「こころ」と行動の基礎

「こころ」と行動

この世界の様々な複雑なシステムは,おおよそ,人の行動(言語行動を含む)とモノの動き,及びその相互作用から成り立っていると捉えることができよう。

世界の様々な複雑なシステムを理解するためには,人の行動について全体像を把握し,人の行動と「こころ」との関係についてもあまり的外れでない理解をする必要がある。そして「こころ」と行動及びモノの動き及びその相互作用を捉えることによって,様々なシステムのどこをどのように動かせば問題解決につながるかという道筋も見えてくるだろう。

そこで「「こころ」と行動の基礎」という項目を設けたが,この問題に深入りすると,それこそ一生出てこれなくなるので,ここでは,「基礎」としてさほど的外れでないであろう概観ということで済ますことにする。

そのために4冊の本を紹介しよう。

最初はこれまでにも紹介し,私も折に触れて目を通しているがいまだに頭に入らない「哲学入門」(著者:戸田山和久)だ(本の森での紹介1本の森での紹介2)。これで,「「こころ」と行動の基礎」についての端的な理解を紹介しよう。

次に,「こころ」の問題を,最新科学を踏まえて説明している「「こころ」はいかにして生まれるのか」(著者:櫻井 武)をみよう。この本は,行動理解につなげる意識がないと,いささか散漫に思える内容だが,行動理解を念頭に置くとなかなか素晴らしい。

更にこれまで一貫して行動をだけを人間理解の焦点にしてきた行動分析学から,「行動の基礎」(著者:小野 浩一)を取り上げ,前2書に照らして,現時点で行動分析学の理解を検証したいと思っている。

そして最後に,「〔エッセンシャル版〕行動経済学」(著者:ミシェル バデリ)を取り上げる。「行動経済学」の本は,ともすると,エピソード集になりがちで,いいささか使いにくい。この本は,入門書であろうが,人間の行動とのからみが,要領よくまとめられていてお薦めだ。

「哲学入門」による「「こころ」と行動の基礎」

人間の行動は,まず第一にオシツオサレツ動物と同じ仕方で決定される。いくつかの傾向性があり,それがニーズと知覚情報によってアフォードされるという仕方だ。これがベースになる。

ところが,人間はこうした傾向性を調整する別の仕方を獲得した。その結果,目的手段推論の結果によって,ベースにある傾向性をリセットできるようになった。だとするなら,目的手段推論を入力(知覚・欲求)と出力(行動)をつねに媒介しているものと捉えるのはよろしくない。いつでも立ち止まって,いまやろうとしていることがベストなのかを考えていたら行動の時機を逸してしまう。ときどき問題が重要なとき,たっぷり時間があるとき,行為を止めて,私たちは目的手段推論を作動させる。で,その結果に応じていまの傾向性をリセットして,新しい傾向性にあとをゆだねる。

人間はオシツオサレツ動物とは質の異なったまったく別次元の存在なのではない。目的手段推論というちょっとした拡張機能つきのオシツオサレツ動物なのである。ただ,この拡張機能はバカにできない。「人間らしさ」のルーツがこの拡張機能にあるからだ

「「こころ」はいかにして生まれるのか」

「「こころ」はいかにして生まれるのか-最新脳科学で解き明かす「情動」」(著者:櫻井 武)(Amazonにリンク)

まとめの紹介

この本はたまたま,原著に「まとめ」があるので,取り急ぎ,それだけ紹介しておこう。末尾に詳細目次も掲載した。

第1章「脳の情報処理システム」のまとめ

1 脳において大脳皮質は情報量の大きな情報を速く処理するために,「後づけ」で増築された演算装置である。

2 大脳皮質は感覚情報を要素ごとに分解してデジタル的に処理し,それを脳内で再構成している。

3 人の脳は前頭前野がとくに発達しており,感覚情報の統合的理解,認知,未来予測などに関与している。

4 ヒトに備わった,他者の立場に立って考え「共感」することができるという能力は,「こころ」を考えるうえで欠かせない機能である。

第2章「「こころ」と情動」のまとめ

1 情動とは感情の客観的・科学的な評価である。

2 情動は「情動体験」(≒感情)と「情動表出」(身体反応)に分けられ,後者を観察することにより客観的に記載できる。

3 情動は脳がつくりだすが,その結果,引き起こされた情動表出は脳にフィードバック情報を送り,情動を修飾する。

第3章「情動をあやつり,表現する脳」のまとめ

1 情動は大脳辺縁系でつくられる。

2 大脳辺縁系は記憶にも深く関わっており,海馬は陳述記憶の生成に,扁桃体は情動記憶の生成に重要である。

3 感覚は大脳皮質と大脳辺縁系で並列処理され,前者は感覚情報の物理的側面を,後者は情動的側面を受けもつ。

第4章「情動を見る・測る」のまとめ

1 情動の高まりは表情をふくむ行動,交感神経の興奮,副腎皮質ホルモンの上昇に表れる。

2 情動は行動,自律神経系,内分泌系の測定によって観察できる。

3 脳機能画像解析により扁桃体の興奮を測定することも情動を測定する一手段である。

4 動物を用いて扁桃体や視床下部室傍核の活動を調べることにより,情動を推し量ることができる。

第5章「海馬と扁桃体」のまとめ

1 海馬は新たな陳述記憶の生成に不可欠である。

2 陳述記憶は時間がたつにつれて大脳皮質,とくに側頭葉皮質に移行する。

3 扁桃体は情動記憶を受けもつ。

4 ストレスホルモンは陳述記憶を弱め,情動記憶を強くする。

第6章「おそるべき報酬系」のまとめ

1 ドーパミンが側坐核に放出されると,その原因になった行動をやめられなくなる。

2 ドーパミンは腹側被蓋野に存在するドーパミン作動性ニューロンから供給される。

3 前頭前野は不確実な報酬を大きな報酬ととらえ,ドーパミンの放出を促す。

4 予測した報酬の大きさと,実際に得られた報酬の差(報酬予測誤差)が,前頭前野が感じる報酬の大きさとなる。

第7章「「こころ」を動かす物質とホルモン」のまとめ

1 脳内には「こころ」の機能に強く影響をおよぼすたくさんの種類の脳内物質が存在する。

2 血液中をめぐる多くのホルモンも,脳機能を強く変容させる。

終 章 「こころ」とは何か

ここの「まとめ」は原著にはない。

・私たちは前頭前野の機能により,自らがおかれている環境を理解し,自分の身体の状態を認知しながら生活している。前頭前野は意識や認知,論理的思考,内省,倫理的判断,未来の予測などに深くかかわっており,また,思考に用いる作業記憶もこの部分に存在する機能である。作業記憶の内容は,現時点で私たちが認知していることである。私たちの「自我」や「意識」はこの部分に存在すると言っても間違いではない。しかしながら,私たち自身の行動の選択に,前頭前野がおよぼしている影響は,実は限定的なものでしかない。もっと強く行動をドライブしているのは,根源的には脳の深部の構造であり,無意識の過程なのである。私たちは自分の行動をすべて自らの意志でコントロールしていると錯覚しがちであるが,私たちの行動を意識がコントロールしている部分は,ごく一部である。

・ヒトや動物は外界の状況を,感覚系を介してキャッチしている。その情報は,視床を介して扁桃体にやってくる。その人が恐怖を感じる対象や状況を認知したときに,扁桃体は強く興奮する。扁桃体が中心核を介して視床下部や脳幹に情報を送ると,自律神経や内分泌系が変動するとともに,脳内でもモノアミン系ニューロン群が大きく活動を変える。とくに青斑核ノルアドレナリンニューロンの活動が増え,扁桃体に作用することにより,恐怖行動は強化される…一方で,喜びを感じているときには,報酬系の活動が起こっている。報酬をゲットできる,あるいはゲットできるかもしれないと前頭前野が認知することにより,腹側被蓋核のドーパミン作動性ニューロンが活動することが,喜びの「こころ」をつくる。ドーパミンは側坐核に働き,喜びを生むに至った行動を強化するとともに,扁桃体にも情報を送り,筋肉の緊張を緩める方向に働く。黒質のドーパミン作動性ニューロンも働いて筋肉はよりスムーズに動くようになり,身体全体の動きは大きくなる。

「行動の基礎」

「行動の基礎-豊かな人間理解のために」(著者:小野 浩一)(Amazonにリンク)

これは当面,末尾に詳細目次だけを掲載しておく。

「〔エッセンシャル版〕行動経済学」

「〔エッセンシャル版〕行動経済学」(著者:ミシェル バデリ)(Amazonにリンク)

これは当面,末尾に詳細目次だけを掲載しておく。

詳細目次に続く

 

「こころ」はいかにして生まれるのか  最新脳科学で解き明かす「情動」

もくじ

はじめに

第1章  脳の情報処理システム

脳のつくり 大脳皮質の構造 脳の「機能局在」 特徴的な大脳皮質の情報処理 前頭前野の機能 共感性や社会性について  「こころ」は脳のどこにある?

第1章のまとめ

 

第2章 「こころ」と情動

情動は感情の客観的かつ科学的な評価 情動=情動体験(≓感情)+情動表出(身体反応) 情動はどこでうくられる? 悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか 表情も行動の一つである 感情の多元的なとらえ方 なぜ感情が必要なのか  情動は生まれつき備わったもの

第2章のまとめ

 

第3章 情動をあやつり、表現する脳

大脳辺縁系とは 情動に深くかかわっている扁桃体 「感覚」と「情動」と「記憶」の関係 パブロフの「条件づけ」 記憶の種類①陳述記傅 記憶の種類②非陳述記憶 情動は記憶のデータベース 感寛情報が伝わる二つの経路 「こころ」と認知の乖離

第3章のまとめ

 

第4章 情動を見る・測る

恐怖を怒じた小勣物の「3F」 情動を評価するポイントは「行動」「自律神経系」「内分泌系」 動物を用いた行動実験 マウスの行動をテストする 自律神経系から見た情動 内分泌系から見た情動 脳機能画像解析 動物実験で神経細胞を追う 「暴れ馬」と「御者」の関係

第4章のまとめ

 

第5章海馬と扁桃体

HM氏がもたらしたパラダイムシフト 海馬の構造と機能 扁桃体の構造と機能 大脳辺縁系は記憶を強化する

第5章のまとめ

 

第)章 おそるべき報酬系

脳内報酬系の発見 ヒトの報酬系が刺激された例 報酬系の正体 脳はどのような刺激を「報酬」と感じるのか 報酬を「大きい」と感じるしくみ 側坐核はどのようにしてできたのか

第6章のまとめ

 

第7卓「こころ」を動かす物質とホルモン

神経伝達物質の「性能」の違い 「気分」に作用するモノアミン類 認知と注意にかかわるアセチルコリン  神経ペプチドの多彩な作用  脳に作用するホルモン

第7章のまとめ

 

終章 「こころ」とは何か

下等動初からヒトヘの「行動の進化」 いまも残っているプログラム 行動のほとんどは無意識になされている 目分のことだからこそわからない 「こころ」は進化する

おわりに

行動の基礎-豊かな人間理解のために

第Ⅰ部 行動についての基礎知識

1 序論

1-1 行動分析学のあらまし

1-2 行動についての考え方

2 人間は生体である

2-1 生体の行動

2-2 動物との連続性

2-3 社会的存在

3 行動は身体の変化である

3-1 身体器官

3-2 身体で生じていること-3つの事象レベル

3-3 「こころ」のありか

3-4 心理学の対象としての私的出来事

4 身体変化の原因は環境にある

4-1 内的原因か環境か

4-2 なぜ原因を環境に求めるのか

4-3 身体変化は生体全体の連鎖的出来事である

5 3種類の環境変化がある

5-1 生体の状態を変える環境変化

5-2 行動のきっかけとなる環境変化

5-3 行動の後に生じる環境変化

6 2種類の行動がある・

6-1 レスポンデント行動とオペラント行動

6-2 2種類の行動の起源と生物学的制約

6-3 レスポンデント行動とオペラント行動の具体例

 

第Ⅱ部 レスポンデント行動

7 レスポンデント条件づけ

7-1 レスポンデント行動の学習はどのようにして起きるか

7-2 パブロフの条件反射

7-3 レスポンデント条件づけの決定因

7-4 情動反応の条件づけ

8 レスポンデント条件づけの諸現象

8-1 保持と消去

8-2 般化と弁別

8-3 複合刺激によるレスポンデント条件づけ

9 レスポンデント条件づけの新しい考え方

9-1 反応がなくてもレスポンデント条件づけは起きる

9-2 対提示がなくても条件づけは起きる

9-3 すべての刺激がCSになるわけではない

9-4 レスポンデント条件づけの適用範囲の拡大

 

第Ⅲ部 オペラント行動

10 オペラント条件づけ

10-1 オペラント行動の学習はどのようにして起きるか

10-2 オペラント条件づけの初期の研究

10-3 行動随伴性

11 行動の獲得と維持,消去

11-1 新しい行動の獲得-シェイピング

11-2 行動の維持一基本的強化スケジュール

11-3 消去

12 複雑な強化スケジュール

12-1 オペラントクラスと行動次元

12-2 分化強化-結果による選択

12-3 複合強化スケジュール

12-4 強化の遅延

12-5 行動の連鎖化

13 負の強化-逃避行動と回避行動

13-1 負の強化に関する古典的研究

13-2 逃避条件づけの諸現象

13-3 回避条件づけとその理論

14 弱化

14-1 正の弱化

14-2 負の弱化

14-3 罰的方法の使用に関する諸問題

15 先行刺激によるオペラント行動の制御

15-1 刺激性制御の基礎

15-2 刺激性制御の諸現象

15-3 高次の刺激性制御

16 言語行動

16-1 言語行動の基本的特徴

16-2 言語行動の獲得

16-3 ことばの「意味」と「理解」

16-4 日常言語行動の特徴

16-5 言語刺激による行動の制御

 

第Ⅳ部 オペラント行動研究の展開

17 選択行動

17-1 並立スケジュールによる選択行動の研究

17-2 並立連鎖スケジュールによる選択行助の研究

18 迷信行動

18-1 行動に依存しない随伴性のもとでの迷信行動

18-2 行助に依存する随伴性のもとでの迷信行動

18-3 人間社会と迷信行動

19 社会的行動

19-1 社会的随伴性

19-2 模倣行動

19-3 協力行動と競争行動

19-4 行動における個体差

20 研究と実践の統合

20-1 応用行動分析学

20-2 単一被験体法による研究デザイン

 

図表出典

引用文献一覧

「あとがき」にかえて

索  引

〔エッセンシャル版〕行動経済学

 

第1章   経済学と行動

行動経済学は従来の経済学とどこが違うのか/ 行動経済学における合理性/ データの制約/ 実験データ/ 神経科学データと神経経済学/ 自然実験と無作為化比較試験(RCT)/ 本書のテーマ

第2章   モチベーションとインセンティブ

モチベーションとインセンティブには二種類ある/ 外発的モチベーション/ 内発的モチベーション/ クラウディング・アウト/ 社会性のある選択とイメージ・モチベーション/ モチベーションと仕事

第3章   社会生活

信頼、互酬、不平等回避/ 協力、懲罰、社会規範/ アイデンティティ/ ハーディング現象と社会的学習

第4章   速い思考

ヒューリスティクスを使った速い判断/ 利用可能な情報を使う/ 代表性ヒューリスティック/ アンカリングと調整ヒューリスティック

第5章   リスク下の選択

プロスペクト理論 vs. 期待効用理論/ 行動のパラドックス/ 一貫性のない選択/ プロスペクト理論の構築/ 後悔理論

第6章   時間のバイアス

時間不整合性とは何か/ 動物モデル/ 異時点間闘争/ 即時的報酬と遅滞的報酬に関する神経経済学的分析 /プリ・コミットメント戦略とセルフコントロール/ 行動学的ライフサイクル・モデル/ 選択のブラケッティング、フレーミング、メンタル・アカウンティング/ 行動学的開発経済学

第7章   性格、気分、感情

性格を測定する/ 性格と好み/ 性格と認知/ 子供時代の性格/ 感情、気分、直感的要因/ 感情ヒューリスティック/ 基本的本能と直感的要因/ ソマティックマーカー仮説/ 二重システム理論/ 神経経済学における感情/ 金融的意思決定に神経経済学的実験を応用する

第8章   マクロ経済における行動

マクロ経済の心理学/ 初期の行動マクロ経済学者-カトーナ、ケインズ、ミンスキー/ 現代の行動マクロ経済学-アニマルスピリット・モデル/ 金融とマクロ経済/ サブプライムローン危機/ 社会の空気と景気循環/ 幸福と福祉

第9章   経済行動と公共政策

ミクロ経済政策/ 行動学的公共政策とは何か-ナッジで行動変化を促す/ ナッジの具体例-デフォルト・オプション/ スイッチング/ 社会的ナッジ/ その他の政策的取り組み/ 政策の未来

謝辞

解説/依田高典

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