,②の方がまともな議論が熱心に行われている。ただしこれは極めて「複雑な問題」であるから,真偽の見極めは困難である。③は,その性質上,偶然が支配する部分が多く,「結果的」以上のことがいえるかどうか。じっくり考えていこう。

<検討すべき何冊かの本>

検討中

<この項目に関連する記事>

検討中

「「AIと弁護士業務」の執筆状況報告」

先日,ある法律雑誌から,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについて原稿の執筆依頼を受けた。私は「AIと弁護士業務」について昔から興味は持ち,このWebで目についた本や催しを取り上げ,その時々,感想を述べている。ただ,網羅的,かつ学問的な内容の原稿はどうもねとも思ったのだが,「それならちょうどよい,締め切りは2020年の2月末なので充分に時間はある」といわれ,その気になってしまった。

ただし酔生夢死のまま,2020年の2月を迎える危険性も大いにあるので。折に触れて原稿の構想,調査,執筆等々の進捗状況を記事にしていけば,何がしかの役に立つだろうと思い立ち,随時「執筆状況報告」を書き,ここにリンクさせることにする。

<執筆状況報告>

いてみたすることにした。まず「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについての分析視角をこわごわと言葉にしてみよう。

AI本を読む

まずホットなテーマである「AIがもたらすもの」に関係する本を紹介し,その上で,AIの基礎となる「基礎」と「技法」,更に「法律家のAI論」を紹介しよう。「技法」に掲載した本と「PC・IT・AI技法」に掲載した本,「法律家のAI論」と「IT・AI法務」に掲載した本はほとんど重なっていると思うが,その関係は追って調整する。

以下,私の手元にある本の紹介だが,省略する。

AIと法・再考

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告2

 

この投稿は,固定ページ「AIと法」の記事を大幅に改定したので,投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の内容は,固定ページ「AIと法」をご覧ください。

「AIと法」を考える

「AIと法」の問題の所在

3層の問題

「AIと法」という問題を考えるとき,次の3つの層の問題が考えられる。

Ⅰ まず,IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらす(ことができる)かという問題である。

Ⅱ 次に,①AIが将来,実用的なレベルに成熟して社会に浸透した場合に,どのような法律問題が生じるのか,②現在のITは「AI以前」であるとしても,実際は現在のIT・AIに生じている法律問題を解決するさえ困難なのではないか ,という問題である。

Ⅲ 最後に,法律に関連する業務で,IT・AIを使いこなすためにはどうすればいいのかという問題である。

検討

キラキラした魅力を発しているのは,もちろん,Ⅰである。対象には司法(裁判)のみならず,立法手法や行政過程も含まれるし,更には任意のルールや社会規範も含まれるであろう。私が今後考え,追い詰めていきたいのも,もちろんⅠである。これについては,「AIと法」のメインテーマとして今後「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」(作成中)において,集中的に検討し,論考を掲載していきたい

法律家はⅡ①を論じるのが好きだが,これはあくまで仮想の問題である。Ⅱ②について,現に頻発しているシステム開発やネットトラブルをめぐる紛争に,司法システムはきちんと対応できているだろうか。Ⅱについては「IT・AI法務IT・AI法務」で ,基本的な検討をする。

Ⅲは,法律家の「仕事の仕方」-生産性,効率性-の問題である。本項目は,「弁護士の仕事を知る」の下位項目であるから,対象を専ら弁護士業務に絞ってここで検討しよう。

その前提として,上記ⅠないしⅢを貫く「AIと法」の最も基本的な問題を,「AIに期待すること・しないこと」として指摘しておきたい。

AIに期待すること・しないこと

AIに期待すること

「私は,現時点で,(少なくても我が国の)法律家がする業務には大きな二つの問題があると考えている。ひとつは,法律が自然言語によるルール設定であることから,①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや,②適用範囲(解釈)に関する法的推論について,これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったこと。ふたつめは,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においても,ベイズ確率や統計等の科学的手法がとられていなかったことである」と指摘し,これを変える「方向性を支えるのがIT・AIだとは思うが,まだ具体的なテクノロジーというより,IT・AIで用いられる論理,言語,数学(統計)を検討する段階にとどまっているようだ。前に行こう。」と書いた(「プロフェッショナルの未来」を読む)。

「そしてこれが実現できれば,「法律の「本来的性質」が命令であろうと合意であろうと,また「国家」(立法,行政,司法)がどのような振舞いをしようと,上記の観点からクリアな分析をして適切に対応できれば,依頼者に役立つ「専門知識」の提供ができると思う。」」とも考えているのである。

イギリスでの議論

「プロフェッショナルの未来」の著者:リチャード・サスカインドには,「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future 」(by Richard Susskind)があり,これは,上述書の対象を法曹に絞り,さらに詳細に論じているようだ。

これに関連するKindle本を検索していて「Artificial Intelligence and Legal Analytics: New Tools for Law Practice in the Digital Age」(by Kevin D. Ashley)を見つけた。でたばかりの新しい本である。そしてその中に(1.5),内容の紹介として次のような記述があった。なお二人ともイギリスの人である。

Readers will find answers to those questions(How can text analytic tools and techniques extract the semantic information necessary for AR and how can that information be applied to achieve cognitive computing?) in the three parts of this book.

Part Ⅰ introduces more CMLRs developed in the AI&Law field. lt illustrates research programs that model various legal processes:reasoning with legal statutes and with legal cases,predicting outcomes of legal disputes,integrating reasoning with legal rules cases,and underlying values,and making legal arguments.These CMLRs did not deal directly with legal texts,but text analytics could change that in the near future.

Part Ⅱ examines recently developed techniques for extracting conceptual information automatically from legal texts. It explains selected tools for processing some aspects of the semantics or meanings of legal texts,induding: representing legal concepts in ontologies and type systems,helping legal information retrieval systems take meanings into account,applying ML to legal texts,and extracting semantic information automatically from statutes and legal decisions.

Part Ⅲ explores how the new text processing tools can connect the CMLRs,and their techniques for representing legal knowledge,directly to legal texts and create a new generation of legal applications. lt presents means for achieving more robust conceptual legal information retrieval that takes into account argument-related information extracted from legal texts. These techniques whihe enable some of the CMLRs Part Ⅰ to deal directly with legal digital document technologies and to reason directly from legal texts in order to assist humans in predicting and justifying legal outcomes.

Taken together, the three parts of this book are effectively a handbook on the science of integrating the AI&Law domain’s top-down focus on representing and using semantic legal knowledge and the bottom-up,data-driven and often domainagnostic evolution of computer technology and IT.

このように紹介されたこの本の内容と,私が「AIに期待すること」がどこまで重なっているのか,しばらく,この本を読み込んでみようと思う。

AIに期待しないこと

実をいうと,「IT・AIの発展が,法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらすか?」という質問に答えれば,今後,我が国の法律実務の現状を踏まえ,これに対応するために画期的なAI技法が開発される可能性はほとんどないだろう。我が国の法律ビジネスの市場は狭いし,そもそも世界の中で日本語の市場自体狭い。開発のインセンティブもないし,開発主体も存在しない。ただ,英語圏で画期的な自然言語処理,事実推論についての技法が開発され,それが移植できるこのであれば,それはまさに私が上記したような,法律分野におけるクリアな分析と対応に応用できるのではないかと夢想している。

したがって当面我が国の弁護士がなすべきことは,AIに期待し,怯えることではない。今の時代は誰でも,自分の生活や仕事に,PC(スマホを含む)・IT・AIの技法を活かしている。弁護士も,仕事に役立つPC・IT・AI技法を習得して,業務の生産性と効率性の向上に力を注ぐことが大切ではないだろうか。それをしないと,弁護士の仕事をAIに奪われるのではなく,他の国際レベルで不採算の業種もろとも,自壊していくのではないかと,私には危惧されるのである。

弁護士の仕事とPC・IT・AI技法

以下,弁護士の仕事の限りで,役に立つPC・IT・AI技法を簡単に紹介する。ただし,現状の略述であって将来を見越したものではない。その前に,私の「IT前史」を振り返っておこう。

私が2004年に考えていたこと

私は,弁護士会の委員会でITを担当していた2004年に「ITが弁護士業務にもたらす影響」という論考を作成している(2004年に私が考えていた「ITが弁護士業務にもたらす影響」参照)。

その中で「デジタル化して収集した生情報(注:事実情報),法情報を,弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理,思考,判断し,結論を表現することを可能とするツールの開発が急務である。例えば,弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(弁論要旨や最終準備書面)を作成するとき,必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり,しかもなお不十分だと感じることはよくあるのではないだろうか。あるいは供述の変遷を辿ったり,証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したいこともある。このような作業(の一部)は,パソコンの得意な分野である。また少なくても,当方と相手方の主張,証拠,関連する判例,文献等をデジタル情報として集約し,これらを常時参照し,コピー&ベイストしながら,書面を作成することは有益であるし,快感さえ伴う。これらの書面作成をいつまでも手作業ですることは質的にも問題であるし,実際これまで弁護士は忸怩たる思いを抱えながらこれらの作業をこなしていたのではなかろうか。目指すは,当面は進化したワードプロセッサー,データプロセッサーのイメージであるが,データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」があることも充分にあり得る。これらのの開発には,練達の弁護士の経験知をモデル化する必要があり,弁護士会がすすんで開発に取り組む必要があろう。」と指摘している。今振り返るとこれこそ,弁護士業務におけるAIの活用そのものであるが,これは,当分,実現される見通しはない。

私が2017年に考えていたこと

その後,2012年に画像認識に劇的な変化があったが私はそんなことも知らず,だんだん世間がAIについて騒ぎ出した2017年9月になって「弁護士として「AIと法」に踏み出す」を作成している。

そこでは,①「これからは,AIやIoTの中味に少しでも立ち入ってソフトやハードに触れながら,これを継続して使いこなすのが大事だと思う。傍観し批評する「初心者消費者」から,これを使いこなす「主体的消費者」へ大変身」が必要であること,②「弁護士と「AIと法」との関わりは,怒濤のように進展するであろうAIやIoTの開発,製作,販売,提供,利用等をいかなるルールの上に載せて行うかという,自ずから国際的な規模とならざるを得ない立法,法令適用,契約,情報保護,及び紛争処理等の問題である。我が国での現時点での弁護士の取り組みは,今の法令ではこうなる,こうなりそうだという程度であるが,それでは法的需要は支えきれない。AIに「主体的」に係わり,弁護士としての仕事をしていく必要がある」ことを指摘している。

これは正しいが,②の方はまったく進展していない。我が国のAIやIoTの開発レベルは,外国の技術の導入に追われ,そのような需要をさほど多くは生み出していないのかもしれない。

主体的消費者としてPC・IT・AI技法を使う

AIする前に

AIが,コンピュータやインターネットの技術的進展とデータ量の増加を背景に,従前の機械学習(プログラミング)にディープラーニングの手法を組み込んだ情報処理技術の最前線だとすれば,AIに心をとらわれる前に,今あるコンピュータ,インターネット,プログラミングに基づくIT技法を使いこなすことが,弁護士がAIにつき進むための前提である(「AIする」(あいする)はギャグです)。

重要な法律関連情報の収集

弁護士が業務でする情報処理のうち,当面,もっとも重要なのは,法律関係情報の収集分析である。これについては,何種類かの,判例,法令,法律雑誌の検索システムが提供されている。私は,「判例秘書」を使っている。

通常,判例検索システムには掲載している雑誌に含まれる以外の論文等は掲載されていないので,補足のため「法律判例文献情報」を使っている。ただ,これは単に文献の名称や所在が分かるだけで,文献がオンラインで見れるわけではない。法律のきちんとしたコンメンタールが,ネットで検索等で利用できれば便利だろうが,今のところ限られたものしかないようである。私は,パソコン版の「注釈民法」は利用しているが,民法改正でどうなることやら。

ところでアメリカのレクシスネクシスが開発中の「Legal Advance Reserch」のデモを見たことがあるが,州によって法律が違うこともあって,法令,裁判例,陪審例,論文,関連事実等,膨大になる事実を収集し,一気に検索,分析,可視化できるデータベースとのことである。これまでアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしていたリサーチの作業時間が一気に減り,弁護士のタイムチャージの減少(いや,弁護士の仕事の生産性の向上,効率化)とクライアントの経費削減が実現しつつあるようである。ついでにいうと,同じくアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしてすることで依頼者の大きな負担になっているe-ディスカバリーも,AI導入で,これもタイムチャージの大幅な減少がはかられつつあるとのことである。我が国において「リーガルテック」とか「レガテック」とかをいう人がいるが,やがて多くの工夫に支えられてその方向に行くとは思うが,現状では単なる「商売」以上とは思えない。

判例,法令,文献検索以外の技法

そこで前項の重要な法律関連情報(判例,法令,文献等)の収集以外で,今行われている弁護士業務を支えるIT技法を集めている本「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」,「法律家のためのスマートフォン活用術」を紹介する。いずれも私が昔所属していた「日本弁護士会連合会 弁護士業務改革委員会」の編著だ。

そのほかに,税理士さんがIT技法を駆使している「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)(Amazonにリンク)も役立ちそうなので紹介しておく。

それともともと裁判所がワープロ「一太郎」を使っていたことから,私もワープロというより清書ソフトとして「一太郎」を使っていた。Wordには不慣れなので,いろいろと勝手なことをされて「頭に血が上る」ことが多い。そこで「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」(Amazonにリンク)と,「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)(Amazonにリンク)を紹介しておく。「頭に血が上る」のは,私だけではない。

普通の仕事では,Excelも重要だろうが,弁護士業務ではそんなには使わない。

  • 「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」
  • 「法律家のためのスマートフォン活用術」
  • 「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)
  • 「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」
  • 「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)

ここで紹介した5冊については「仕事に役立つIT実務書」として「詳細目次」を作成したので,それを見て必要な項目を参照すればいいだろう。

再掲-ここに欠けているもの

これらに決定的に欠けているものは上記したとおりであり,「法律が自然言語によるルール設定であることについて科学的な検討や,証拠から合理的に事実を推論する事実認定においてベイズ確率や統計等の科学的手法」が取り込まれた「人工知能」や,「進化したワードプロセッサー,データプロセッサー」」の実現の見通しもないというのが現状である。

でも何が起こるかは分かりませんよね。今後,「AIと法」について,「問題解決と創造に向けて」「世界:複雑な問題群」の「AI問題」に,新しい情報,新しい考え方を集積していきたい。

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告

原稿を執筆する

先日ある法律雑誌から,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについて原稿の執筆依頼を受けた。私は「AIと弁護士業務」について昔から興味はもっているが,このWebでは目についた本や催しを取り上げて,その時々,感想を述べているだけで,網羅的,かつ学問的な内容の原稿はどうもと思ったのだが,「それならちょうどよい,締め切りは来年の2月末なので充分に時間はある」といわれ,その気になってしまった。

考えてみればこのWebのPC・IT・AI関係の記事についても,「あれをやろう,これを書こう」とそのままになっていることも多いので,「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」いうことに焦点を当て,時間をかけてあれこれつぶしていくのも面白いだろうと思いはじめた。私は百名山登山のように「つぶしていく」のが好きだし,頭が整理できると気持ちがよい。

もっとも締め切りが近づいてくると焦るかもしれないが。それはそのときだ。

ただ酔生夢死のまま,来年の2月を迎える危険性も大いにあるので。折に触れて原稿の構想,調査,執筆等々の進捗状況を記事にしていけば,何がしかの役に立つだろうと思い立ち,第1回目の「執筆状況報告」をすることにした。まず「AIが進展する中で弁護士業務はどうなるのか」というテーマについての分析視角をこわごわと言葉にしてみよう。

問題の分析視角

AIとは何か-AIは仕事に何をもたらすのか

まずAIとは何かを,イメージや自然言語だけではなく,PC,IT,AIの技術的基礎を踏まえてしっかりと把握すること,そしてAIが仕事-人や組織の思考と行動-に何をもたらすことができるかを「進化的適応」,行動科学,脳科学,複雑系科学等を踏まえて理解することが必要だろう。ここまでは助走である。

さてAIの開発は現在「驀進中」だし,人によってとらえ方も様々だが,私はPC,IT技法の進化系であるととらえたいと思っている。そのようにとらえたとき,AI技法は,人びとの仕事(ここでは知的作業を問題にする)にどのような変革をもたらすことができるのか(ここは,「デジタルトランスフォーメーション」の議論が関係する(このサイト上の記事にリンク)。

システム思考に関連して,カネヴィンフレームワークという複雑な問題群の捉え方があり,問題の因果関係に着目して,単純系,煩雑系,複合系,カオス系に類型化する。これを前提とすると,AIは煩雑系,複合系についての因果関係を整理,予測して,これに関わる仕事をかえることができるだろう。

ただAIを待っていれば天から何かが降ってくるわけではなく,自分から呼び込み,使いこんで仕事の現実(非生産性)を変えて行く気持ちが必要だろう。実は現状のPC・IT技法でも,単純系,煩雑系ではできることはたくさんあるのに,できていないというのが実際だろう。

弁護士業務のモデル化とAI

弁護士業務を個別的な作業(調べ,考え,読み,書く)に分解してみると,知的作業としてさほど特異なものではない。したがって,外国では弁護士はAIで淘汰されるであろうという議論も多いが,その具体的な内容に着目すると,法を「解釈」し,事実を認定し(法的推論である),人を説得するという一連の行為は,当面は,AIに置き換えがたいものが多い。一方,調べ,考え,読み,書くという個別的な作業そのものについては,AIの活用により劇的に変革される可能性が大きいだろう。

AIによる,政府と弁護士業務の変容

以上は割と無難な議論だが,問題はAIが予想もつかない形で社会のあり方を変え,それが政府の「法に基づく支配」や,弁護士の役割を変容させる可能性も大きいと思われることである。

弁護士がAIによってブラシュアップして待っていても,いつしか弁護士業務への需要が低下するということも大いにあり得るだろう。ただよりよい「ルール」を現実化し,事実を推論するという能力は,社会にとって必須と思われるので,弁護士業務の内容は変容しつつ,弁護士という仕事は残るかもしれない。

あれこれ第1案として考えてみた。

PC,IT,AIの技術的基礎の本

上記とは関係ないのだが,Kindle本が安くなっていたので最近買ったPC,IT,AIの技術的基礎の本を,備忘のため掲記しておく。

  • 「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン 機械学習・統計学・アルゴリズムをやさしく解説」(著者:梅田 弘之)
  • 「帰宅が早い人がやっている パソコン仕事 最強の習慣112」(著者: 橋本 和則)
  • 「Windowsでできる小さな会社のLAN構築・運用ガイド 第3版」(著者:橋本和則)
  • 「DNSをはじめよう ~基礎からトラブルシューティングまで~ はじめようシリーズ」(著者:mochikoAsTech)
  • 「先輩がやさしく教えるシステム管理者の知識と実務」(著者:木下 肇)
  • 「よく解る!世界一やさしい 超パソコン入門用語」(著者:パソコン用語研究会)