弁護士との契約

私が受任する際の契約

私に法律事務を依頼していただく際には,原則として「委任契約書」を締結していただき,私が受任する法律事務の範囲,弁護士報酬の額,双方が守るべき義務等々を定めます。

法律顧問や法務支援の場合は,「法律顧問契約書」「法務支援契約書」を締結します。これらについては「弁護士がする仕事」の「法律顧問」,「分野別法務支援」を参照してください。

ただ,法律事務の履行,特に交渉や裁判は本当に「生きている」ので,履行の過程であらかじめ予想しなかったような事態(新たな手続を取らなければならないとか,全く新たな証拠が出されたとか,あるいは長期化,複雑化したりとか等々)がいくらでも起こります。したがってこれらの「契約書」は相当緩やかな作りになっています。そういう予想しなかったような事態が生じた場合は,協議の上,新しい事態に対応した内容に変更,対応していただくことがあります(弁護士報酬については,下記の「弁護士報酬規定(弁護士報酬基準)」,「弁護士報酬の特則」をご覧ください。)。そのようなことを依頼者の方に受け入れていただき,最後まで協力して法律事務を履行するためには,弁護士と依頼者の信頼関係がとても大切です。

そして信頼関係を保つ上で一番重要なのは,依頼者に法律事務の処理がどうなっているかをよく理解していただくことです。そのために私は文書で詳しく報告しているつもりですが,依頼者から見れば,なお不十分と感じることがあるかも知れません。そういうときは遠慮なく,しつこく聞いてください。 ただし,それと少し相反するのですが,法律事務の処理の過程は,いわば大きな流れですから,小さな渦や淀みがある度に一喜一憂すると全体の流れが分からなくなってしまいますから,少し突き放して見ていただく必要もあります。

受任する際に作成する契約書等

以下,私が法律事務の依頼を受けそれを受任する際に作成する一般的な書類をまとめてみました。なお弁護士は法律事務の履行について,日本弁護士連合会が定めた「弁護士職務基本規程」を遵守する必要があるので,参考までにリンクさせます。

委任契約書

弁護士に法律事務を依頼する際の書類として欠かせないのは,「委任契約書」です。その内容は常識的なものですし,お金のことさえ決まっていれば,作成しなくてもいいようなものですが,弁護士職務基本規程30条には「1 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が止んだ後、これを作成する。 2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものであるときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要しない。」とありますし,やはり法律事務を依頼する出発点ですから,事件,少なくても裁判を依頼するときは「委任契約書」を作成すべきです。もっとも事件依頼といっても,あれこれ相談を受けていて事件依頼になったということも多くて,タイミングが難しいのは事実ですが。次に「委任契約書」の雛形を掲載します。

委任契約書の雛形

依頼者  を甲とし, 受任弁護士 カクイ法律事務所パートナー弁護士 村本道夫 を乙とし, 甲と乙とは次のとおり法律事務に関する委任契約を締結する。

第1条 甲は乙に対し,次の法律事務(以下「本件委任事務」という。)の処理を委任し,乙はこれを受任する。

1 委任事務の表示

2 相手方

3 管轄裁判所等の表示

4 委任の範囲  □ 示談交渉 □ 調停  □ 訴訟(第一審,控訴審,上告審)□ 非訴  □ 手形訴訟 □ 保全(仮差押,仮処分) □ 民事執行 □ 異議申立,審査請求等  □ 審判等  □ その他(      )

第2条 乙は弁護士法を含む法令,日本弁護士連合会及び乙が所属する第二東京弁護士会の規則,本委任契約書等に則り,誠実に本件委任事務の処理にあたるものとする。

2.乙は甲に対し,本件委任事務の進捗状況を適宜報告し,必要が生じた場合は,その処理方法について甲と協議するものとする。

第3条 甲は乙に対し,本件委任事務の処理に必要な書類,その他の情報を,遅滞なく提供しなくてはならず,また本件委任事務の対象となる事実関係について,記憶にあるとおり,正確に報告しなければならない。

第4条 甲は乙に対し,本件委任事務の報酬として,乙の弁護士報酬規定(原則として,(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」に準じるもの)に従い,後記の着手金,報酬金,日当・実費等(以下「弁護士費用」という。)を次のとおり支払うものとする。ただし,委任契約時に考慮していなかった事情や委任後に生じた事情等により,弁護士費用が不相当となったときは,甲と乙は協議し,乙が定める「弁護士報酬の特則」等を勘案して,これを変更することが出来る。

(1)着手金は,本契約締結のとき

(2)日当・実費等(収入印紙,郵券,交通費など本件委任事務処理に要する経費)は,乙が請求したとき(預り金により処理する場合を除く。)

(3)報酬金は,本件委任事務の処理が終了したとき,成功の程度に応じて

第5条 乙は,甲が着手金または本件委任事務処理に要する実費等の支払を遅滞したときは,本件委任事務に着手せずまたはその処理を中止,中断することが出来る。ただし,乙が当該遅延がやむを得ないと認めるときは,この限りではない。

第6条 本委任契約書に基づく本件委任事務の処理が,解任,辞任または本件委任事務の継続不能等により,中途で終了したときは,乙は,甲と協議のうえ,本件委任事務処理の程度に応じて,受領済み若しくは未払の弁護士費用の全部または一部を,返還し若しくはこれを請求するものとする。

2.前項において,本件委任契約の終了につき,乙だけに重大な責任があるときは乙は受領済みの弁護士費用の全部を返還しなければならない。ただし,乙が既に本件委任事務の重要な部分の処理を終了しているときは,乙は,甲と協議のうえ,その全部または一部を返還しないことができる。

3.第1項において,本件委任契約の終了につき,乙に責任がないにもかかわらず,甲が乙の同意なく本件委任事務を終了させたとき,甲が故意または重大な過失により本件委任事務処理を不能にしたとき,その他甲に重大な責任があるときは,乙は,弁護士費用の全部を請求することができる。ただし,乙が本件委任事務の重要な部分の処理を終了していないときは,その全部は請求することができない。

第7条 甲が第4条により乙に支払うべき金員を支払わないときは,乙は甲に対する金銭債務(保証金,相手方より収受した金員等)と相殺し,または本件委任事務に関して保管中の書類その他のものを甲に引き渡さないことができる。

第8条 本委任契約書に定めのない事項については,甲と乙は誠実に協議し,信義則に従って解決するものとする。

弁護士報酬規定(弁護士報酬基準)

弁護士と依頼者の間でもっとも大切なのは,「弁護士報酬に関する事項」でしょう。その基本的な考え方を「弁護士費用について」で説明しました。弁護士報酬は「委任契約書」に明記しますが,その基準となる私の「弁護士報酬規定」があります。ただし,これは「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」(弁護士報酬基準)に準じる」としただけのものです。上記基準は,日弁連,そして各単位弁護士会もほぼ同一の内容を定めていたのですが,独占禁止法上よろしくないということで廃止になったものです。しかしそれまでも一般的な基準となっていたのは事実ですし,内容もおおむね妥当ですから,私はこれに基づいています。

ただ,それは,原則として一律に着手金,報酬金を適用するシステムの中で,着手金が高額に過ぎ,事件の難易や費やす労力の有無が充分に反映されていないという欠点もあるので,私はこれらについて妥当な基準となる「弁護士報酬の特則」を定めており,依頼者の方との個別協議により,着手金及び報酬金支払時にこれによって「弁護士報酬規定」を修正することがほとんどです。

また,委任契約時には,弁護士報酬について説明した「弁護士報酬等説明書」を交付することもあります。さらに,事件を依頼する前にどのくらいかかるのか,見通しを知りたいという方のために,ご依頼があれば「弁護士報酬見積書」を作成します。

弁護士報酬の特則

私は「弁護士報酬規定」を設け,弁護士報酬については原則として,当該事件の経済的利益(対象財産の時価等)を算定の基礎とさせていただいています。

しかし,これでは,往々にして必ずしも成功(回収)の見通しがない場合でも着手金の金額が高額に過ぎること等があるので,依頼者の方との個別協議(特則)により,着手金は比較的低額(30万円~)とし,報酬金は,当該事件の経済的利益の着手金と報酬金の合計の相当額から既にお支払いいただいた着手金を控除した金額とさせていただくことがあります。この場合の着手金と報酬金の合計については,下記を目安とさせていただいています。

ただしこれは目安であり,個々の事件の着手金,報酬金の額は,事件の難易,費やす労力,時間,依頼者の方が得られる実質的な利益を充分考慮し,依頼者の方と協議して個別的に定めます。。なお弁護士報酬の額を明確にするには,費やした時間を基準とするタイムチャージ性がいいのですが,そうすると多くの場合,事件の経済的利益」を基準とする場合に比して高額になります。

事件の経済的利益の額 着手金と報酬金の合計
~300万円 20%以下
300万円~3000万円 15%以下
3000万円~3億円 10%以下
~3億円 8%以下