問題の所在-問題解決と創造に向けて
なぜ「問題解決と創造」なのか
私たちは,日々,自身(家族)と自身が所属する組織(国・自治体・企業)及びこれらの間に生起している様々な問題の解決を迫られ,また思いついては新たな価値の創造を試みているが,なかなかうまくいかない。もう少し視野を広げると,環境や世界にも,解決困難な問題や新しい問題が山積している。これらの問題の多くは「公共」に関連するが,公共の問題解決に取り組む役割を持つ最近の彼我の政府や政治過程の愚かさには辟易するだけで,当面政府がこれらの問題を解決することは当てにしない方がよさそうだ。というより,政府自体,解決しなければならない問題の対象だ。
そこで私たちは自ら解決に乗り出すべく,「問題解決学」,「創造学」,「システム思考」等々といわれる分野をのぞいてみたくなるが,百花繚乱で,何を頼ればいいのか,迷うばかり,さてどうしよう。それにビジネス分野から発信される「問題解決と創造」論は,いかにも軽率なものが多く,どうなんだか。一方,学問分野からの発信は,重くもたもたと構造の記述,モデル化,分析にとどまるものが多く,なかなか「問題解決と創造」の実行(操作)に届かない。
要は,私たちが「問題」と捉えたことを「世界」の中に位置づけて記述,モデル化し,それを解決するために何をどうすればよいのかの実行(操作)手段が得られればいいわけだから,「世界」に関する知識と「問題解決と創造の方法」を結びつければよいわけだ。
問題解決と創造に向けて
問題とは
「問題解決」という場合の「問題」とは,普通,私たちが存在する現実の世界における「目標と現状のギャップ」と定義される(これは,ハーバート・A. サイモンが,言い出したらしい。)(なお「問題解決と創造の方法」で検討するように,「創造」は「問題解決」の一場面として位置づけられるので,逐一区別しない。)。
4要素5領域の問題解決に向けて
ではこの「世界」はどのような要素から構成されているのか。経済学等では,人(家計),企業,政府の3主体を想定するのでこれを借用し,これに自然・人工物・情報からなる環境を加えると4要素(人,企業,政府,環境)になる。そして,これらの4要素の活動と相互作用(普通,これは「システム」と呼称される。)によって,これらの複合体である「社会・経済・国際関係」等の現実の「世界」が作られていると考えることができよう。
このような整理を前提とすると,問題解決の対象は,人,企業,政府,環境という4要素に固有の各問題領域,及び4要素の活動と相互作用によって形作られる「世界」の5領域になる。
この「問題解決と創造に向けて」の各項目には,このような観点から,私自身が「問題解決と創造」を実行するために(皆様にもその手助けになるように),本やWebを読みまとめ批判し,自分の頭で考察した内容の記事を蓄積していきたい。目的は「問題解決と創造」の実行(操作)だから,「問題解決と創造の方法」はできるだけプラグマティックな内容になるように心がける一方,「世界」はますます拡大していくから,「世界」に関する知識はできるだけ範囲を広くとり,わかりやすく整理していきたい。
なお,プラグマティックというと,役に立たないものは排除するというイメージだが,論理的,科学的な学問がいつどこで役に立つかは予測できないし(特に数学ではよく言われることだ。),物語や哲学等々の人文畑も,人のイメージを沸き立たせ,新たな思考・アイデアを生み出す「役に立つ」。役に立たないと断言できるのは,古い発想に固執する「学問」だけだ。
なお私は概念分析を固定したいわけではなく,「問題解決と創造」のためには,「問題」や対象となる要素・領域を上記のような観点から考え,問題解決の方法を探索,実行するのが「実用的」だろうという仮定を設けただけであり,「世界」がこのように区分され,客観的に実在すると捉えているわけではない。
因果関係による問題の類型化(フレームワーク)
ところで,問題を解決する(現状を目標に変革する)上で,そのために実行(操作)する手段によって目標が達成されるか否かという「プロセス」=因果関係がポイントとなることは明らかである。ただ「問題解決と創造の方法」で検討する,ごく単純と思われる「問題構造図式」でも「原因となる「入力」,「制約条件」や「外乱(不可抗力)」が影響する「プロセス」を経て,結果となる出力が生じる」とするので,これだけでも因果関係は単純ではない。
そこで問題を因果関係の明確さによって類型化する「カネヴィンフレームワーク(cynefin framework)」を導入しよう(ここではCFと略称しよう。)。
CFでは,問題領域を大きく3つのに分ける。「秩序系」,「非秩序系」,「無秩序」である。そして因果関係の明確さによって,「秩序系」を「Obvious=自明(単純)系」と「complicated=煩雑系」,「非秩序系」を「Complex=複合(複雑)系」と「Chaotic=混沌系」に分類する。因果関係が,自明か,煩雑か,更に,複雑でわからないか=「複合(複雑)系」,解明が不可能=「混沌系」という基準である。
そして有効な問題解決の方法として,自明(単純)系では,「実行,ベストプラクティス,標準ルール,マニュアル化」,煩雑系では,「専門家に相談する,調べる,分析する,プロジェクトマネジメンント,PDCA」,複合(複雑)系では,「試す,直感,セーフフェイルな探索をする」(人工知能や量子コンピュータを挙げる向きもある),混沌系では,「決める,損害を抑制する,秩序を取り戻す,複合系に移動し思考や探索に時間を使えるようにする,長居しない」(緊急対応,レッド型組織,強いリーダーシップを挙げる向きもある)が挙げられている(「不確実な世界を確実に生きる」(著者:コグニティブ・エッジ)。
私が複雑な問題として捉えている多くの問題は,煩雑系,複合(複雑)系,場合によっては,混沌系であろう。CFの枠組みで,複雑系科学,システム思考等を展開すれば,かなり問題の解決に迫れるであろう。
なお「カネヴィンフレームワーク」は,デイヴ・スノーデンさんが提唱し,日本では田村洋一さんが紹介している。YouTubeで,簡単な説明が見られる(本人の説明/田村さんのインタビュー)。「ソーシャル・インパクト・アクト」というWebにも紹介がある(外部サイトの記事にリンク)。
「問題解決と創造に向けて」の内容の紹介
全体の構成
「「問題解決と創造に向けて」は,「問題解決と創造の方法」と「人,企業,政府,環境,世界」の6項目及びその下位項目から構成されているのでその概要を説明する(全体のより詳しい構成は,下述する。)。
問題解決と創造の方法
まず「問題解決と創造に向けて」の最初の項目として,問題解決と創造のための基本的な方法を検討する「問題解決と創造の方法」を設けた。人の「「こころ」と行動の基礎」を踏まえ,「問題解決の基本(考察1)」,「問題解決のための思考とアイデア(考察2)」,「複雑な問題の解決方法(考察3)」を検討する。
更にその下位項目の「方法論の基礎」で,「問題解決と創造」の基礎となる様々な方法に関する本を分野ごとに紹介する。分野を,「進化・遺伝・行動」,「心的現象…脳科学・認知・心理」,「哲学」,「言語と論証」,「自然科学の方法」,「複雑系科学」,「社会科学の方法」,「様々な試み」に分類した。
このうちに含まれる「コンピュータ科学」は,その重要性,応用性に鑑み,「PC・IT・AI技法」として独立させ,別の下位項目とした。
人・企業・政府・環境・世界
これに続いて問題解決と創造の対象となる4要素5領域の4要素(「人:生活と行動」,「企業:経営と統治」,「政府:権力と政策」,「環境:自然・人工物・情報」)とこれらの4要素の活動と相互作用によって生じる問題領域である「世界:複雑な問題群」の5つの問題領域について,紹介,検討する。
人,企業,政府,環境には,それぞれ固有の問題があり,「世界:複雑な問題群」の問題を,これらの4要素をすっ飛ばして考察しても,思い付きに止まるだけだというのが,ポイントになるであろうか。
書庫
末尾に資料を集積する場として,4要素5領域についての紹介本,参考本,Web等を集める「書庫」を設けたいと思っている。ただし,現時点(2019年4月)では,思考,アイデアの湧出を活性化するツールとなるを集めた本を整理したもの(内容によって「アイデア・デザイン編」,「IT・AI編」,「経営編」,「心身の向上技法編」,「世界の構造と論理編」,及び「冷水編」に分けている。)になっている。古いものだが「方法論の基礎」や「PC・IT・AI技法」があるので,改訂するまで,当面,このままにしておく。
投稿記事
各項目の下位メニューに,その項目の投稿が時系列順に掲載されるので,そちらも参照されたい(分類が正確でないものも混じっているかもしれないが,ご容赦を。)。
「問題解決と創造に向けて」の全体の構成
以上述べた「問題解決と創造に向けて」の全体の構成に,下位項目を入れてまとめれば,次のようになる。
- 問題解決と創造の方法
- 「こころ」と行動の基礎
- 問題解決の基本(考察1)
- 問題解決のための思考とアイデア(考察2)
- 複雑な問題の解決方法(考察3)
- 方法論の基礎
- PC・IT・AI技法
- 人:生活と行動/続き
- 人類・人体
- 人類
- 人体
- 生活:健康と家族
- 健康
- 健康と病気
- 食動考休
- 老
- 家族
- 健康
- 行動
- 総論
- 「こころ」と行動の基礎
- 行動論
- 習慣
- 行動各論
- つながり
- 文化
- 仕事
- 新しいことを身につける
- 総論
- 人類・人体
- 企業:経営と統治/続き
- 企業活動の起点・展開・展望
- 経営
- 統治
- その他
- 政府:権力と政策/続き
- 現状分析
- 現状分析とその方法
- 情報公開-政府の透明性
- 権力
- 政策
- その他
- 現状分析
- 環境:自然・人工物・情報/続き
- 自然:宇宙・地球・生態系
- 宇宙・地球
- 生命と生態系
- 情報とサイバー空間
- 情報総論
- 情報法と判例
- サイバー空間の病理と対応
- 人工物とテクノロジー
- 自然:宇宙・地球・生態系
- 世界:複雑な問題群/続き
- 総論
- 現状分析
- ビッグヒストリー・システム思考・制度論・ゲーム理論
- 社会問題
- 社会問題を解決する方法
- 社会を変える
- 組織を変える
- 自然環境の保持
- 経済問題
- マクロ経済・国際経済
- 地方再生
- 国際法と戦争
- シミュレーションとしての歴史
- 総論
最後に
私が今,もっとも取り組みたいことは,弁護士として「法を問題解決と創造に活かす」活動であり,「問題解決と創造に向けて」は,そのための,事実と論理を踏まえた準備作業,基礎作業となることを志している。このWebサイトも,やっとそういう情報発信ができるような準備が整いつつある気がする。まだ各項目の内容はバラバラだし,ITやAI,科学についての新しい知見・動向を知るには,英語文献,数学手法の読解が必須である。その意味で内容が整うまでには今しばらく時間がかかりそうだ。
ただ法を古臭い非科学的な「法学」という孤立峰から解き放ち,法の機能を社会の問題解決につなげようとしている試みとして,私がもっとも評価している「法と社会科学をつなぐ」(著者:飯田高)も,まだまだ準備段階である。学者と違う時間の使い方をしなければならない実務家(弁護士)である私にできることは限られている。ただ学者とは違うアイデア,ルートからの実践的なアクセスもできることを願っている。